映画『空中庭園』の概要:2005年公開の日本映画。原作は角田光代の同名小説で、過去に執拗に恨みを抱き、こうあるべきという家族の姿の理想を追い求めた主婦が現実とのギャップに苦しみながら本当の幸せを手にしていく物語。
映画『空中庭園』 作品情報
- 製作年:2005年
- 上映時間:114分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
- 監督:豊田利晃
- キャスト:小泉今日子、板尾創路、鈴木杏、広田雅裕 etc
映画『空中庭園』 評価
- 点数:70点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『空中庭園』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『空中庭園』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『空中庭園』 あらすじ【起・承】
住みたかった団地の広めの一室。
自分のガーデンをベランダに作り、優しい夫に高校生の娘、中学生の息子。
それが絵里子(小泉今日子)が理想の家族の形を作り上げた、京橋一家の結果であった。
絵里子の母親のさと子はシングルマザー。
お金も無く厳しい状況で絵里子と兄を何とか育てた。
虐めに合い、心を塞いだ絵里子はさと子に優しくされた記憶も無く、ただ母に恨みを抱きながら生きている。
京橋家の掟は家族の中で隠し事をしないこと。
どんな些細なことも、大事なこともである。
これは歪んだ幼少期の経験からきている。
例えば娘から「自分はどこで仕込まれたのか?」と聞いても、絵里子は「ホテル野猿」だと笑顔で話してしまうくらいだ。
しかし家族にはそれぞれ秘密があった。
夫はSM好きの一風変わった女と浮気、また不動産やで働くミナとも浮気をしている。
高校に通っている娘も本当は虐められていて、学校の時間は唯一の開発地・ディスカバと呼ばれる繁華街でお菓子を食べて時間を潰している。
息子はゲーム作りに熱心で、部屋から出てこない。
絵里子にも秘密がある。
それは虐められていたこと、母と折り合いがつかないこと。
京橋家は絵里子があらかじめ計画して作り上げた家族であるということだ。
映画『空中庭園』 結末・ラスト(ネタバレ)
息子はゲーム作りに必要な街の様子を、自分の住んでいる場所をモデルに取り込んでいた。
ある日自分から行動する性格では無い息子が、家庭教師を連れてきた。
その女性はミナと言い、偶然にも夫の不倫相手だった。
怪しい臭いのする若い女性の教師に疑いを持ちながらも、息子の行動的な様子を羨ましくもある絵里子。
しかし徐々にこのミナのせいで京橋家の均衡が保たれなくなってくる。
ミナとさと子の誕生日が偶然同じということもあり、京橋家はさと子も呼び合同で誕生会を開催することにした。
取り繕いながら、ニコニコ笑顔で家族の振りをする一家にミナは「学芸会みたいだ」と吐き捨てる。
酒を飲み過ぎ悪酔いしたミナは不倫を臭わせる。
絵里子は気づいていながらも笑顔でいるが、次第に心の闇を隠せず本性を露わにする。
その夜皆が引いたリビングでさと子と2人、ケーキを前にした絵里子は昔の恨み辛みを母にこぼし「死ね」と言った。
そのまま肺がんを患っていた母は倒れ入院。
翌日、絵里子はお見舞いに行った病院で兄と会い「母はいつも絵里子を大事にしていて、おまえの話ばかりだ」と言われる。
そんなことを思いもしなかった絵里子は耳を疑うが、実は思い込みなのではないかと記憶を辿り始める。
夜、母から電話が来た。
絵里子の誕生日を祝う電話だった。
誰もいないベランダで1人、大雨の中たたずむ絵里子。
自分の過去や性格などと向き合い、困惑し発狂する。
一方で夫や娘、息子は絵里子に誕生日プレゼントを買いバスに乗って向かっている。
娘が父に「母をもっと愛せ」と言う。
それに対し「あんなしょうもないアパートを必死で守り、絵里子に付き合ってあげている自分が愛していないわけがないだろう」と真面目に言う。
絵里子は本当の人の気持ちと向き合い始めたのかもしれない。
ただいまと帰る家族を迎えに出る絵里子だった。
映画『空中庭園』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『空中庭園』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
前知識皆無だと予想外
実は全く前地知識無く鑑賞した本作 品。
最初はわけありの家族くらいの軽い気持ちで見始めたが、話が進むにつれてサスペンス感が深くなってくる。
タイトルの空中庭園という名前、冒頭に出てくる団地の中の大きな自分のガーデン。
この庭園がキーになるのはわかってはいたが、映画そのものを抽象的に表現している大きなものだということには最後まで見て気がつく。
よくある家族の小さな家の中の出来事を描いていくのかと思っていたが、ヒロインの心の闇の深さや過去が絡み精神的にダメージをくらってしまった歪んだ世界であるとは思いもしなかった。
恐怖心すら感じるサスペンス映画とも言える作品である。
小泉今日子の熱演
小泉今日子は可愛らしい女性を演じさせることに定評がある。
しかし一方で、二面性のある女性を演じるのも非常に上手い。
ホラーテイストが入った恐怖を感じさせる女性を見事に演じてしまう。
本作品の彼女は、前半は明るく良妻賢母な妻をわざとらしく演じ、心の闇を見せたり隠したり。
『この女は何かある』と思わせるのだが、後半ではその攻撃性がはっきり現される。
死ねという言葉を他人や母にも使い、心を隠せなくなってくるのだ。
やがて心が壊れ自分自身を見失う。
そんな一連の人間臭い狂気をリアルに演じているのが魅力的だ。
芸術的表現の多い作品
本作品は意図的にアートな演出効果が多く使われている。
しかし視聴者にわかりやすく製作されているため、見やすくなっている。
ただラストシーンが抽象的であるため、もう少し白黒はっきりした結末を作れれば作品としてもう少しまとまりのあるリアリティさが追求できたのではないだろうか。
作り物の家族の関係が、少しずつ壊れ始めて、後戻り出来ないギリギリのところで引き返すという観客の心を掴むのが物凄く上手い作品だったと思います。
どんな家族にも嘘や隠し事、秘密があると思うんです。でもそれは悪いことではなくて、他人には言わないけど当たり前のことなのだと思います。
しかし、絵里子は理想を追い求めるあまり、その当たり前を壊すような「隠し事をしない」なんてルールを作ってしまったのだと思います。
もう修復不可能かと思った家族が、少しずつ本物の家族になっていくラストがとても良かったです。(女性 30代)
小泉今日子の狂気じみた演技が強烈ですが、家族とは何なのか真剣に問いかけられている気がします。家族って契約のようなものですから、本音を出すと上手くいかないというかギクシャクしてしまいますよね。建前が多くなるのは、自然なことなのかもしれません。しかしながら、それぞれの立場で相手を大切に思う素晴らしい関係性なんだと思います。揺れる、ぐるぐる回るカメラワークを駆使した表現は『空中庭園』ならではですね。画面酔いに注意が必要です。(女性 30代)
映画『空中庭園』 まとめ
面白い。
この感想は意外と中々使わない。
しかし一言で言うとこれしか無い。
俳優陣の演技の上手さはもとより、撮影の仕方や物語の構成がとても魅力的だった。
特に家族の中のことを描きながら、こじんまりとせずに監督が描きたいことを全て表現できていたのでは?と思わされる流れ。
芸術性の高い撮影方法。
全てにおいてのクオリティの高さは近年の日本映画でもトップクラスに入るだろう。
ただの平凡な家庭の様子をサスペンステイストで仕上げたことは斬新であり、最後まで飽きずに鑑賞できる。
どこにでもありそうな家族の延長の日常がここにあるような気がする。
みんなの感想・レビュー
入院中のお母さんから日付けが変わる寸前の電話。誕生日の白い花。もやもやする。