映画『幕末太陽傳』の概要:明治維新前の品川の遊郭で「居残り稼業」を生業とする男が、持ち前のバイタリティで様々なトラブルを解決していく。1957年に公開された「グランド・ホテル形式」のコメディ映画。川島雄三監督の代表作。
映画『幕末太陽傳』 作品情報
- 製作年:1957年
- 上映時間:110分
- ジャンル:コメディ、時代劇
- 監督:川島雄三
- キャスト:フランキー堺、左幸子、南田洋子、石原裕次郎 etc
映画『幕末太陽傳』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『幕末太陽傳』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『幕末太陽傳』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『幕末太陽傳』 あらすじ【起・承】
後6年で明治となる文久2年末。品川には100軒の遊郭が軒を連ね、1000人以上の女が遊女として生きていた。その中の一軒「相模屋」での話。
佐平次(フランキー堺)は品川の相模屋へ行く途中、外人と揉めた長州の志士が落とした懐中時計を拾う。その懐中時計は長州の高杉晋作(石原裕次郎)もので、佐平次は相模屋で会った高杉に修理した懐中時計を返してやる。
相模屋には高杉を始めとする長州の志士たちが長逗留していた。彼らは尊皇攘夷のため、建設中の異人館を焼き討ちにする計画を立てる。金も払わず居座る彼らを女将のお辰(山岡久乃)と婿養子の伝兵衛(金子信雄)は煙たがっていた。
相模屋の女郎たちの中で稼ぎ頭は、こはる(南田洋子)とおそめ(左幸子)で互いに相手をライバル視している。しかし最近では若くてずる賢いこはるの方に分があった。
佐平次は金もないのに盛大に遊び、勘定をせがみに来る使用人の喜助(岡田真澄)を得意の口八丁手八丁で丸め込んで泊まり込む。実は佐平次は胸を患い、その養生のために品川へ来たのだった。
相模屋の若旦那・徳三郎は女好きの道楽者でお辰も義父に当たる伝兵衛も手を焼いていた。徳三郎は強欲な母と義父を嫌い、わざと2人を困らせるようなことばかりする。そんな徳三郎のことを博打好きの父の借金のため住込み女中をしているおひさは心配していた。
こはるとおそめはついに正面衝突し、みんなの前で取っ組み合いの大げんかをする。おそめは自分の落ち目を感じ何もかも嫌になってしまい、お人好しの貸本屋・あば金を道連れに心中することにする。しかし怖気付くあば金を川へ突き落とした後、自分は死ぬのをやめてしまう。
佐平次はついに一文無しであることを白状し「居残り佐平次」として相模屋で働き始める。
早速、高杉の懐中時計を借金のカタに店へ預けさせた佐平次は、お辰や伝兵衛からも気に入られる。
映画『幕末太陽傳』 結末・ラスト(ネタバレ)
要領がよく、なんでも器用にこなす佐平次は「居残りさん」と呼ばれ重宝される。しかし喜助を始めとする使用人たちは図々しい佐平次への怒りを募らせていく。
得意客が逃げないように熊野大社の起請文(いずれあなたと添い遂げるという契約書)を乱発していたこはるは、ついにその汚いやり口が発覚してしまい得意客とトラブルになる。佐平次はこはるのピンチを芝居で救ってやり、彼女にすっかり惚れられる。
使用人たちは佐平次を思い知らせてやろうと相談していた。そんな時、死んだと思っていたあば金が幽霊のフリをしておそめを訪ねてくる。さらにあば金の仲間が棺桶を担いで乗り込んできて、店は大騒ぎとなる。このピンチをまたまた佐平次が救い、使用人たちも佐平次を認めるようになる。佐平次はあば金たちまで手なずけてしまう。
おひさは博打で大負けした父に女郎として売り飛ばされる。徳三郎は佐平次に博打で大負けし、高杉の懐中時計を持ち逃げしようとして店の牢屋に入れられてしまう。おひさは徳三郎に自分を嫁にしてくれと頼み、2人は駆け落ちすることにする。そしてその手配を佐平次に頼む。
高杉たちはいよいよ異人館の焼き討ちを決行することにして、佐平次に協力を依頼する。佐平次は徳三郎たちの駆け落ち計画と高杉たちの焼き討ち計画をうまく絡ませ、どちらも見事に成功へと導く。しかし、佐平次の体調はどんどん悪くなっていた。
御殿山で赤々と燃える異人館を見て、佐平次も相模屋を出る荷造りをする。ところが人気者の佐平次はなかなか店を出られない。ついにはこはるのしつこい得意客を任され“こはるは死んだ”と嘘をついてしまう。
こっそり店を抜け出そうとしたがこの客に捕まり、墓まで案内させられる。適当な墓石を“これがこはるの墓だ”と言って逃げていく佐平次の後ろ姿に客は“地獄へ落ちるぞ!”と叫ぶ。佐平次はそれを振り切るように、一目散に駆け出していく。
映画『幕末太陽傳』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『幕末太陽傳』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
お見事!
約60年前に製作されたモノクロの邦画である本作には、今見ても全く色褪せない抜群の面白さがある。
相模屋という遊郭を舞台に繰り広げられる群像劇はいわゆる「グランド・ホテル形式」のコメディで、その名の由来は1932年に製作されたエドマンド・グールディング監督の「グランド・ホテル」にある。近年の邦画では三谷幸喜監督の「THE 有頂天ホテル」がこの形式で製作され、大ヒットした。
物語の大部分が一軒の建物内で起こる出来事で構成され、そこにいる様々な人間の事情が絡み合っていく脚本を書くのは相当の腕がいる。本作では主人公の居残り佐平次を中心として、女郎のこはるとおそめ、女郎屋の女将と旦那とその息子、高杉晋作を代表とする長州の志士、さらには女中のおひさや男衆、得意客、店に出入りする貸本屋まで大勢の登場人物が物語に参加し、それでいて全く破綻がない。
佐平次の活躍で関係のない人物同士が繋がっていき軽快に進んで行く物語は、退屈する暇を与えない。これだけの登場人物を描いていながらわかりにくいところが一つもないのだから、この脚本の巧妙さは“お見事”の一言に尽きる。
群像劇を支える役者たちの大熱演
主人公の佐平次を演じているフランキー堺は、実に芸達者な役者だ。何でもできてしまう佐平次の魅力を滑舌のいいセリフ回しや機敏な動きで明るく演じつつ、どことなく漂うこの男の影の部分もさりげなく匂わせる。ただ元気なだけではなく、ミステリアスな要素を残すことで佐平次という人物のカリスマ性が増し、観客はこの主人公に魅了されていく。
さらにおはるとこそめという女郎を演じた南田洋子と左幸子の熱演は見もの。縁側から中庭、さらに2階にまで登って繰り広げられる女同士の取っ組み合いにはものすごい迫力がある。カメラワークのうまさもあって、この女2人の大喧嘩はまさに名シーンだ。
山岡久乃、金子信雄、小沢昭一、菅井きんなどの脇役陣も生き生きとした芝居でこの群像劇を支えている。まだ20歳ちょっとの石原裕次郎も初々しい。
映画『幕末太陽傳』 まとめ
昔々の時代劇だと侮るなかれ。どこを取っても古臭さなど感じさせない精巧な作りになっているので、モノクロ映画になじみがない人も時代劇なんかと思っている人も、これを見たら自分の喰わず嫌いを反省することになるだろう。
若くして亡くなった川島雄三監督の才能が濃厚に詰め込まれたこの作品は、今見てもなぜかみずみずしい。完全に作り物のコメディ映画なのに、登場人物には妙なリアリティーがあり、彼らの生き様や豊かな表情に人間のたくましさや愚かな愛しさを感じてしまう。
60年も前の日本にこんな面白い映画があったのかと思える邦画の名作なので、見て損はない。デジタル修復版が発売されたことからも、その人気の高さが伺えるというものだ。
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