この記事では、映画『醉いどれ天使』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『醉いどれ天使』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『醉いどれ天使』の作品情報

出典:https://video.unext.jp/title/SID0018163
| 製作年 | 1948年 |
|---|---|
| 上映時間 | 98分 |
| ジャンル | ヒューマンドラマ |
| 監督 | 黒澤明 |
| キャスト | 志村喬 三船敏郎 山本礼三郎 木暮実千代 |
| 製作国 | 日本 |
映画『醉いどれ天使』の登場人物(キャスト)
- 眞田(志村喬)
- 闇市の近くにある掃き溜めのような沼の前に診療所を構える初老の医師。口は悪いが根は優しく、医者としての信念はある。医療用のアルコールを常用するほどの飲んだくれ。銃創の手当てにやって来た若いヤクザの松永が結核であると察知し、養生するように忠告を繰り返す。
- 松永(三船敏郎)
- 血気盛んな闇市の顔役として住民から恐れられている若いヤクザ。組同士の抗争で傷を負い、眞田病院へ駆け込んだことで院長の眞田に結核と見抜かれる。放蕩生活をやめるよう警告されるが、強情を張って無視。以降、日に日に病状が悪化していく。
- 岡田(山本礼三郎)
- 松永の兄貴分。殺人未遂で服役中だったが、出所し松永のシマと女を奪った末に見捨てる。妻の美代が眞田病院にいることを知り、連れ戻そうと乗り込んで来る。
- 奈々江(木暮実千代)
- 松永の情婦。松永が結核だと知った途端、岡田になびき松永を厄介払いしようとする。
- 美代(中北千枝子)
- 岡田の元妻。夫の暴力から逃れるため、眞田病院に逃げ込み、以降助手として働いている。夫が居場所を突き止めて、連れ戻しに来るのではないかと日々怯えている。
- ぎん(千石規子)
- 闇市にある居酒屋の女将。密かに松永に惚れており、ヤクザから足を洗わせようとしている。
- 少女(久我美子)
- 眞田病院に通院している結核を患った少女。眞田の言いつけを守り、病状は順調に回復していく。
映画『醉いどれ天使』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『醉いどれ天使』のあらすじ【起】
駅前の闇市にあるゴミ捨場になっている小さな沼。その前で診療所を営む眞田は、近所でも評判の飲んだくれで口が悪い男だった。ある夜、闇市で幅を利かせている顔役の松永が、ヤクザ同士の抗争で負った銃創の手当を受けるため、眞田病院にやって来る。眞田はその時、松永が結核であることを察知し注意を与えた。しかし、血気盛んな松永は取り合わず、眞田に暴力を振るって金も払わず出て行ってしまう。
お節介な眞田は、治療費の取り立てという名目で、松永の様子を伺いに彼が溜まり場にしているダンスホールに足を運ぶ。そして、結核であることを松永に伝える。事実を受け入れたくない松永は、また暴力的に眞田を追い払ってしまった。
一方、眞田病院で助手をしている美代は、傷害事件を起こして服役中のヤクザの夫・岡田がいつか自分を見つけ出して、連れ戻しにやって来るのではないかと怯えていた。
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映画『醉いどれ天使』のあらすじ【承】
眞田から忠告を受けて以降も、松永は酒と女に溺れる不規則な生活を送っていた。しかし、確実に体力は衰えていき、その事実は疑いようがなかった。
眞田病院に、松永と同じく結核の治療で通院している女学生がやって来る。彼女は松永と打って変わって眞田の言いつけをしっかり守り、病状は順調に回復へ向かっていた。病を患っているとは思えない生気に満ちた彼女の様子に、普段はぶしつけな態度の眞田も思わず笑顔を浮かべて喜ぶ。
その直後、松永が病院にやって来るが、また悪態をついて美代に追い出される始末。しかし、無茶をしているように見える松永も、心の奥では窺い知れない虚ろな寂しさを抱えていた。強がってはいるが、隠しきれない理性が時々顔を覗かせ、真の悪人にはなり切れていないのだった。そうとは知らず、「病気を怖がらないのが勇気だと勘違いしている」と、眞田はもどかしい思いを抱いていた。松永も実際のところは「臆病者だ」という眞田の言葉が骨身に染みるのだった。
映画『醉いどれ天使』のあらすじ【転】
ある日、眞田は知り合いの医師・高濱から、「松永を診療してレントゲンを持たせて君のところへやったはずだが来なかったか?」と聞かれる。眞田は松永が意地を張っていると思い、再度彼にお節介を焼くことにする。またダンスホールへ足を運び「今晩病院に来い」と松永に告げる。すると、その夜泥酔した状態で松永がやって来る。同情の視線を送る眞田と美代。呆れながらも眞田は、松永を一晩止めてやることにした。翌朝、再度注意を与えて松永を返した眞田。さすがに懲りたのか、松永も何とか酒を断とうと試みる。
同じ頃、岡田が出所し街に戻って来る。やがて松永の情婦である奈々江は、松永の病気のこともあって岡田の方になびいてしまう。やけくそになった松永は、また酒の力に頼るようになり、ついに喀血。眞田病院に担ぎ込まれてしまう。これまで闇市で幅を利かせていた松永だったが、岡田が帰ってきたことで、もはや顧みる者もいなくなってしまう。
映画『醉いどれ天使』の結末・ラスト(ネタバレ)
松永を眞田病院に運び込んだチンピラがたれ込んだため、美代の居所が岡田に知られてしまう。すぐに岡田たちが病院に押しかけて来るが、美代に世話になっている手前「勘弁してほしい」と松永は岡田を制して何とか追い返した。そして、「話をつけてくる」と言って美代の静止を振り払い、ボロボロの体で岡田の元へ向かう。
しかし、松永は岡田とヤクザの親分が、「松永は駒に過ぎない」と話しているのを耳にしてしまう。信じていた仁義の世界も、すべて御都合主義だったと悟ったとき、松永は言いようのない失望感に襲われる。そして、奈々江のアパートに乗り込み、ドスをぬいて岡田を襲撃。ひっくり返したペンキに塗れながら松永と岡田は死闘を繰り広げる。しかし、それはかえって松永の死期を早める結果になってしまった。
ある朝、松永に想いをよせていた居酒屋のぎんが、松永のお骨を大事に抱えて旅立とうとしていた。そこへ、結核患者の女学生がやって来る。もうすっかり寛解したと嬉しそうに眞田に報告する少女。対照的な結果となった松永のことを思いながら、眞田は少女と微笑みながら肩を並べて歩いて行くのだった。
映画『醉いどれ天使』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
三船敏郎演じる松永の存在感に圧倒された。結核に侵されながらも虚勢を張り、街の荒んだ空気の中で必死にもがく姿は、観ていて痛々しくも美しい。志村喬演じる町医者の真田が松永を救おうと奔走するが、自滅へ向かう彼を止められない悲しさが胸に残る。ラスト、松永が元仲間と刺し合って死んでしまうシーンは衝撃的で、真田が必死に治療しようとしていた姿との対比が切ない。戦後の混乱期に生きる男たちの弱さと希望を描いた名作だと思う。(20代 男性)
女性の視点で観ると、真田と松永の関係が“父と息子”にも“友と友”にも見える複雑さがとても魅力的だった。傷ついた松永を救おうとする真田の行動は医師としてだけでなく、人としての温かさが滲み出ている。だが松永は救われたい気持ちと、ヤクザとしてのプライドの間で揺れ続け、ついには破滅を選んでしまう。最期の雨の中の格闘シーンは悲壮感に溢れ、壮絶だった。戦後の混沌とした時代を生き抜こうとする姿が胸に刺さる。(30代 女性)
黒澤明の初期作品の中でも、キャラクター描写が圧倒的に濃密だと感じた。特に松永の“気の強さと弱さの同居”が素晴らしく、三船敏郎の荒々しい演技が作品全体の空気を支えていた。真田が治そうとすればするほど、松永は逆に自滅へ向かっていくという構図が皮肉で、結核という病がただの設定ではなく“生き方そのもの”に結びついている点が見事。ラストの死は予想できても心が苦しくなるほど強烈だった。(40代 男性)
若い頃の三船敏郎の色気と凶暴さが同居した演技が本当に魅力的だった。体は弱っているのに虚勢だけは張り続ける松永は、まさに“壊れそうな男”。真田先生の厳しい言葉も愛情から来ていることが伝わり、二人の不器用な関係に胸が熱くなった。だが、松永が抗争に巻き込まれて破滅していく後半は胸が苦しい。死の瞬間すら、どこか美しく哀しい。黒澤作品の中でも最も胸に残る結末だった。(20代 女性)
戦後の闇市の描写がリアルで、時代の空気に飲み込まれていく若者たちの悲しさがよく表れていた。松永は結核に侵されながらも、自分の弱さを認められないまま暴力の世界に縋ってしまう。その破滅への道筋が丁寧に積み重ねられ、最後の死が決して“突然”ではなく“必然”だったと感じさせられる。真田先生が涙を浮かべながらも松永を想い続ける姿は、希望の光でもあった。(50代 男性)
真田先生の言葉には厳しさの中に深い愛情があり、松永が唯一本音をぶつけられる存在だったことが伝わる。治療に反発しながらも、どこかで真田を頼っている松永の弱さが見え隠れするのが切ない。ラスト、敵に刺されながらも必死に抗う松永の姿は、これまでの強がりとは違い“生きたい”という叫びに見えて涙が出た。黒澤明の人間観察の鋭さに圧倒された。(30代 女性)
作品全体に漂う湿った空気と、井戸の汚れた水が象徴する“戦後の病理”が印象的だった。松永はその象徴とも言える存在で、どれだけ真田が助けようとしても救いきれない。中盤のふとした笑顔や優しさがあるからこそ、終盤の転落がより悲しい。松永が死んだ後、真田先生が少女に「未来はまだ明るい」と語るシーンは、残酷な現実の中に小さな希望を灯す名場面だった。(40代 女性)
松永の破滅的な生き方は理解しがたいが、どこか共感してしまう魅力がある。結核で衰弱していく体を隠そうとしながら、必死に見栄を張る姿があまりにも人間的。真田先生の「生きるために治療しろ」という必死の言葉に耳を貸さず、結局暴力の世界に戻ってしまうのは悲しすぎる。最期に倒れ込む松永の姿は、強さと弱さの象徴だった。(20代 男性)
やくざ映画でもなく、医療ドラマでもなく、“救えない男と救おうとする男”の物語として深く刺さった。松永は敵だらけの世界で虚勢を張るしかなく、その孤独が彼の破滅を導いてしまう。真田先生がどれだけ怒鳴っても、それは愛から来ているということがひしひしと伝わる。ラストの死は悲劇だが、真田の存在が作品に温かみを与えている。(60代 男性)
松永と真田、二人の対照的な生き方が作品を支える柱になっている。松永は“力”にしがみつき、真田は“人間性”を守ろうとする。そのぶつかり合いが物語全体に張り詰めた緊張感を生む。松永が死を迎えるシーンはあまりに劇的だが、それは彼が最後まで自分らしく生きた証でもある。悲しみだけでなく、不思議な誇りが残る作品だった。(30代 男性)
映画『醉いどれ天使』を見た人におすすめの映画5選
『野良犬』(1949)
この映画を一言で表すと?
戦後の闇社会で追われる刑事と追う刑事が交錯する、黒澤明のハードボイルド傑作。
どんな話?
新人刑事の村上(三船敏郎)は拳銃を盗まれ、その拳銃が次々と犯罪に使われる事態に。ベテラン刑事の佐藤(志村喬)と共に犯人を追う中、敗戦直後の混乱した東京を背景に、犯罪者と自分の“紙一重の差”に向き合っていく。サスペンスと人間ドラマが融合した緊張感ある作品。
ここがおすすめ!
『醉いどれ天使』同様、戦後の闇と人間の弱さを深く描いた一本。三船敏郎と志村喬の名コンビが再び登場し、対照的な二人の関係性が心に刺さる。黒澤明の演出が光る“汗の匂いがするほどリアル”なドラマが魅力。
『生きる』(1952)
この映画を一言で表すと?
死の影に怯える男が、最後に“生きる意味”を掴む心揺さぶる感動作。
どんな話?
余命宣告を受けた役所の課長・渡辺が、死を前にして何を成すべきかを模索する物語。虚無的だった彼が、汚れた公園の整備に人生の最後を捧げようと動き始める姿は静かでありながら力強い。死と希望を繊細に描いたドラマ。
ここがおすすめ!
『醉いどれ天使』の“救われるべき弱さ”や“人の再生”というテーマと深く共鳴する作品。黒澤の人間賛歌が詰まっており、観終わった後の余韻が長く続く名作。
『どん底』(1957)
この映画を一言で表すと?
最底辺で生きる人々の希望と諦念を描いた、黒澤明の群像劇。
どんな話?
スラムの共同住宅で暮らす貧しい人々が、それぞれの絶望や過去と向き合いながら過ごす物語。人に裏切られ、嘘や夢にすがり、時に笑い、時に泣く。どこまで落ちても人は生きるというテーマを、重厚に描いた作品。
ここがおすすめ!
『醉いどれ天使』の“弱者への視線”が好きな人に最適。黒澤らしい鋭い人間描写とユーモアが混ざり合い、救いのない世界にも一筋の光が差すような作品となっている。
『用心棒』(1961)
この映画を一言で表すと?
荒んだ街に現れた浪人が悪人たちを操り潰す、痛快でありながら人間臭い時代劇。
どんな話?
無法者たちが支配する宿場町に、名もなき浪人(三船敏郎)が現れる。彼は双方の勢力を巧みに利用しながら、街を浄化しようと動き出す。暴力の中に潜むユーモアと人間の醜さが濃密に描かれる物語。
ここがおすすめ!
三船敏郎の“危うい男の魅力”が『醉いどれ天使』と共通するポイント。スタイリッシュな演出と皮肉の効いた物語展開が、黒澤作品の中でも特に見応えがある。
『赤ひげ』(1965)
この映画を一言で表すと?
弱き者を救う医師の姿に胸を揺さぶられる、黒澤明の温かく深いヒューマンドラマ。
どんな話?
無名の医師・新出去定が、貧しい人々のために命を懸ける医師“赤ひげ”こと新原先生のもとに赴任する。最初は反発していた彼も、患者たちの苦しみに触れ、“医師とは何か”を学んでいく成長物語。
ここがおすすめ!
志村喬演じる赤ひげの人間味と強さは、『醉いどれ天使』の真田先生に通じる魅力。貧困や病気と向き合う姿勢が胸に刺さり、黒澤明作品の中でも特に感動度が高い一本。






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