映画『ザ・ファン』の概要:熱狂的な野球ファンの男が人気選手への執着心から狂気のストーカーへと変貌し、ついには殺人まで犯してしまう。エスカレートしていくファン心理の恐ろしさをロバート・デ・ニーロが熱演している。1996年公開のアメリカ映画。
映画『ザ・ファン』 作品情報
- 製作年:1996年
- 上映時間:117分
- ジャンル:サスペンス、スポーツ
- 監督:トニー・スコット
- キャスト:ロバート・デ・ニーロ、ウェズリー・スナイプス、エレン・バーキン、ジョン・レグイザモ etc
映画『ザ・ファン』 評価
- 点数:75点/100点
- オススメ度:★★★☆☆
- ストーリー:★★★☆☆
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★☆☆
- 設定:★★★☆☆
[miho21]
映画『ザ・ファン』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『ザ・ファン』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『ザ・ファン』 あらすじ【起・承】
サンフランシスコのナイフ会社で営業をしているギル・レーバン(ロバート・デ・ニーロ)は熱狂的なジャイアンツファンだ。今年は4000万ドルで強打者のボビー・レーバン(ウェズリー・スナイプス)がジャイアンツと契約し、ギルは開幕戦を心待ちにする。
ギルは最近仕事の成績が悪く、上司から実績が伸びなければクビにすると宣告される。しかし自己中心的で激昂しやすい性格が災いし、契約は取れない。さらに大事な取引先との約束がジャイアンツの開幕戦と重なってしまう。しかしギルは離婚後離れて暮らす息子のリッキーと開幕戦へ行く約束しており、無理をして観戦に行く。
ギルはボビーがホームランを打ったのを見届け、球場にリッキーを残して取引先へ急ぐ。しかしそれは結局無駄足に終わり、リッキーは迷子として保護され自宅へ戻っていた。これが別れた妻の怒りを買い、ギルに接近禁止命令が出される。さらにギルは会社も解雇される。
ボビーは開幕戦でケガをして以来、完全なスランプに陥っていた。ボビーのラッキーナンバーである背番号11をつけたプリモ(ベニチオ・デル・トロ)は絶好調で、ボビーはプリモに背番号11を譲ってくれと交渉する。しかしプリモは決して譲ろうとしなかった。
孤独なギルは野球観戦だけが生きがいとなり、ボビーに執着していく。ラジオ番組でボビーと会話したギルは、自分がボビーを救うべきだと思い込むようになる。その結果、ボビーのライバルであるプリモを殺害してしまう。
映画『ザ・ファン』 結末・ラスト(ネタバレ)
プリモの死後、ボビーは嘘のようにスランプを脱出する。それを自分のおかげだと信じ込んでいるギルは、ボビーが自分に感謝していないことに苛立つ。ギルはボビーのプライベートまで監視するようになり、その時偶然、海で溺れたボビーの息子ショーンを助ける。何も知らないボビーはギルに感謝し、彼を自宅に招き入れる。
ギルはボビーの存在を知らないフリをして、ボビーの本音を聞き出す。野球はプレイヤーのものだと言い、ファンをバカにする発言をしたボビーに対し、ギルは怒りを募らせる。そしてボビーに自分の存在を思い知らせるため、ショーンを誘拐する。
ギルの望みはボビーと一緒に有名になることであり“このホームランを真のファンのギルに捧げる”と宣言し、明日の試合で自分のためにホームランを打てとボビーに要求する。警察も必死で捜索するが、ギルは捕まらない。
ギルは少年野球の仲間だったクープを訪ねていた。ギルがおかしいことに気づいたクープはショーンを逃し、ギルに撲殺される。そしてショーンも再びギルに拉致される。
翌日の試合で、ギルが球場内のどこかにいることがわかり、関係者の緊張は高まる。8回裏、大雨の中、ボビーは死に物狂いでバットを振り、ランニングホームランを狙ってホームベースに滑り込む。そこで何度もアウトだと叫ぶ審判は、何とギルだった。ベストピッチを見せたいと言ってナイフを投げようとしたギルは銃で撃たれ、最後までボビーに一言ぐらい礼を言えと訴えながら、息絶える。
ショーンが無事に発見された場所は、ボビーが集めた野球グッズや新聞の切り抜きで埋め尽くされていた。
映画『ザ・ファン』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『ザ・ファン』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
通じないファン心理の恐ろしさ
日本でもファンの男が自分の身勝手な思い込みからアイドルを逆恨みし、瀕死の重傷を負わせる事件があったが、本作で描かれているのもまさにそういうファン心理の恐ろしさである。
プロ野球選手というのも、ファンがいてこそ成り立つ人気商売だ。だからデ・ニーロの演じるギルが、ファンをないがしろにする選手は許せないと怒る気持ちもわかる。しかし“自分のおかげでスランプを脱出した”とまで本気で思い込むようになると、それは相当重症だ。ファンの人生にとって選手の存在がどれほど大切でも、選手の人生には無関係なのだから。その境目がわからなくなると、ファンは暴走し始める。
ギルは上手くいかない自分の人生の不条理や不満をボビーに執着することで解消しようとしている。おそらくギルには最後まで“自分がおかしい”という自覚はなかっただろう。客観的に見ればその一方的な思い込みこそ、不条理以外の何物でもない。それがどうしても理解できず“自分は人生のすべてをお前に捧げているのに、どうしてお前は感謝しないんだ!”と怒っているファンはかなり怖い。
ギルまではいかなくとも、アイドルの恋愛に怒り狂い、ネットで相手を中傷したりするファン心理もこれに近いものがある。それはとてもおかしいことなのだが、熱狂的なファンにはその常識が通じない。その通じなさが一番恐ろしい。
いかれていくデ・ニーロ
主人公のギルを演じているロバート・デ・ニーロは、狂気を内に秘めた人物を演じさせると天下一品だ。“この人、なんか怖い”と思わせるのが非常にうまい。
いかにも怖そうな人が大声をあげて怒鳴り散らしているより、一見穏やかで冷静に見える人物がふとした瞬間に見せる狂気の表情というのはゾクッとするような怖さがある。
息子のショーンを助けてボビーの家に招かれたギルが、ボビーとの会話の中で怒りを募らせる。この時デ・ニーロは決して感情をあらわにせず、細かい表情の変化でギルの怒りを表現していく。ショーンを誘拐し、ボビーと電話で話している時、ギルは今まで押さえ込んできた狂気を爆発させる。ギルによって剥ぎ取られたプリモの皮膚片を見て驚くボビーの反応に、大喜びしている時のデ・ニーロの笑顔は完全に狂っている。
これから一体ギルが何をしでかすのか…このデ・ニーロの狂気の表情を見て、クライマックスへの恐怖心は一気に高まり、どうしても目が離せなくなる。
スポーツ選手やアイドル、芸能人など有名になればなるほどファンの数は増えると思います。しかし、その中に今作のギルのような過激すぎる存在がいると「有名人」になることはリスクが高いなと感じてしまいました。
誰かのファンであったり、その人のためにお金を使って応援することは全く悪いことではありません。しかし、プライベートを覗き見したり、自分の存在を知ってもらおうと近づき過ぎたりするのは絶対に間違っています。
ファンと相手の有名人という立場や関係を履き違えてはいけないなと思うと同時に、ギルのような存在は意外と身近にもいるかもしれないと恐怖を感じました。(女性 30代)
ファンだから故に選手への想いが狂気となっていく愛憎の形が、最近日本で見た有名人へのストーカー事件を連想させてゾッとした。ファンは大切にしましょうというメッセージもあるのかもしれないと思う。
どんな役にもハマるロバート・デ・ニーロの凄さが改めて分かる。ナイフのセールスマンという設定も上手くストーリーに取り込み、先を予想させる展開に引き込まれた。段々と選手との物理的距離を縮めていくファンの巧妙なやり口は、思わず声が出るほど面白かった。(女性 20代)
映画『ザ・ファン』 まとめ
ファンが過激なストーカーと化し、ついには殺人鬼へと変貌していく様は怖い。現代の日本でもこれに近いようなストーカー事件が頻発しているので、余計に恐怖を感じるのかもしれない。本作では加害者となる主人公がなぜここまで精神的に追い込まれたのかも割と丁寧に描かれており、ギルが哀れにもなった。ギルはあまりに孤独で、そこは切ない。
ギルが審判をしていたり、誘拐されたショーンが置き去りだったりする最後のクライマックスはもうひとつ盛り上がりに欠けるが、話が単純なので、作品世界に入りやすい。誰が見てもそれなりにドキドキできるサスペンスなのではないだろうか。
不特定多数の知らない人たちに溺愛されるスターというのは、常に危険と隣り合わせなのだと痛感させられる。よく考えるととても恐ろしいことだ。
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