映画『暗殺の森』あらすじネタバレ結末と感想

暗殺の森の概要:第二次世界大戦時のイタリアで暗いトラウマを持った主人公が“普通になりたい”という動機からファシストとなり活動を始める。付和雷同の大衆心理をベルナルド・ベルトリッチ監督が抽象的に描く。

暗殺の森 あらすじネタバレ

暗殺の森
映画『暗殺の森』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む

暗殺の森 あらすじ【起・承】

1938年 イタリア。哲学講師のマルチェロ・クレリチ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は全盲でファシズムに傾倒している友人のイタロに自分も組織に入れるよう幹部を紹介してくれと頼む。

マルチェロが組織へ提出した計画は、パリにいる反ファシズム主義者のクアドリ教授に近づき彼の行動や仲間の居場所を探るというものだった。クアドリはマルチェロの大学時代の恩師であり、もうすぐ自分はジュリア(ステファニア・サンドレッリ)と結婚する予定なので新婚旅行を装って彼を訪ねれば怪しまれないという細かい計算までしていた。大臣もこの計画を気に入り、マルチェロはすぐに組織の一員として迎えてもらえる。

マルチェロがファシストになったのも、中流家庭育ちで俗物的なジュリアと結婚するのも“普通になりたいから”という理由からだった。マルチェロには13歳の時、男色家の憲兵リーノに弄ばれ彼を射殺してしまったという過去のトラウマがあった。さらに彼の父親は精神病院に入院しており、母親は若い情夫をそばに置く薬物中毒者だった。そんな普通ではない自分が組織の活動をすれば社会から赦されるのではないかと考えたのだ。

彼はまず組織の暗殺者マンガニェロ(ガストン・モスチン)に母の情夫を始末させ、ジュリアと新婚旅行へ旅立つ。道中でジュリアは自分が15歳の時から両親の友人で60歳の博士と6年間も性的関係があったと告白するが、マルチェロは驚かない。

途中のヴェンティミリアで、マルチェロは組織の幹部から計画が変更になりクアドリを抹殺することになったと告げられ、銃を渡される。

暗殺の森 あらすじ【転・結】

パリに着いたマルチェロはジュリアを連れクアドリの自宅を訪ねる。そこには若くて美しい夫人のアンナ(ドミニク・サンダ)がいた。マルチェロは一目でアンナに惹かれる。

しかしアンナはマルチェロを警戒し、彼に冷たく接する。マルチェロはクアドリに“先生が大学を去ったから私はファシストになった”と言うが、クアドリは“君は本物のファシストとは思えない”と答える。クアドリはマルチェロが自分の主義や思想を持っていないことを見抜いていた。

アンナはマルチェロを拒絶しながらも彼に惹かれていく。マルチェロは全てを捨てアンナと逃げたいとまで思うが、マンガニェロが常に彼の行動を見張っていた。クアドリは翌朝からサヴォアの別荘へ行くことになっておりマルチェロ夫婦も誘われる。クアドリだけ先に出発させることをアンナに約束させ、自分たちは後から行く予定にする。

4人はその夜食事を共にし、ダンスホールで踊る。マンガニェロには翌朝クアドリがサヴォアへ旅立つことを伝え、その時に彼だけ暗殺するよう指示する。

翌朝、アンナと犬も車に乗ってクアドリと出かけたと報告を受けたマルチェロは、慌ててマンガニェロと後を追いかける。このままではアンナも殺されてしまうからだ。

森の中の山道でクアドリ夫妻の車は止められ、車外に出たクアドリは複数の男にナイフで刺し殺される。マルチェロたちは後方の車からその様子を見ていた。アンナはマルチェロに助けを求めるが、マルチェロは応じない。その後彼女は森の中へ逃げ込み銃殺される。マンガニェロは土壇場でアンナを見捨てた卑怯なマルチェロに失望する。

数年後、マルチェロには幼い子供がいた。ジュリアとの結婚生活は続いていたが、ムッソリーニ政権は崩壊しファシストは糾弾される立場になっていた。そこへ久しぶりにイタロから連絡がある。

イタロと歩いていた路地裏でマルチェロはあのリーノが自分の時と同じように浮浪者の少年を口説いているのを見かける。リーノが生きていたことに衝撃を受けたマルチェロは、リーノとイタロを指差し“こいつらはファシストだ!”と叫び始める。驚いたリーノは逃げ出し、イタロは群衆にのまれていく。1人になったマルチェロは裸の少年のそばに座り彼をじっと見つめる。

暗殺の森 評価

  • 点数:80点/100点
  • オススメ度:★★★★☆
  • ストーリー:★★★☆☆
  • キャスト起用:★★★★★
  • 映像技術:★★★★★
  • 演出:★★★★☆
  • 設定:★★★☆☆

作品概要

  • 公開日:1970年
  • 上映時間:115分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 監督:ベルナルド・ベルトルッチ
  • キャスト:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ、ピエール・クレマンティ etc

暗殺の森 批評・レビュー

映画『暗殺の森』について、感想と批評・レビューです。※ネタバレ含む

マルチェロという主人公が象徴するもの

マルチェロは強い主義や思想があってファシストとなったわけではない。哲学を専攻し、いかにも自分の思想があるように見えるが、実は彼にそのようなものはない。“長いものには巻かれろ”の精神で、力のある者には従った方が得策だと考えているだけだ。

さらにマルチェロは潜在的な同性愛者であり自分を人殺しだと思い込んでいる。父は長年精神病院に入院しており、母は若い情夫を手放さない麻薬中毒者だ。自分の性癖と過去のトラウマや両親の異常性を彼は嫌悪している。そして彼は“普通になりたい”と言うのだが、本当はとても普通なのだ。むしろその自分の中身のなさを隠すためファシストになり、自分の正体を見抜けないようなジュリアと結婚したのではないだろうか。

群衆に紛れていると人は安心する。自分は間違えていないと思い込める。そして人よりいい思いもしたい。地位や名誉やお金も欲しい。そのためなら人を裏切ることも利用することも平気だ。たとえ卑怯者と呼ばれても構わない。それがマルチェロなのだ。

そういうマルチェロの正体を暴くような出来事やシーンが本作にはいくつかある。そして彼がアンナや友人のイタロを冷酷に見捨てたことへの深い苦悩は描かれない。そのマルチェロの姿を通して、ファシズムという極端で残酷な思想にさえ多くの大衆は深く考えずに同調し、その間違いが分かった途端、戸惑いなく次の思想に乗り換えたという現実を描き出している。非情で残酷なのは独裁者だけではない。

映像美とキャスティング

物語の内容は暗くて重いが、映像の美しさにはベルナルド・ベルトリッチ監督の高いセンスが如何なく発揮されている。様々なシーンで不思議な空間が作り上げられ、視覚に訴えてくる映像は強烈な印象を残す。

またステファニア・サンドレッリとドミニク・サンダの両女優も非常に魅力的だ。無知で無邪気なジュリアを演じるステファニア・サンドレッリはとても可愛いし、ドミニク・サンダはアンナの我の強さを魅惑的に演じている。マルチェロを演じたジャン=ルイ・トランティニャンもこの主人公の雰囲気にぴったりだった。

そしてなかなか人間味のある暗殺者マンガニェロを演じたのはガストン・モスチンだ。彼はあの「ゴッドファーザー パート2」で若き日のビトー・コルレオーネに暗殺されるマフィアのファヌッチを熱演しコッポラ監督に絶賛されたイタリアの俳優で、本作でも味のある演技を見せてくれる。

暗殺の森 感想まとめ

脚本が現在と過去を行き来する構成になっているので最初はかなりわかりにくい。さらに人物の心理や行動もはっきりと描かれない演出が多いので、一度で内容を把握し深く理解することは非常に難しいのではないだろうか。

邪道かもしれないが、先にこの映画の狙いや時代背景を少し知った上で観た方が楽しめるのかもしれない。もちろん、まずは何の固定観念を持たずに観るのが一番いいのだけれど。

この手の映画になじみの薄い人や、もっとわかりやすい娯楽映画を好む人には少々退屈に感じる作品だろう。それも仕方ないと個人的には思う。ただ、こういう映画とじっくり向き合うということは人間の本性と向き合うということなので、できれば多くの人が観て考えるチャンスを得て欲しいとも思う。

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