幕末の土佐に生きた伝説の剣豪「岡田以蔵」の生涯を描いた時代劇。監督は「鬼龍院花子の生涯」などで近世の時代劇に名作を残した五社英雄。主演は「勝新太郎」共演は「仲代達也」、「石原裕次郎」、小説家の「三島由紀夫」など時代を作った大物役者が名を連ねる。原作は司馬遼太郎の「人斬り以蔵」より。
映画『人斬り』 作品情報
- 製作年:1969年
- 上映時間:139分
- ジャンル:アクション
- 監督:五社英雄
- キャスト:勝新太郎、仲代達矢、三島由紀夫、石原裕次郎、倍賞美津子 etc…
映画『人斬り』 評価
- 点数:95点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『人斬り』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『人斬り』のあらすじを紹介します。
幕末の動乱期、土佐、薩摩、長州を中心として時代を大きく動かす予兆を見せていた。その動乱期の下で土佐勤皇党の党首「武知半平太」が抱える部下「岡田以蔵」は未熟ながら邪剣を振るう豪傑で、田舎のあばら家で血に飢えた名刀・備前忠吉を持てあます日々を悶々と送っていた。
政治の転覆を目論み、大阪へ本拠を移した土佐勤皇党の一員に抜擢された以蔵は、やがてその邪険に磨きを掛け保守派の武士たちを次々と暗殺してゆく。
土佐出身でありながら勤皇党とは思想の違いで袂を分かち活動する坂本龍馬。武知半平太の「野心」と違う「理想」を追求する龍馬に以蔵は反抗するが、武知に心酔していた以蔵は、幼少の頃から馴染みである龍馬との間に立ち心を揺り動かされる。それからも以蔵は武知から言われるがままに暗殺を繰り返してゆくが、ある策略により大きな討ち入りの場から任務を外され、その怒りで自ら闘いの場に足を踏み入れてしまった事から武知の怒りを買い謹慎になる。
闘いという居所を奪われ失望した以蔵は、酒に溺れ苦悩の日々を繰り返すが、武知の策略と自らの破天荒な性分により破滅へと追い込まれてゆく。
映画『人斬り』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『人斬り』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
勝新太郎の生々しい殺陣のリアリティさは必見
映画の冒頭から暴力的に独り刀を振り回す岡田以蔵の立ち回りが映画の全容を示唆している。勝新太郎は決して上手い役者ではない。座頭市シリーズで見せる殺陣にしてもどこか泥臭く綺麗な太刀さばきとは言えないのだが、刀を振り回すという姿においての力強さは類を見ない。全打席ホームランを狙いに行くようなバッターの如く振り回し、刀をさも自分の一部のように操るのだ。「岡田以蔵」の伝説から「殺人鬼」という程のレッテルを貼られている人物像に、これほど当てはまる役者がいるだろうか。豪快な人物像とは裏腹に、落ちぶれ奈落の底へ突き落とされた人間を演じる対極的な姿にも、役者としての際立つ個性が光っている。
そしてもう一人この映画に別の大きな存在感を放っている役者が、薩摩の田中新兵衛を演じる小説家の三島由紀夫である。他の役者にない鬼気迫る眼光で狂気を醸す表情。自らの刀で命を絶つシーンでの大写しにされる横顔に加え、鍛え上げられた筋肉のリアリティさには息を呑む。映画上映の翌年、本人が自衛隊の幕僚長を人質に立て籠もり、自決した事件を想い起こさせるシーンでもある。
時代に翻弄された主人公が望んだ真の自由
幕末の動乱が生んだ武知半平太という独裁者の、狂気じみた思想により翻弄される以蔵だったが、最後は誰にも束縛される事なく自由に生きる道を切り開こうと、以蔵なりに維新への想いが見つけられたのではないか。殺人犯として法による裁きを受け、武知は切腹、以蔵は張り付けという処分を言い渡されるのだが、処分の違いでようやく武知の手から離れられる喜びを見つけた死に様は、最後まで「岡田以蔵」としての信念を貫いたかのように見えた。単なる殺人鬼ではなく人としての生き様も再認識された作品でもあった。
映画『人斬り』 まとめ
総合的には水を得た魚のように嵌った勝新太郎の役回りと、三島由紀夫の圧倒的な存在感で成り立っている映画だと感じる。石原裕次郎は坂本龍馬という大役にありながら出演シーンは少なく、仲代達也も武知半平太という時代の寵児を演じながらほどよく憎まれ役に徹している。正義の剣豪ではなく、異端者としての剣の達人を主眼目に捉えているのがダークな画面から滲み出ており、王道的な幕末時代劇の展開へ結びつけなかった五社英雄監督の会心作だと言えるのではないだろうか。
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