映画『サイコ』の概要:会社の金4万ドルを盗んで、逃げた女性マリオンがベイツ・モーテルで殺害されるサイコ・サスペンス。1960年製作、アルフレッド・ヒッチコック監督の代表作。全編モノクロで描かれ、恐怖の表現が秀逸。
映画『サイコ』 作品情報
- 製作年:1960年
- 上映時間:109分
- ジャンル:サスペンス、ホラー
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- キャスト:アンソニー・パーキンス、ジャネット・リー、ジョン・ギャヴィン、ヴェラ・マイルズ etc
映画『サイコ』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『サイコ』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『サイコ』のあらすじを紹介します。
アリゾナ州、フェニックス。不動産屋に勤めるマリオン(ジャネット・リー)は、昼休みに恋人のサム(ジョン・ギャビィン)と密会を重ねていた。こんな関係をずっと続けたくないとサムに言うが、サムは結婚に踏み切れないでいた。
不動産屋に戻ると、4万ドルの契約をしたいと老紳士がやってきて、現金で支払う。社長は、マリオンに週末にこんな大金を店に置けないから、銀行に預けてきて欲しいと言う。マリオンは、銀行に行くと伝えて会社を出るが、4万ドルの金を持ったまま車で持ち逃げしてしまう。
恋人の住む町を目指して、車で逃避行を続けるマリオン。その途中で、警官に呼び止められ、執拗な職務質問を受け、疑惑の目を向けられてしまう。マリオンは、中古車店に寄り、即決で車を決め、現金で支払う。マリオンの不安と動揺が呼応するようにどしゃぶりの雨の中を車で走っていく。
夜遅くなっても雨が降っていた。雨のせいで、裏道に入ってしまったマリオンは、「ベイツ・モーテル」という看板を見つけ、そのモーテルに泊まることに。モーテルの主人・ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)は病気の母との2人暮らし。ベイツ・モーテルを見渡すような丘にお化け屋敷のような家が建っており、そこに暮らしているのだという。
宿泊者はマリオンだけ。寂しいので、一緒に夕食を食べないかと誘われるマリオン。快く応じるが、ノーマンと病気の母親の激しい言い争いを聞いてしまう。
夕食後、疲れたので早く眠りたいと部屋に戻るマリオン。シャワーを浴びようとするが、シャワーカーテンにゆれる人の影。女装をしたノーマンに襲われて、マリオンは絶命してしまう。数分後、ノーマンが部屋に戻ってきて、マリオンの死体とトランク、コート、そして新聞紙にくるんだ4万ドルの一部をマリオンの車に積み、車もろとも沼地に沈めてしまう。
マリオンの妹・ライラ(ヴィラ・マイルズ)が私立探偵アーボガスト(マーティン・バルサム)と共に、姉マリオンを探しにサムの店にやってきた。サムにマリオンが会社の金を持ち逃げした事を話す。しかし、サムの店にはマリオンはいなかった。
私立探偵が付近一帯のモーテルを調べ、マリオンの足取りを追う。ようやく、マリオンが「ベイツ・モーテル」に泊まった証拠を見つけ出し、モーテルの主人ノーマンに詳しく聞き出そうとするが、翌朝モーテルを出ていったとしか話してもらえなかった。ライラに電話連絡をし、”ノーマンの病気の母に聞いてみる、1時間程で戻るから”と伝えた後、私立探偵はノーマンの家に向かう。
ノーマンの母親に会おうとしたが、ノーマンに見つかり殺されてしまう。1時間以上経っても戻らない、私立探偵を心配するサムとライラ。サムがノーマンの家を訪れるが、ノーマンにも私立探偵にも会えなかった。
町の保安官に姉マリオンの失踪と私立探偵の失踪を相談するサムとライラ。保安官夫婦から、ノーマンの母が数年前に死んでいるということを聞かされた。次の日、二人は夫婦を装ってベイツ・モーテルを訪れた。姉の泊まったモーテルの1室から、マリオンが書いたであろう計算紙を発見。シャワーカーテンがないという不自然さにも気づく。
ノーマンの家を調べると、地下室で白骨化したミイラが見つかった。ライラも女装したノーマンに襲われ、殺される寸前で助かり、ようやくノーマンが姉マリオンを殺した犯人だと判明。精神科医によると、ノーマンの精神には2つの人格(ノーマンと母親)があり、女装して殺したのは母親の人格らしい。
逮捕されたノーマンは、母親のせいで殺したと証言するが、彼の中の母親は私のせいじゃないと不敵な笑みを浮かべていた。やがて、沼地からマリオンの車が引き上げられるが、この事件の捜査は続いていくだろう。
映画『サイコ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『サイコ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
シャワー室での殺害前後の心理描写に注目!
「サイコ」の前半(マリオンがモーテルのシャワー室で殺害されるまで)と後半(マリオンの妹ライラとサム、私立探偵の殺害シーン)を分けて考えたいと思う。まず、前半部分の、店の金4万ドルを盗み、車で逃走しているシーン。
マリオンは、誰かに見つかりやしないか動揺しています。動揺している時、テンポの速い音楽が流れ、またマリオンの周囲の人々の声がセリフのみで心の声として重ねられています。とても丁寧に心情が表現されていて、観客にも緊張感をもたらします。
ヒッチコックの映画では、このように不安や恐怖心を巧みに音で表現するのが特徴。代表的なシャワー室で殺されるシーンでは、殺人者が迫ってくる様子を男が覗き窓から覗く→シャワーの流れる音→シャワーカーテンに映る影というように徐々に接近していく様子をカメラで段階的に追いかけています。
刺殺され、シャワー室に流れる血は、チョコレートのシロップを使用。殺人のシーンが甘い匂いなんて!また、部屋に飾られた”鳥の絵”や、居間に置かれた、ノーマンの趣味だという鷹のはく製が不気味さを漂わせています。観客にこれから何か起こるぞと予感させるのです。ノーマンが病気の母と共に住む家もなんだかお化け屋敷みたいで怖いです。
現代はcgiなど映像技術が進化しているので、怖い絵はいくらでも描けます。視覚的恐怖という点でいえば、ヒッチコックの映画にそれほど怖さはありませんが、心理的恐怖が後からゾクゾクやってくるのがたまりません!カラー映像にするとあまりに凄惨な殺害シーンになってしまうため、モノクロで撮影したのは正解だと思います。
母親への執着、そしてサイコ・キラーの誕生。
「サイコ」の後半部分をみていきましょう。私立探偵アーボガストが、ベイツ・モーテルにマリオンが泊まったことをついに突き止めます。再度、ノーマンの家に行き、ノーマンの母親に会おうとしますが、先回りしたノーマンに殺されてしまいます。
その私立探偵が殺されるシーン。カメラで追っていくと、静かにノーマンの家に足を踏み入れた探偵は、家の玄関を見渡した後、2階への階段をゆっくり上っていきます。この時、映しているのは全身でなく、探偵の足だけ。探偵が上がっていくのが見えると、母親の部屋のドアが少しずつ開いていくのが見えます。そして、踊り場まで上がってきた探偵は不意に母親に扮したノーマンにナイフで襲われ、階段をさかさまに落ちていく。
文字に書いても怖いです。血しぶきがはっきりと見えます。ヒッチコックは探偵が殺害されるシーンにもこだわっていたようです。探偵が刺されている瞬間にノーマンの母親の頭と肩が刷り込まれているので注意して見て下さい。こうして恐怖を植えこんでいく表現が秀逸です。階段から刺されて落ちるシーンでは、「めまい」で使われた浮遊してるかのようなカメラアングルも使われています。(「ヒッチコック&メイキング・オブサイコ」より)
また水をイメージさせるシャワー室、トイレ、沼地などの映像が多いのも特徴。常に”死”のイメージを抱かせるためではないでしょうか。
「サイコ」が製作された後、アメリカの異常犯罪者が「サイコ」を殺人の参考にしたという証言もあるようです。マリオンの妹ライラが、ノーマンの母親の白骨化した遺体を発見した時、遺体が揺れています。まるで、返事を返すように。ヒッチコックの映画のテクニックは細かいので全部を抜き出すことはできませんが、時代の先端をいっていると改めて評価します。
ノーマンの母親への執着が端的に表現された部分だと思いますが、母親と息子の繋がりの濃さが時に犯罪になりうるという怖さ。「サイコ」を観ていると、現実の世界の殺人事件を目の前で見ているかのようなリアルさに打ちのめされるのです。
サスペンスの王道と言うのに相応しいプロットは凄いと言うしかないし、バスルームシーンのお馴染みのメロディはどれだけ耳にしてきただろう。終始ハラハラするサスペンスをこの時代の映画でも堪能できるのは、アルフレッド・ヒッチコックが不動である理由が分かる。
段々不穏な雰囲気になっていくところとか、犯人の表情の変化ひとつからモノクロながらじわじわくる恐怖が凄かった。数あるヒッチコック作品の中でも自信を持って面白いと言える。(女性 20代)
最高の一言です。60年以上前の作品なのに全く色褪せない恐怖とクオリティに本当に驚きました。多くの人が知っているあのシャワーのシーンも、分かっているのにドキドキしながら緊張して見てしまいます。
『アメリカン・サイコ』が大好きな私はとしてはベイツモーテルとベイトマンに繋がりを感じてしまい、インスパイアされたのかなと深読みしてしまいました。
独特の気味の悪さが癖になり、何度も見たくなる作品です。(女性 30代)
現代のサスペンスやホラーに比べたら怖さは控えめです。しかし、60年代の上品な佇まいの中ではノーマンの異常性が際立ち、ショッキングな物語になっています。
最初、ノーマンは母親と二人で暮らしていると思って観ていましたが、ラストで真相が明らかになってから物語を振り返るとかなり不気味です。
この作品は殺人シーンの残酷さを抑えるためにモノクロで製作されたそうですが、モノクロであることがよりミステリアスな雰囲気を醸し出しているように感じます。
沼に車が沈んでいくシーンは緊張感があり印象的でした。(女性 40代)
映画『サイコ』 まとめ
「サイコ」は、猟奇的殺人を扱ったサスペンスであるが、現代において犯罪者の心理を読み取るうえで大切なテキストになる知的な作品です。心理学的観点から見れば、母親への執着で2つの人格を持ったサイコ・キラーであるが、まるで決められた仕事をするかのように殺人を繰り返しています。
精神科医がサイコ・キラーだと説明するシーンも興味深い。女装しての殺しや多重人格者という性格を取り入れているのが斬新で現代でも充分に通用する点が怖さを際立たせています。逮捕されたノーマンが、一瞬、母親の顔と重なり、ニタリと笑うシーンも忘れられません。
ヒッチコックの映画の魅力は、モノクロである点と心理描写が巧みな点です。カラー映像にすると凄惨な殺害シーンなるからという理由でモノクロにしたのは正解だと思います。犯人の心が分からないというのが、恐怖の原点。裏道にポツンあるベイツ・モーテルとノーマンの丘の家が、孤独な彼の存在そのものに思えてきます。フツウの人の振りをしている人がイチバン怖い。
死んだ母親の告白という形で終わり、恐怖と死の余韻が続く映画です。ヒッチコックの映画技法を用いて、スピルバークなど多くの映画監督が映画製作のお手本にしています。最近では、アンソニー・ホプキンスが主演した、ヒッチコックの映画製作の秘密と生涯を描いた「ヒッチコック」(12)や猟奇殺人鬼ノーマンの少年時代を描くドラマ「ベイツ・モーテル」(13~)などヒッチコック作品から派生した作品が作り続けられています。
みんなの感想・レビュー
toikunです。こんにちは。
盗むお給料の値段だけが変わっていて、監督は何を求めたのだろうと疑問だらけだったのですが、後々から、パンフレットなんかを見て、監督の真の目的を知った時は,一気に尊敬に値しました☆彡