『AKIRA』の大友克洋が原作・脚本・メカニックデザイン、江口寿史がキャラクターデザインを手がけたアニメーション映画。超高齢社会を背景に最新介護ロボットの暴走を描く。北久保弘之監督作品。
映画『老人Z』 作品情報
- 製作年:1991年
- 上映時間:80分
- ジャンル:SF
- 監督:北久保弘之
- キャスト:松村彦次郎、横山智佐、小川真司、近石真介、佐藤智恵 etc…
映画『老人Z』 評価
- 点数:60点/100点
- オススメ度:★★★☆☆
- ストーリー:★★☆☆☆
- キャスト起用:★★★☆☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★☆☆
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『老人Z』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『老人Z』のあらすじを紹介します。
看護学校に通うハルコはボランティアで寝たきり老人の高沢喜十郎の世話をしていたが、ある日厚生省がやってきて喜十朗を連れ去ってしまう。聞けば彼は新事業のモニターに選ばれたのだという。そして数日後、喜十朗の看護装置Z-001号機の発表会があると知り会場に駆けつけるハルコ。そこで彼女が見たのは最新の介護ロボットに世話をされる喜十朗の姿だった。人工知能付きのロボットであるZが食事は勿論下の世話までしてくれるが、ハルコの目には喜十朗が幸せそうには映らなかった。
学校に戻ると異変が起きており、パソコンのモニタ一面にハルコに助けを求めるメッセージが表示されていた。友人たちと喜十朗を助けに向かうハルコ。しかし厚生省の寺田が行く手を阻み、喜十朗はすでに細胞レベルでZと繋がっていた。仕方なくZごと喜十朗を連れ出すハルコだが、Zの製作会社の長谷川がやってきて連れ戻されてしまう。
ハルコは職場先に入院しているハッカーの老人にZへのハッキングを頼む。喜十朗の妻ハルの音声を作って聞かせると喜十朗は反応し、Zはハルの声を使うようになる。暴走し始めたZは喜十朗とハルの思い出の地である鎌倉へと移動し始める。寺田、長谷川、ハルコの三者はZを追いかけるが、Zはどんどん巨大化して手がつけられなくなる。しかしハッカー老人からの指示で、ハルコは何とかZのコアチップの破壊に成功するのだった。
映画『老人Z』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『老人Z』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
高齢化社会の予見的設定
本作が製作された1991年時点ですでに日本は高齢化社会を迎えていたが、そこから高齢化率は右肩上がりに上昇し2014年現在では高齢化率は21%を超え超高齢社会に突入している。そこで問題となるのが、老人が老人の介護をするという老老介護だ。原作の大友克洋もこのことを予見し、それを解決するために生み出されたのがZ-001号機だ。作中ではロボットに介護を任せることに対してハルコは人道的な視点から批判する。現実ではここまでではないにせよ、同様のことは既に起こっている。寝たきりになった老人は家族から切り離されて、介護施設に預けるという行為が平然とまかり通っている。勿論各々の事情はあるであろうし、介護施設にも温かさがあることはハルコを見ても分かる。それでも老人は社会から切り離された存在になりがちだ。『老人Z』はそんな老人の逆襲の物語でもあるのだ。
人格を構成するもの
物語の影の主人公が人工知能を備えたコンピューターZだ。物語の途中でZは喜十朗の妻ハルの声を得て、そこからはまるで本物のハルのように振る舞う。実際は喜十朗の思い出の中にあるハルをデータ化して読みこんだものであるが、観客もまるでZにハルの亡霊が乗り移ったかのように錯覚する。これが示唆するのは人格のデータ化可能性だ。人格は本人の主観で構成されるかのように見えて、実は他者から視認できるデータ(その人の言動)によって構成されているのだ。中盤以降の大捕り物の影に隠れがちだが、サイバーパンク的要素が多分に含まれていると言える。
映画『老人Z』 まとめ
原作、脚本を大友克洋が務めた本作だが、彼が監督も務めていると勘違いされそうなぐらいに大友の色が出ている。周りをどんどん吸収して巨大化していくイメージは『AKIRA』を彷彿させ、あるいは作品を覆うテンションは『MEMORIES』の中の一編『最臭兵器』にも通じるものがある。80分と比較的短い作品ながらもそれぞれのキャラクターもなかなかに個性的だ。特に厚生省の寺田はどこか憎めない役どころで、「厚生省を舐めるなよ」という口癖も印象に残る。
ただ介護問題を物語の導入に持ってきた割には作品のテーマには関わって来ないし、コンピューターの暴走というサイバーパンク的な要素も結局物理的な破壊行為に収束している。良くも悪くも大友の趣味に大きく偏った作品になっている辺り評価が分かれそうだ。
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