映画『あなたを抱きしめる日まで』の概要:アイルランドの修道院で出産した息子を老齢になった母親がジャーナリストの助けを借りて捜し始める。そこで明らかになっていく真実はあまりに切ないものだった。実話をもとにして製作された2013年公開のヒューマンドラマ。
映画『あなたを抱きしめる日まで』 作品情報
- 製作年:2013年
- 上映時間:98分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:スティーヴン・フリアーズ
- キャスト:ジュディ・デンチ、スティーヴ・クーガン、ソフィ・ケネディ・クラーク、アンナ・マックスウェル・マーティン etc
映画『あなたを抱きしめる日まで』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『あなたを抱きしめる日まで』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『あなたを抱きしめる日まで』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『あなたを抱きしめる日まで』 あらすじ【起・承】
イギリスのBBC放送で政府の広報担当だったジャーナリストのマーティン・シックススミス(スティーヴ・クーガン)は、最近会社をクビになり、次の仕事を探していた。そんな時、ジェーンという女性から母の話を聞いて欲しいと頼まれる。
ジェーンの母・フィロミナ・リー(ジュディ・デンチ)には生き別れとなったアンソニーという息子がいた。
アイルランド出身のフィロミナは、娘時代に祭りで知り合った男と行きずりの関係を持ち妊娠する。それを恥じた父親は娘をロスクレア聖心修道院に預けてしまう。1952年、フィロミナは大変な難産の末アンソニーを出産し、修道院で労働を続けた。唯一の救いは1日に1時間だけ、アンソニーと一緒に過ごせることだった。
修道院では母親に子供への権利を放棄する宣誓書を書かせ、希望者がいれば母親の許可なく子供たちを養子に出していた。そしてアンソニーも3歳の時、仲良しだったメアリーという女の子とともに養子に出されてしまう。
フィロミナはそのことをずっと隠し続けてきた。しかしアンソニーが50歳の誕生日を迎えた日、どうしても一目息子に会いたいという長年の想いをジェーンに告白したのだった。
マーティンはフィロミナと直接会い、新聞の社会面で記事にすることを条件に息子捜しを手伝うことにする。2人は先ずロスクレア聖心修道院へ向かう。
修道院からは、古い記録が火事で焼失したのでアンソニーの行方はわからないと言われる。しかし、フィロミナが署名した昔の宣誓書は残っており、マーティンは不審に思う。帰りに寄ったバーで、修道院では1人1000ポンドでアメリカの金持ちに子供を売っていたことがわかる。マーティンはジャーナリストとしての人脈を使い、アメリカでの有力なルートを見つける。
マーティンはフィロミナとともにアメリカへ飛ぶ。フィロミナは真実に近づいていくことを恐れ、落ち着きを失っていた。
映画『あなたを抱きしめる日まで』 結末・ラスト(ネタバレ)
アメリカでアンソニーの消息がわかる。1955年、アメリカ人の養子になったアンソニーは“マイケル・ヘス”という名になり、レーガン政権やブッシュ政権の顧問弁護士をしていた。しかし彼は1995年8月(8年前)に死亡していた。
この事実にフィロミナは打ちひしがれ、帰国しようとするが、せめて息子を知る人に会いたいと思い直し、アメリカに残る。
アンソニーの仕事仲間だったマーシャという女性の話から、アンソニーはゲイでパートナーはピートという男性だったことがわかる。死因はエイズだった。フィロモアが一番知りたかったことは、生前のアンソニーが自分のことを思ってくれていたかどうかだった。しかし、マーシャもアンソニーの妹・メアリーも彼がアイルランドの話をすることはなかったと言う。
フィロミナはアンソニーのことを記事にするのはやめて欲しいとマーティンに申し出る。アンソニーは自分のことを忘れていたのだと思い込み、深く傷ついていたのだ。
しかし、アンソニーが胸にケルティックハープ(アイルランドの国章)をつけている写真で見て、ピートに会ってみようと考え直す。ピートが見せてくれたビデオには、アンソニーがロスクレア修道院を訪れている映像があった。実はアンソニーも母を捜すため修道院を訪ね“母親の行方はわからない”と言われていたのだった。しかも本人の強い意志で、アンソニーはロスクレアに埋葬されていた。
2人はロスクレア修道院に戻ってくる。マーティンは、事実を隠蔽した老齢のシスター・ヒルデガードを強く非難する。しかし彼女は“苦しみは罪の償いだ”と言い張り、謝罪をしない。フィロミナは興奮するマーティンをなだめ、自分はシスターを赦すと言う。
アンソニーのお墓の前で、フィロミナはマーティンに記事を書いていいと告げる。そしてこの事実はマーティンの手によって2009年に書籍として出版される。
映画『あなたを抱きしめる日まで』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『あなたを抱きしめる日まで』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
罪とは何か
主人公のフィロミナは一度限りの関係で妊娠してしまい、修道院で息子のアンソニーを出産した。カトリックの修道院では結婚前に男性と関係を持つことは重い罪とされ、まるで罪人のように扱われる。そしてフィロミナ自身も“セックスを楽しんだこと”が何よりも重い罪だと言っている。だから、自分と息子を引き裂いた修道院に対しても、かなり複雑な感情を抱いている。
キリスト教徒ではない自分のような者から見ると、この修道院に対しては怒りしか感じない。それは無神論者のマーティンも同じで、神を盾にして母と子に残酷な仕打ちをし、さらには人身売買までしていた修道院のやり方こそが一番の罪だと考える。
印象的だったのはマーティンと修道院の古株であるシスター・ヒルデガードが衝突するシーンだ。シスター・ヒルデガードは生涯純潔を守った自分が正義であり、過ちを犯した娘たちは悪であると言い切る。この欲求不満のクソババアをなんとかしてくれ!とずっと思っていたので、マーティンが攻撃してくれてスッとした。
しかしフィロミナは泣いたり怒ったりせずに“私はあなたを赦します”と言うではないか。
深く苦しんできたからこそ人を憎みたくないというフィロミナが、きっと一番正しい。
結局“罪”とは他人を赦せない人間の狭量さにあるのかもしれない。フィロミナのように赦す心を持てば、多くの争いごとは避けられる。それでもシスター・ヒルデガードを赦せないと言うマーティンを強く支持してしまう自分は、罪深い人間なのだ。反省しよう。
素晴らしいバランス感覚
ストーリーだけを追うと悲劇的であり、お涙頂戴ものになりかねない本作。しかし、この作品にはそういう重さや安っぽさが一切ない。
まずは脚本と演出がいい。伝えるべき真実はしっかり伝え、しかし必要以上に大げさなことはしない。そしてフィロミナとマーティンという人物をとても丁寧に描いている。本作はバディものであり、一種のロードムービーでもあるので、この2人の人物像がうまくできていないと全てが台無しになってしまう。
ここをジュディ・デンチとスティーヴ・クーガンという実力派に任せたのは大正解だ。ちょっと市原悦子的な(意味が通じるだろうか)邪気のないおばさんであるフィロミナのコミカルさと芯の強さを、ジュディ・デンチはいともたやすく演じているように見える。そんなフィロミナの無邪気さに振り回されるマーティンを、スティーヴ・クーガンがこれまた自然に演じてくれるので、2人の相性がとてもいい。過剰にならず、見せるところはしっかり見せる2人の見事な演技のおかげで、こちらも自然に感情移入できる。
事実の重さは伝わるのに、くどさはないというこのバランス感覚の良さは実に素晴らしい。
時代や信仰によって「罪」とされてしまったせいで、息子の存在を誰にも打ち明けることなく生きてきたフィロミナの人生は悲しみや後悔の連続だったと思います。しかし、50年経ってやっと打ち明けられたこと、それを理解してくれた家族がいたこと、協力してくれる人に出会えたことなど奇跡が重なるストーリーはフィロミナの今までの「罪」を償おうとしてきた気持ちが全て報われたような気がしました。
一度の過ちと言ってしまえば簡単ですが、本人にとってその心の傷は一生癒えることは無く、一生背負い続けて生きていくのだと感じます。自分の心に素直になって行動を起こしたフィロミナはとても強い女性でした。(女性 30代)
映画『あなたを抱きしめる日まで』 まとめ
内容は濃いがあっさりした印象を受ける良作。不条理な環境のせいで生き別れた母と息子の物語なんてどうにもやるせない話で気が重くなりそうだと思う人も多いだろう。
ところが本作を見終わってから気が重くなったと感じる人は少ないはず。それは主人公のフィロミナが母としても人としても底知れぬ強さと純粋さを持った魅力あふれる人物だからだ。この作品で重要なのは、起こった事実を知ることではなく、それをフェロミナがどう受け止めたかを知ることだ。そして私たちは彼女の選択と人間性に何度も救われる。
ラストシーンを見終えた時、少し寂しい気持ちを抱えながら微笑んでしまうような…そんな映画だ。見て損はない。
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