映画『リチャード・ジュエル』の概要:実在した警備員リチャード・ジュエルの手記「American Nightmare: The Ballad of Richard Jewell(アメリカの悪夢:リチャード・ジュエルのバラード)を原案に、名匠クリント・イーストウッドが手がけた一作。
映画『リチャード・ジュエル』の作品情報
上映時間:131分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、ジョン・ハム etc
映画『リチャード・ジュエル』の登場人物(キャスト)
- リチャード・ジュエル(ポール・ウォルター・ハウザー)
- 正義感溢れる白人男性。警察や人を守る仕事に就きたいと夢を描いているが、上手くいかず警備員として生計を立てている。バーバラと2人暮らしで、ほそぼそとした生活だったがある日仕事中に不審物を発見し事件に巻き込まれていく。
- ワトソン・ブライアント(サム・ロックウェル)
- リチャードが備品係として働いていた職場で出会った弁護士。疎遠になっていたものの、英雄になったリチャードから連絡をもらい再会する。
- バーバラ・”ボビ”・ジュエル(キャシー・ベイツ)
- リチャードの母親。夢を追う息子を支え、応援している。ある日を境に英雄から犯罪者へと立場を変え、どう守るべきなのか葛藤し続ける。
- トム・ショウ(ジョン・ハム)
- 事件当日、公園警備の責任者をしていたFBI捜査官。自分の責任を軽くするためにすぐに犯人を立てようとリチャードに目を向けた。記者のキャシーに迫られ、情報を漏らしてしまう。
- キャシー・スクラッグス(オリヴィア・ワイルド)
- リチャードが爆弾魔であると虚構を世に広めた当事者。新聞記者として名前を挙げようと特ダネを求めショウに言い寄る。
映画『リチャード・ジュエル』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『リチャード・ジュエル』のあらすじ【起】
1986年、中小企業局の備品係として働くリチャード・ジュエルはいつもおどおどとしている。弁護士のブライアントは察しの良いリチャードの働きを見て、「レーダー」とあだ名をつけた。「人を守る仕事をしたい」というリチャードはブライアントと親しくなった頃、警備員に転職するため退職の挨拶に出向いた。激励を込めてブライアントは「ゲス野郎になるな」と声をかけ100ドルを渡すのだった。
大学の警備員として働き始めたリチャードだが、正義感だけでは成り立たず厳しすぎる取り締まりがクレームとなりクビになってしまう。警官になる夢を諦めていないリチャードは、アトランタ五輪が開催される記念公園の警備員として働きチャンスを伺うのだった。
連日、多くの人が集い一体感が生まれるコンサート会場。体調が悪い日でもリチャードは小まめに気配りを忘れずに勤める。しかし仲間と離れ酔った少年たちを注意したが、警官ではないと馬鹿にされてしまった。警官を連れて少年たちの元に戻った時、ベンチの下に荷物を見つけた。規則通りに「不審な」荷物の処理を警察に依頼するリチャードだが、疎ましく思われてしまう。それでも正しい判断をしたいリチャードは、会場から人を出し安全を確保しようと動くのだった。その頃、警察には「公園に爆弾を置いた、あと30分で爆発する。」と殺害予告の電話があったのだった。
警察が荷物を確認すると、リチャードの悪い予感は的中した。爆発物処理班が到着するまでに、会場の人々を避難させるためリチャードは熱心に声をかけ続ける。しかし突然の爆発に会場はパニックに陥った。爆弾に仕込まれた釘により、負傷者の数は多く悲惨な事態がリチャードの目に映った。バーバラに電話でメッセージを残すリチャード。現場に偶然居合わせた記者のキャシーは誰よりも早く犯人を見つけたいと特ダネに食いつくのだった。
映画『リチャード・ジュエル』のあらすじ【承】
翌朝からリチャードは爆弾の第一発見者として「英雄」扱いを受ける。出版社から本の出版を持ち掛けられるほどであった。一方で公園の監視責任者だったFBIのショウは、リチャードに疑念の目を向け始めた。リチャードが勤めていた大学に情報を求め過去を洗い出す。ロサンゼルスオリンピックで爆破事件を起こした警官の人物像を重ね、自ら爆弾を置いた可能性を作り上げるのだった。
本の契約に不安を抱えるリチャードは、ブライアントに助けを求めた。中小企業局を離れ、個人事務所でひっそりと仕事しているブライアントは、時の人からの連絡に胸を躍らせ二つ返事で受け入れるのだった。
知人を使って探りを入れるFBIは、リチャードへの疑いが深めていく。そんな中、キャシーはショウに言い寄り捜査状況の探りを入れた。身体を使って得た「英雄思考があり挫折を経験した白人はFBIが追う犯人像と合致する」というネタはキャリーの新聞社だけではなく、多くのメディアが報じ全米が騒然とする。
情報漏洩により焦ったFBIは、教育ビデオの制作を手伝ってほしいと嘘つきリチャードを支局に連行した。事件当日について問われたリチャードは素直に答え続けるが、被疑者のフリをして証言して欲しいというFBIの依頼だけは断った。違和感を覚えたリチャードはブライアントに助けを求める。その頃、リチャードを見送ったバーバラはニュースを見て、息子が疑われていることを知るのだった。
3度もリチャードから連絡があったと知ったブライアントは、翌日すぐにFBIの支局に折り返した。リチャードの存在を隠そうとするFBIの姿勢に腹立てたブライアントは、すぐに取り調べを止めるようショウに申し出るのだった。
映画『リチャード・ジュエル』のあらすじ【転】
事態をようやく飲み込んだリチャードだが、自宅の前にはマスコミが押し掛けていた。リチャードを助けに来たブライアントにもマスコミはたかって質問責めにする。さらにキャシーはブライアントの車に乗り込み、何か情報を得ようとするのだった。無実だと語るリチャードの目を見たブライアントは、誰に責められても無実だと断言する。しかし、逮捕歴や猟銃を保持していること、税金の滞納などブライアントが知らない不利な条件が立て続けに出てくるのだった。
「法執行官」として誇りを持っているリチャードは、家宅捜索にも応じた。バーバラの下着まで押収したFBIは、犯行予告の電話を再現するような声のサンプルを採集しようとした。すぐにブライアントが制したが、この頃からリチャードの体調に異変が生じ始めるのだった。
事件現場と犯行予告電話を掛けた公衆電話からの距離を確認し、リチャードの犯行は無理だと確信しているブライアント。しかしリチャードは予定外な物証を持っていたうえ、FBIの要求を全て受け入れる始末。しまいにはブライアントの事務所もリチャードの家も盗聴されていることが発覚するのだった。
映画『リチャード・ジュエル』の結末・ラスト(ネタバレ)
FBIはリチャードに共犯者がいると仮定し、旧友にまで協力を求めた。息子の守り方が分からない不安感に追い詰められたバーバラは限界を迎えた。卑劣なやり方に対抗するためポリグラフ検査を要求したブライアント。見事にパスしたリチャードはブライアントと共に、キャシーに記事の撤回を求めた。嫌々謝罪したキャシーは、実際に公衆電話から現場まで歩いてリチャードに反抗が無理だということを確認した。ショウに事実を確認するが、一度裏切りを犯したキャシーに情報を与えることなどないのだった。
リチャードのバーバラは悪夢の数日間に感じたことを、マスコミの前で涙ながらに語った。司法局に呼ばれたリチャードとブライアント。ショウに尋問を受ける中で、リチャードは「僕が犯人である証拠はあるのか?」と逆に質問をした。何も答えられないショーンの姿に幻滅したリチャードは、「同じように冤罪が続くなら、今後警備員は不審物を見つけても通報せず逃げ出すだろう。リチャード・ジュエルを思い出して」と言い残し部屋を出た。
後日、ブライアントと食事しているリチャードの元にショウが訪ねてきた。リチャードが捜査対象からはずれたことを証明する書面を届けに来たのだ。去り際に「リチャードが犯人だと思っている」と言い残したショウ。しかし二人は勝利を喜び抱き合うのだった。
6年後、リチャードは警察官になっていた。爆発事件の真犯人が捕まったと告げにブライアントが職場を訪ねてきた。リチャードとバーバラ、ブライアントの長い闘いは幕を閉じたのだった。
映画『リチャード・ジュエル』の感想・評価・レビュー
事実に基づく物語であるが、単調に感じてしまったのは「人」に注目するクリント・イーストウッドの描き方により事件にはあまり触れられていないからだろうか。もっと大衆的に受けるような山場があってもおかしくない原案で、静かにじわじわと人に寄り添う展開は見事であった。劇中でも心臓を押さえるようなシーンが目に留まったが、44歳の若さで亡くなったリチャード・ジュエルを追悼するクレジット。そして関わった人々のその後を伝えてくれる粋な演出は、この物語に対しての愛情を感じる者であった。冤罪により窮地に立たされた男が幸運にも掴み取った勝利は、見る者に勇気を与えるだろう。(MIHOシネマ編集部)
オリンピックの時に起きた爆弾テロの冤罪事件を描いた実話を元にした今作。FBIの捜査や、情報を知った一般大衆がジュエルを寄ってたかって悪者扱いしていく様は、現代社会の闇の先駆けを見ているようで寒気がした。
ジュエルの危なっかしいキャラクターは見ていてハラハラするし、人々が愚かなのはイライラするが、最後反撃で少し溜飲が下がる。余計な演出はせずに極めてリアルに描いているのも好感が持てた。間違いなくクリント・イーストウッド監督の傑作の一つだ。(男性 30代)
話の大半が家の中のシーンの為か若干単調な印象が残るが、その分最初から最後まで主人公の人となりがストレートに伝わるとも言える。こうしたところで余計なことをしないのがクリント・イーストウッド監督の味とも言えよう。
どこか馬鹿正直で愚鈍な主人公が怒りを露わにした瞬間にはホッとした。そしてあれだけの目に遭っても、その後警官になったということには驚いた。しかしそれが法を信じているということなのだろう。
あらためて権威を盲目的に信奉することの危うさに気づく1本。(男性 40代)
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