映画『エル・スール』あらすじネタバレ結末と感想

エル・スールの概要:大好きな父の変化を敏感に感じ取っていく少女の目を通して、内戦終了後も戦争の残した傷跡に苦しむスペインの姿を描き出す。高い評価を得た「ミツバチのささやき」から10年を経てビクトル・エリセ監督が製作した長編映画の2作目。

エル・スール あらすじネタバレ

エル・スール
映画『エル・スール』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む

エル・スール あらすじ【起・承】

1950年頃のスペイン北部。8歳のエストレリャ(ソンソーレス・アラングレン)は医者である父のアグスティン(オメロ・アントヌッティ)と元教師の母・フリア、使用人のカシルダと4人で城壁に囲まれた北の川沿いの町に暮らしていた。

彼女の家は「かもめの家」と呼ばれ、家の前の並木道を父は「国境」と呼んでいた。彼女は物知りで優しい父が大好きだった。父には霊感のようなものがあり、振り子を使って水の出る場所を探しあてたりすることができた。エストレリャも父から振り子の使い方を教えてもらう。

スペイン内戦後の報復で教職を追われた母は、家でエストレリャに勉強を教えてくれた。母は父がエル・スール(南)の出身で、祖父とそりが合わず若い時に家を出て以来故郷には帰っていないと話してくれる。エストレリャはまだ見ぬ父の故郷エル・スールに思いをはせる。

5月のある日。エストレリャの初聖体拝受を祝うため南から祖母と父の乳母であるミラグロスが来てくれる。ミラグロスはおしゃべりで陽気な老婆で、父と祖父の喧嘩の原因は政治的な思想の違いだと教えてくれる。父は左派で祖父は右派であり、内戦前は共和国派の父が聖人だったが、フランコが勝利して一党独立体制が成立してからは悪魔になったという。エストレリャに難しいことはわからなかったが、教会嫌いの父が明日の式典に来てくれるかどうかは心配だった。

翌日、父は朝から山に向かって銃を撃っていた。祖母たちは神聖な日に不謹慎だと怒っていたが、それでも父は教会の入り口までは来てくれる。お祝いの食事会でエストレリャと父はアコーディオン弾きの奏でる「エン・エル・ムンド」に合わせてダンスを踊る。

エル・スール あらすじ【転・結】

ある日、エストレリャは父の書斎で、何度も「イレーネ・リオス」という名が書かれた封筒を見つける。母にそれとなくその名を知っているか聞いてみるが、母は全く知らないようだった。

数ヶ月後、学校からの帰り道、街の映画館の前に父のバイクを見つける。映画館のポスターにはあの「イレーネ・リオス」の名があった。エストレリャは「イレーネ・リオス」が実在していることを知り、映画館の前で父を待ち伏せする。

「イレーネ・リオス」は父の元恋人ラウラの芸名で、父はスクリーンの中の彼女を見つめていた。映画館から出てきた父はカフェに入り、ラウラに手紙を書く。そんなことは想像もしていないエストレリャは、無邪気に父へ声をかける。

その頃から彼女の父に対するイメージが変わり始める。そして家庭内にも不穏な空気が流れる。エストレリャは無言の抗議をするため一日中ベッドの下に隠れてみる。母は彼女を探してくれたが、父はただ屋根裏の床を何度も杖で叩くのみであった。父は無言で、自分には深い悩みがあることを彼女に訴えていた。

15歳になったエストレリャは幸福を考えないことにも慣れ、自分の世界を持ち始めていた。母は病気がちになり、父はアルコール依存気味になっていたが彼女は冷静に対応する。ただ、映画館のポスターで「イレーネ・リオス」の名を探すことだけは続けていた。

1957年の秋。珍しく父が彼女を「グランド・ホテル」での昼食に誘う。久しぶりに2人でゆっくり話す中で、彼女は父に「イレーネ・リオス」のことを聞く。そして8歳の時に自分が見たことを全て話す。父は明確に答えないままトイレへ立ってしまう。学校へ戻ろうとする彼女に授業をサボれと父は言うが、彼女には父の気持ちが理解できない。あきらめた父は隣の結婚式場から流れてきた「エン・エル・ムンド」に耳をすませ、昔一緒に踊った時のことを懐かしがる。席を立つ娘に父は寂しく手を振る。

その晩、父は姿を消し、騒ぎで目を覚ましたエストレリャは枕の下に父の振り子があったことで父が二度と帰らないと直感する。

父は川沿いで自殺していた。エストレリャはミラグロスの誘いを受け、生まれて初めて父の故郷「エル・スール」へと旅立つ荷造りをする。

エル・スール 評価

  • 点数:90点/100点
  • オススメ度:★★★★★
  • ストーリー:★★★☆☆
  • キャスト起用:★★★★☆
  • 映像技術:★★★★★
  • 演出:★★★★★
  • 設定:★★★☆☆

作品概要

  • 公開日:1982年
  • 上映時間:95分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 監督:ヴィクトル・エリセ
  • キャスト:オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、イシアル・ボジャイン、オーロール・クレマン etc

エル・スール 批評・レビュー

映画『エル・スール』について、感想と批評・レビューです。※ネタバレ含む

父との国境

幼い頃のエストレリャは父のことが大好きでいつも父につきまとっている。屋根裏にこもる父に自分の存在をアピールし、ブランコに乗って父の帰りを待つ。振り子を操り奇跡を起こす父は彼女にとって憧れの存在であり、自分も父のようになりたいと切に願っている。だから父の故郷「エル・スール」にも興味津々なのだ。

その彼女の父に対する好奇心が思わぬものを発見させる。父の書斎で見つけた封筒に何度も書かれた「イレーネ・リオス」という女性の名前。父が母や自分以外の女性を気にかけるようなことは彼女にとって信じがたいことであり、しかもその女性は実在していた。

その頃から父は自分の世界にこもり始める。そして彼女は父のことを何も知らなかったのだと感じるようになる。彼女にとっては父の存在するこの小さな世界が全てなのに、父はそうではない。父は彼女が存在しない世界を持っている。それはエストレリャにとって大変な驚きであり、とても寂しいことだった。

ベッドの下に隠れて父が探しに来てくれるのを待ち続ける彼女に気づきながら、父は屋根裏から出てきてはくれない。無言で床を叩く父の行為は“今は自分の世界から出たくない”という娘へのアピールだろう。エストレリャもそれに気づき、彼女は深く傷つく。

この時彼女ははっきりと、父と自分の世界には目に見えない国境があると感じたはずだ。

越えられなかった過去という国境

父のアグスティンは共和制を支持しており、内戦後は反政府主義者とみなされ投獄されたり恋人と別れたりした過去を持つ。フランコ政権を支持する祖父とも決裂し故郷を捨てた。妻と娘を連れ、ようやく北の地に落ち着いたはずだったが、そこでも自分の過去を捨てることができない。

ただ唯一の希望は最愛の娘エストレリャの存在だ。彼女のためなら自分を曲げ、教会に行くことができた。ずっと越えられなかった過去という国境を越えられるかもしれない。彼は娘のために国境を越えようと努力する。しかし、本当にそれでいいのかという自分がいる。この葛藤が彼の心を蝕み、アルコール依存にさせていく。

娘が恋をするまでに成長したことを知り、彼は娘と話がしたくなる。今なら自分の過去や苦しみを打ち明けても理解してもらえるのではと期待したのかもしれない。しかしそんな父の期待と複雑な胸の内を娘は理解できない。7年前、父は自分との間に国境を築き、それを越えようとしてくれなかったことを娘は忘れていないし、それを越えてきて欲しいという願いすら捨てている。

過去の中で生き続けた自分は最愛の娘にとってもすでに過去の人なのだと知ったアグスティンは、未来を放棄する。過去という国境を越えられないまま、過去の中で死んでいく。それはエストレリャにとってはあまりにも悲しい、大好きな父の最期であった。

エル・スール 感想まとめ

ビクトル・エリセ監督の初の長編映画「ミツバチのささやき」はかなり抽象的な物語であったが、2作目にあたる本作は登場人物のセリフも増え少しだけわかりやすくなっている。ただ、一般的な映画と比較すると、やはり自分自身で考えないといけない余地は多い。それを考えるのがこの作品の醍醐味でもあるので、どんどん深読みして欲しいと思う。

それにしてもこの監督の映像は本当に美しい。「光と影の魔術師」と呼ばれたレンブラントのバロック絵画を見ているような映像は、ため息が漏れる美しさだ。音楽の入れ方にも繊細なこだわりを感じるし、ピアノの調律音を効果的に使うシーンには感心した。

アコーディオン弾きの奏でる「エン・エル・ムンド」に合わせて父と娘が踊るシーンなど無条件にジワッとくる。なんて素敵なんでしょう…ため息…。

映画とは、こんなに美しいものなのだなあと改めて思える名作なので、機会があれば絶対に見て欲しい。

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