映画『第9地区』の概要:ヨハネスブルク上空に突如やってきて、駐留するようになったエイリアンの船。船内には憔悴しきったエイリアンが大勢いた。人道的立場から彼らを難民として受け入れることにした当局は、地元住民との衝突が絶えないエイリアンの住環境問題に対処するため、MNU社に解決を依頼した。
映画『第9地区』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:SF、アクション
監督:ニール・ブロムカンプ
キャスト:シャールト・コプリー、デヴィッド・ジェームズ、ジェイソン・コープ、ヴァネッサ・ハイウッド etc
映画『第9地区』の登場人物(キャスト)
- ヴィカス・ファン・デ・メルヴェ(シャールト・コプリー)
- MNU社のエイリアン課の職員。居住区画の整備のために、エイリアンと直接交渉をする。業務中、エイリアンの開発した薬品を摂取してしまい、身体がエイリアンと遺伝子構造が同一化してしまう。
- クリストファー・ジョンソン(ジェイソン・コープ)
- エイリアンの技術者。知性の乏しいエイリアンの中で、特別に高度な知性を有している。母星への帰還を進めており、とある騒動がきっかけでヴィカスと手を組むことになる。
映画『第9地区』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『第9地区』のあらすじ【起】
政府認可の多国籍企業であるMNU社のエイリアン課では、ヨハネスブルク上空に突如現れ、そこに駐留した宇宙船の搭乗員エビの支援が行われていた。人類が宇宙船に送り込んだ調査隊の話によれば、異性人であるエビは地球に来た時点で栄養失調に陥り、気を失っている者までいた。全世界の注目が南アフリカに集まり、政府は責任ある対応を迫られることになった。そこでエイリアン救命組織が結成されたものの、具体的な解決策はなく、一時的な滞在場所として第9地区が宇宙難民によって占拠されてしまった。
エビと地元住民の間の対立は深刻化していった。地元住民は土地を奪われた怒りでエビを差別的に扱い、エビは人間の持ち物を盗んだり騒動を起こす。MNU社はそこに参入し、エビの居住区画の整備を行うことになった。
現場責任者として任命されたヴィカスは会社が雇った傭兵と共に、エビを新居住企画へと移す業務に就いた。ヴィカスは直接エビの家を一軒一軒訪ね、立ち退き交渉を申し込んでいく。すると、ある一軒の小屋で死んだ牛を養分にしてエビの卵の栽培が行われていた。ヴィカスは小屋ごと焼却を指示する。
映画『第9地区』のあらすじ【承】
二匹のエビがゴミ山から部品を集めて、家に持ち帰った。二匹はそこでその部品を使い、二十年かけて生成した薬品を遂に完成させた。喜んだのも束の間、二匹の家にヴィカス率いるMNU社の職員が現れた。一匹は家に留まり、人間を惹きつけ、もう一匹は薬品の一部を持って逃げ出そうとした。家にいたエビを拘束したヴィカスは嬉々として家宅捜索する。そんな中、彼は薬品の入った容器を不用意に開け、零した薬品を誤って摂取してしまう。別段異常がなかったため、捜査を続行するヴィカスだが、調子に乗ってエビを挑発してしまい、腕を負傷する。添え木と包帯を巻いて、ヴィカスは仕事を続行した。
逃げた方のエビは自分の家に戻り、人間が来るのを待機した。クリストファーという地球での名前を持っていたそのエビは、やってきたヴィカスに立ち退き同意書へのサインを求められる。交渉の最中、ヴィカスは吐き気を感じ、嘔吐する。彼の体調不良を察した他の職員の判断で、業務は一時中断する。
映画『第9地区』のあらすじ【転】
首都の飲食店のテラスで食事をしていたヴィカスは同僚に体調を心配される。問題ないと言うヴィカスだが、彼は言ったそばから鼻血を出していた。それも真っ黒な鼻血を。オフィスに戻ったヴィカスは手先の痒さを堪えながら事務作業をしていた。その内痒みを我慢できなくなり指先を掻くと、大した力も入れていないのに、爪が剥がれてしまった。ヴィカスは自分の身体の異変に驚愕する。
クリストファーは薬品を完成させた小屋に戻り、薬品の残りを探した。しかし、彼らの探す薬品はヴィカスが回収したため見つからない。
ナイジェリアのマフィア。オビサンジョはエビの作る武器を大量に集めていた。エイリアンの武器は地球上のどの国の兵器よりも高度な技術で作られていたが、政府は彼のことを危険視していなかった。エイリアンの武器は、彼らの遺伝子を読み取り、不適合であれば作動しない仕組みで、人間であるオビサンジョには扱うことができなかったのだ。
身体の異変に怯えたヴィカスは慌てて帰宅したが、そこには昇進祝いのために沢山の人が集まっていた。パーティの最中、意識が朦朧としたヴィカスは黒い血を噴出し、参加者の前で倒れてしまう。
映画『第9地区』の結末・ラスト(ネタバレ)
病院に連れてこられたヴィカスに、早速治療が施された。包帯を巻いていた彼の手は酷く腫れていたため、添え木と包帯が取り替えられることになった。包帯を外すと、彼の腕の肘から下はエビのそれに変貌していた。ヴィカスは麻酔をかけられ、病院から実験室へと連れて行かれる。エイリアンに変貌しつつある彼は患者から実験対象と見做された。
MNU社は、ヴィカスのことを怪我からの感染症で死んだことにした。そして、その身体を標本として捌こうと企む。自分の運命を察知したヴィカスは、研究員の隙を突いて逃走を図った。研究所を逃げ出したヴィカスは、追ってから逃れるため、第9地区へと逃げ込んだ。
孤立無援となったヴィカスは、逃げ込んだ小屋でクリストファーと遭遇する。クリストファーはヴィカスの変異した腕を見て状況を察知し、彼を一旦匿うと薬の在り処を問い質した。薬は研究所にある。そう知るとクリストファーは落胆した。薬液さえあれば、自分たちが地下で修理していた指令船で母艦に戻り、ヴィカスの異変も治療することができたのにと彼は言う。ヴィカスはクリストファーの言葉に希望を見出し、MNU社の研究所から薬品を盗み出す決心をする。
戦力を手に入れるため、ヴィカスはオビサンジョの下を訪ねる。オビサンジョはヴィカスの腕を切り落として売り物にしようとしたが、ヴィカスは奪ったエイリアンの武器で、返り討ちにする。武器を盗み出したヴィカスは辛くもオビサンジョの下から逃れた。
クリストファーと共にMNU社を襲撃したヴィカスは薬品の奪取に成功する。しかし、研究所で仲間に対して行われていた凄惨な実験を目の当たりにしたクリストファーが怒り狂い、警備員を皆殺しにしてしまう。
ヴィカスたちを追うMNU社とオビサンジョたち。騒動は三つ巴になる。そんな中、クリストファーは母船を遠隔操作することに成功するものの、MNU社に捕らえられてしまう。ヴィカスはクリストファーを救い、彼を母艦に送り届けると、単身MNU社に戦いを挑んだ。疲弊しきったものの、どうにか生き延びたヴィカスは地球から飛び立つ母艦を見上げた。
騒動の後、ヴィカスは姿を晦まし、何者かのハッキングによって、MNU社の陰謀が明るみに出た。人々はヴィカスを救うため、彼が姿を現すのを待つが、ヴィカスはクリストファーが迎えにくると信じて、エビたちと共に過ごす道を選んだ。
映画『第9地区』の感想・評価・レビュー
SFものとしては、珍しく宇宙人の方に肩を持ちたくなる映画である。
宇宙人との戦争などではなく、地球に来た宇宙人達用に隔離住居地域があり、その中で宇宙人達が一時的に暮らしているという設定。
地元住民の反発から、宇宙人達は立ち退きを余儀無くされるのだが、ヴィカスという職員が実際に立ち退き要請をしに1件1件回っていく途中で、謎の黒い薬品を浴びてしまう。
そして、それが原因で体質が変化し、ヴィカスは半分人間、半分宇宙人という状態になってしまうのだが、そのせいで国からも現地マフィアからも追われる身となり、愛する妻からも拒絶されてしまうといった絶望的立場に立たされる。
ラストシーンでは、宇宙人へと変容してしまったヴィカスと思われる人物が、妻へのプレゼントとして、ガレキから花を作っているシーンで終了する。
今後については描かれていないが、ヴィカスが人間へと戻れる可能性も示唆されており、けしてネガティブなイメージとはなっていない所が救いである。(男性 30代)
エイリアンが地球に来た理由はなんだったのか?という部分が、結局はっきりと明らかにされなかったので、不完全燃焼でした。
ストーリーは前半がドキュメンタリー風の映され方だったのは特徴的で、スラム街やギャング達の攻防も、とてもリアルに感じました。本当にアフリカ地区に巨大な宇宙船が出現してしまったのでは?と感じさせられます。
エイリアンの造形もグロテスクで、出てくる武器などもかなり凝ったデザインで格好良く見えるものもあるので、そういった見所が好きな人は楽しめる作品だと思います。(女性 20代)
序盤はヴィカスに関するインタビューシーンに始まり、ドキュメンタリータッチで描かれているが、段々ヴィカスとエイリアン側の視点に移行していく見せ方が良かった。
エイリアンとの争いがメインの物語かと思いきや、ヴィカスがエイリアンになっていくという展開に意表を突かれた。病院で包帯を説いた瞬間から事態が加速していき、最後まで目が離せなかった。
ヴィカスが妻の住む玄関に手作りの花を置いていったことを仄めかす最後のシーンは、切なくも人間に戻れる日を願うばかりだ。(女性 20代)
地球に不時着したエイリアンから始まり、人間との協和・対立、そして移住計画についてドキュメンタリー形式で序盤は描かれている。計画にはエイリアンの技術を奪う狙いがあったことや、強気な態度に出れないエイリアンに対する横暴な人間といった、人間の悪意に近い怖さが感じられて非常に面白い。主人公ヴィスカもエイリアンに対する差別的な態度を露骨に出していたので、後半クリストファーとの友情は綺麗なものとは思えなかった。結局は自分たちの種が一番ということなのでしょう。異星人との共存の難しさがしっかりと伝わる作品。(男性 20代)
ドキュメンタリー風に描かれているので変にリアルさがあり、わざとらしくない描写が映画らしくなくて逆に良かった。エイリアンと如何にして共存していくかという面白いテーマ性は、舞台がヨハネスブルクということもあり「アパルトヘイト」について描こうとしていることが自然と結びつく。
SFと社会問題を切り取ったとても興味深い作品で、アクションシーンも派手で楽しめるようになっている。エイリアンとの友情のようなものも描かれていて、異質な者を受け入れようという強いメッセージを感じた。(女性 20代)
エイリアンが地球を侵略するという作品は多数あるが、この作品は設定が面白い。弱っていた大量のエイリアンを人間が救助し難民キャンプを作るのだ。しかし人間がエイリアンを制御できるはずもなく、渋々エイリアンを他の地へ移転させることにする。普通の作品なら、もちろんエイリアン相手に武力行使であろう。しかしなんとエイリアンに立ち退きのサインをもらって回るのだ。エイリアンにも心があり、会話もする。他のエイリアン映画とは全く違う作品で、コメディタッチでありながらも夢中になってしまう魅力溢れる作品。(女性 20代)
エイリアンを地球で保護するという展開が新しすぎて一気に引き込まれた今作。地球や人間の侵略を目論む宇宙人のイメージを大きく変えるような今作の設定はとても面白かったです。
そもそも、宇宙人を人間と同じように扱っているのが他の作品では見たことがないので何をするのも斬新なのですが、立ち退いてもらうために宇宙人にサインを貰って回るというのは人間の律儀な部分が出ていて面白すぎました。
しかし、そのせいで半宇宙人になってしまうヴィカスには同情してしまいます。ラストの描写もとても切なかったです。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
ニール・ブロムカンプという無名の監督がこれほどまでの作品を残し、アカデミー賞のノミネートにもなった背景を見てみると、制作に「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソンとキャロリン・カニンガムがいるではないか。このような若い作家による映画をサポートする制作チームがあるというのは、ハリウッドの力を改めて見直してしまう。監督のニール・ブロムカンプが南アフリカ出身というところからこのような題材が生まれたのだろうが、それを映像に出来るチームが様々なつながりから出てくるところも、アメリカの映画産業がいかに多様性を誇っているかを証明しているのだろう。
地球上で展開されるSF映画としては非常にユニークな設定である。エイリアンの姿がエビに似ているというのもキャラクター的にはユニークだし、生活臭漂うエイリアンというのもSFならではの発想である。特撮や戦闘シーンも非常にリアリティがあり、新人監督と制作スタッフの遊び心も満載である。ラストシーンが次作を期待させるようなエンディングなのだが、できればこれ一本で終わらせた方が良い感じがする秀作である。
最初はUFOに対する町の意見やMNU関係者のインタビューが始まり、それから主人公のヴィカスがエイリアンへの立ち退きを執行する場面まで、ニュースドキュメントロケとしての画面が続く。そしてスラム化した地区の中では、エイリアンが大好物とする缶詰のキャットフードを、地区に住むナイジェリア人が値段を吊り上げて闇市を開き、それを買う金欲しさに人間への襲撃を掛ける犯罪が増える。またナイジェリア人はエイリアンを万病の薬として食用にしたりで、地球人との日常的な争いが頻発し、生活臭漂うエイリアンが何とも哀しく描かれている。作品の目的は政治や社会への風刺ではなく、人種対立の背景を持つ社会に新たな弱者としてのエイリアンを持ち込むという、新たな設定を売りにしたエンターテインメントという話らしい。エンド部分の話に大きく影響してくるクリストファーという息子思いの人情家エイリアンが、最後に母船に戻り星へ帰ることが叶うまでのクライマックスシーンは良く出来ている。しかし地球に残された多数のエイリアンと、半分エビになった主人公のヴィカスが行方不明というままのラストは、続編を仄めかしているのかどうかだが。