映画『晩春(1949)』の概要:『晩春(1949)』は、小津安二郎監督作品。「紀子三部作」と呼ばれる内の一つ。たった二人で暮らす父と娘の親子愛を描いた作品。親子を演じるのは、小津作品ではおなじみの原節子と笠智衆である。
映画『晩春』 作品情報
- 製作年:1949年
- 上映時間:108分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
- 監督:小津安二郎
- キャスト:笠智衆、原節子、月丘夢路、杉村春子 etc
映画『晩春』 評価
- 点数:85点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★☆☆
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映画『晩春』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『晩春(1949)』のあらすじを紹介します。
大学教授の曾宮周吉とその娘の紀子は北鎌倉で暮らしている。周吉の妻はすでに他界し、親子二人だけで生活しており、家事は全て紀子が担っている。
紀子が父の世話ばかりで婚期を逃しそうであることを周囲の人々も心配し、周吉も自分の助手である服部を相手にどうかと勧めるが、紀子は大笑いし、服部はもう相手が決まっているのだとかわしてしまう。
その後もおばのマサにもしつこく結婚を勧められ、お見合いの相手を紹介されるが、ここでも紀子は父が困るからとしぶる。
ある日、父と二人で能を観に行った紀子は、父が会釈をした女性、三輪を見て二人の関係を疑う。すっかり父に不信感を抱いた紀子は、帰り道で父と別れて友人のアヤの元へ行くが、ここでも結婚の話になり、口げんかになる。
マサの勧める相手に会って来たという父は、相手を気に入り、再度紀子に結婚するように言う。紀子はそれでも「お父さんと一緒にいたい」と伝えるが、父はだめだと言う。
とうとう周吉は三輪と再婚すると嘘をつき紀子に結婚を促すが、紀子はそれを聞いてショックを受ける。
その後紀子はついに結婚を承諾し、おばにその意を伝えた。
父と二人京都を旅行している最中、再び紀子は「お父さんと一緒にいたい、これ以上の幸せはない」と伝えるが、父は「幸せになれ」というばかり。それにより紀子は「幸せになる」と結婚の決意を固めるのだった。
結婚式当日、周吉はまた「幸せになれ」と何度も言い、紀子を送り出した。
その日の夜、周吉はアヤと二人で酒を飲みながら話をする。ここで周吉は、自分の再婚は嘘であるとアヤに告げる。「私が会いに行く」と言ったアヤの言葉に、周吉は「本当に会いに来てくれ」と、寂しい気持ちをのぞかせた。
帰宅した周吉は、誰もいない部屋で静かに椅子に座り、おもむろに林檎に手をのばして剥き始める。周吉は、剥きかけの林檎を手にしたまま俯く。林檎の皮は床に落ち、悲しそうに俯く周吉は一人寂しさを痛感するのだった。
映画『晩春』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『晩春(1949)』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
ラストシーン
作品の前半では、着ていたものをすべてその辺に脱ぎ散らかしていた周吉。
しかし、ラストシーンでは、紀子の結婚式が終わり、一人で帰宅した周吉は部屋に入って上着を脱ぎ、それをハンガーにかける。
ここで、もうこれからは紀子が周吉の世話をすることもないため、一人でも何とかやっていこうという周吉の決意のようなものが感じられる。
その後の、林檎の皮を剥くシーンは、台本では号泣することになっていたようだが、周吉を演じた笠智衆は涙を見せることはできないと申し出て、ただうなだれるというものにかわったそうだ。
ここでおもむろに林檎に手をのばし、剥き始めたことも一人で生きていく意志の表れなのだろうか。それでも、林檎を剥く手が止まりうつむいた時、悲しみとも孤独ともとれ、号泣する表現よりもこの表現の方がなお悲痛な心情を描き出しているのではないだろうか。
父と娘の関係
本作で描かれる父と娘の関係は、お互いがなくてはならない存在として描かれている。いわば共依存のような関係ではないだろうか。
京都旅行の一場面には、二人が布団を並べて眠るというものがある。このシーンの中で、壷が映し出されるカットがある。この壷に関しては、過去さまざまな論争が巻き起こった。
結婚を決意した紀子の心理描写であるとか、父親への性的なコンプレックスから解放されたことを表すとか。
何が正しいとも言えないが、この二人の関係から性的なものを見出す考えは無理やりのように思える。西洋では親子が並んで寝るなんてあまりないことかもしれないが、日本ではそう珍しい事であるとは思えない。
しかし、紀子が亡くなった母の代わりに父の世話をしてきたことは確かで、そういう点では夫婦のような関係だったともいえるかもしれない。
映画『晩春』 まとめ
小津作品で描かれる作品ではいくつも結婚が描かれているが、これほどまでに悲しい結婚を描いたものはないのではないだろうか。
結婚したことで紀子はきっと幸せになるのであろう。しかし、本人が望んだ結婚ではない。そして、後押しした父自身も娘の結婚を心からは祝福できていないのである。
笠智衆は、『東京物語』では妻を亡くした老人の孤独を見事に演じている。しかし、本作にはそれを超える孤独がある。笠智衆の演技は、よく棒読みだと言われる。確かにどの作品を見ても単調なしゃべり方で、台詞からはあまり感情が読み取れない。しかし、台詞以上に立ち振る舞いで感情を表現しているのである。
このラストシーンを見せられると、暫く余韻に浸ってしまいなかなか抜け出せない。
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