映画『さくらん』の概要:遊女に身売りされたきよ葉は、女として働かなくてはいけない事に恐怖を感じていた。しかし、逃げる事は許されず、他の遊女から意地悪をされようとも元来の負けん気の強さと要領の良さで、花魁への道を着実に歩んでいく。
映画『さくらん』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:ラブストーリー
監督:蜷川実花
キャスト:土屋アンナ、椎名桔平、成宮寛貴、木村佳乃 etc
映画『さくらん』の登場人物(キャスト)
- きよ葉 / 日暮(大人:土屋アンナ / 子供時代:小池彩夢)
- 子供の頃に玉菊屋に身売りされる。口が悪く、他の遊女ともよく喧嘩をし問題を起こす。
- 倉之助(椎名桔平)
- 日暮を気に入り本妻にしようとする。
- 惣次郎(成宮寛貴)
- きよ葉の間夫。他の遊郭にも出入りしている遊び人だが、その事を隠しきよ葉に近づく。
- 高尾(木村佳乃)
- 花魁。嫉妬深い性格で、きよ葉の事を気に入っておらず貶めようとする。
- 粧ひ(菅野美穂)
- 花魁。生意気な口を聞くきよ葉に対して容赦ない言動を行うが、簪をあげたり気にかけていた節がある。
- 光信(永瀬正敏)
- 高尾の間夫で、絵師。嫉妬に駆られた高尾に殺されそうになる。
- しげじ(山口愛)
- 高尾の禿。高尾が亡くなった後はきよ葉の元に就く。
- ご隠居(市川左團次)
- 高尾の客だったが、きよ葉の事が気に入り、度々訪れるようになる。
- 清次(安藤政信)
- 玉菊屋で働く。女郎の子供。
- 楼主(石橋蓮司)
- 玉菊屋の主人。
- 女将(夏木マリ)
- 玉菊屋の女将。髪を掴んだり、折檻したり、子供だろうと容赦がない。
映画『さくらん』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『さくらん』のあらすじ【起】
店内は三味線が鳴り響き、着物で着飾った女達を格子の外の男達が値踏みしていた。その中で遊女のきよ葉を見る一人の男がいた。高尾の間夫だった。
きよ葉は他の遊女を蹴り店から折檻を受ける。きよ葉は周りにあるすべての事が気に入らなかった。
桜が綺麗に咲く頃、子供だったきよ葉は身を売られ町にやって来る。そして、花魁の粧ひが町を練り歩くのを見る。
子供の頃から生意気なきよ葉だったが、粧ひの下に就く事になり、女だらけの世界で自分も同じように女になる事に恐怖を感じ逃げ出そうとする。しかし、清次に見つかってしまい店から折檻を受ける。周りからはもうこの世界から逃げられないのだから諦めろ、と言われるが、きよ葉は庭にある咲かないと言われている桜が咲いたら、店から抜け出す事を誓う。
きよ葉は粧ひと客の情事を見てしまい、花魁になる事にさらに恐怖を感じる。そして、部屋から逃げる時に粧ひの金魚鉢を倒し一匹死なせてしまう。後日、粧ひに叱られる。花魁になりたくないと言うきよ葉に対し、粧ひから、なろうと思ってもお前には無理だと言われ、思わずなってやると啖呵を切る。
粧ひの身請けが決まり店から出て行く時、きよ葉は簪を譲り受ける。
映画『さくらん』のあらすじ【承】
きよ葉は客を取る前に、楼主から情事での客の喜ばし方を教えられる。高尾の客のご隠居を相手にする事になるが、相変わらず減らず口を叩く。ご隠居は仕返しに、嫉妬深い高尾にきよ葉が気に入ったと嘘を付き折檻させる。
ご隠居は根回しをし、きよ葉の突き出しを行う。
きよ葉は自然と男を喜ばす術を知っており、店の中での地位を上げていく。
ある座敷できよ葉は惣次郎と出会う。優しく穏やかな惣次郎に徐々に惹かれていく。
光信が会いに来た事を喜ぶ高尾だったが、女性を描かないと言っていた彼がきよ葉を描いていた事を知り怒り狂う。
きよ葉は惣次郎に心を奪われていた為、他の客との情事に身が入らない。その為、客からの苦情が上がる。女将は大名の坂口を相手にしないと惣次郎と会わせないと脅す。そんなきよ葉を高尾は呼び出し惣次郎がいる部屋に通す。高尾の仲間が大名の坂口の部屋の前で、きよ葉は間夫の所に居ると告げ口をする。怒った坂口は部屋を捜し歩き、きよ葉を見つけると頬を殴る。それを見た惣次郎は、きよ葉に声も掛けずに逃げ出す。きよ葉は逃げた惣次郎の姿に、ショックを受ける。
きよ葉は抜け殻のようになるが、店は許してくれずいつものように仕事をさせられる。しかし、間夫に弄ばれた事を高尾に揶揄られ喧嘩になってしまう。
映画『さくらん』のあらすじ【転】
このままでは腹の虫が収まらないきよ葉は、惣次郎に一目会いに行く事を決める。雨が降りしきる中、店から出てきた惣次郎に会うが彼は笑ってきよ葉を見た。きよ葉は残酷な惣次郎の姿に傷つき、夕日が沈む中、一人川辺で泣いた。そんなきよ葉を清次が迎えに来る。きよ葉はもう決して泣かない事を誓う。
光信を愛しすぎて苦しくなった高尾は、泣きながら光信にカミソリを振りかざす。しかし、揉み合っている内に運悪く高尾の首に当たり息絶えてしまう。
連れ戻されたのではなく自分で戻って来たのだと言ってのけたきよ葉は、店のトップとして花魁の道を歩む事になる。そして、いつかの粧ひのように町の中を練り歩く。
日暮と名を変えたきよ葉は、花魁になろうとも気の強さと口の悪さは相変わらずだった。しかし、着実に遊女としての人気は高まっていった。
清次に楼主の姪との縁談話が持ち上がる。そして、楼主は、清次に店を継がせたいと考えていた。しかし、清次はあまり乗り気ではなかった。
映画『さくらん』の結末・ラスト(ネタバレ)
日暮を気に入った倉之助が身請けを申し出る。妾などではなく日暮を守ると誓うが、日暮は吉原に桜が咲いたら出ると伝える。すると、倉之助はたくさんの桜の木を持って来る。宴の席で日暮を妻にしたいと店の皆の前で発表する。
突然の事に驚く日暮は一人宴の席を抜け出す。清次はそんな日暮を追い駆けるが、具合が悪そうな日暮の姿に彼女が妊娠したことに気づく。子供を下ろせと言うが、日暮は身請けを断り、たとえ殺されようとも子供と運命を共にすると決心していた。
夜、清次が一人夜空を眺めているとしげじがやって来る。清次はしげじから誰が死んだら悲しいか問われ悩む。
日暮は誰の子かわからないが子供が出来、産むつもりだと倉之助に伝える。倉之助は子供共々身請けすると伝えるが、その時、日暮は突然腹痛を訴え倒れてしまう。
日暮は流産してしまう。悲しむ日暮を清次が看病する。看病したまま寝てしまった清次に、日暮はそっと毛布を掛けてあげる。赤ちゃんが死んでしまった事を一人泣き悲しむ日暮。清次はそっと抱きしめ慰める。
日暮が身請けされる日に清次の結婚も決まる。
日暮の元に久しぶりにご隠居がやって来る。咲かない桜は無いのだと言って、日暮の腕の中で静かに亡くなってしまう。
日暮は一本立ちしたら付けろと言い、しげじに簪を送る。
身請けされる前の晩、日暮は清次の元にやって来る。これまでの日々を懐かしむ二人だったが幸せになれ、とお互い声を掛け合って別れる。
早朝、咲かないと言われる桜の木の前で清次と日暮は会う。木には小さな桜が咲いていた。二人は幸せそうに笑い合い、共に遊郭を抜け出す。それを知った楼主は怒り狂い、殺す事を誓う。女将は馬鹿な子達だと笑い、倉之助は静かにほほ笑むだけだった。
日暮と清次は満開の桜を二人で見に行く。微笑みあう二人は幸せそうだった。
映画『さくらん』の感想・評価・レビュー
花魁の世界を最高におしゃれでスタイリッシュに描いた本作。土屋アンナが主演というのは、吉原という場所の特質上ミスキャストなのではないかと思いつつ見てみると、これがハマり役。脇を固める女優陣も美しさと個性が光り、各所に名言とも取れる粋なセリフが散りばめられている。
全体を通して、こだわり抜かれた映像美と音楽に彩られた世界観が素晴らしく、吉原の世界に生き、もがきながらも恋をして自分の人生を選択する女の生き様が非常に躍動的に描かれた、満足度の高い内容となっている。(女性 30代)
鮮やかで艶やかな映像がとことん楽しめる映画。
遊女同士の争いなど、女のドロドロとした話はあったが、テンポがよかったためそこまで重苦しくはなかった。土屋アンナは本当にハマり役で、この人以外は考えられない。物語としては、若干盛り上がりに欠けていた部分と、オチの部分が物足りない印象を受けたが、全体的に見たら悪くなかった。
映像がとにかく美しい。色鮮やかな映像に女優陣の美しさは、それだけで見る価値のあるものだった。(男性 20代)
遊郭に無知であればあるほどのめり込んでしまうような内容。
遊女としての生き方をとにかく嫌い、花魁なんてもっての他だと豪語していたきよ葉が、様々な紆余曲折の末、花魁としての道を辿っていく因果関係が非常に面白い。
又、花魁の描き方がとても艶っぽく、思わず見とれてしまうほどだった。
とはいえ、表舞台の華々しさとは真逆にある闇の部分にもしっかりと触れているので、人間の嫉妬や憎悪によって生まれる葛藤など、非常に濃い作品として仕上がっている。(男性 30代)
昔の時代の黒い部分を密に表しており、胸が苦しくなった。だが、きよ葉の強い気持ちや、負けず嫌いな部分が見ていてスカッとする。過激なシーンがたくさんあったが、美しくて見とれてしまう程の演出だった。きよ葉が流産してしまい、慰める清次の姿や、二人で咲かないと言われていた桜を見た時に、そっと微笑む姿などは、心が穏やかになった。また、色鮮やかな映像や、花魁姿の衣装など、全体的にたくさんの色が使われており、見る人を引き寄せる。(女性 20代)
映像美と女の強さ、美しさが心に残る作品。ハーフっぽい顔立ちで花魁とは少し違うイメージがあった土屋アンナだが、実際は完全にハマリ役で最高だった。土屋アンナの表情や仕草が、勝気で男勝り、自由奔放な性格のきよ葉にぴったりだ。
吉原という、狭く華やかな世界で、翻弄されながらも必死にもがく女達。失恋を経て、結局花魁への道を駆け上がるきよ葉だが、最後は自分の行きたい道を選択したところがとてもよかった。女として強く生きる勇気をもらえる作品。(女性 20代)
原作の漫画を知っているが、土屋アンナさんはきよ葉のイメージにピッタリだと思う。土屋さんだけでなく、他のキャストも個人的にはイメージと合っていた。特に高尾役の木村佳乃さんと粧ひ役の菅野美穂さんが良かった。とにかく演技が上手い。蜷川実花さんが監督を務めたこともあり、華やかな映像が印象的な作品。着物を見ているだけでも綺麗で興味深かった。だからこそ、花魁同士の醜い争いや客との恋の駆け引きの辛さが際立っていた。(女性 30代)
土屋アンナのキャラクターと蜷川実花の世界観が究極にマッチした作品でした。花魁の世界は華やかですが物凄く苦しい世界。そこで生きることを決めたきよ葉の強さはとてもかっこよかったです。ずっと彼女を支えてきた、清次はとにかく優しくて心が安らぐ気持ちも分かります。しかし、私は倉之助がいいなと思いながら見ていました。日暮を追うでもなく、咎めるでもなく、ただ微笑むだけの倉之助は本当にかっこよかったです。(女性 30代)
蜷川実花さん監督作品というだけあって、ハッとするほどの色彩美で、日本映画でないような、でもやはり日本らしい、なんとも形容しがたい鮮やかさです。菅野美穂さん、木村佳乃さんの体当たりの演技も見応えがあります。題名は物語に重要な意味を持つ「さくら」と「おいらん」がかけてあるようです。遊郭という特殊な世界に身を置いた女性たちの美しさ、悲しさ、強さが描かれています。
物語の最後は、ずっと主人公のきよ葉を近くで見て支えてくれた清次と、美しい景色の中、幸せそうな場面で終わります。その後は視聴者に委ねられているようです。(女性 40代)
みんなの感想・レビュー
花魁の艶やかで切ない宿命を描いた作品。舞台となっている江戸時代の日本を、椎名林檎の音楽という現代的な要素と融合させ、新感覚の時代劇だ。蜷川美香監督の強烈な色彩と映像美がとにかく素晴らしい。型にとらわれない主人公を土屋アンナが演じていて、作品の世界観と絶妙にマッチしている。脇を固める役者たちの体当たりの演技も見どころ。狭い世界で煌びやかに生きる遊女たちの葛藤や失恋に胸が苦しくなる。自身の幸せの為に突き進んだ主人公に勇気をもらえた。日本人だけでなく、海外の人にも受け入れられやすそうな作品だ。
遊女に身売りされたきよ葉が、江戸時代の花魁という女の世界の中で生き抜く姿を描いた、安野モヨコ原作作品。
蜷川実花監督特有の強く鮮やかな色使いは、どの場面を切り取っても美しく見応えを感じた。
きよ葉を演じた土屋アンナの負けん気の強さがかっこよく、脇役を演じた菅野美穂や夏木マリも、ドロドロとした花魁の世界の演出にぴったりの配役だった。
様々な苦労や葛藤と闘いながら、自分の道を貫くきよ葉の生き様に勇気をもらえた。