映画『愛すれど心さびしく』あらすじネタバレ結末と感想

愛すれど心さびしくの概要:耳が聞こえず言葉も発せない心優しい主人公は読唇術で人々の悩みを聞きひたすら救いの手を差し伸べる。しかし孤独と寂しさで悲鳴をあげている彼の心の声は誰にも届かない。1968年公開のアメリカ映画。

愛すれど心さびしく あらすじネタバレ

愛すれど心さびしく
映画『愛すれど心さびしく』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む

愛すれど心さびしく あらすじ【起・承】

ろうあ者のシンガー(アラン・アーキン)は、同じくろうあ者で軽度の知的障害がある親友のアントノポロスと西部の町で暮らしていた。アントノポロスは悪気なく夜中に徘徊し、お店のショーウインドウを壊してお菓子を盗んでしまう。そういうことが何度かあり、彼のいとこはアントノポロスを南部の精神病院へ入れることにする。

シンガーはアントノポロスの保護者になる法的手続きが完了するまで、彼の入院する病院の近くで暮らすことにして南部へ向かう。シンガーが下宿先に選んだのは、ケリー夫妻の家の2階だった。

ケリー夫妻には思春期を迎えた娘のミック(ソンドラ・ロック)とまだ幼い2人の男の子がいる。夫が腰を悪くして働けないので、ミックの部屋をシンガーに貸して生活費の足しにしていた。ミックは自分の部屋を取り上げられ、シンガーを嫌う。

シンガーは読唇術(相手の口の動きで発話の内容を読み取ること)ができるので、人の話を理解できる。シンガーは、酔っ払って怪我をしたブラウントという男の治療を黒人のコープランド医師(以下医師)に頼んだことで、2人と知り合いになる。

この頃(1960年代)は人種差別が激しく、白人は黒人を迫害していた。しかしシンガーの心にそんな壁はなく、医師も彼を信用する。人生に絶望していたブラウントも、シンガーのおかげで立ち直り、遊園地での仕事を見つける。

ミックは音楽が好きでピアノを習いたいと思っていた。しかし今の経済事情ではピアノどころかレコードさえも買ってもらえない。シンガーはミックのために、自室でモーツアルトのレコードをかける。これがきっかけで2人の距離は縮まっていく。

アントノポロスは窮屈な病院生活をシンガーに訴える。シンガーは1日も早く彼を自由にしてやり、また2人で暮らしたいと願っていた。ミックはシンガーの孤独を察し、言葉や身振りでシンガーに音楽を伝えようとする。

愛すれど心さびしく あらすじ【転・結】

ある晩、遊園地で医師の娘夫婦が白人に絡まれ、娘の夫が相手に怪我をさせてしまう。まともに裁判もしてもらえないまま夫は刑務所送りとなり、さらに刑務所でひどい扱いを受け、片足を失ってしまう。娘は“自分が一緒にいた、彼は正当防衛だ”と偽証してくれなかった父を逆恨みする。

医師はシンガーにだけ、そんな悩みを話す。そして自分がガンに侵されていることを打ち明ける。しかしこのことは秘密にしてくれと頼む。

ミックもシンガーにすっかり心を許し、何かと彼を頼りにする。しかしミックはハリーという年上のボーイフレンドを作り、彼とのデートを楽しむようになる。

アントノポロスとシンガーは外出を許される。この外出は彼の退院を許可できるか試す意味もあり、門限は厳守するように言われていた。しかしアントノポロスはレストランで席を立とうとしない。シンガーはお菓子で彼をおびき寄せようやく2人はタクシーに乗る。自分の気持ちを理解してくれないアントノポロスに腹を立て、シンガーはお菓子の箱を車外へ投げ捨ててしまう。

ミックの父の腰は治らないことがわかり、結局ミックが学校をやめ働くことになる。何かできる人間になりたいというミックの夢は崩れ去り、彼女は自暴自棄気味にハリーと一線を超える。しかし、ミックはそれをすぐに後悔する。

シンガーは、医師の娘が父の気持ちも知らずに彼を罵倒する様子を見てしまう。シンガーは親子のために医師の病気のことを娘に知らせる。そして娘はようやく父の想いに気づいて、親子はわだかまりを解く。

さらにシンガーは落ち込んでいるミックのために新しいレコードを買う。しかし彼女はハリーとのことで苛立っており、部屋へ招き入れようとするシンガーを冷たく拒絶する。シンガーはとても孤独だった。

シンガーはアントノポロスの面会へ行き、彼が亡くなったことを知る。プレートだけが立ててある寂しいお墓の前で、シンガーは呆然と佇む。その晩、シンガーは自ら命を絶つ。

数ヶ月後、シンガーのお墓でミックと医師が鉢合わせる。ミックは医師とシンガーについて話す。そして彼女は一人になってから、シンガーのお墓に向かって“あなたが好きだった”と告白し泣き崩れる。

愛すれど心さびしく 評価

  • 点数:100点/100点
  • オススメ度:★★★★★
  • ストーリー:★★★★★
  • キャスト起用:★★★★★
  • 映像技術:★★★★★
  • 演出:★★★★★
  • 設定:★★★★★

作品概要

  • 公開日:1968年
  • 上映時間:125分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 監督:ロバート・エリス・ミラー
  • キャスト:アラン・アーキン、ソンドラ・ロック、ステイシー・キーチ、ローリンダ・バレット etc

愛すれど心さびしく 批評・レビュー

映画『愛すれど心さびしく』について、感想と批評・レビューです。※ネタバレ含む

聞こえてくる心の声

ろうあ者である主人公のシンガーにはセリフがない。親友のアントノポロスとは手話で会話をしているが、字幕は出ない。彼の気持ちは表情の変化や仕草で読み取っていくしかない。しかしそのことに歯がゆさは感じない。

多くの言葉で自分を語る人々の心情よりも、何も語らないシンガーの内面の方がより切実に伝わってくるのはどういうことだろう。アントノポロスとの手話での会話は言葉として一切聞こえてこないのに、2人が今何について話し、どんな気持ちなのかが不思議と理解できる。さらにシンガーが対話をしていることにホッとする。

逆に、シンガーがただ黙って人の話を聞いている姿を見るのはとても苦しい。同調したり反論したりすることなく、沈黙したまま人の話を聞き続けるというのは相当なストレスだ。しかもシンガーに音は聞こえないので、相手の口の動きで言葉を読み取らなくてはいけない。シンガーは常に神経を張りつめて相手の言葉を理解し、心の声まで聞いている。だからシンガーはとても優しい。

歯がゆいのは、自分には聞こえるシンガーの心の声が彼の周りの人には聞こえないことだ。みんな自分が生きることに精一杯で、シンガーの心の声に耳を傾けようとはしない。シンガーのように黙って誠実に見つめていれば、きっと聞こえたはずなのに…。

シンガーとアントノポロス

最初はシンガーの優しさで、一人では生きられないアントノポロスの面倒を見ているのだと思っていた。しかしそれは大きな勘違いであった。

シンガーとアントノポロスは、互いに唯一の理解者であり、話し相手であり、心を許して笑い合える対等な関係の親友なのだ。いつも冷静で感情を表に出さないシンガーが、アントノポロスといる時だけは、手話を使ってたくさんしゃべり、大笑いしたり怒ったりする。

病院のそばへ引っ越したのも、シンガー自身がアントノポロスと会えない日々に耐えられないからだとわかってくる。シンガーの普段の生活がいかに孤独か理解できると、彼にとってアントノポロスがどれほど大切な人なのかも理解できる。

アントノポロスを失い、シンガーもまた自ら命を絶つ。ミックやコープランド医師は自殺の原因を推測し、自分たちが彼の悩みに気付けなかったことや、必要な時にそばにいてあげなかったことを悔いている。彼らはそう考えるしかない。

なぜなら、シンガーにアントノポロスというとても大切な親友がいたことを誰も知らないのだから。それが何よりも悲しい。

愛すれど心さびしく 感想まとめ

本当に大切な人を亡くしたような寂しさとあまりの悲しさに心が支配されてしまい、しばらく立ち直れなかった。シンガーの絶望的な孤独に自分自身も打ちのめされる。

人種差別の問題や、現実を突きつけられる少女の苦悩など、いろいろなことが描かれている。それでも、シンガーのことしか考えられない。これほど心に残る主人公というのはそういない。シンガーの言葉を聞くことができないので、彼の心の印象だけが残る。映像の中のシンガーを見つめているときから、言葉で考えず心で感じているので、伝わり方が強力なのだ。だから今、この感覚を言葉にするのに四苦八苦している。シンガーのことは、言葉にして伝えるのがとても難しい。

賞なんてどうでもいいのだけれど、シンガーを演じたアラン・アーキンがこれほどすごい演技でアカデミー賞の主演男優賞を逃した(ノミネートのみ)のは信じられない。審査員の目が節穴なのか、人種差別問題に切り込んだのが気に食わなかったのかは知らないが、観客はアラン・アーキンの演じたシンガーを一生忘れることはないだろう。

間違いなく名作。とにかく多くの人に見て欲しい。

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