映画『海にかかる霧』の概要:韓国で2001年に実際に起きた「テチョン号事件」を元にした作品。不況に苦しむ漁船が密航の仕事を請け負ったことで、残酷な運命を辿る。製作は『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督。
映画『海にかかる霧』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:サスペンス
監督:シム・ソンボ
キャスト:キム・ユンソク、パク・ユチョン、キム・サンホ、イ・ヒジュン etc
映画『海にかかる霧』の登場人物(キャスト)
- ドンシク(パク・ユチョン)
- チョンジン号の新人乗組員。誠実で純情な青年。違法な仕事で大金を手にすることへ疑問を持つが、密航者のホンメと恋に落ちる。
- カン・チョルジュ(キム・ユンソク)
- チョンジン号の船長。老朽化した漁船に対して人一倍の責任感を持って乗船しており、船長としてこの船を守っていこうと考えている。韓国の経済危機と不漁で船体の維持が困難になり、密航の仕事に手を出してしまう。
- ホンメ(ハン・イェリ)
- 中国からの密航者の一人。6年前に韓国へ行ったきり連絡の取れない兄を探しに来た。顔はタイプではないが純粋なドンシクに惹かれる。
- ワノ(ムン・ソングン)
- チョンジン号の機関長。カン船長よりもチョンジン号に乗っている年数が長く、乗組員から最も頼りにされている老人。
- チャンウク(イ・ヒジュン)
- チョンジン号の若い乗組員。ワノから整備を教わっている。性的な行為への興味が強く、ギョングが連れ込む女性や彼らが行う情事を覗きたがっている。
- ギョング(ユ・スンモク)
- チョンジン号の乗組員。女遊びが激しく、陸に戻るごとに違う女性と体を重ねている。カン船長やホヨンから、船に女性を乗せることは縁起が悪いとして、船室に連れ込むのは止められている。
- ホヨン(キム・サンホ)
- チョンジン号の甲板長。カン船長に忠実な右腕的存在。
映画『海にかかる霧』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『海にかかる霧』のあらすじ【起】
1998年、韓国は経済危機に陥っており、国民は不況に喘いでいた。さらに、漁業は不漁の煽りも受けており、歴史あるチョンジン号も例外ではなく資金繰りに苦しんでいた。
チョンジン号の船長、カンは、漁業組合から給料を前借りし、乗組員達に支払っていた。彼は、そんな状況にあってもチョンジン号を修理して乗り続けようと金を集めた。
収獲の無い漁から戻ったチョンジン号の乗組員、ギョングは、停泊する船に商売女を連れ込み情事に溺れようとした。しかし、自宅ではなく船に寝泊まりしていたカンに見つかり、ギョングと女は追い出された。同じく船で寝泊まりするチャンウクは、行為を覗き見できず悔しがった。
カンは、銀行から船の修理費を借りようとしたが、近年収入が安定していなかったため融資を受けられなかった。カンは覚悟を決め、裏の仕事を斡旋しているヨ社長に会いに行った。ヨ社長は、カンへ密航の仕事を紹介し、彼に多額の前金と偽物の金時計を渡し契約が成立した。カンは、失敗した時はどうすればよいか確認したが、ヨ社長は自分でなんとかしろと冷たく言い放った。
カンは、乗組員達に密航の仕事を請け負ったことを話し、彼らに前金を渡した。新人のドンシクは、その金額に驚くと同時に不安を覚えた。
映画『海にかかる霧』のあらすじ【承】
ヨ社長に指示された座標までチョンジン号を進めると、そこには中国の漁船が待機していた。ドンシクや他の乗組員達は、多くの密航者達を大時化で船が揺れる中乗り移らせた。カンは、密航者の中に女性がいたことで、船に女性を乗せてしまうのは縁起が悪いと秘かに難色を示したが、チャンウクは、乗り移って来た女性と深い仲になるのを期待していた。
密航者の一人である若い女性が、海に落ちてしまった。カンは彼女を見捨てて本国へ戻ろうとしたが、ドンシクは無謀にも夜の海に飛び込み彼女を引き揚げた。
若い女性は、ホンメと名乗った。彼女に特別な感情を抱いたドンシクは、他の密航者や乗組員に隠れて、彼女を暖かい機関室へと入れてあげた。ホンメは、韓国の九老へ行ったきり連絡の取れない兄を探しに来ていた。身の上を語りながらカップラーメンを食べる彼女は、スープに青唐辛子を入れたがった。
ギョングは、若くもなく老いてもいない密航者の女性を機関室へ連れ込み性交した。ドンシクとホンメは物陰に隠れ息を潜め、見回りに来た甲板長のホヨンはギョングと女を見つけると激昂し、「縁起が悪いから船でヤるなと言っただろ」と達する寸前のギョングを女から引き離した。覗きに来ていたチャンウクは、またも悔しがった。
密航者の中には小学校の教員も混ざっており、彼は古株のワノに「韓国で肉体労働をすれば中国の10倍稼げます。みんな自分のためじゃなく家族を養うために行くんですよ」と語り、娘達の写真を見せた。
映画『海にかかる霧』のあらすじ【転】
朝を迎えると、遠くの海上に船が見えた。カンは慌てて密航者達を魚槽へ隠し船をやり過ごしたが、魚槽の中は悪臭と酸素不足で中に入った者達を苦しませた。息継ぎのため甲板に出された密航者の内の一人は、カンへ抗議した。不満を募らせた彼らが団結しようとした時、カンはデッキブラシで筆頭の男を滅多打ちにし「貴様らの命は俺が握ってる。忘れるな」と怒鳴り付け、彼の非常な罰に恐れをなした密航者達はおとなしくなった。
ドンシクは、機関室に匿ったホンメへ布団を持って行った。彼の純情と優しさに感動した彼女は、ドンシクへキスをした。見回りで訪れたワノは、ドンシクがホンメを機関室に隠していることを認め許してくれた。
チョンジン号の元へ海洋警察の監視船が近づいていたため、カンは再び密航者を魚槽へ隠した。乗り込んできた監視長は魚槽の蓋が網で隠されていることを不審がり、わざわざ蓋の上でカンから注がれた酒を飲みはじめた。彼は、カンの腕に付いている金の腕時計を見ると「ヨ社長の界隈ではやっているそうだな」とけしかけた。カンははぐらかしたが、その内に魚槽から物音が聞こえ、監視長はいよいよ蓋を開けようとする。カンは急いで彼へ大金を掴ませ、監視長は「ヨ社長の所で会おう」と言い残して去って行った。
監視船が遠ざかったため魚槽を開けると、中に入っていた密航者達は全員死んでいた。老朽化したチョンジン号の冷凍機が爆発し、フロンガスが漏れて充満していたのだ。深い霧がかかった海の上で、カンは甲板に座り込み呆然とした。
映画『海にかかる霧』の結末・ラスト(ネタバレ)
カンは、魚槽から運び出された遺体を見ると、所持品を全て抜き取り燃やすよう指示した。そして、遺体の身元が割れないよう肉体をバラバラにしはじめた。ホヨンをはじめ全員がカンの指示に従い、密航者達は魚の餌になった。それを見てしまったホンメは、泣き声を押し殺しながら身を隠した。
遺体を処理したチャンウクとワノは、精神に異常をきたしてしまった。ワノは死者の幻影と会話をし、チャンウクは性欲に憑りつかれた。そんなチャンウクは、密航者の中にもっと若い女がいたことに気付き、ドンシクの制止も振り切り血眼でホンメを探し回った。カンは、おかしくなった乗組員の奇行を無視し続けたが、ワノがついに「通報する」と言い出したので彼を殴り殺した。
チャンウクは、機関室でホンメを見つけカンへ報告した。ドンシクはホンメを助けるため海洋警察に無線を入れ、止めに来たホヨンと揉み合う内に彼を殺してしまった。
ドンシクは、ホヨンへ「海洋警察が来るまでの辛抱だ」と励ましの声を掛けると、エンジンを壊して船体に穴を開けた。甲板へ出ると、カンは船の浸水を食い止めようと乗組員に修理を指示していたが、チャンウクもギョングもドンシクの策により魚槽に落ちた後だった。
カンは一人で船を守ろうと奔走したが、彼は無情にも船もろとも海の底へ沈んだ。ドンシクとホンメは浮きにしがみ付き、韓国の海岸へ流れ着いた。ホンメは意識が朦朧としているドンシクへ感謝を伝えると、一人彼の元を去った。
6年後、九老の建設現場で働くドンシクは料理店に入り食事を注文した。ラーメンに入れる青唐辛子を注文する子連れの女性客を見て、ドンシクは彼女がホンメではないかと、その背中を見つめた。
映画『海にかかる霧』の感想・評価・レビュー
「船長は船と運命を共にするべき」という価値観に憑りつかれた男の末路は、壮絶で悲惨だった。チョンジン号を廃船にしないため密航に手を出した選択が、結果的に船を真っ二つに割って海へ沈めてしまった。カンに焦点を当てると非常に切ない物語である。
対照的に、ドンシクは新しい価値観の男だ。船も漁もあくまで生活していくための術でしかない、と考えていたかどうかは不明だが、「生きる」上で必要な選択ができる人間だったように感じる。
ホンメも同様に、「生きる」ことが最優先であっさりドンシクの元を離れてしまった。彼女が無事に兄と再会できていればいいなと思う。(MIHOシネマ編集部)
本作は、2001年に韓国で起こった「テチョン号事件」を基に作られ、密航に関わった貧しい漁船の中で渦巻く船員たちの人間模様を描いたホラー作品。
初めは冴えない年下の船員だったドンシクが、最後まで女性を守り抜く勇姿に心打たれた。
海上の船内という閉鎖的空間で人間たちが狂っていくその変貌ぶりが恐ろしく、やはり、窮地に立たされ正常な精神力を失った人間ほど恐ろしいものはいないと感じた。
そして、物語中盤からの思いもよらず展開、しっかりと後味の悪い結末に最後まで釘付けだった。(女性 20代)
先日鑑賞した『白鯨との闘い』。海と船という同じテーマでありながら、ここまで暗く「狂気」に満ちた作品を描けるのは、流石ポン・ジュノ監督だと感じました。
「船長」という肩書きに強い責任を持ち、船を守ることに一生懸命だった船長。こう聞くと、とてもいい船長に思えますが、船や乗組員を守ることに執着するあまり、考えられないような奇行をし始めるなど見ていて辛くなりました。
船という閉鎖された環境で、みるみるうちに明らかになっていく人間の本性がとてもリアルで残酷な作品でした。(女性 30代)
物語の完成度、キャスト全員の演技、生々しい映像全てにおいて本気を感じました。序盤から重苦しい雰囲気が漂いますが、フロンガスが漏れたあたりから一気に船内が狂い始め、見るのが辛い程です。極限状態に陥ると、人はここまで自分勝手な欲望に支配されてしまうのかと悲しくなりました。2001年、テチャン号事件をモチーフにして作られた作品と鑑賞後知り、身の毛がよだちました。船内が凄惨なことだらけな中で、若者の恋が密かに育まれることが唯一の光です。(女性 30代)
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