映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』の概要:ジム・ジャームッシュ監督がオムニバス形式で描く、5つの都市のタクシードライバーの物語。何気ない会話が秀逸。出演はウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ロベルト・ベニーニ。1991年の米国映画。
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 作品情報
- 製作年:1991年
- 上映時間:129分
- ジャンル:コメディ、ファンタジー
- 監督:ジム・ジャームッシュ
- キャスト:ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ベアトリス・ダル、ロベルト・ベニーニ etc
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 評価
- 点数:80点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 あらすじ【起・承】
(ロサンジェルス)午後7時7分。空港で、タクシー運転手のコーキー(ウィノナ・ライダー)は、キャスティング会社の女性ビクトリア(ジーナ・ローランズ)を乗せた。
行き先はビバリーヒルズだった。コーキーは、煙草を吹かしつつ、運転していた。時には、電話でキャスティングの相談をする、ビクトリアの相手もするのだった。そんなコーキーを気に入ったビクトリア。
仕事の話になると、コーキーは、”いつか男に負けない整備工になりたい!”と夢を語った。ビクトリアは、ビバリーヒルズの家に着くと、コーキーに映画に出てみないかと誘う。
しかし、コーキーはその話をあっさり断るのだった。
(ニューヨーク)午後10時7分。寒さに耐えきれず、黒人男性ヨーヨー(ジャンカルロ・エスポジート)はタクシーを捕まえようと必死になっていたが、なかなかタクシーが止まってくれない。
ようやく、やってきたタクシーに乗り込んだのだが、なんだか運転がおぼつかないのだ。タクシー運転手の名前はヘルムート・グロッケンバーガー(アーミン・ミューラー=スタール)。
東ドイツからやってきた移民で、今日が勤務初日だと言う。彼の前職はサーカスのピエロで、ヨーヨーの帽子とよく似た帽子を被っていた。
ヘルムートの運転に不安を覚えたヨーヨーは、ブルックリンまで代わりに運転するのだった。ブルックリンに向かう途中、チャイナ・タウンの路上で、義理の妹アンジェラ(ロージー・ペレス)を見つけ、強引にタクシーに乗せた。
そして、タクシーの中でケンカが始まってしまう。やがて、ブルックリンの自宅に着いた後、ニューヨークに帰る道筋を教えてもらうが、ヘルムートには全然、分からないのだった。
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 結末・ラスト(ネタバレ)
(パリ)午前4時7分。コートジボワール出身のタクシー運転手イザーク(イザーク・ド・バンコレ)は、外交官だという黒人男性2人を乗せたが、からかわれて頭にきてしまう。
そして、途中で客をタクシーから下ろすが、肝心のお金を貰うのを忘れてしまった。次にイザークが乗せたのは、盲目の女性(ベアトリス・ダル)。盲目なのに道を指図したりする女性を見て、驚くイザーク。
自分の出身はどこか?と試しに訊いてみたら、”コートジボワール出身でしょ。”と当てられてしまう。ところが、目的地のロワーズ河岸に彼女を下ろした後、イザークは車の接触事故を起こしてしまう。
盲目の女性は、一度だけ、イザークの方を振り返って笑った。
(ローマ)午前4時7分。夜の道をしゃべくりながら走り抜けるタクシー運転手のジーノ(ロベルト・ベリーニ)。広場で神父(パウロ・ボナチェッリ)を乗せるが、なんだか気分があまり優れないようだ。
ジーノは、そんな神父の前で煙草を吹かしたり、一方的に懺悔を話しはじめてしまう。その内容は下品なもので、カボチャや羊を性のはけ口に使ったとか、兄の妻と関係を持ったと話すのだ。
また、運転も乱暴なため、気分の悪い神父は薬を飲めずに死んでしまう。神父の様子がおかしいと気づいたジーノは、死んだと分かり動揺してしまう。そこで、公園に神父を置き去りにしてしまうのだった。
(ヘルシンキ)午前5時7分。運転手ミカ(マッティ・ペロンパー)は、路上で眠る3人の労働者たちをタクシーに乗せた。眠り続ける男アキは、失業したばかり。あとの2人は不幸話に花を咲かせていた。
運転手ミカは、不幸話に同情するそぶりを見せなかったが、客に不幸話を促され、話してしまう。”自分の子供が未熟児で生まれ、医者に長く生きられないと告げられたが、頑張って生きてこれからという時に亡くなったんだ!”と。
すると、2人の労働者は涙を流すのだった。目的地に着いた後、眠り続ける男アキを起こした。”ここはどこだか分かるか?”と訊くと、”ヘルシンキだろ。”とアキは答えて下車していった。
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
人生を紡ぐ、夜と人の物語
ジム・ジャームッシュ監督は、何気ない台詞やいつもある街の風景のなかに宝物を見つけるのが上手い。5つの都市の夜を巡り、タクシーの中という限られた空間が人との距離を縮めます。
この映画の魅力は、ジム・ジャームッシュ流のコメディセンスが随所に見られるところ。最初の物語(ロサンジェルス)では、タクシー運転手のコーキーのキャラクターがとても好感が持てます。
コーキーを演じる、ウィノナ・ライダーが、将来の夢は”整備工になること”と答えるシーンなど、軽快でいい。
彼女の煙草を吸ったり、ガムをくちゃくちゃさせながら運転する様は決して上品とはいえないけれど、飾らない点が魅力なのかも。同時にウィノナ・ライダーがしばらく映画に出ていないことを寂しく思います。
次におおいに笑わせてくれたのが、ニューヨークを舞台にした、運転が不慣れなヘルムートと黒人男性ヨーヨーの物語。
ブルックリンまでの短い旅が、ヘルムートの前職がサーカスのピエロということで面白くなります。ニューヨークに来たばかりの移民という設定が効いていて、無事に帰れただろうかと続きも気になります。
なによりも、5つの都市の物語が、それぞれの地域の言語で語られるのがいい。ジム・ジャームッシュが、”言葉のサウンド”にこだわり、人との絆を大切にしていることがよく分かるから。
ジム・ジャームッシュの友人関係が凄い!
人との絆で考えると、ジム・ジャームッシュはとても人間関係に恵まれた人です。ヴィム・ベンダース監督をはじめ、トム・ウエイツやジョニー・デップなど多くのアーティストが彼の元に集まっています。
最も、ジム・ジャームッシュに影響を与えたのがヴィム・ベンダース監督。1982年に彼から作品を譲ってもらう形で、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」の第1部となった「新世界」(短編)を作っています。
また、友人の作品への出演なども多い。本作について、”俳優の友情関係がキャスティングの基礎になる”とインタビューで語っています。彼の映画や音楽のセンスは、彼1人のものではない。
だからこそ、本作のような芳醇な作品が作れるのかもしれません。
この緩さこそジム・ジャームッシュの作品なのだと、改めてインディーズ映画の巨匠の唯一無二な世界線を感じた。個人的には最初の3つのエピソードが好きである。特にロサンゼルス編の女性タクシー運転手の可愛さ、カッコ良さが際立っていて良かった。
世界の時差を利用して、こんなにも独特な形に仕上げてしまうアイデアとチョイスが素晴らしい。静かな夜に、何も考えずに観たい時に最高にピッタリの良作だ。(女性 20代)
題名の通りこの地球のどこかの街の夜が舞台で、5組のタクシー運転手と客の不思議な交流が描かれています。登場人物は皆個性的で、それぞれ何かしらの苦労を抱えているように見えます。物語は非常に短いのでそこまで劇的な展開があるわけではありませんが、目的地に着くころには皆表情が穏やかになっているのが良いですね。興味・お節介、きっかけは何でも良くて、新たな人の出会いは人生をちょっと豊かにさせる。そんな微笑ましいテーマがこの作品に込められているのではないかなと思います。(男性 20代)
映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』 まとめ
ジム・ジャームッシュの作品は、夜の街を舞台に進んでゆくことが多い。本作以外では、吸血鬼の生活を描いた「オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ」でもそうだ。
彼の紡ぐ物語に共感しないと言う人がいたら、感性を少し疑ってみたほうがいい。何気ない日常生活の中にこそ、真実や愛があるのではないか。
本作では、ウィノナ・ライダーやジーナ・ローランズなど実に個性的で魅力的な俳優が揃っており、129分があっという間に感じられます。地球上5カ国を旅した気持ちにもなるだろう。
人生には辛いことがたくさんあるが、この映画を観れば、不幸ばかりではないことに気づく。最終話で、労働者アキが”ヘルシンキだな。”と呟くようにもう、新しい朝なのだから。
みんなの感想・レビュー