この記事では、映画『浮草』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『浮草』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『浮草』の作品情報
上映時間:119分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:小津安二郎
キャスト:中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩 etc
映画『浮草』の登場人物(キャスト)
- 嵐駒十郎(中村鴈治郎)
- 嵐駒十郎一座を率いる旅役者。座員からは“親方”と呼ばれている。お芳との間に一人息子の清がいるが、清の将来を考えて、別々に暮らしている。清は駒十郎をお芳の兄だと教えられ、“おじさん”と呼んでいる。
- すみ子(京マチ子)
- 温泉芸者をしていたが、駒十郎に惚れて一座に加わる。一座の花形であり、駒十郎の内縁の妻のような存在。気性が激しく、嫉妬深い。
- 本間清(川口浩)
- 駒十郎の息子。2年前に高校を卒業し、大学進学を目指して郵便局でアルバイトをしている。健康的でまじめな青年。駒十郎やお芳にとっては自慢の息子。
- お芳(杉村春子)
- 志摩半島の小さな港町で、一膳飯屋を営んでいる。駒十郎とは20年以上の付き合いで、強い信頼関係で結ばれている。清を立派な人間に育てるため、女手ひとつで頑張ってきた。
- 加代(若尾文子)
- 駒十郎一座の座員。死んだ父親も駒十郎一座の旅役者だった。すみ子に頼まれ、純情な清を誘惑する。
映画『浮草』のネタバレあらすじ(起承転結)
映画『浮草』のあらすじ【起】
夏。志摩半島の小さな港町にある相生座に、嵐駒十郎一座が興行にくる。駒十郎がこの土地を訪れるのは、12年ぶりだった。
座員たちは町を練り歩き、今晩からの芝居の宣伝をする。相生座の旦那は酒を持ってお祝いに駆けつけ、駒十郎と昔を懐かしむ。旦那は小さかった加代が立派な娘に成長しているのを見て、時間の流れを感じる。
駒十郎は、ひとりで町の一膳飯屋を訪ねる。店の主人のお芳は、喜んで駒十郎を奥の部屋へ通す。2人は20年以上前に男女の関係となり、お芳は清という男の子を生んでいた。駒十郎は清に旅役者の暮らしをさせるのが嫌で、お芳に清の養育を任せてきた。清は駒十郎のことをお芳の兄だと思っており、実の父親は死んだと聞かされていた。
清は2年前に高校を卒業し、大学進学を目指して郵便局でアルバイトをしていた。立派な青年に成長した清を見て、駒十郎は目を細める。清は、駒十郎にとって、たった一人の血を分けた息子で、離れて暮らしてはいたが、駒十郎は清を溺愛していた。
その夜、初日の芝居は7割ほどの客入りで、すみ子は初日にしては少ないと興行の心配をする。機嫌のいい駒十郎は、これから尻上がりになるはずだと楽観的に考える。

映画『浮草』のあらすじ【承】
翌日、駒十郎は清と釣りに出かけ、楽しい時間を過ごす。すみ子は、駒十郎が若い男と釣りに出かけたと聞いて不審に思う。
すみ子は、帰ってきた駒十郎に、郵便局の若い男とは誰なのかと詰問する。駒十郎のそぶりから、何か隠し事をしていると感じたすみ子は、古い座員の六三郎から事情を聞き出す。六三郎は仕方なく、お芳のことを教えてやる。
ある日、駒十郎がお芳の家で清と将棋を指していると、店にすみ子がやってくる。お芳からお迎えが来たと聞いた駒十郎は、すみ子の姿を見て驚く。感情的になったすみ子は、店で騒ぎ始め、駒十郎はすみ子を外へ連れ出す。
降りしきる雨の中、駒十郎とすみ子は大喧嘩をする。清にまでからんだすみ子に、駒十郎は本気で腹を立てていた。駒十郎は清に近づかないよう、すみ子を厳しく叱る。
すみ子は加代に金を渡し、郵便局にいる清という青年を誘惑して欲しいと頼む。加代は一度は断るが、すみ子の剣幕に押されて、その話を引き受ける。
翌日、加代は郵便局を訪れ、清を誘い出す。加代に、芝居が終わる時間に相生座まで来てほしいと言われ、清はのこのこ出かけていく。加代からキスされ、清は加代に夢中になっていく。
映画『浮草』のあらすじ【転】
長雨にも祟られて客足が伸びず、芝居は中止となる。しかし次の興行先へ話をつけに行った先乗りからは何の便りもなく、一座は足止めを食らう。座員たちは海で暇を潰しながら、一座の行く末を心配する。
あの晩から、加代と清は毎日のように会っていた。郵便局のアルバイトをサボってまで自分と会いたがる清を見て、加代は罪の意識を感じる。そして、すみ子の依頼で清を騙すつもりだったのだと打ち明ける。自分のような女を相手にするべきではないと何度諭しても、清は加代を離そうとしない。加代も、そんな清に本気で惹かれていく。
お芳は、最近清の帰りが遅い理由を、郵便局で勉強しているからだと思い込んでいた。しかし、駒十郎が父親であることが、すみ子の口から清に伝わるようなことはないかと心配していた。お芳は、駒十郎が父親であることを自分から清に話してもいいと思っていたが、駒十郎は“今のままでいい”と言い続けるのだった。
お芳の家で清を待っていた駒十郎は、清が一向に帰らないので相生座へ戻る。帰り道で、清が加代と会っているのを目撃し、2人がただならぬ関係であることに気づく。駒十郎は、戻ってきた加代を怒鳴りつける。駒十郎に“金目当てか!”と罵られ、加代は傷つく。そして、すみ子から頼まれたのだと打ち明ける。
駒十郎はすみ子を呼び出し、いきなり殴る。気の強いすみ子は歯向かってきたが、駒十郎が本気で自分を捨てる気なのだと知って、急に気弱になる。駒十郎は、清を巻き込んだすみ子が許せず、一座から出ていくよう告げる。
映画『浮草』の結末・ラスト(ネタバレ)
この一座にいても将来はないと感じた3人の座員は、金目のものを盗んで逃げようかと相談する。しかし、吉之助という座員が反対し、他の2人も自分たちの不義理を反省する。
ところが、偉そうに説教をしていた吉之助が、一座の金や座員たちの私物を盗み、逃亡してしまう。先乗りにも裏切られ、駒十郎一座は解散するしかなくなる。今回の芝居の稼ぎも微々たるものだったが、駒十郎はそれを座員たちに足代として渡し、別れの宴会を開く。座員たちの気遣いで、すみ子もその輪に加わる。駒十郎は、散り散りになる座員たちに“再起するときは知らせるから”と約束し、愛着のある一座を解散する。
駒十郎は、とりあえずお芳のところへ行く。お芳は、“これを機に親子3人水入らずで暮らせばいい”と言ってくれる。そして駒十郎もその気になる。ところが、清が加代と一緒に出て行ったことがわかり、駒十郎の顔色が変わる。
清は、貯金まで下ろして加代と駆け落ちしていた。駒十郎は清に失望するが、お芳は息子のことを信じていた。
清は加代に諭され、すぐに帰ってきた。駒十郎は、清と一緒に帰ってきた加代をいきなり殴る。それをかばった清も駒十郎に殴られ、力任せに駒十郎を突き飛ばす。お芳は、駒十郎が清の父親であることを打ち明けるが、清は“オヤジなんかいらない”と反発する。お芳は、清の将来を考え、金を送り続けてきた駒十郎の親心を話して聞かせるが、清は折れない。
清から“出て行ってくれ”と言われた駒十郎は、寂しそうに笑って旅支度をする。加代は自分の過ちを心から詫びる。駒十郎は、お芳に加代のことを頼んで旅立っていく。
加代に呼ばれ、清も駒十郎を追おうとするが、お芳がそれを止める。お芳には、駒十郎の気持ちが痛いほどわかっていた。清も加代も、そしてお芳も、駒十郎を想って涙を流す。
駅の待合所へやってきた駒十郎は、すみ子と再会する。知らん顔をする駒十郎に、すみ子は“2人で一からやり直そう”と頼む。駒十郎はそれもいいかと考え直し、すみ子と夜汽車に乗りこむのだった。
映画『浮草』の感想・評価・レビュー(ネタバレ)
男は寡黙で多くを語らない。女はしなやかに艶っぽく。男らしさ、女らしさを目に見えるように描いた、ものすごく人間らしいリアルな作品でした。
親と子、夫婦、家族、同僚など様々な形の絆や愛が描かれています。今とは違う時代背景ですが、共感できる部分も多かったです。最初は客観的に見ていましたが、だんだんと感情移入してしまい、自分の事のように感じてしまうような作り方は素晴らしいなと感じました。(女性 30代)
小津安二郎監督ならではの静謐な語り口で、登場人物たちの複雑な感情が淡々と、しかし確かに描かれていました。旅役者の男がかつての恋人と再会し、その間にできた息子を「甥」と偽りながら交流する姿は切なさに満ちています。後妻の妬みや息子の怒りと向き合う過程で、男の矛盾した感情が浮かび上がり、ラストの再出発には寂しさとわずかな希望を感じました。(50代 男性)
『浮草』は色彩の美しさと、抑制された演出が心に残る作品でした。特に夏の陽射しの中で描かれる日常風景に、登場人物たちの心の機微が重ねられていて美しい。旅役者・駒十郎が息子と打ち解けていく描写には温かみを感じましたが、それが偽りであることを知った息子の反応には胸が痛みました。父であると告げられず去っていく姿に、親の不器用な愛を見た気がします。(30代 女性)
初めての小津作品でしたが、思ったよりもドラマチックで驚きました。舞台役者たちの人生が「演じる」ことと表裏一体で、誰もが何かを隠して生きている。駒十郎が息子に対して本当のことを言えないのも、その“舞台”の一部のように感じました。後妻のすみ子が取った行動も、ただの嫉妬ではなく切実な人間味があって、登場人物すべてに感情移入してしまいました。(20代 男性)
映像の色彩が本当に美しく、モノクロ作品のイメージが強かった小津監督の中でも印象深い一本でした。家族でありながら家族として過ごせなかった時間の長さが、駒十郎と清の距離感から伝わってきます。秘密が明かされてからの息子の戸惑いや怒りもリアルで、あの年代なら当然の反応だろうと思いました。再び旅立つラストの余韻が忘れられません。(40代 女性)
役者という不安定な職業に生きる男と、地元に根ざした母子の関係。生活基盤が違う者同士が再び交わる難しさがリアルでした。駒十郎の息子への愛情は本物だったと思いますが、過去の選択のツケを払うことはできなかった。その現実を突きつけるような結末に、人生の厳しさを感じました。静かだけれど深く刺さる映画です。(60代 男性)
小津作品の中では、人間の情念が強く出ている印象で、すみ子の嫉妬や駒十郎の自己中心的な愛情がむしろリアルでした。善悪では割り切れない人間関係が魅力で、特に親子の再会と別れの場面には涙が出ました。演劇という「虚構」を生業にする人間が「本当の家族」を求めても、それが叶わない悲しみが全体を覆っています。(30代 男性)
母子の平穏な暮らしに、過去の男が戻ってくる。その設定だけでも波乱が予感されましたが、予想以上に静かな語り口で人間の感情が描かれていて、小津作品の巧みさを感じました。駒十郎が結局、清や息子に真実を告げきれず去っていく姿に、誠実になれなかった大人の哀しさを見ました。見終わった後も、じわじわと心に残る映画です。(20代 女性)
「浮草」というタイトルがとても象徴的でした。舞台役者という定住しない存在と、土地に根ざして生きる母子との対比が見事。駒十郎が家庭を持たなかったことも、過去を曖昧にして生きてきたことも、彼なりの覚悟だったのかもしれない。でも、それが裏目に出てしまう皮肉さが、人生のままならなさを感じさせました。(40代 男性)
ストーリー自体はシンプルなのに、登場人物の感情の重なり方がとても繊細で、何気ない台詞にグッときました。清が息子に父のことを語らずに育てたことも、その愛情ゆえと感じます。駒十郎がそれを壊してしまうのではとヒヤヒヤしましたが、最後は結局、元の生活に戻るという流れに救いがありました。静かな感動です。(50代 女性)
ChatGPT:
映画『浮草』を見た人におすすめの映画5選
東京物語
この映画を一言で表すと?
静かな日常の中に親子の断絶と絆を描いた、小津安二郎の最高傑作。
どんな話?
老夫婦が子どもたちを訪ねて東京を訪れるも、世代間の価値観のズレにより寂しさを感じながら帰郷することになる物語。家族のすれ違いを、穏やかな映像と丁寧な演出で描き切る名作です。
ここがおすすめ!
『浮草』と同様、家族の内面に深く迫るテーマが心に響きます。静かで控えめな演出ながら、観終わった後にじわじわと感情があふれてくる余韻は格別。日本映画史に残る一本です。
浮草物語(1934)
この映画を一言で表すと?
モノクロ時代の小津が描いた、もうひとつの『浮草』の原点。
どんな話?
1959年の『浮草』のオリジナルにあたる作品で、基本的な筋書きは共通していますが、無声映画としての表現や演出の違いが魅力。旅回りの役者たちとその裏にある人間模様をより淡々と描いています。
ここがおすすめ!
同じ物語を異なる時代・技術・演出で味わえるのは貴重な体験。比較して観ることで小津の演出の進化や意図の違いに気づき、『浮草』の深みがさらに増します。小津ファンなら必見の作品です。
たそがれ清兵衛
この映画を一言で表すと?
市井の中で生きる侍の姿から、静かな愛と誇りを描き出す感動作。
どんな話?
幕末の下級武士・清兵衛が、出世や名誉よりも家族との時間を大切にする姿勢を貫きながら、避けられない戦いに巻き込まれていく物語。日常と非日常が交錯するなかで、人としての誠実さが試されます。
ここがおすすめ!
『浮草』と同じく、家庭と社会の狭間で葛藤する男の姿が印象的です。派手な殺陣よりも心の機微を丁寧に描く山田洋次監督らしい手法が、小津の美学と通じ合うポイント。静かな感動を求める方におすすめです。
男はつらいよ 寅次郎紅の花
この映画を一言で表すと?
愛すべき放浪者・寅さんの人生に訪れる、最後の淡い恋の物語。
どんな話?
全国を旅する寅さんが鹿児島で元芸者の女性と再会し、心惹かれていく。だが、根無し草のような寅さんにとって、それは叶わぬ恋。別れの切なさと温もりが心に残るシリーズ第48作目です。
ここがおすすめ!
「浮草=定住しない人生」という点で寅さんとの共通点は多く、旅を通して出会いや別れを繰り返す儚さが胸を打ちます。シリーズの中でも特に感傷的で、人生の哀歓が詰まった1本です。
夜叉ヶ池(1979)
この映画を一言で表すと?
幻想と人間の業が交差する、濃密な舞台的世界観の映像詩。
どんな話?
泉鏡花の戯曲を映画化した作品で、閉ざされた村に伝わる伝説と、そこに関わる人々の人間ドラマが交錯していく幻想的な物語。舞台劇のような構成とセリフ回しが特徴的で、濃密な空気感に包まれています。
ここがおすすめ!
『浮草』同様、舞台・芸能の世界を通じて人間関係の複雑さが描かれます。虚構と現実の境界が曖昧になるような美しい映像と、感情のぶつかり合いが見どころ。観る人を選びますが、ハマる人には深く刺さる作品です。
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