映画『半世界』の概要:息子や家計から目を背けてきた炭焼き職人の主人公を演じた稲垣吾郎。長谷川博己、池脇千鶴、渋川清彦らが脇を固め、阪本順治監督がオリジナルストーリーでメガホンを取っている一作。
映画『半世界』の作品情報
上映時間:119分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:阪本順治
キャスト:稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴 etc
映画『半世界』の登場人物(キャスト)
- 高村紘(稲垣吾郎)
- 父親から製炭所を引き継ぎ、一人で家業を担っている。思春期の息子がいじめられていることや家計が苦しいことに目を伏せながら過ごしていたが、昔の仲間と再会し人生を見つめ直していく。
- 沖山瑛介(長谷川博己)
- 8年ぶりに帰郷した元自衛官。学生時代からの幼馴染と再会するも、心に大きな傷を抱えているため上手く感情を出せずにいた。時間を共にするようになり、少しずつ本音を明かしていく。
- 高村初乃(池脇千鶴)
- 紘の妻。意地で父親の後を継いだ紘を一番傍で見守りながら支えている。高校受験を控えた息子・明には賢明な道を歩んでほしいと思っているが無関心な紘に共感を得られず悶々としている。
- 岩井光彦(渋川清彦)
- 紘と瑛介の同級生。家業の中古車販売業を継ぎ、貧しいながら充実した日々を送っている。3人の中では唯一の独身者だが、いつも紘と瑛介の家庭に目を配っている。
映画『半世界』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『半世界』のあらすじ【起】
光彦の記憶を頼りに山道を進む瑛介。目的の場所にはいびつな形の根を張った木が聳え立っている。二人はスコップを手に徐に根元を掘り返すのだった。
数か月前、瑛介は8年ぶりに地元へ戻って来た。幼い娘の親権を妻に譲り、一人になった瑛介は母親の他界後そのままになっていた実家に住むつもりである。元自衛官だった瑛介を称える絋は、反抗期の息子・明にも同じ道を勧めるが瑛介は何も答えることはなかった。
瑛介の家の片付けを手伝う、紘と光彦。母親との思い出の品物を見つけ泣き出した瑛介を見て、光彦は家業を引き合いに出し明るく励ました。一方で紘は妻・初乃と家計のことや明の進学について話し合うことを避けるようになっていた。ある日、明が同級生を自宅に招いたが、初乃は明をいじめている子供たちではないかと疑った。しかし紘は気にも留めず「いい子たちだ」と言い捨てるのだった。
家庭から逃げるように亡き父親から継いだ製炭所に籠る紘。明がいじめられていることを目の当たりにしても向き合おうとせず、光彦に愚痴を聞いてもらうも「関心がない」と諭されるのだった。
映画『半世界』のあらすじ【承】
籠り切った瑛介を気遣う紘。気分転換も兼ねて仕事を手伝ってもらうことにした。紘の仕事内容を知り驚いた瑛介は次第に自分の気持ちを話すようになった。その夜、光彦も交えて馴染みのスナックで飲み明かした紘と瑛介。上機嫌の瑛介は自衛官だったころの話を始め、不意に海に行こうと提案するのだった。
学生時代、夜な夜な海に出向き一枚の毛布にくるまりながら酒やタバコを経験した紘たち。その夜も昔と同じように光彦が持ち寄った毛布にくるまりながら、ウィスキーを飲み始めた。明るくなるまで飲み明かした3人はおしくらまんじゅうをしてふざけるのだった。
瑛介を乗せて上機嫌に取引先へ向かった紘。しかし、父親の代からの付き合いである取引先から、今後の付き合いについて打診を受ける。新たな取引先を掴もうと営業に出るも上手くはいかず、気を落とすのだった。
紘を元気付ける瑛介だが、自宅で一人娘へ連絡していた。何度も謝る瑛介。「良い父さんじゃなかったな」とうつむく瑛介はそれまで見せなかった表情を浮かべるのだった。
映画『半世界』のあらすじ【転】
警察署へ明を迎えに行った紘。明が万引きをして捕まったのだ。他の少年のことを黙っていたことで、明は「対等になった」と言い張り紘を置いて帰宅する。ひとりバスに乗った明は、紘が自分を見ていないことに気を落とすのだった。
明と別れた紘は取引先との交渉に失敗し、炭の窯に籠っていた。瑛介は気を落とす紘を慰め、代わりに明を食事に誘うように頼まれるのだった。翌日、瑛介は明がいじめられているところに遭遇し助け出した。夕食をご馳走した瑛介は紘が父親に反抗するためにあえて厳しい道を選んだのだと伝えるのだった。
光彦が以前から揉めていた客に襲われているところに遭遇した瑛介と紘。咄嗟に瑛介は立ち向かい相手を半殺し状態にしてしまった。一人何も言わずに立ち去った瑛介を追った紘。瑛介は一人自宅で「自分が分からなくなる」とうつむいていた。
瑛介の知らない一面を見た紘は一人海に出向く。そこへ初乃に言われ毛布を持ってきた明が歩み寄った。背中合わせで向き合うことのなかった二人は、瑛介の話題を機に語り合う。すれ違った時間を埋め合わせるのだった。
翌日、瑛介は誰にも言わず町を出てしまった。1か月近く連絡が取れなくなった後、光彦の父親が隣町の漁港で瑛介を見かけたと情報を得る。迷わず紘は瑛介に会いに行った。
映画『半世界』の結末・ラスト(ネタバレ)
海外赴任から戻った後、可愛がっていた部下が海に入り自殺したという事実に責任を感じ続けている瑛介。紘はその事実を知り会いに向かったのだ。「海の上に居ると落ち着く」という瑛介にそれ以上の言葉をかけられなかった紘は、炭焼小屋に籠る。初乃は父親と比べる必要はないと紘に寄り添うのだった。
初乃が楽しみにしていた同窓会の日。明は瑛介に習った通りいじめていた相手に立ち向かった。そして初乃はこっそりと炭の営業に出向くのである。一方で、初乃が作った弁当を食べようとした紘は心臓を押さえ倒れ込んでしまった。
病院に駆けつけた初乃は「良い報告があるから明日には起きてね」と話しかける。しかし翌日紘は亡くなった。光彦に声をかけられ駆けつけた瑛介は「あのまま手伝っていれば」と後悔を口にするが、光彦は「綺麗事言ってんな」と背中を叩く。
取り乱す初乃を支える明。突然のことにショックを隠し切れない光彦と瑛介は大雨の中、棺を抱え見送った。その後、二人は昔埋めた缶を掘り起こして一枚の写真を見つけた。そして木の元に缶を戻す。「まだ続くんだから」と笑い合いながら。
炭焼き窯の前に座り日を見つめる初乃と明。どうするのか自分で決めるように諭した初乃に対して「ボクサーもいいかな」と明はボソッと答える。数年後、小屋へやって来た明は、慣れた様子でサンドバックを打ち始めるのだった。
映画『半世界』の感想・評価・レビュー
「半世界」というタイトルに込められた意味をしみじみと探ってしまう余韻ある一作であった。東京国際映画祭では観客賞を受賞した今作は、実にわかりやすい展開でありセリフも日常に寄り添ったものを選んでいるように見えた。実力派キャストが少数でぎゅっと寄り集まったような印象ではあるが、互いのキャラクターがぶつかりすぎず心地のよいやり取りが続く。見えない世界にも手を伸ばしたくなる、大人に見て欲しい一作である。(MIHOシネマ編集部)
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