映画『未来を花束にして』の概要:女性がひどい差別を受けていた1912年のイギリスで、女性の参政権を訴え続けた女性たちの闘いの軌跡を描く。キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム=カーター、アンヌ=マリー・ダフ、メリル・ストリープといった実力派の女優陣が、迫真の演技を見せている。
映画『未来を花束にして』の作品情報
上映時間:106分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:セーラ・ガヴロン
キャスト:キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム・カーター、ブレンダン・グリーソン、アンヌ=マリー・ダフ etc
映画『未来を花束にして』の登場人物(キャスト)
- モード・ワッツ(キャリー・マリガン)
- ロンドンの洗濯工場で生まれ、7歳の時から洗濯女として働いてきた24歳の女性。同じ工場で働く夫のサニーとの間に、ジョージという息子がいる。12歳頃から、工場長に性的虐待を受けてきた。ヴァイオレットに誘われ、女性の参政権を求める活動に参加する。
- イーディス・エリン(ヘレナ・ボナム=カーター)
- 夫と薬局を営む聡明な女性。女性活動家の地区リーダー。パンクスハースト夫人の抵抗運動に賛同し、急進派の活動を続けている。逮捕歴9回、投獄歴も4回ある。心臓が弱い。
- ヴァイオレット・ミラー(アンヌ=マリー・ダフ)
- モードと同じ洗濯工場で働く古参の活動家の女性。12歳になる娘も同じ工場で働き始める。ヴァイオレットの娘が、工場長から性的虐待を受けているのを見て、モードは活動への参加を決める。
- エミリー・ワイルディング・デイヴィソン(ナタリー・プレス)
- 強い信念を持った女性活動家。命と引き換えに女性の参政権を訴え、世論を動かす。
- エメリン・パンクスハースト(メリル・ストリープ)
- 急進派の女性参政権論者のリーダー。警察の追跡から逃げながら、イギリス全土の女性に抵抗運動をするよう呼びかけている。
- アーサー・スティード警部(ブレンダン・グリーソン)
- モードたち活動家の女性を取り締まるロンドン市警の警部。忠実に任務を遂行しているが、女性を迫害することに迷いを感じ始める。
- デビッド・ロイド・ジョージ(エイドリアン・シラー)
- この当時のイギリス自由党のリーダー。後にイギリス首相となる。
映画『未来を花束にして』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『未来を花束にして』のあらすじ【起】
1912年、イギリスのロンドン。この当時のイギリスでは女性の社会的地位が低く、女性は政治判断に向かないという根拠のない理由で、参政権を認められていなかった。何十年もの間、女性たちは、男女平等と参政権を平和的に要求してきたが、その声は無視されてきた。この状況を変えるため、急進派の参政権論者として知られるエメリン・パンクスハーストは、目に見える形で抵抗運動をするよう全国の女性たちに訴えていた。
洗濯女をしていた母親の元に生まれ、7歳の時からベスナル・グリーンの洗濯工場で働き続けてきたモード・ワッツは、街で急進派の抵抗運動を目撃する。彼女たちは店に投石してガラスを割り、女性の参政権を訴えていた。活動家の中には、同じ工場で働くヴァイオレット・ミラーの姿もあった。
モードは、同じ工場で働く夫のサニーと、まだ幼いジョージという息子と3人で暮らしている。工場での労働は過酷で、賃金も最低だったが、モードはそれが当たり前だと思ってきた。女性の参政権が認められる世界など、モードには想像することすらできなかった。
そんなある日、モードはヴァイオレットから活動家の集会に参加しないかと誘われる。ヴァイオレットには、洗濯工場で働き始めた12歳になる娘がおり、娘の未来のためにも現状を変えたいと思っていた。しかしモードは、その誘いを断る。
ジョージの胸の調子が悪く、モードは薬局へ薬をもらいにいく。この薬局を営んでいるイーディス・エリンは、この地区の急進派のリーダーで、警察からマークされていた。イーディスの薬局に出入りする女性を隠し撮りしていた警察は、モードの写真も撮影し、彼女を新参者の活動家だと誤解してしまう。
モードは活動に参加するつもりはなかったが、ヴァイオレットの娘が工場長に性的虐待されているのを目撃し、考えを改める。モード自身も、工場長から性的虐待を受けてきた。
映画『未来を花束にして』のあらすじ【承】
モードは、ヴァイオレットが洗濯女の現状を証言するという公聴会へ行ってみることにする。サニーには反対されるが、モードは見学するだけだと断って、公聴会へ出かけていく。
ところが、公聴会の前にヴァイオレットがケガをしてしまい、急遽モードが代役を務めることになる。モードは、委員長のロイド・ジョージの前で、洗濯女がいかに過酷な労働を強いられているかを正直に語り、いい証言だと評価される。モードは生まれて初めて、他の生き方があるのかもしれないという希望を持つ。
モードは自己主張することに喜びを感じ、デモ行進に参加する。公聴会での審議の結果が出る日、多くの女性が国会議事堂前に集まっていた。彼女たちの期待に反して、ロイド・ジョージは女性の参政権に関する法改正が否決されたことを発表する。女性たちは怒りの声を上げ、警察に制圧される。モードも、イーディスやヴァイオレットとともに逮捕されてしまう。
モードの取り調べを担当したスティード警部は、「急進派ではない」という証言を却下し、彼女を投獄する。イーディスやヴァイオレットは投獄に慣れていたが、モードは怯えきっていた。妻が逮捕されたことで、サニーも肩身の狭い思いをする。活動家の女性たちに、世間の目は冷たかった。
モードは1週間で釈放されるが、サニーは相当怒っていた。モードは謝罪し、2度とこんな真似はしないと誓う。しかし一度芽生えた自立心は、簡単には消せなかった。
姿を隠していたパンクスハースト夫人の演説が極秘で行われることになり、ヴァイオレットに誘われ、モードも集会に参加する。窓辺に姿を見せたパンクスハースト夫人は、「将来生まれる少女のために闘い続けよう」と女性たちに呼びかける。そして支援者たちにガードされ、その場を立ち去る。モードは再び警察に捕まり、警察車両に乗せられ、自宅前で降ろされる。
サニーは激怒し、家からモードを追い出す。モードは「ジョージに会わせて」と懇願するが、サニーはドアを開けてくれない。モードは仕方なく、ヴァイオレットが用意してくれた安宿に身を寄せる。
映画『未来を花束にして』のあらすじ【転】
急進派の活動が活発化し、警察は警戒を強める。警察は活動家たちの写真を新聞に掲載し、モードたちを追い詰めていく。モードは職場の仲間にも敬遠され、工場長からクビを言い渡される。モードはずっと我慢してきた怒りを爆発させ、工場長の手にアイロンを押し付ける。
通報を受けて工場へやってきたスティード警部は、「警察のスパイになるなら、今回のことは見逃してやる」とモードに持ちかける。スティード警部は、その気になったら連絡してくるよう、モードに連絡先を教えておく。しかしモードは、警部の誘いをきっぱりと断る。
イーディスは世間の注目を集めるため、さらに過激な手段に出るべきだと考える。モードは急進派の秘密基地である無人の教会で寝泊まりし、本部の仕事を手伝い始める。そして夫の目を盗み、ジョージに会いにいく。幼いジョージは、母の不在を寂しがっていた。
モードたちは、郵便ポストを爆破したり、電話線を切ったりして、ロンドンの通信手段を麻痺させる。警察は急進派の仕業だと確信していたが、なかなか証拠がつかめない。イーディスはさらに、ロイド・ジョージの別荘を爆破するという、かなり危険な作戦の決行を決める。
ヴァイオレットはやりすぎだと反対し、仲間を抜けると言い出す。モードは引き止めるが、彼女が妊娠していると知り、止めるのをやめる。
ジョージの誕生日。モードはひと目息子に会いたくて、家に帰る。しかしサニーはモードに何の相談もせず、ジョージを養子に出すことに決めていた。モードは愛するジョージとも引き裂かれ、本当に何もかも失ってしまう。
イーディスは自家製の爆弾を作り上げ、モードとエミリーという熱心な活動家とともに、ロイド・ジョージの別荘を爆破する。パンクスハースト夫人は「自分のせいだ」と言って全責任を被り、実行犯たちを擁護する。警察は証拠のないままモードたちを逮捕し、自白を迫る。モードは固く口を閉ざし、不当な逮捕に対する抗議のための断食を開始する。
断食5日目、モードは鼻のチューブから無理矢理栄養を取らされそうになり、激しく抵抗する。その様子を見たスティード警部は、上司に野蛮な治療が行われていると報告し、これを止めさせる。スティード警部は、本気でモードのことを心配していた。自白を拒み続けたモードとイーディスとエミリーの3人は、証拠不十分で釈放される。
映画『未来を花束にして』の結末・ラスト(ネタバレ)
活動本部に警察の家宅捜索が入り、6人の活動家が逮捕される。イーディスは、自分たちの活動がなかなか注目されないことに業を煮やし、国王に直訴するという大それた作戦を思いつく。決行日は、国王がダービー観戦をする日に決まる。
イーディスの夫は、妻の心臓が限界に達していることを心配し、彼女を鍵のある部屋に閉じ込めてしまう。夫はこれまで妻の活動に理解を示し、協力もしてきたが、妻を死なせるようなことはしたくなかった。
待ち合わせ場所にイーディスが来ないので、モードとエミリーは2人で競馬場へ向かう。競馬場は、汽車に乗って移動しなければならない遠方にあった。スティード警部は、隠れ家の教会でダービー開催について書かれた新聞を見つけ、モードたちの後を追う。
競馬場は、大勢の観衆でにぎわっていた。モードとエミリーは国王の姿を確認し、パドックに侵入しようとする。しかし、警備員に注意され、パドック内への侵入を諦める。エミリーは、国王の観覧席とマスコミのカメラの位置を確認し、人混みをかき分けて移動する。モードは必死で、エミリーの後を追いかける。
ダービーが始まった。現場に到着したスティード警部も、モードたちを探していた。エミリーは、国王からよく見えるコース前まで移動し、モードに「諦めず、闘い続けて」と言い残して、猛スピードで走る馬の前に飛び出していく。エミリーは馬に跳ね飛ばされて死亡し、現場は騒然とする。エミリーは、「女性に参政権を」と書かれた旗を持っていた。モードは涙を流し、黙ってその場を去っていく。そしてロンドンに着いてすぐ、工場長からヴァイオレットの娘を救い出し、信頼できる議員夫人に保護してもらう。
エミリーの死は新聞で大きく報道され、女性の参政権を求める闘いに全世界の注目が集まる。彼女の葬儀には白いユリを持った何千人もの女性たちが参列し、ついに世論が動き始める。モードたちはその後も活動を続け、1918年、イギリスで30歳以上の女性に対し、制限選挙権が付与される。1925年には、母親の親権が法律で認められる。そして1928年、モードたちの闘いが実を結び、イギリスで男女平等による普通選挙が実現する。
映画『未来を花束にして』の感想・評価・レビュー
日本の婦人参政権は1945年に認められた。授業で習うので、関与した人物も経過も知っている。でも、この背景に生活があることは考えたことも無かった。
活動家の拘束なんて、革命にはつきものだと思っていたけど、近所から白い目で見られたり、家族が壊れたりしていくのを映像として見ると、胸に迫ってくるものがある。
恐怖と緊張に支配された毎日。
歴史に名を刻む主格の活動家だけでなく、名も無い勇者が大勢いた事を教えてくれる作品だと思う。(女性 30代)
主人公のモードは、男女格差があり環境も劣悪な洗濯工場で働いていたが、私生活では夫と息子と平凡だが穏やかな生活を送っていた。それが偶然が重なって、婦人参政権を獲得するための運動に参加することになる。
自分が置かれた環境や立場がおかしいと自覚し、それを変えたいという意志を持つためには、それが判断できるだけの知識が必要だと感じた。流されるままに生活するしかなかった当時の女性を思うと胸が痛くなる。いま当たり前に享受できている権利も、先人たちの努力の結果だということを忘れてはいけないと思わせる映画だった。(女性 40代)
みんなの感想・レビュー