映画『男はつらいよ 望郷篇』の概要:『男はつらいよ』シリーズ第5作目となる作品。額に汗して油まみれになって働きたいと言い出した寅さんのために、とらやのみんなが頭を悩ませるシーンは名場面のひとつ。寅さんが心を鬼にして舎弟の登と縁を切るシーンでは、渥美清の迫真の演技に圧倒される。
映画『男はつらいよ 望郷篇』の作品情報
上映時間:88分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
監督:山田洋次
キャスト:渥美清、倍賞千恵子、長山藍子、井川比佐志 etc
映画『男はつらいよ 望郷篇』の登場人物(キャスト)
- 車寅次郎(渥美清)
- テキ屋稼業をしながら日本全国を旅しており、たまに故郷の柴又へ帰ってくる。渡世人の義理は忘れないが、身内には迷惑ばかりかけている。今回はヤクザな生き方を反省し、地道な暮らしをするために豆腐屋で働き始めるのだが…。
- 三浦節子(長山藍子)
- 浦安にある豆腐屋のひとり娘。父親はおらず、豆腐屋を営む母親の富子と2人暮らし。自分は近所の美容室で働いている。明るくて屈託のない女性。
- 三浦富子(杉山とく子)
- 節子の母。口は悪いがサッパリとした性格のおばさんで、真面目に働く寅さんのことを気に入っている。
- 木村剛(井川比佐志)
- 豆腐屋の近所に住んでいる国鉄の機関士。寅さんは、クソ真面目で不器用な木村のことを、さくらの夫の博に似ていると思っている。
- さくら(倍賞千恵子)
- 寅さんの妹。印刷工場で働く夫の博と赤ん坊の満男と狭いアパートで暮らしている。いつまでも落ち着かない兄のことを心配し、額に汗して地道に働くことの大切さを説く。
- 車竜造(森川信)
- 寅さんの叔父で通称おいちゃん。柴又の帝釈天参道にあるだんご屋「とらや」の主人。妻のつねとの間に子がおらず、寅さんやさくらを我が子のように思っている。江戸っ子気質で、寅さんとよく喧嘩をする。
- 登(秋野太作)
- 寅さんの舎弟。一応スーツを着て、セールスマンの真似事をしているが、寅さん同様、地道な暮らしには向いていない。
- 石田澄雄(松山省二)
- 札幌の政吉親分の息子。亡くなった母親が函館で女中をしていた時に政吉親分と関係を持ち、結婚しないまま出産した子供。蒸気機関車の火夫として、油まみれになって働いている。父親とは面識がない。
- 源公(佐藤蛾次郎)
- 寅さんの舎弟。身寄りがなく、帝釈天の御前様の世話になっている。今回は御前様に帝釈天を追い出され、寅さんを頼って浦安に行く。
- 竜岡政吉親分(木田三千雄)
- 寅さんが15年ほど前に世話になった札幌の親分。かなりの遊び人で、数多くの女性を泣かせてきた。危篤状態に陥り、まだ顔を見たことのない息子の澄雄に会いたがる。
映画『男はつらいよ 望郷篇』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『男はつらいよ 望郷篇』のあらすじ【起】
夏。葛飾柴又の帝釈天参道にあるだんご屋のとらやに、まだ赤ん坊の満男を連れたさくらがやってくる。この屋の主人のおいちゃんは、あまりの暑さに「死んだほうがマシだ」などとボヤいていた。そこへ、寅さんから電話が入る。
寅さんは旅先から上野まで帰っていたが、今朝方おいちゃんが死ぬ夢を見たので、胸騒ぎがして電話をしてきたらしい。おいちゃんは軽い気持ちで「死にかけてると脅してやれ」とおばちゃんをけしかけ、おばちゃんも冗談でおいちゃんが危篤状態なのだと伝える。寅さんが驚いていたので、とらやの一同は呑気に笑っていた。
しばらくして、おいちゃんたちが昼寝をしていると、慌てた様子の寅さんに続いて、御前様や近所の人たち、さらに葬儀屋までがとらやに押しかけてくる。寅さんは帰る道々、おいちゃんの葬式の段取りをして、すでにあちこちへ声をかけていた。おいちゃんの危篤がデマだとわかり、みんなは怒りながら帰っていく。
その夜、寅さんとおいちゃんは大喧嘩になり、店の前には野次馬が集まってくる。さくらは興奮する寅さんを宥め、近所の人たちにも謝罪する。毎度のことではあるが、近所の人たちは、そんなさくらに同情する。
翌日、寅さんは全く反省しておらず、裏のタコ社長の印刷工場で工員たちをからかっていた。そこへ、寅さんの舎弟の登が、札幌の政吉親分が死にかけていると伝えにくる。政吉親分は、寅さんが15年ほど前に世話になった親分で、寅さんは登を連れて札幌へ行くことにする。しかし、札幌までの旅費がない。
あちこちで借金を断られた寅さんは、結局さくらを頼る。さくらは、博たち工員をからかった寅さんの不真面目さに腹を立てていたが、コツコツと貯めてきたお金を渡してくれる。さくらは、寅さんにも額に汗して働く地道な暮らしの尊さをわかって欲しかった。
映画『男はつらいよ 望郷篇』のあらすじ【承】
札幌に到着した寅さんは、病院の大部屋で政吉親分の惨めな姿を見てショックを受ける。大柄だった親分は痩せ衰え、家族からも見放されていた。自分の死期を悟った親分は、昔、函館の女中に生ませた息子にひと目会いたいと寅さんに頼む。寅さんは親分の最後の願いを叶えてやるため、息子がいるという小樽へ向かう。
寅さんと登はあちこちを訪ね歩き、親分の息子の石田澄雄を探し当てる。澄雄は、国鉄の蒸気機関車の火夫として、油まみれになって働いていた。単純な寅さんは、澄雄が父親に会えることを喜ぶものだと思い込んでいた。しかし、澄雄は父親との面会を断り、仕事に戻ってしまう。
走り去った汽車を追いかけ、ようやく澄雄を捕まえた寅さんは、お前には人情というものがないのかと説教をする。澄雄は、どうしても父親に会ってみたくて、小学1年生の時に父親を訪ねた時の思い出を語る。そこはいわゆる赤線で、父親は鬼のような形相で若い女性を殴っていた。幼い澄雄はショックを受け、父親には会わずに帰ったのだった。苦労を重ねた母親も6年生の時に亡くなり、澄雄はずっとひとりで生きてきた。今まで放ったらかしにしておいて、自分が死にかけているから会いたいだなんて虫が良すぎると涙をにじませる澄雄を見て、寅さんは何も言えなくなる。
息子は転勤になっていたと伝えるつもりで、病院へ電話した寅さんは、政吉親分が寂しく亡くなったことを知る。能天気な寅さんもさすがに落ち込み、これまでの人生を見つめ直す。寅さんは心を鬼にして登と兄弟の縁を切り、田舎へ帰らせる。寅さんは弟分の登に、自分や政吉親分のような人生を歩ませたくないと思っていた。
映画『男はつらいよ 望郷篇』のあらすじ【転】
この一件で改心した寅さんは、地道に働く決心をして、故郷の柴又へ帰る。さくらやおいちゃんたちは、「額に汗して油まみれになって働きたい」という寅さんのために、どんな仕事がいいかを考える。しかし、寅さんの注文がいちいち細かくて、なかなかいい仕事が見つからない。そこへ、印刷工場で働き、汗と油まみれになった博が帰ってくる。その博を見た瞬間、寅さんはタコ社長の印刷工場で働くことに決めてしまう。
翌日、寅さんは張り切って印刷工場へ出勤するが、タコ社長に追い返される。その後、昨晩の話に出た寿司屋、天ぷら屋、風呂屋に就職を頼みに行くが、どこも寅さんを雇ってくれない。しょうがないので、江戸川に浮かぶ渡し舟の中で昼寝をしていた寅さんは、そのままユラユラと川下の方へ流されていく。
それからしばらくして、さくらの所に寅さんから小包が届く。中身は暑さで腐ってしまった油揚げで、差出人の住所は浦安になっていた。渡し舟で川下の浦安に流れ着いた寅さんは、そこの豆腐屋で働いていた。同封されていた手紙には「一生ここで地道に暮らすかもしれない」と大袈裟なことが書いてあり、心配になったさくらは、浦安の寅さんを訪ねる。
額に汗して油揚げを揚げていた寅さんは、さくらの来訪を喜び、豆腐屋の主人の三浦富子に紹介する。富子は美容室で働く娘の節子と2人暮らしで、寅さんは離れの物置で寝泊りしていた。富子は寅さんが働いてくれることを喜んでおり、さくらもひとまずは安心する。しかし、寅さんの性格をよく知るさくらは、あまり飛躍したことを考えないよう釘を刺しておく。さくらは、寅さんが節子に惚れていることを見抜いていた。
映画『男はつらいよ 望郷篇』の結末・ラスト(ネタバレ)
それからしばらくして、帝釈天の御前様からクビを言い渡された源公が、寅さんを頼って浦安にやってくる。寅さんは源公を豆腐屋に連れて帰り、地道な暮らしをするよう説教する。
豆腐屋の常連の木村剛は、さくらの夫の博によく似た真面目な男で、国鉄の機関士をしている。その木村が節子を呼び出した日の夜、富子と節子が親子喧嘩をする。落ち込んだ様子の節子は、寅さんのところへやってきて、涙を流す。冗談を言って自分を笑わせてくれる寅さんに、節子は「できたら、ずっとうちの店にいて欲しい」とお願いする。寅さんはこれを節子からのプロポーズだと勘違いし、自分もそのつもりだと答える。すると節子は笑顔になり、嬉しそうに母屋へ帰っていく。
翌日、寅さんは張り切って豆腐屋の仕事をこなし、さくらに電話で「こっちで所帯を持つかもしれない」と伝える。さくらは、また寅さんが失恋するのではないかと不安になる。
その日の夜。富子は寅さんがずっといてくれることに感謝して、ビールで乾杯する。寅さんは、富子が自分と節子のことを祝っているのだろうと思っていた。そこへ木村がやってきて、寅さんに感謝し始める。実は、木村は転勤が決まり、節子にプロポーズしていた。しかし、富子が心細がるので、節子は結婚に踏み切れずにいた。ところが、寅さんがずっといてくれるというので、2人は安心して結婚を決めたのだった。その話を聞いた寅さんは、無理して笑顔を見せていたが、内心は大ショックを受けていた。そして翌朝、源公に店を手伝うよう命じて、姿を消してしまう。
その日の夜。とらやの一同が「そろそろ振られて帰ってくるんじゃないか」などと噂話をしていると、ひょっこり寅さんが帰ってくる。寅さんは元気のない様子で荷物をまとめ、すぐに出ていく。後を追ってきたさくらに、寅さんは今度こそ地道に暮らせると思っていたのだと打ち明け、「幸せに暮らせよ」と言い残して去っていく。
1ヶ月後。寅さんからハガキを貰った節子が、さくらのアパートを訪ねてくる。節子は、急に寅さんが出て行った理由を知りたがっていた。さくらは、「ただ飽きただけよ」と寂しげに微笑む。
一方、商売の旅に出ていた寅さんは、とある海水浴場で登と再会する。2人は渡世人らしく啖呵を切って挨拶を交わし、犬ころのようにじゃれ合う。登は全く成長していなかったが、今の寅さんにはそれが嬉しかった。
映画『男はつらいよ 望郷篇』の感想・評価・レビュー
シリーズ最終回「だったかもしれない」作品。そのせいかシリーズの肝であるマドンナがなかなか登場せず、前半と後半で別の話のような構成。
50年前の作品だが内容の本質に古さはない。だからこそ、蒸気機関車が普通に走る姿が不思議ですらある。加えて冷房のない工場や、アパートの自宅に電話がなく他の部屋の電話を普通に借りる光景に、50年で随分生活様式も変わったことを再確認する。ここまで来ると貴重な資料映像だ。
しかし寅さんの魅力そのものは変わらない。変わりゆく風景の中の変わらない人の心の動きにほっとする。(男性 40代)
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