映画『衝動殺人 息子よ』あらすじネタバレ結末と感想

衝動殺人 息子よの概要:通り魔に一人息子を殺された主人公が法律はあまりに被害者に対して冷たいことを知り被害者の補償制度を国に訴えかけていく。佐藤秀郎の長編ノンフィクションを木下恵介監督が映画化してこの問題を世に訴えた。

衝動殺人 息子よ あらすじネタバレ

衝動殺人 息子よ
映画『衝動殺人 息子よ』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む

衝動殺人 息子よ あらすじ【起・承】

昭和41年5月。溶接の町工場を経営する川瀬周三(若山富三郎)は妻の雪枝(高峰秀子)と26歳になる一人息子の武志(田中健)と3人で慎ましく暮らしていた。目が悪くなってきた周三のため、武志は5年前に自分の仕事を辞めて父の溶接工場で働いていた。気立てのいい田切杏子(大竹しのぶ)と武志の結婚も決まり、一家は幸せだった。

ある晩、友達と釣り堀に出かけた武志はその帰り道、突然見知らぬ少年に腹を刺される。知らせを受けた周三と雪枝は病院にかけつけ、まだ意識のあった息子を必死で励ますが、武志は“仇をうってくれ”と言い残して死んでしまう。

周三はあまりのショックで寝込んでしまい従兄弟の坂井三郎(尾藤イサオ)が雪枝を支える。杏子も信州からかけつけ涙にくれる。警察は武志が持っていた金魚を届けに来る。

周三は完全に生きる気力をなくしていた。事件の記事を書いた新聞記者の松崎徹郎(近藤正臣)が訪ねてきた日、犯人が自首したと警察が報告に来る。

犯人は19歳の石本昇。“バカにされて腹が立ち、誰でもいいから殺してやろうと思ってやった”という犯人の供述に周三は言葉を失う。

松崎の知らせで犯人の初公判を傍聴に行った周三は、息子の仇を討とうと包丁を持って犯人に襲いかかる。三郎が止めに入り事なきを得たが、周三はずっと思いつめていた。

昭和42年2月27日判決公判の日。傍聴に来た周三たちの前で言い渡された判決は“懲役5年以上10年以下”というあまりに軽いものだった。

殺された被害者やその遺族を全く守ろうとしない法律に疑問を感じた周三は独学で法律の勉強を始める。そんな周三に松崎は、通り魔に娘を殺された中沢(藤田まこと)という人物を紹介してくれる。中沢は無力な被害者の立場を世間に訴えたいと考えていた。

衝動殺人 息子よ あらすじ【転・結】

周三は中沢を訪ね、自分と同じような立場の被害者遺族がたくさんいることを知る。そして遺族で力を合わせて世の中にこの不条理を訴えたいという中沢の考えに賛同する。

全国の被害者遺族を訪ね歩くため周三は工場も手放し、この活動に専念する。息子の仇を討つにはこれしかないという周三の想いを雪枝も理解し協力する。

夫を殺され、残された幼子2人と生活保護で暮らす柴田保子(吉永小百合)。全国を巡り、そんな遺族の悲惨な現状を目の当たりにして、周三は打ちひしがれる。

さらに杏子まで婚約者を殺された不吉な女という謂れのない差別に苦しんでいることを知り、周三はさらにこの活動に力を注ぐ。しかし国の対応も世間の目も冷たかった。

自腹を切って活動を続ける周三たちの苦労はなかなか報われないまま7年の歳月が過ぎようとしていた。周三の目は悪化し、体力も衰えていた。そして武志の金魚も死んでしまう。

大阪へ行った周三は夫を殺された遺族の北村洋子(中村玉緒)から同志社大学の中谷教授(加藤剛)が被害者の補償制度を国へ訴える活動をしていることを聞く。早速中谷を訪ね、中谷が周三の活動を認め、その苦労を理解してくれたことに周三夫婦は思わず涙する。

昭和49年8月30日。三菱重工爆破事件が起こる。この事件から犯罪被害者の補償制度を促進するという周三の活動が注目され、メディアに紹介され始める。しかしその頃には周三の目はほとんど見えなくなっていた。

昭和51年7月2日。ついに周三たちの訴えてきた被害者補償制度が衆議院法務委員会で立法に向けて議論される。参考人として呼ばれた周三は今までの活動で見てきた現実を語り、過去の事件の被害者の補償も訴える。その帰り、周三は過労のため倒れてしまう。

その後入院した周三は、最後まで被害者遺族の事を考え、法律の成立を見るまでは武志のところへ行けないと言いながら亡くなる。死因は過労による心筋梗塞だった。雪枝は夫の意志は自分が受け継いでいくと誓う。

衝動殺人 息子よ 評価

  • 点数:85点/100点
  • オススメ度:★★★★★
  • ストーリー:★★★★☆
  • キャスト起用:★★★★★
  • 映像技術:★★★☆☆
  • 演出:★★★★☆
  • 設定:★★★★☆

作品概要

  • 監督:木下恵介
  • 上映時間:131分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 監督:木下恵介
  • キャスト:若山富三郎、高峰秀子、田中健、大竹しのぶ etc

衝動殺人 息子よ 批評・レビュー

映画『衝動殺人 息子よ』について、感想と批評・レビューです。※ネタバレ含む

映画の持つ力

この映画は実在の人物・市瀬朝一さんをモデルに作られた。彼の活動を佐藤秀郎氏が長編ノンフィクション「衝動殺人」としてまとめ、これを読んだ木下恵介監督が映画化という形でこの問題を社会に訴えた。

主人公の川瀬周三は昭和51年に亡くなる直前“後2年生きて法律の成立を見届けたい”と言っている。しかしその後も犯罪被害者補償制度は成立しないまま、この「衝動殺人 息子よ」が製作され、昭和54年9月に公開される。作品の最後に流れる力強いテロップにも、未だに成立しない法案への怒りが込められている。

しかし、本作公開から8ヶ月後の昭和55年5月。ついに「犯罪被害者給付金制度」が成立し翌年1月より施行されることになった。この急展開の理由は、本作でこの不条理な事実を知った世論が動き、それが国を動かしたことにあると考えるのが妥当だろう。

映画とはただ娯楽のためだけにあるものではない。しっかりとした問題意識を持って作られた本作のような映画は、時に強い力を持つ。ただ事実を追ったドキュメンタリー番組ではなく、人間の細やかな心情を描ける映画だからこそできることもあるのだ。

若山富三郎と高峰秀子

若山富三郎は日本を代表する名優の一人だが、時代劇や任侠映画への出演が多くじっくりした人間ドラマで彼の演技を味わえる作品は意外に少ない。その証拠に40年近いキャリアの中で彼が主演男優賞(日本アカデミー賞、キネマ旬報、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール)を受賞したのは本作のみである。そういう意味でもこの作品は彼の代表作と言っていいのではないだろうか。

実際、本作での彼の演技は見事だった。愛息子の武志に向ける優しい眼差し、絶望の中の虚無、怒り、悲しみ、そして息子の仇を討つのだという父の強い執念。そういう主人公の心の機微を胸に染み入るような抑えた演技で細やかに表現している。若山富三郎の熱演があって、この作品は成り立っているようにも見える。

また、主人公の妻・雪枝を演じた高峰秀子はこれが最後の映画出演となっている。多くの巨匠に愛され数え切れないほどの名作に出演してきた大女優らしく、繊細な若山富三郎の演技を静かに優しく支えている。その姿はまさに雪枝そのものだ。

衝動殺人 息子よ 感想まとめ

こういう重たいテーマを扱った映画を積極的に観たいと思う人は少ないかもしれない。通り魔に息子を殺された夫婦が被害者の補償を訴えていく物語と聞くと、つい敬遠したくなるのも仕方がない。

しかし本作で最も大切に描かれているのは“親子の情愛”である。突然我が子を虫ケラのように殺された親の無念とその悲しみがどれほど深いものか。そこを丁寧に描いているからこそ、この作品は大衆から高く支持され世論を動かすまでになったのだ。

現在も不条理な殺人事件は後を絶たない。通り魔だけでなく、最近は一方的なストーカー殺人なども増えている。そういう不幸はいつ、誰に起こっても不思議ではない。この作品で描かれている犯罪被害者とその遺族の無念や悲しみは今もずっと続いている。だからこそ、この作品は大衆の目に触れる機会をもっと持ち、多くの人に観て欲しいと思う。

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