映画『THE 有頂天ホテル』の概要:三谷幸喜監督が、大晦日のホテルを舞台に、様々な人たちの人生模様をコミカルに描いた「グランド・ホテル」形式の群像劇。主人公が働くホテルのスウィートルームには、「グランド・ホテル」(32)に出演したキャストの名前が使われており、三谷幸喜監督の映画愛を感じる。
映画『THE 有頂天ホテル』の作品情報
上映時間:136分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
監督:三谷幸喜
キャスト:役所広司、松たか子、佐藤浩市、香取慎吾 etc
映画『THE 有頂天ホテル』の登場人物(キャスト)
- 新堂平吉(役所広司)
- 「ホテル・アバンティ」の副支配人。お客様第一の有能なホテルマンで、従業員からも客からも信頼されている。アヒルが苦手。
- 矢部登紀子(戸田恵子)
- 新堂の助手を務めるアシスタントマネージャー。新堂のことが好き。
- 只野憲二(香取慎吾)
- ドアボーイ。歌手になるため長年頑張ってきたが、ついに挫折して田舎に帰ろうとしている。
- 瀬尾高志(生瀬勝久)
- 副支配人。裏表のある性格で、あまり人望はない。新堂をライバル視している。
- 竹本ハナ(松たか子)
- 客室係。政治家の武藤田の元愛人。現在はシングルマザー。
- 丹下二郎(川平慈英)
- ラウンジのウエイター。恋人の睦子と結婚したい。
- 野間睦子(堀内敬子)
- 客室係。丹下が勝手に自分のパンツを履いたことが許せない。
- 二階堂源一(伊東四朗)
- 総支配人。お祭り好きで、カウントダウンパーティのことしか頭にない。
- 武藤田勝利(佐藤浩市)
- 政治家。政治家の汚職事件に巻き込まれ、マスコミから身を隠している。
- ヨーコ(篠原涼子)
- ホテル・アバンティで客引きをするコールガール。以前に関係のあった堀田のくねくねダンスの動画を宝物にしている。
- 堀田由美(原田美枝子)
- 新堂の元妻。現在の夫の授賞式のため、ホテル・アバンティを訪れる。
- 堀田衛(角野卓造)
- 由美の夫。鹿の交配の研究で本年度の「マン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた。ヨーコの携帯に保存された自分の全裸動画を消去しようと必死になっている。
- 小原なおみ(麻生久美子)
- ホテルのスウィートルームに滞在する女。憲二の同級生。客室乗務員に化けているが、“親父”と呼ばれる会社社長の愛人。
- 徳川膳武(西田敏行)
- 有名な演歌歌手。舞台の前日になると自殺したくなる。
- 桜チェリー(YOU)
- 売れない歌手。怪しい事務所社長の言いなりで、好きな歌を歌えていない。
映画『THE 有頂天ホテル』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『THE 有頂天ホテル』のあらすじ【起】
大晦日の夜。伝統ある「ホテル・アバンティ」では、カウントダウンパーティの準備が急ピッチで進んでいた。副支配人の新堂は、お客様のことを家族だと考える誠実なホテルマンで、助手の矢部や従業員たちからの信頼も厚い。同じく副支配人の瀬尾は、そんな新堂をライバル視しつつ、面倒な仕事は全て新堂に押し付けてしまう。
ただでさえ忙しい大晦日の夜なのに、ホテル前には政治家の武藤田を追いかけるマスコミが殺到していた。偉い政治家とともに企業からの献金を受け取った武藤田は、そのことでマスコミに追われ、このホテルのスウィートルームに身を隠していた。
今日は「マン・オブ・ザ・イヤー」の授賞式もあり、受賞者の堀田と妻の由美がホテルに到着する。由美は、新堂が15年前に別れた元妻だった。
新堂は忙しい時間の合間を縫って、ベルボーイの憲二の送別会に顔を出す。このホテルで働きながら、プロの歌手を目指してきた憲二は、歌を諦めて田舎へ帰る決意をしていた。あまり他人に干渉しない新堂だったが、自分も過去に舞台監督になる夢を諦めた経験があり、憲二が田舎へ帰ることを反対する。しかし憲二の決意は固く、大事にしていたギターを客室係の睦子へ、バンダナを矢部へ、持っていれば幸せになれるという人形を新堂へあげてしまう。帰るつもりだった客室係のハナと睦子は、クロフォード・スウィートから掃除の依頼が入り、再び仕事に戻る。
パーティに出演予定の腹話術師は、相方のアヒルのダブダブが行方不明になって困っていた。芸能プロの社長は、話を聞きにきた新堂に、新人歌手の桜チェリーを売り込む。社長はチェリーに枕営業をさせるつもりで、新堂にライオネル・スウィートの鍵を渡す。
映画『THE 有頂天ホテル』のあらすじ【承】
ラウンジを訪れた堀田は、コールガールのヨーコに声をかけられる。堀田はヨーコを買ったことがあり、その時に全裸でくねくねダンスを披露していた。ヨーコはその動画を携帯の待ち受けにし、宝物として大事にしている。あまりにバカらしい堀田のダンスを見ると、嫌なことも忘れられるのだ。堀田にはそんなヨーコの気持ちが理解できず、その動画を削除しようとする。しかしヨーコはそれを拒む。
ホテルのトレーニングルームで盗難騒ぎがあり、ホテル専属の探偵が動き出す。探偵はダブダブも捕獲していたが、ダブダブは憲二のバンダナを巻いた状態で逃亡してしまう。
ラウンジでカフェオレを飲んでいた憲二は、同郷の小原なおみに声をかけられる。なおみは、客室乗務員の制服を着ていた。憲二が夢を諦めると聞き、なおみは怒り出す。
猛烈に散らかった部屋を怒り狂いながら掃除していたハナは、部屋にあった宝石と毛皮のコートを身につけ、ポーズを決める。そこへ、耳の大きな男が入ってきて、ハナをこの部屋の宿泊者と勘違いしたまま、ラウンジへ連れていく。この部屋の宿泊者は“親父”と呼ばれる社長の愛人で、耳の大きな男は親父の息子だった。
マスコミから逃げるため、ホテルを移動しようと地下駐車場に待機していた武藤田は、ヨーコに声をかけられ、移動をやめる。武藤田の秘書は、いつも武藤田の気まぐれとわがままに振り回されていた。
由美に声をかけられた新堂は、舞台監督の夢は諦めたと言い出せず、“今年のマン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた”と嘘をついてしまう。新堂は「スタッグ・ディレクター(趣味で鹿の交配を研究している人たち)」を、「ステージ・ディレクター(舞台監督)」と勘違いしており、授賞式では、舞台監督が表彰されるのだと思い込んでいた。由美は真実を話せないまま、新堂から幸運の人形を渡される。
映画『THE 有頂天ホテル』のあらすじ【転】
親父の息子に手切れ金を積まれ、“親父と別れてくれ”と頼まれたハナは、愛人の境遇と自分の過去を重ねてしまう。ハナは、武藤田の元愛人で、女手ひとつで育てている息子の太郎は、武藤田の隠し子だった。
次々とトラブルが発生し、その対応に追われていた新堂は、有名な演歌歌手の徳川膳武の出迎えを、憲二に頼む。なおみは“自分を売り込むチャンスだ”と憲二を煽り、憲二は仕方なく、その役を引き受ける。
授賞式の準備を進めていた新堂は、この賞が鹿の交配の専門家に贈られるものであることを知るが、まだ嘘をつき続ける。いたたまれなくなって会場を出た由美を新堂が追いかけ、ダブダブに耳を噛まれる。負傷した新堂は、芸能プロ社長に渡された鍵を使い、スウィートルームに入る。新堂を待っていたチェリーは、このままではいけないと思い、新堂を殴って逃げていく。新堂は、“最低の夜だ”と、由美に愚痴をこぼす。
必死でヨーコを捜していた堀田は、最上階のレストランで、武藤田とヨーコを見つける。しかしヨーコは動画を消してくれず、堀田は武藤田に追い払われる。
武藤田は、真実を話して政界から干されるか、このまま沈黙を守り悪徳政治家として生き残るかの帰路に立たされていた。見栄っ張りの武藤田は、どちらの道も選択できず、自殺を考える。ヨーコは武藤田に幸運の人形を渡し、何があっても生きるよう励ます。幸運の人形は、新堂から由美、由美から堀田、堀田からヨーコの手に渡っていた。しかし武藤田は聞く耳を持たず、部屋に閉じこもってしまう。
芸人のメイク道具を勝手に使い、顔を白塗りにした総支配人は、あちこちで不審者と間違われ、ホテル内を逃げ回っているうちに迷子になってしまう。ヨーコのコートとカツラを盗んで逃げていたチェリーは、ヨーコと間違われて堀田に追われ、ホテルの物置へ逃げ込む。そこには総支配人もおり、3人はそのまま物置に閉じ込められてしまう。
主役の堀田が行方不明になり、授賞式の関係者は困り果てていた。会場に呼ばれた新堂は、由美がいるのを見て後に引けなくなり、受賞者のふりをしてスピーチを始める。しかし、堀田の代理で妻の由美が舞台上に呼ばれ、自分の猿芝居が全てバレていたことを知る。由美は落ち込む新堂に、“嘘をつく必要なんてなかった”と声をかける。そこへ、“武藤田が大変だ”という知らせが入る。
武藤田の部屋に駆けつけた新堂は、ドアチェーンを切ろうと格闘する。その隣の部屋には、徳川と憲二となおみがいた。明日の大事な舞台を控え、徳川は情緒不安定になっており、死にたいと騒ぎ出す。徳川の気分を変えるため、なおみは憲二の歌を聴いてもらい、その歌を気に入った徳川も一緒に歌い始める。壁越しにその歌を聴いた武藤田は、その曲の歌詞に胸を打たれ、自殺を思いとどまる。
徳川に“プロにはなるな”と言われ、憲二は現実を思い知らされる。あの歌を歌っていたのが憲二だと知った武藤田は、彼を強く抱きしめ、幸運の人形を渡して去っていく。憲二はわけがわからなかった。
盗品だった客室乗務員の制服を返し、なおみは部屋に戻る。愛人だと間違われたまま、事故で顔を負傷した親父と対面したハナは、“愛しているなら一緒になるべきだ”と、親父に忠告する。客室係に戻ったハナは、親父の愛人に戻ったなおみと部屋で遭遇し、親父が303号室にいることを教えてやる。ハナは、なおみが他人だとは思えなかった。
映画『THE 有頂天ホテル』の結末・ラスト(ネタバレ)
憲二は自分のところへ帰ってきた幸運の人形を見つめながら、ホテル内のチャペルまで来る。するとそこへダブダブがやってきて、憲二のバンダナを置いていく。ちょうどチャペル内で丹下にプロポーズされていた睦子は、憲二にギターを返す。戻ってきた愛用の品を装備して、憲二は雄叫びをあげる。
武藤田は緊急記者会見を開き、真実を話すことにする。ところが、それを知ったハナに、“かっこ悪くても生き残る道を選びなさい”と言われて気が変わり、“記者会見は中止する“と言い出す。我慢が限界に達した秘書は、”全てぶちまけてやる“と武藤田を脅し、金銭授与の証拠写真が残った携帯を持って逃げていく。
秘書を追いかけていた新堂たちの前に、ようやく物置から脱出した堀田が現れる。堀田は、秘書の携帯をヨーコのものと勘違いし、彼から携帯を奪って破壊する。みんなが呆気にとられる中、堀田は高笑いして走り去る。
会見場にはすでに多くのマスコミが集まっており、今さら中止にするのはホテルの信用問題に関わる。そこで新堂は、必ずマスコミから守るという約束で、武藤田に会見の場へ出てもらう。
マスコミの前に姿を現した武藤田は、会見の中止を発表し、すぐに席を立つ。当然マスコミは騒ぎ出すが、そこへ憲二に頼まれた徳川が現れ、歌を歌い出す。その間に、新堂たちが武藤田をホテルから脱出させる。従業員に化けてホテルを出る武藤田を、新堂は、“いってらっしゃいませ”と言って送り出す。
チェリーは、“歌いたい歌がある”と言って社長を怒らせ、事務所をクビされる。しかし、他の芸人たちの好意で、カウントダウンパーティの舞台に立たせてもらう。チェリーは、のびのびと好きな歌を歌い、観客たちの歓声を浴びる。会場には、すっきりした顔のハナや、将来を誓い合ったなおみと親父、ヨーコや秘書の姿もあった。
チェリーはノリノリでカウントダウンのコールまでしてしまい、総支配人のお株を奪う。そして年が明け、みんなは賑やかに新年を祝う。由美は矢部に、“あの人のことをよろしく”と伝えておく。丹下は睦子に結婚を承諾してもらい、大喜びする。
新藤は満足げに会場を眺め、瀬尾を押しのけてホテルの玄関へ急ぐ。そして、今年最初のお客様を、“おかえりなさいませ”と言って笑顔で迎える。
映画『THE 有頂天ホテル』の感想・評価・レビュー
さすが、三谷幸喜監督。天才的な脚本の巧さである。
話が綺麗につながり、伏線が綺麗に回収されていく。感心するばかりである。
また、豪華俳優陣が出演しているので全く飽きない。
驚いたのはラストのYOUの歌声。聞き入った。バラエティーでは良く目にする彼女だが、そうだ彼女は歌手だった!と思い出した。
お腹を抱えて笑うシーンが何度もあった。まさに抱腹絶倒。
これは一人で観てはだめだ。友達や家族と一緒に観ることを強くおすすめする映画。(女性 20代)
THE三谷幸喜作品と言っても過言ではない本作。舞台のドタバタ劇を思わせる臨場感と伏線の数々。爆笑シーンは面白くて仕方がないけれど、その反面見事なまでの脚本に関心すらしてしまう。三谷作品は、構成と基本的な流れはだいたい同じであるが、「ラジオの時間」「みんなの家」などの初期の作品は伏線も笑いもセンスも、どこか物足りなさを感じた。
上手くできているとは思うが、本作ほど爆笑に次ぐ爆笑には至らない。篠原涼子が、意外と適役でいい味を出しているのも見どころの一つ。役所広司のスピーチシーンは何度見ても笑ってしまう。それでいて感動を呼び起こさせる起承転結の巧妙さは、まさに素晴らしいの一言。(女性 30代)
様々なシーンが騒がしく、次はどうなるのか展開が気になり、ひとつひとつがお腹を抱えるほど笑える作品だった。ホテルを舞台に、新年のカウントダウンに向けて大忙しな大晦日の日を描いていたが、そこで起きる事件や人との出会いが多くあり、また徐々に繋がっていくシーンが見所である。それぞれ出てくる人達のキャラが強かったが、ぶつかることなく、上手いこと演じていた豪華キャストに、さすがだなと感心した。目まぐるしく映像が流れているが、集中して見入ってしまい、目を離せない映画でもある。(女性 20代)
個人的に三谷幸喜の魅力が一番詰まった作品だと思う。とにかく笑えるシーンが多々あり、伏線回収が丁寧である。それに加えてストーリーまでしっかりと作り込まれているという文句なしの作品である。
この作品の主役を張れるのは役所広司しかいないかもしれない。それほどに適役だった。脇を固める俳優陣もとにかく豪華で癖が強い。しかし全てが上手くまとまっている。この豪華な俳優陣を使いこなせる三谷幸喜の演出には脱帽である。(男性 20代)
ハチャメチャで次から次へ珍事件が起こり、ずっと笑っていられる作品です。忙しいけどラストは伏線も全て回収して、ちゃんと丸く収まってとても楽しかったです。そして、豪華なキャスト!出る人みんながスターでチョイ役でさえ豪華なので注目して見てください。役所広司さんのシカのエピソード最高でした。YOUさんの歌も可愛くてとても良かったです。三谷幸喜さんの群像劇コメディはやっぱり面白いです。何も考えず、ただ笑って見られる作品で元気を貰えます。(女性 30代)
脚本家の三谷幸喜がメガホンをとり、役所広司や松たか子ら豪華俳優が名を連ねたコメディー映画。
大晦日のとあるホテルで、コミカルなキャラクターたちが起こすバタバタ騒動は安定感のある笑いを提供してくれる。入り組んだストーリーが最後に鮮やかに繋がった時、それまで笑っていたのに自然にホロリとさせられる。これはそれぞれのキャラクターの人間性がしっかりと描かれているからに他ならない。ふざけた行動をしていても、その裏にある心情が見てとれるのだ。三谷作品らしく、安定して楽しめる映画である。(男性 40代)
出演しているキャストがとにかく豪華。登場人物が多くてごちゃごちゃしているが、それも含めておもしろい作品。テンポが良くて、駆け抜けていくように物語が進んでいくのが良かった。嘘を吐いたり勘違いしたりして壮大な物語になっていくので、どうやってラストに落ちをつけるのだろうとハラハラしながら見ていた。桜チェリーが楽しそうに歌を歌うシーンが良かった。皆とにかく微笑ましそうに見ていて、作品を見終わった後、楽しい気持ちが余韻として残った。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
大晦日のホテルを舞台にしたドタバタコメディ。三谷幸喜の作品は好きな人は大好きだけど、ハマらない人には全くハマらない作品だと思います。どちらかと言うと私は後者。彼の作品は色々見てきましたが面白さが独特で、彼のこだわりなのか、かなりひねりを効かせているので面白さの他に隠された何かが気になってしまいます。
今作もホテルの部屋に付けられた名前など三谷幸喜が影響を受けたであろう作品に繋がるものが沢山ありました。映画好きを楽しませるびっくり箱のような作品でした。
三谷幸喜の良さが詰まった一本。三谷幸喜を好きな人なら、この作品には彼を好きな理由が幕の内弁当のように詰まっていると感じるだろう。同時にここには三谷幸喜が好きであろうものが詰まっている。(ホテルの名前「Avanti」は彼の敬愛するビリー・ワイルダー監督の作品名に由来していることは疑いの余地もない)
登場人物達はそれぞれの想いを抱えつつ年越しを迎える。新年だから何かが変わるということはないかもしれない。でも新年と共に物事が良い方向に動けばいいなというささやかな願いは持っていても悪くない。
ホテルを訪れる客たちは皆訳ありで、それぞれの人生があって、誰かがどこかで繋がっている。
主役から脇役、ちょい役に至るまでを名立たる俳優陣が演じていることは言うまでもない。
『グランド・ホテル』を始めとする色んな映画のオマージュが含まれており、様々な人間模様が交差し、実に巧妙な脚本と演出で人間味溢れるストーリーとなっている。これをコメディーという枠に留めることはできないほど、多様な要素を持ち合わせた作品だ。
最後には伏線が綺麗に回収されて全部繋がってスッキリした。
大晦日に観返したい映画。
三谷幸喜作品の面白さは配役と映画上のキャラクターの親和性にあると思う。テレビタレントを映画に起用するとどうしてもつきまとう、普段のキャラクターとのギャップだったり、逆にいつもの期待通りのキャラクターだったりを、はっきりと意識したうえで物語に配置している。映画の作り方としては禁じ手に近いが視聴者からすれば安心感があったり、新しい発見ができる。簡単に言えば茶の間を想像して作られた物語。これは演技畑で培ってきたお客を想像する力なのだろう。
大晦日の慌ただしさから、みんなが新年を幸せに迎えるまでの短い時間を描いた映画。こういうドタバタコメディは三谷幸喜の真骨頂ではないだろうか。
少し長めの映画ではあるが、これほど大勢の人物の物語を二時間とちょっとに詰め込むことができたのはお見事である。
主要なキャストはもちろんのこと、端役までしっかり確認するとさらに面白い。ほんの一瞬しか登場しないキャラクターも「え、この人がこんなチョイ役!?」と驚くほどである。アナウンスや、アヒルの声も注意深く聴くと、「あれ?」と驚き、笑ってしまう。
それほど細部まで芸が細かいのは、さすが三谷幸喜。
一度だけではわからない部分も多いこの作品、大晦日に家族全員で何度も楽しみたい映画の一つである。
他の三谷幸喜作品でも、主役級の俳優が大勢揃うことで注目されているが、本作は特に豪華ではないだろうか。
ホテル内の大勢の人物を描く群像劇であることから、登場人物はかなり多くなる。もちろん主演の役所広司がメインであることに違いないが、脇役に至るまで、とにかく豪華なのである。
名の知れた俳優が、20人以上揃っているのである。主要なキャストだけ見ても、役所広司、松たか子、生瀬勝久、香取慎吾、戸田恵子、伊東四朗、佐藤浩市、篠原涼子、西田敏行、YOU、角野卓造などと、その顔触れだけでも豪華で、そして一癖も二癖もあるキャスト陣であることがわかる。
他の作品ではこれだけの豪華キャストは滅多にお目にかかれないだろう。
だからこそ、最後までテンポ良く面白い作品になっているのである。
本作でも、今までの三谷幸喜作品と同じく随所に細かい笑いの仕掛けがあり、最後まで全く退屈しない。
ホテルが舞台で、アメリカの映画『グランド・ホテル』からの影響もみられる。作中でもそのことが語られる。『グランド・ホテル』をきっかけに、複数の人間が同時刻に同じ場所に集い、それぞれの人間模様を描くという手法は、多くの映画作品で取り入れられるようになった。
本作は、グランドホテル方式を上手く使い、見事に展開していく。特に小道具の使い方が上手い。
夢を諦めた憲二は自分が使っていたギター、人形、バンダナをホテルの仲間にプレゼントするのだが、これらは登場人物の複数人の手に渡りながら、巡り巡って最後にはまた憲二の元に戻り、再び夢見ることを後押しする役割を担う。アヒルもそれに一役買っている。
ただ笑えるだけのコメディではない、作りこまれた映画である。