映画『さよなら、アドルフ』あらすじとネタバレ感想

さよなら、アドルフの概要:第2次世界大戦直後のドイツを舞台に綴る戦争ドラマ。ナチス親衛隊の父を持つ少女ローレの壮絶な人生。今年終戦70年を迎える日本としても同じ敗戦国ドイツの当時を振り返る意味では、参考に出来る数少ない作品の一つだ。またユダヤ人側ではなく、ドイツ人側からの、そしてその子どもの視点から描かれる作品としても観る価値がある。

さよなら、アドルフ あらすじ

さよなら、アドルフ
映画『さよなら、アドルフ』のあらすじを紹介します。

敗戦を余儀なくされたドイツ。ナチスの最高幹部の父(ハンス・ヨヘン・ヴァークナー)と医者の母(ウルシーナ・ラルディ)を持つ14歳の少女ローレ(サスキア・ローゼンダール)。彼女の両親は、大戦中にユダヤ人迫害に深く関わっていたとされるが、子どもたちはその事実を知らない。敗戦後の混乱期。アドルフ・ヒトラーの元で虐殺を繰り返してきた幹部やナチスの親衛隊達は、次々と捕まっていた。ローレの両親もまた、例外なくその対象でもあった。ある日ローレは両親に細かいことは告げられず、荷造りするように言いつけられる。その間に、父親はナチス時代に関わったとされる、知られてはいけない書類や人体実験でもしていたのであろうカルテのすべてを焼却処分していた。まるで捕まらないために証拠隠滅するように…。一家は、夜逃げ同然のように住み慣れた豪邸を跡にする。

ローレには年が近い妹リーゼル(ネーレ・トゥレプス)と年の離れた双子の弟、そして一番下に生まれたばかりの赤ん坊の5人妹弟がいる。父と母とローレ、4人の妹弟を連れて人里離れた田舎の一軒屋に身を潜めることに。父親はもう逃げられないと悟ったのか、軍服を着たまま出頭する。その後、ローレの父親は帰ってこなかった。母と子どもだけの生活は、厳しいものだった。家から逃げる時に持ってきた銀食器や貴金属類を交換して、何とか食い繋げていたが、アドルフ・ヒトラーの自殺のニュースを聞き、母親は意気消沈してしまう。落胆した彼女は、自首することを決意。ローレを呼び出しハンブルグにいる祖母を訪ねることを告げる。ただ、ハンブルグまでの距離900kmと言う長い長い道のり。子ども達だけの足で本当に辿り着けるのか不安が残る。

母までも失ったローレは、両親の代わりに家長として、下の妹弟を連れて旅立たなければいけなかった。乳母車を押して、果てしない道をひたすら歩み続ける。自分達の荷物を捨ててまで、ローレは幼い弟達を必死に守ろうとする。道中、街で見つけた写真には、ドイツ人がユダヤ人への虐殺を行っていた事実に触れるローレ。誰もいなくなった民家に辿り行いたローレ達。そこには、一人のユダヤ人青年トーマス(カイ・マリーナ)に出会う。ユダヤ人は悪だと、教えこまれているローレにとってトーマスは悪でしかない。下の弟達は、兄のように彼を慕う姿を見て、彼女は複雑な感情を抱くばかりだった。

さよなら、アドルフ 評価

  • 点数:70点/100点
  • オススメ度:★★★☆☆
  • ストーリー:★★★★☆
  • キャスト起用:★★★☆☆
  • 映像技術:★★★☆☆
  • 演出:★★★★☆
  • 設定:★★★★★

作品概要

  • 公開日:2012年
  • 上映時間:109分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
  • 監督:ケイト・ショートランド
  • キャスト:ザスキア・ローゼンダール、カイ・マリーナ、ネーレ・トゥレプス、ウルシーナ・ラルディ etc

さよなら、アドルフ ネタバレ批評

映画『さよなら、アドルフ』について、感想批評です。※ネタバレあり

戦争映画から見えてくるドイツ映画の真髄

本作の見所は、まず被害者側のユダヤ人からの視点ではなく、加害者側からの視点で物語が構成されていることが、注目する点であろう。従来のドイツ映画、特にナチスやホロコーストを題材にすることが多く、このような作品は滅多にない。映画の中の子ども達は、いわゆる戦争孤児に部類できるであろう。敗戦国の日本でも、イタリアでも似たようなことが起きていたのではないかと、推測できる。日本では中国残留孤児と言ってもいいであろう。

ドイツ、ナチスと言うキーワードで映画を捉えると多くの作品が、制作されています。まず大きく分けて2つの視点でナチスについて表現できます。1つは“ナチスの台頭を主題とした映画”もう1つは“ファシズムを台頭にした映画”です。それをより細かく区分すると前者には7つの視点から構成されています。また後者には2つの視点から構成されているのです。2つの視点から描かれた映画には、どのような作品が制作されているのでしょうか?

ナチスの台頭を主題とした映画

①ナチス体制下で制作された映画

・意志の勝利(1935年独)
・オリンピア(1938年独)
・新しき土(1937年日・独合作)
・永遠のユダヤ人(1940年独)

②ナチスによる人権の蹂躙・自由の抑圧を描いた映画

・ヒットラーズ・チルドレン(1942年米)
・カサブランカ(1942年代米)
サウンド・オブ・ミュージック(1965年米)
・地獄に堕ちた勇者ども(1969年伊・西独・スイス合作)
キャバレー(1972年)
・ブリキの太鼓(1979年西独・仏・ポーランド・ユーゴ合作)
・ベント/堕ちた饗宴(1997年英)
・白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々(2005年独)
・英国王給仕人に乾杯!(2007年チェコ・スロヴァキア合作)
・ワルキューレ(2008年米)
・セントアンナの奇跡(2008年米)
・誰がため(2008年デンマーク・チェコ・独)
・やがて来たる者へ(2009年伊)
・シャトーブリアンからの手紙(2012年仏・独合作)
・悪童日記(2013年独・ハンガリー合作)
・やさしい本泥棒(2013年米)
・パリよ、永遠に(2014年仏・独合作)

③ナチスによるユダヤ人迫害を描いた映画

・独裁者(1940年米)
・アンネの日記(1959年米)
・質屋(1964年米)
・ショアー(1985年仏)
さよなら子供たち(1987年仏・西独合作)
・鯨の中のジョナ(1992年伊・英合作)
・コルチャック先生(1990年ポーランド・西独合作)
・僕を愛した二つの国/ヨーロッパ ヨーロッパ(1990年独・仏・ポーランド合作)
・シンドラーのリスト(1993年米)
・レ・ミゼラブル(1995年仏)
ライフ・イズ・ビューティフル(1998年伊)
・暗い日曜日(1999年独・ハンガリー合作)
・ふたりのトスカーナ(2000年伊)
・名もなきアフリカの地で(2001年独)
・神に選ばれし無敵の男(2001年独・英合作)
・ぼくの神さま(2001年米)
・灰の記憶(2001年米)
・バティニョ-ルおじさん(2002年仏)
戦場のピアニスト(2002年独・ポーランド)
・アンナとロッテ(2002年蘭・ルクセンブルク合作)
・ブラックブック(2006年蘭・独・英・ベルギー合作)
・ヒトラーの贋作(2007年独・墺合作)
・ミーシャ/ホロコーストと白い狼(2007年ベルギー・仏・独合作)
・縞模様のパジャマの少年(2008年米)
・ディファイアンス(2008年米)
・善き人(2008年独・英合作)
・黄色い星の子供たち(2010年仏)
・ミケランジェロの暗号(2010年墺)
・サラの鍵(2010年仏)
・あの日 あの時 愛の記憶(2011年独)

④ヒトラーおよびナチス指導部を描いた映画

・魔王(1996年独・仏・英合作)
・モレク神(1996年露)
・アドルフの画集(2002年ハンガリー・加・英合作)
・ヒットラー(2003年加・米合作)
・ヒトラー~最期の12日間~(2004年独・伊・墺合作)
・わが教え子、ヒトラー(2007年独)

⑤ナチスを悪役としたアクション映画

・海外特派員(1940年米)
・オデッサ・ファイル(1974年英)
・マラソンマン(1976年米)
・レイダース/失われたアーク≪聖櫃≫(1981年米)
・インディ・ジョーンズ/最後の聖戦(1989年米)
・ロケッティア(1991年米)
・イングロリア・バスターズ(2009年米・独合作)
キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー(2011年米)
・武器人間(2013年蘭・米・チェコ合作)
フューリー(2014年米)

⑥ナチスの侵略が残した傷跡を描いた映画

・山河遥かなり(1947年米)
・ドイツ零年(1947年伊)
・禁じられた遊び(1952年仏)
・ニュールンベルグ裁判(1961年米)
・僕の村は戦場だった(1962年ソ連)
・パリは燃えているか(1966年仏・米)
・愛の嵐(1973年伊)
・ソフィーの選択(1982年米)
・ドレスデン、運命の日(2006年独)
・愛を読むひと(米・独)
・さよなら、アドルフ(2012年墺・独・英)
・イーダ(2013年ポーランド・デンマーク)

⑦ナチスの残党からネオ・ナチを扱った映画

・ブラジルから来た少年(1978年米)
・敵こそ、我が友~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~(2008年仏)
ハンナ・アーレント(2012年独・仏・ルクセンブルク)
・アイアン・スカイ(2012年フィンランド・独・オーストラリア)

ファシズムの台頭を主題とした映画

①イタリア・ファシズムの台頭を背景にした映画

・暗殺の森(1971年伊・仏・西独合作)
・ソドムの市(1975年伊・仏合作)
・1900年(1976年伊・西独・仏合作)
・砂漠のライオン(1981年リビア・米合作)
紅の豚(1992年日本)
・ムッソリーニとお茶を(1999年伊)
・マレーナ(2000年伊・米合作)
・ボロー二ャの夕暮れ(2008年伊)
・シチリア!シチリア!(2009年伊)
・愛の勝利を ムッソリーニを愛した女(2008年伊・仏)

②スペイン・ファシズムの台頭を背景にした映画

・ミツバチのささやき(1973年西)
・ロルカ、暗殺の丘(1997年西・米合作)
・蝶の舌(1999年西)
パンズ・ラビリンス(2006年西・墨・米合作)
・サルバドールの朝(2006年西)
・ペーパーバード 幸せは翼にのって(2010年西)

と、ここまでダラダラと無駄に映画のタイトルを列挙してみました。総勢100タイトルのナチス・ユダヤ人やホロコースト、ドイツと関連したその他諸外国の映画が存在することが分かる。これらをもっと詳しく分析してみると、様々なことが読み取れる。100タイトルの作品のうち、大半を占める作品の主題が②ナチスによる人権の蹂躙・自由の抑圧を描いた映画と③ナチスによるユダヤ人迫害を描いた映画だろう。この2つの項目はユダヤ人迫害を主題にした映画だ。⑤ナチスを悪役としたアクション映画はアクション映画だけあって、ほとんどの作品がアメリカ制作の作品ばかりだ。ユダヤ人主題の作品やアメリカ資本のアクション映画が大量生産される映画界で、加害者のしかも子ども視点で描かれる本作『さよなら、アドルフ』は地味で小粒な作品ながら、この作品群の中では希有でより際立った作品でしょう。一見する価値はある作品であることは、間違いないのです。

近代のドイツ映画について

本作『さよなら、アドルフ』は、ドイツが舞台でありながら、オーストラリア映画として位置づけられている変わった作品だ。その要因の一つとして考えられるのが、本作の監督を勤めているのが女流監督のケイト・ショートランドだ。彼女はオーストラリア出身の女性監督。本作が長編2作目。デビュー作は2004年制作、公開の『15歳のダイアリー』主演はアビー・コーニッシュとサム・ワーシントン。2人とも現代のオーストラリアを代表する若手俳優であるのは間違いない。長編1作目にして、知名度が上がる若手を起用するのは、監督自身の手腕が光る。前作『15歳のダイアリー』は15歳の少女が、経験する思春期と恋の間で揺れ動く、10代の繊細な心の機微を上手く扱った作品。恋に恋する少女のイニシエーションを描いた青春映画。本作でカンヌ国際映画祭のある視点部門に正式出品され、オーストラリアで多くの賞を受賞している。

それから9年後の『さよなら、アドルフ』でも少女の心の動きを見事に活写。自分自身が一体何者なのかを、旅の途中で出会うユダヤ人青年やドイツが行った事実に直面しながら、少女が自身を見つめ直す姿が特徴的だ。この作品は第85回アカデミー賞にて外国語映画部門にて、オーストラリア代表として正式出品する予定だったが、候補作品から見事に外れてしまった。ちなみに、ドイツ代表として出品予定だった『東ベルリンから来た女』も候補から外れてしまった。この年のアカデミー賞で受賞した作品は、ミヒャエル・ハネケの『愛、アムール』が外国語映画賞を受賞した年だ。他にもノルウェー代表『コン・ティキ』チリ代表『NO』デンマーク代表『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』カナダ代表『魔女と呼ばれた少女』の4作品。錚錚たる作品が最終選考に残っているが、落選してしまった本作『さよなら、アドルフ』も秀作なのは間違いない。

ただ私はこの映画の位置付けがオーストラリア映画になっているが、私は間違いなくドイツ映画だと確信している。出演陣、舞台、時代背景など、様々な事柄をすべて考慮したとして、ドイツ映画としての位置づけは、私の中では変わらない。そこで、近年のドイツ映画とは一体どのような作品があるのでしょうか?2000年前後に日本でも公開されたドイツ映画に時系列順に触れてみたい。
ラン・ローラ・ラン(1998年) 点子ちゃんとアントン(1999年) 名もなきアフリカの地で(2001年) es(2002年) 飛ぶ教室(2003年) グッバイ、レーニン(2003年) 愛より強く(2004年) ヒトラー ~最期の12日間~(2004年) 白バラの祈り ゾフィー・ジョル、最期の日々(2005年) 善き人のためのソナタ(2006年) 4分間のピアニスト(2006年) ドレスデン、運命の日(2007年) ヒトラーの贋札(2007年) そして、私たちは愛に帰る(2007年) アイガー北壁(2010年) コッホ先生と僕らの革命(2011年)

それぞれ、佳作、秀作と呼べる作品が数多くドイツから制作、公開されている。中には『善き人のためのソナタ』『ヒトラーの贋札』がアカデミー賞外国語映画賞を受賞している。『点子ちゃんとアントン』『飛ぶ教室』は、ドイツを代表する児童文学作家エーリヒ・ケストナーの原作だが、彼の作品のほとんどがドイツで制作されている。『es』では今までになかった人体実験ものの映画だが、この作品がきっかけでこの手の作品が数多く制作されている。人体実験映画の元祖とも言える作品だ。『白バラの祈り ゾフィー・ジョル、最期の日々』『ドレスデン、運命の日』では第2次世界大戦を。『4分間のピアニスト』『アイガー北壁』『グッバイ、レーニン』『名もなきアフリカの地で』では硬派な作品を。『ラン・ローラ・ラン』『愛より強く』『そして、私たちは愛に帰る』では、これからの活動に期待が集まる新鋭監督、トム・ディクヴァとファティ・アキンを輩出。最後に『コッホ先生と僕らの革命』は爽やかなスポーツ映画だ。

これら多彩な作品が並ぶドイツ映画で、本作『さよなら、アドルフ』もドイツ映画史に残るであろう名作だ。

さよなら、アドルフ 感想まとめ

邦題が『さよなら、アドルフ』。公開当初の作品の宣伝が、加害者側から描く戦後ドイツと言う言い回しから、勝手にアドルフ・ヒトラーの子供たちが主人公かと、勝手に想像していた私は、邦題に騙されてしまいました。なぜ、このような邦題なのか知りませんが、混乱を招くであろうタイトルは、否定的に考えてしまいます。もう少し違ったタイトルはなかったのか、と思ってしまいます。

ただ作品の中で好きなシーンがあります。物語の冒頭で、家族5人が家を捨て、夜逃げするシーンで、主人公の少女ローレが荷物をまとめている中で親にも内緒でうさぎの陶器を手持つシーンがあります。詳しいことは説明されていませんが、私はこの陶器が彼女にとって何か重要な、たとえば親からのプレゼントだったのかも知れませんが、お気に入りのモノだったのかも知れません。祖母の家まで行く道中、それを肌身離さず、持ち歩いています。その陶器を、物語の終盤、厳格な祖母に叱咤された彼女は、怒りに任せて打ち壊します。その行為は、少女自身の過去や親との決別を意味しているのではないでしょうか?旅の道中で知ったドイツ人の真の姿や、今まで教え込まれていたユダヤ人に対する考え方が、彼女の中で180度変わる大きなきっかけにもなっていったのでしょう。真実に触れ、一人逞しく生きることを強いられた一人の少女が、大人の女性へと変貌しようとする過程の中で、ラストの彼女の行動が示唆していることは、紛れもなく過去からの“決別”を意味していると、私は思います。

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