この記事では、映画『シャニダールの花』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『シャニダールの花』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『シャニダールの花』の作品情報
上映時間:105分
ジャンル:ラブストーリー、ファンタジー
監督:石井岳龍
キャスト:綾野剛、黒木華、刈谷友衣子、山下リオ etc
映画『シャニダールの花』の登場人物(キャスト)
- 大瀧賢治(綾野剛)
- シャニダールという花の研究所へ2年前に本社から派遣された男性。研究熱心。不器用で優しい性格。まっすぐで自分の信じるものしか受け入れられないという難点がある。
- 美月響子(黒木華)
- シャニダール研究所へ本社から派遣された女性。心理カウンセラー。花を宿す女性と接していくうちに、自らも花を宿すようになる。どこか神秘的で柔軟な考えの持ち主。
- 立花ハルカ(刈谷友衣子)
- 花を宿す若い女性で響子の初担当。絵画の才能があり極度の人見知り。
- 菊島未来(山下リオ)
- 花を宿す女性の一人で、プライドが高く孤立している。ハルカと少しずつ打ち解けて親友になる。
- 吉崎和彦(古舘寛治)
- シャニダール研究所、所長。シャニダールの花についての第一人者。花についての重大な秘密を秘匿している。
- 田村ユリエ(伊藤歩)
- 花を宿す女性の一人。大瀧に好意を寄せており、バリ料理が得意で彼によくご馳走している。花の採取手術で死亡する。
映画『シャニダールの花』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『シャニダールの花』のあらすじ【起】
シャニダール。それはごく限られた女性の体にだけ咲く花。主に胸の辺りに根を張って花を咲かせるが、花の状態は芽の段階からその女性の精神状態が左右する為、研究所では快適で安静平穏な暮らしを提供している。花を宿すと一般的に妄想や幻覚といった感覚異常が発生すると言われていた。
大瀧賢治はシャニダールの研究所へ2年前に本社から派遣されてきた。以来、女性の胸に咲く花の経過を見守り研究している。
そんなある日、本社から心理カウンセラーとして美月響子が派遣されてくる。彼女は花を宿す女性達の不安を取り除き、胸に咲く花を無事に育てる事を役目としていた。
花を宿すとして新たに発見された、極度の人見知りである立花ハルカ、プライドが高く馴染もうとしない菊島未来、バリ料理が得意な田村ユリエ。響子は彼女らの担当となりカウンセリングを始める。
田村ユリエは大瀧へ好意を寄せていた。得意の料理を彼へと振る舞い、それを断れば花の状態が悪くなり、経過が良くなれば今度は会いに来ないと状態を悪くする。
菊島未来はプライドのせいで周囲との間に壁を作り、そもそも花の状態もあまり良くなく、研究所から退去を言い渡されていた。
唯一、ハルカだけが順調に経過しもうじき花が咲こうとしている。
彼女らの話を聞いて行くうちに響子は、シャニダールとは一体何なのかと思い始める。花の事をもっと知らなければならない。必死になればなるほど焦りは募る。そんな姿を間近で見つめて来た大瀧は、彼女へ好意を持ちやがて二人は恋人関係へと発展して行く。

映画『シャニダールの花』のあらすじ【承】
田村ユリエの花が満開を迎えた。花を採取する為に切除手術を受けなければならなかった。だが彼女は切りたくないと話す。花を咲かせ続ければ有害物質が体内に回り死へ至ると言われていた。
花を千切ろうとするユリエを説得したのは響子だった。手術当日、ユリエは笑顔でオペ室へ向かった。
全身麻酔をかけられたユリエの胸からレーザーで花を切り取る。大事に保管ボックスへ収納した次の瞬間、ユリエの心拍が止まる。必死の蘇生処置も意味を成さない。
花とその宿主は一心同体。切り離されれば命に関わるのだ。
同じ時、未来は欝々として室内を歩いていた。仲良くなったハルカの花を見せてもらう。彼女の花は美しく咲き誇っていた。対して自分の花はもう咲かない。このまま枯れてしまうのだ。どこか嫉妬めいた気持ちになり、未来は光合成を行う為に並んで横たわっている宿主達の元へ向かった。
未来はおもむろに一人の女性へと近づき、胸に咲く花を千切り取った。続けて2人、3人と千切り捨てる。辺りは悲鳴で騒然とし、走り寄って来たハルカに行為を止められる。
そんなに欲しいなら私のをあげるから。ハルカはそう叫び、自らの花を千切って未来へと渡そうとした。しかし驚愕して目を見開く未来の前で、ハルカは突然意識を失い昏倒する。
室内は大騒ぎとなり、その場に居合わせた響子はパニック症状を引き起こして意識を失う。
映画『シャニダールの花』のあらすじ【転】
意識を取り戻した響子。傍には大瀧がいる。騒ぎの後の事を聞くと、彼女は大瀧の手を握り自分の秘密を見せる。響子の胸にはシャニダールの芽が出来ていた。
蘇生処置により息を吹き返したハルカが退去する日、響子は彼女を訪ねシャニダールの由来を資料と共に語る。
ネアンデルタール人が死者へと手向けた花をシャニダールと呼び、人間の心の発生の瞬間であった事を話す。そして人が生んだ初めての花である事から、その花をシャニダールと名付けたのだと伝えた。
大瀧は花を切除する際、肉体に多大な負荷がかかるのではないかと所長に問い掛けるが、所長は肯定せず、研究にリスクは付き物だと言い逃れする。ユリエの死は花の手術と関係するのではないかと続けるが、所長は尚もそのような事実はないと断言した。
ユリエの葬儀の後、大瀧はもうシャニダールは終わりだと言い、響子と二人でやり直さないかと話すが、彼女は胸の花を咲かせたいと言う。そして大瀧に花を咲かせる手伝いをして欲しいと乞う。
この花は何かの始まり。だから一緒に育てて欲しいと。だが大瀧は納得せず、響子の言動を感覚異常なのだと怒鳴る。しかし彼女は花を咲かせ続ければ本当の事が分かるはずだと言う。
二人の意見は対立し、結局答えが出せないまま休む事になった。
拳を握り締めテーブルへ掛ける大瀧に、響子が静かに歩み寄る。握り締めた拳をそっと開くと、そこにはまだ小さな花の芽があった。なんで。抑揚のない声音で問う響子に大瀧は、芽を摘んだからもう大丈夫だ。心配ないと抱き締める。だが彼女は、自分の信じられるものしか信じられないのね。そう言い残して大瀧の元を去った。
美月響子はシャニダールを退社。そのまま姿を消した。
その後すぐにシャニダールの閉鎖が決まり、大瀧も別の職を探す事になる。
映画『シャニダールの花』の結末・ラスト(ネタバレ)
ある日、大学の植物研究の職へ就いた大瀧に差出名のない種が送られて来た。同僚へ聞くと以前から品種改良した種を送りつけてくる人がいるから、きっとその人だろうという話になり種は窓から捨てられる。
だが数日後、大瀧はシャニダールの芽が地面に出ているのを発見。彼はその芽を持ってハルカの自宅を訪ねた。事情を知っているらしいハルカと移動しつつ事情を聞く。
響子の花は摘まれたあと再生し、凄く強い特別な花が咲いたという。それを受粉させて種が出来たら大瀧に送って欲しい。それに気づいたら大瀧はきっと来てくれる。そう響子へ言われたと言う。
病院のような施設の一室に響子がいた。傍らには未来が座っていた。
だが響子は眠ったきり目を覚まさない。冬眠状態で脳死ではないのだと言う。大瀧は側へ跪き涙を零す。そして眠りにつく前、大瀧へ渡して欲しいと言われた絵を見せられる。
満開のシャニダールの絵だ。空いた空間には彼女からのメッセージが書かれていた。
響子はどうしても花を咲かせたかった。花が成長するにつれ、彼女は自分が花だったのだと思うようになる。身体も心も軽くなって周りに溶けて漂い、消えて行く感覚。花が満開になり、これが本当の私という喜びに満たされていた。気にする事は何もない。響子は花に戻る。とても静かでとても幸せだった。
報道によってついに世間は、シャニダールの花の危険性に気付き始めた。
大瀧は研究所、元所長の元へ乗り込む。花を咲かせ続け昏睡状態になったらどうなるのか、覚醒させる事が出来るかを聞く為だった。
所長は取り付く島もなく自分で考えろと突き放すが、一つ話を聞かせてくれた。
ネアンデルタール人が死者に花を捧げる仮説は嘘で、獰猛な人種だったと話す。なぜネアンデルタール人が滅亡したか。それは花に滅ぼされたからだと言う。彼らは花に寄生されて滅んだのだ。海外の研究者が発見した遺跡では、集落一面が花に寄生されたネアンデルタール人の化石で埋め尽くされていたのだそうだ。
大瀧はその話を聞き、街中のありとあらゆる場所を探しては花を集め始めた。
見れば花は至る所に咲いており、採取を続けては響子の部屋で育て始める。そうして彼は響子が残した言葉を思い出す。大瀧は彼女の覚醒を諦められなかった。
花は巷にも増え続けた。
人間は生命進化の最終形。花に戻れるはずがない。なぜ、なぜだ。大瀧は自身へ問う。花は滅ぼす悪魔か、どこかへ導く天使か。答えを探し続ける大瀧。ふと、眩い太陽を見上げた彼は。
広大な草原地に一本の道。気付けば大瀧は一人、道の真ん中で立ち尽くしていた。思うままに道を進み草原地が切れた場所に、シャニダールの花が二輪咲いていた。
赤い色味の多い雌花と白色の多い雄花だ。何だか怖くなって振り向くと、そこには笑みを称えた響子の姿がある。目が覚めたのかと問うと響子はこう言う。
あなたが今、目覚めたの。
彼女について行き二輪の花の元へ向かう。赤い花が響子で白い花が大瀧だと言った。
見渡せば無数のシャニダールが広がっている。僕は、僕達はみんな花に戻る。
映画『シャニダールの花』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
イラク北部のクルディスタン地域に実際にある考古遺跡、シャニダール洞窟にて遺体に花を手向けたと解釈できる遺物が発見されたことから、着想を得て制作された恋愛ファンタジー映画。人の胸に咲く花の研究を行う恋人同士の研究者たちが辿る、行く末を描いている。人に根を張る植物を題材にした映画は他にもあるが、今作は淡々としていながらも色彩が美しく、一種引き込まれる独特な雰囲気が印象的。ラストシーンへ至る経緯でぐっと謎感を深め、いわゆる精神世界への突入を示唆しているようでもある。初見では全く意味が分からないが、何度か観るうちに奥に潜む何かを知ることができるだろうと思う。そんな奥深い作品。(女性 40代)
1度見ただけでは、この作品が伝えたかった事が何なのか100%理解することはできないでしょう。そもそも、胸に花が咲くという設定が私は少し苦手で、いくら綺麗な花が咲いていても受け入れられませんでした。しかし、花を宿した女性を見ていると、シャニダールに特別な何かを感じていて、それはまるで「我が子」を想うような表情でした。
最後まで不思議な感覚のままストーリーが進み、はっきり答えが出ないまま終わってしまったのでより深くこの作品のことを知りたくなりました。(女性 30代)
独特の世界観に圧倒された。人間の身体に花が咲くという不思議な現象を“美”として捉えるか“異常”として捉えるかで、登場人物たちの価値観が揺れ動くのが見応えあった。綾野剛演じる大瀧の冷静さと黒木華演じる美月の危うさが良い対比に。終盤、彼女の花が暴走するように咲き乱れるシーンは象徴的で、まるで人間の本能や欲望が可視化されたようだった。(20代 男性)
観終わったあと、静かな余韻が残る作品だった。SFともホラーともつかないジャンルで、人間の身体に咲く花という設定が詩的で美しくも不気味。美月が次第に花に支配され、自我を失っていく様子が悲しく、まるで人間が社会や他者の価値観に侵食されていくように感じた。映像も音楽も静かで、心にじんわり染みる不思議な映画だった。(30代 女性)
最初は設定が突飛すぎて戸惑ったが、観ていくうちに不思議な魅力に引き込まれた。身体から花が咲く女性たちの姿は、神秘的で同時に不気味でもある。最も印象に残ったのは、美月が花と一体化していくシーン。彼女の意思よりも“花の意志”が上回っていく感じが恐ろしく、ラストにはある種の切なさすら覚えた。観る人を選ぶが、ハマる人には刺さる映画だと思う。(40代 男性)
黒木華さんの存在感が圧倒的でした。彼女が演じる美月は、知的で冷静なようでいて、実は心の奥に大きな孤独を抱えていたように感じます。その彼女が花に心を開き、支配され、そして溶け込んでいく過程は、美しくも恐ろしい。まるで人間の「純粋さ」と「危うさ」が具現化されたような存在。難解な部分もあるけれど、私はとても好きな作品です。(20代 女性)
人体に咲く花というテーマが持つ寓意に圧倒されました。花が咲くという現象は一見すると神秘的だけど、そこには人間の欲望、選民意識、身体管理への恐怖が凝縮されていて、観ながらずっと「これは一体何を象徴しているのか」と考え続けました。花を咲かせることの“価値”とは何か、考えさせられる哲学的なホラーでした。(50代 男性)
思春期の少女たちが花を咲かせる描写に、女性としては複雑な気持ちになりました。美しさと同時に苦しみがあり、花を通じて支配されるような感覚に戦慄しました。とくに美月の最後のシーン、花と一体化する姿は幻想的でありながら、喪失感も大きく、まるで自己を捨てて美の象徴になってしまったようで胸が痛みました。(30代 女性)
映画としての完成度は高く、映像美や空気感は素晴らしいのですが、物語としての明快さには欠ける印象。ただ、その“分かりにくさ”が作品の魅力でもあり、観るたびに新しい発見があります。美月と大瀧の関係性も、単なる恋愛にとどまらず、もっと深くて複雑な感情が入り混じっていたように思います。(40代 男性)
ファンタジーと医療、さらには宗教的なモチーフまで感じられる不思議な映画でした。花が咲くという現象が、選ばれた女性たちにしか起こらないという設定も興味深く、序盤から引き込まれました。最終的に、美月が「自分で咲くことを選んだ」ように見えたのが印象的で、制御できない自然の力と人間の意志との境界について考えさせられました。(50代 女性)
映画『シャニダールの花』を見た人におすすめの映画5選
渇き。
この映画を一言で表すと?
美しさと狂気が交差する、極限まで研ぎ澄まされたサイコ・ミステリー。
どんな話?
失踪した娘を捜す元刑事が、次第に暴力と狂気に満ちた世界に足を踏み入れていくサスペンス。物語が進むにつれ、人間の本性や欲望がむき出しになり、衝撃的な結末へと突き進んでいきます。美しさとグロテスクが共存する、視覚的にも強烈な映画です。
ここがおすすめ!
映像、音楽、構成すべてが異常なほどスタイリッシュ。『シャニダールの花』と同様に、美や身体、狂気をテーマにした作品で、観る人の精神をじわじわと揺さぶります。演出の独自性と、見る者を選ぶ刺激的な内容が魅力です。
告白
この映画を一言で表すと?
静かな怒りが波紋のように広がる、究極の復讐ドラマ。
どんな話?
中学校の教師が、ある事件をきっかけに自らのクラスで復讐を始める衝撃作。モノローグ形式で語られる独特な構成が印象的で、少年犯罪や倫理観を巡る鋭いテーマが展開されます。観終わったあとも重く心に残る一作。
ここがおすすめ!
『シャニダールの花』のように、映像美と心理描写に重きを置いた作風が共通。冷たい美しさと静かな狂気、そして圧倒的な演出力で物語が進みます。メッセージ性も強く、深く考えさせられる映画を求める方におすすめです。
アンダー・ザ・スキン 種の捕食
この映画を一言で表すと?
“視る”だけで思考が侵食される、知覚系アートSFホラー。
どんな話?
スカーレット・ヨハンソン演じる謎の女が、男性たちを誘惑して消し去っていく──その正体は人間ではなかった。台詞の少なさと視覚・聴覚による表現が特徴で、人間とは何かという根源的問いを投げかけてきます。
ここがおすすめ!
説明を排したミニマルな構成と、圧倒的な映像体験は『シャニダールの花』と親和性が高いです。観る者に“解釈”を委ねるスタイルで、想像力と感性を刺激される稀有な映画体験が得られます。
リリイ・シュシュのすべて
この映画を一言で表すと?
10代の孤独と暴力を、美と痛みで包み込んだ青春の悲歌。
どんな話?
ネット上で繋がる少年たちの心と現実の世界との乖離を描いた青春映画。いじめ、家庭崩壊、自傷といった重いテーマを、繊細な映像と音楽で包み込んだ作品です。幻想的でありながら、痛ましいほどリアルな青春が描かれています。
ここがおすすめ!
『シャニダールの花』同様、美と不安、個と社会といったテーマを繊細に描写。岩井俊二監督の美しい映像世界とSalyuの音楽が融合し、視覚と聴覚の感覚が刺激される。耽美と苦悩が共存する作品を好む人におすすめです。
アンチヴァイラル
この映画を一言で表すと?
「美と病は、同じ欲望から生まれる」未来型ボディホラー。
どんな話?
近未来、セレブの病気やウイルスを“消費”する時代。ある青年が、美しい女優の病気を売る企業に勤務するが、やがて事件に巻き込まれていく。美と死が密接に結びつく独特の世界観が魅力。
ここがおすすめ!
人体と美、管理と崩壊というテーマは『シャニダールの花』と非常に近いです。ブランダン・クローネンバーグ監督の冷ややかで哲学的な視線が光る、映像とテーマの“ズレ”が中毒性を生む作品。考察好きに刺さる1本です。
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