映画『ハリーの災難』の概要:田舎町の山林でハリーという男の遺体が見つかる。猟銃で誤って撃ち殺してしまったと思い込むアルバートだったが、“彼を殺したのは私”と言う人間が現れる。証拠隠ぺいの為に翻弄される人々を描いたサスペンス作品。
映画『ハリーの災難』 作品情報
- 製作年:1955年
- 上映時間:99分
- ジャンル:サスペンス
- 監督:アルフレッド・ヒッチコック
- キャスト:エドマンド・グウェン、ジョン・フォーサイス、シャーリー・マクレーン、ミルドレッド・ナトウィック etc
映画『ハリーの災難』 評価
- 点数:80点/100点
- オススメ度:★★★★☆
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★☆
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『ハリーの災難』 あらすじネタバレ(ストーリー解説)
映画『ハリーの災難』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『ハリーの災難』 あらすじ【起・承】
バーモンド州の田舎町で一つの事件が起こる。禁猟区域で狩りを行っていたアルバートは弾を3発発砲したがウサギの一匹も捕まらない。発砲した弾の跡を探していると空き缶と看板そして、頭から血を流し倒れた男を発見した。
自分が誤って撃ち殺してしまったと思ったアルバート。とっさに男を埋めてしまおうとする。ところが、人影も少ない山林にこの日はやたら人がやってくる。だが不思議なことにハリーの遺体を気に留める人が誰もいない。
絵描きのサムも人が死んでいることにあまり気をとめず、ハリーの遺体をスケッチする。アルバートはそんなサムに遺体を埋めるのを手伝ってほしいと頼む。サムは遺体の人物を知っているロジャースが警察に届けないことを確認できたら遺体を埋めることを手伝うという。
サムがロジャースを訪ねると、ハリーはロジャースの夫で、ロジャースは夫の存在を鬱陶しく思っていたことが明らかに。一方、アルバートはグレブリー夫人に誘われ会食に行く。そこへロジャースの息子アーニーが、アルバートが撃ったウサギを持ってくる。アルバートはグレブリー夫人に好意をもっているが終始彼女のブラックユーモアで楽しい気持ちになりきれない。
ロジャースはハリーのことを警察に通報する気もないので、約束通り遺体を埋めるアルバートとサム。しかし埋めた後にハリーではなくウサギに3発目の銃弾が当たっていたことに気づくアルバート。自分が犯人ではないと確信し、遺体を掘り起こす。しかし、今度はアルバートが行為を持っているグレブリー夫人と、サムが好意に思っているロジャースが殺人犯である可能性も明らかになってくる。そこで二人は掘り起こした遺体を再び埋めるのである。
映画『ハリーの災難』 結末・ラスト(ネタバレ)
それからアルバートはグレブリー夫人を自宅に招待する。そこでグレブリー夫人は自分が襲ってきたハリーを殺したと告白。二人は再びハリーを掘り起こす。その後4人はロジャースの家に集まる。グレブリー夫人は自分の罪と遺体を掘り起こしたことをサムとロジャースにも告げ、正当防衛で警察に行くという。しかし、このことがばれたらマスコミにロジャースの私生活も明かされてしまう。4人で遺体を埋葬することを決める。
埋葬を終えたところに商店を営むウィギーが、「サムの絵を買い取りたい人が店にやってきている」と走ってくる。サムはみんながほしいものと引き換えに自分の絵を売る。ここでサムはロジャースに結婚を申し込みいい雰囲気になるが、ウィギーの息子の保安官代理カルビンが、流れ者が盗んだハリーの靴を持って帰宅することで、空気が一変する。4人はいそいそと退散するが、サムが書いたハリーのスケッチをカルビンが発見してしまう。
4人で家に帰るとロジャースはサムとの結婚を決意し二人は結ばれる。サムは結婚するにはロジャースが自由の身であることを証明する必要があると気づく。そして再びハリーの遺体を掘り出すことに。罪を明かすことに決めた4人は土をかぶったハリーの遺体を元の綺麗な姿にするため自宅に持ち帰る。
そこへカルビンがきてサムはスケッチについて尋問される。その場でハリーの死因を調べに来た医師と鉢合わせしてしまい、あわやという事態に陥るが何とか切り抜ける。医者がハリーの死因は心臓発作と判断。一日で何回も遺体を埋めたり掘り起こしたりしたが、4人のうち誰もハリーを殺していなかったのだ。遺体を元に戻し、アーニーに見つけさせ前日の状況を再現する4人であった。
映画『ハリーの災難』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『ハリーの災難』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
死体がそこにあるのに恐れをなさない登場人物たちの奇妙さ
ヒッチコックサスペンスの中でも、ただの奇妙さとは違う、異質なサスペンス映画がこのハリーの災難だ。一見、このタイトルではハリーという人物の災難を描いてるんだろうな、と思って映画をみる。だが違う。ハリーという男が最初から死んでいるのだ。そして登場人物たちの目の前で死んでいるのにもかかわらず、遺体を見つけた人間たちの反応と来たら、みんな恐怖も哀れみも抱かない。それって現実社会ではありえないことではないか。きっと誰かしら警察に通報するのが自然なのだ。ところがこの映画にはその自然さが存在しない。否応なしにその不自然を受け入れてストーリーを観なくてはならない。その展開を納得させてしまう作りは見事であるがとても奇妙だ。
ハッピーエンドの物語を装い、バックに不気味さを散らす不可思議さ
わずか1日の中で繰り広げられるストーリーにもかかわらず、ハリーの遺体を中心に登場人物たちの人間ドラマがいい感じに展開していく。これまでちゃんと向き合ったことがなかった人物同士が恋人となる。わずか一日で。しかも4人を取り巻く絆と友情感は尋常なものではない。ただそれをつないだものが遺体という異質さ。人の死体で得た幸せって気分がいいものではない気がする。ハッピーエンドなクライマックスも、冷静に考えてみれば不気味としか思えない。
小物使いが秀逸
ヒッチコック作品は小物使いが秀逸と言われている。この映画でも冒頭から銃弾が貫通した空き缶に看板…という小物の使い方が事件をとても分かりやすくしてくれている。グレブリー夫人がアルバートのために準備した巨大なカップの使い方もいい。わざわざサムに持たせて男性の手の大きさまで聞いて買ったのに、アルバートの前では父が死ぬまで愛用していたものと嘘を言ってしまうところはカップ一つを巡りグレブリー夫人の恋愛下手さが伝わってくる。禁猟区で銃を撃っているアルバートが警察の前で拳銃を隠して歩く姿は茶目っ気たっぷりだ。事件に絡むものとしては、サムの死体のスケッチ。絵描きならではの好奇心で書いた死体の絵が保安官代理にばれてしまうという展開もいい。キャラクターに小物を一つセットにすることによっていろんな掛け算ができる。
とんでもない治外法権に包まれた田舎で、とんでもない倫理観を携える人たちを描いた、どの方向から見てもネジが外れてしまっている作品です。撮影時の雰囲気が緩かったのか、ちょこちょこ死体が動いているのが気になりました。ブラックコメディなんでしょうが、死体を見て絵を描く芸術家や、死体を気にせず日常生活を送る演出には苦笑いさせられます。子役たちはトラウマになったのではないかと心配になります(笑)。(男性 20代)
映画『ハリーの災難』 まとめ
冒頭で銃声が聞こえる前に男の声で「お前みたいな奴は…」と声が入る。最後まで物語を観てみれば、ハリーは心臓発作で死んだことになっているので、この男の声の正体はなんだったのだろうか。私には疑問が残った。またアルバートに不安が襲うたびにロジャースの家のクローゼットが勝手に開く不気味さは一体何なのだろう?そこにもしかしたらロジャースの最初の夫が潜んでいるのだろうか?単に観るものに不安を感じさせる手法の一つでしかないのか。
はたまた、これは撮影か編集のミスなのかそうでないのか、風呂に隠した遺体の足が一瞬動くシーンも見受けられる。あのヒッチコックがそんなミスを犯すだろうか?疑問が尽きないこの映画は回収しきれない不気味さがちりばめられているので、映画に描き切れなかった設定があるのではないかという想像が膨らむ宝庫のような作品だ。最後の“ハリーの災難は終わった”という一言。確かにハリーの災難は終わったかもしれないが、ハリーじゃない人物の災難はこれから始まるのだろうか?この映画には裏がたくさんありそうだ。
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