映画『子ぎつねヘレン』の概要:大河原太一は母が仕事で海外に行くことが決まったため、母の恋人の家に1人で引っ越すことになった。太一は家にも馴染めず、転校先のクラスにも馴染めず孤独を感じていた。そんな時、親狐とはぐれた子狐を見つける。
映画『子ぎつねヘレン』の作品情報
上映時間:108分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:河野圭太
キャスト:大沢たかお、松雪泰子、深澤嵐、小林涼子 etc
映画『子ぎつねヘレン』の登場人物(キャスト)
- 矢島幸次(大沢たかお)
- 矢島動物診療所の院長。傷ついた野生動物も治療するため、常に経営危機の状態。目の前で困っている人を放っておけない性格。口は悪く、ぶっきらぼう。
- 大河原律子(松雪泰子)
- カメラマン。「自分が幸せなら周りも幸せ」と言う考えを持つ。破天荒な性格。幸次の恋人。
- 大河原太一(深澤嵐)
- 小学生。律子の息子。母の自由さに振り回されながらも、まっすぐ素直な性格に育つ。母がいないことを寂しく思いながらも、口に出さないタイプ。
- 矢島美鈴(小林涼子)
- 学生。幸次の娘。診療所の手伝いも行っている。亡くなった母のことを、今でも大切に思っている。しっかり者。
映画『子ぎつねヘレン』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『子ぎつねヘレン』のあらすじ【起】
大河原太一の母の律子はカメラマンで、現在ミクロネシアと言う国で生き物の写真を撮っていた。太一は父がおらず、母の恋人の元に1人で引っ越すことになった。転校した先のクラスにも馴染めず、母と離れ離れになったことも寂しかった。そんな時、1匹の子狐を見つける。太一は親狐と離れ離れになってしまったその子狐に、自分自身を重ね合わせた。
太一は帰らなければならなかったが、どうしても子狐を放っておくことができなかった。派出所の警官に親狐を見つけて欲しいと頼んだ。警官は困り果てるが、その時どんな野生動物でも面倒を見てくれる場所があることを思い出す。警官は太一を連れてその場所に向かうが、途中で道が分からなくなる。偶然通りかかった女性に道を尋ねた。太一はその女性が黒い頭巾を被っていたため、魔女のように見えて怖くなった。辿り着いたのは、矢島動物診療所だった。
獣医の矢島幸次が狐を洗い、その娘で助手の矢島美鈴が太一を洗った。律子の恋人とは幸次のことだった。美鈴は「コブがコブを連れてきてどうするのだ」と皮肉り、狐を連れて帰って来たことを叱った。太一は狐を飼いたいと幸次に伝えるが、野生動物だからダメだと叱られる。しかも、入院費を求められる。太一は払うことができなかったため、子狐を戻しに行くことにした。幸次は太一を止めると、入院費として動物の世話を手伝わせた。
狐の体内には稀に寄生虫がいることがあるため、幸次は検査が終わるまで狐に近づかないよう太一に注意した。だが、太一はどうしても子狐のことが気に掛かり、注意を無視して狐に会いに行ってしまう。それに気づいた幸次は、太一を叱り飛ばした。その時、子狐の検査結果を知らせる電話が掛かってきた。幸次が電話の相手に「殺す」と話していたため、太一は子狐が殺されてしまうのだと思い、自転車の籠に子狐を入れて家を出た。
映画『子ぎつねヘレン』のあらすじ【承】
太一と子狐は警官に保護され、診療所に戻った。そこで、幸次が話していた「殺す」が、寄生虫を殺そうとしていたことだと知る。太一は安堵した。幸次は子狐の世話をするが、あまりにも大人しいため異変を感じる。子狐は鳴き声も上げず、音にも反応しなかった。目立った外傷がないため、脳に損傷があり、目も耳も不自由な可能性が高かった。幸次は「まるでヘレンケラーのようだ」と呟いた。幸次には子狐を治してあげることはできなかった。太一は困り果てた幸次のことなど気にせず、子狐に「ヘレン」と名付けた。
幸次はヘレンを安楽死させてあげた方が良いのではないかと考えていた。美鈴はそんな父に、母が生きていたら止めたはずだと伝えた。それでも悩む父に、美鈴は苛立ちを隠せなかった。優柔不断な性格のせいで、動物だけなら飽きたらず、恋人の子供である太一までも抱え込むようになってしまったのだ。幸次はお母さんが必要ではないのかと尋ねるが、美鈴にとって母は死んだ母1人だけだった。
幸次はヘレンの口を開け、スポイドで無理矢理ミルクを与えた。ヘレンは匂いを感じることができないため、ミルクでさえ恐怖の対象だった。太一は嫌がっているヘレンを助けようとするが、幸次は無理矢理にでもミルクを飲ませないと生きられないのだと太一を叱った。幸次は安楽死を勧めるが、太一が嫌がったため、ヘレンにとって何が幸せなことなのか考えておくよう宿題を出した。
映画『子ぎつねヘレン』のあらすじ【転】
太一は自分の母のことを思い出し、親元に返すのがヘレンにとっての幸せだと考えた。そのため、ヘレンにミルクを飲ませ、大きく育てることにした。嫌がるヘレンを必死に抑え、皿に入れたミルクを飲ませた。すると、ヘレンはミルクを飛ばしながら少しだけ飲んだ。
幸次は太一に今のままだと野生に返せないことを伝えた。匂いが分からないため、餌の場所や敵の区別もつかないのだ。だが、ヘレンが大きく育てば、手術で治る可能性はゼロではなかった。太一は喜ぶが、親元に返せばヘレンに会えないことに気づく。幸次にヘレンを撮って欲しいと頼むと、自分で撮れとカメラを渡される。太一は嬉々として、色んなヘレンの写真を撮った。
太一は狐が砂丘で暮らしていること、母親狐は他の子供も分け隔てなく育てることを知り、ヘレンを連れて砂丘に向かった。親元で暮らすことに慣れさせようとしたのだ。だが、ヘレンは突然暴れ始めた。幸次はヘレンがどんな世界で生きているか教えるために、太一に耳栓をして目隠しを行った。太一は暗闇の中で、世界から切り離されたような怖さを感じた。少し動けば枝が刺さり、ヘレンがどんな辛い思いをしているかが分かった。
太一が必死に世話をしたお蔭でヘレンの体重が増えた。幸次は恩師の上原教授に手術を頼み、ヘレンを預けることにした。その間、太一はヘレンが戻って来たときに一緒に走れるように、同級生にスケボーを教えてもらった。幸次は上原教授から連絡をもらい、手術しても治る見込みがないことを教えてもらう。ヘレンのことを考え、そのまま教授の元で預かってもらうことにした。
太一はヘレンが戻って来ないことを知りショックを受ける。そして、幸次を責めた。太一は治らないなら自分が育てると伝えるが、幸次からお前に何ができるのだと反論されてしまう。しかし、太一はヘレンと別れることはできなかった。幸次が客から預かっていた犬と一緒に、ヒッチハイクを行ってヘレンがいる病院まで向かった。幸次と美鈴は客の犬に何かあったら大変なことになると、急いで車に乗り込み後を追いかけた。
太一は上原教授に向かって行き、「ヘレンを返せ」と喚いた。すると、ヘレンは初めて鳴き声を上げた。それは、子狐が母狐を呼ぶときに鳴く、声だった。幸次はそんなヘレンの姿を見て、太一に託すのが一番だと悟った。
映画『子ぎつねヘレン』の結末・ラスト(ネタバレ)
律子が帰国して幸次達の家に現れる。幸次は太一を置いて行ったことを責めるが、なんと律子はプロポーズされたと思って太一を預けていた。幸次は子供達のことを考えてすぐに結婚できるわけはないと渋るが、律子は既に家も引き払って来ていることもあり、これから一緒に暮らしながら関係を育めばいいと楽観的に考えていた。幸次は律子の「自分が幸せなら周りも幸せ」と言う考えに呆れるが、結局は許してしまうのだった。
ヘレンの病状が進行していた。幸次は取り乱す太一に、自分ができることがまだあるはずだと励ました。太一はヘレンと遊び、ヘレンの見えない世界を教えることにした。しかし、不安な気持ちは拭えず、涙が止まらなかった。ヘレンはまるで励ますかのように太一の涙を舐めた。そして、美鈴も太一を励ますために、太一の顔を象ったパンや、ヘレンの形をしたパンを作って一緒に食べた。
太一はヘレンに夏を見せてあげたいと思うが、それには1か月も待たなければならなかった。しかし、ヘレンにはそんな体力は残されていなかった。そんな時、太一は友人から秘密の場所を教えてもらう。だがその時、自宅から連絡があって、ヘレンの容態が急変したと言われる。太一は急いで自宅に帰った。そして、安定剤で容態が落ち着いたヘレンを抱え、砂浜に向かった。
残された律子は幸次とヘレンについて話していた。幸次は目の前にいると放っておくことができないのに、ヘレンを治してあげることはできないため、太一が世話してくれることに安堵していた。律子はそれを聞いて、自分も太一も邪魔なのに、目の前にいるから放っておくことができないと言われているように感じショックを受ける。律子と幸次がお互いのことを責め立て口論していると、美鈴が帰って来て叱られてしまう。太一は誰のことも責めずに、「ヘレンの母親」をたった1人でやり遂げようとしているのだ。
律子・幸次・美鈴は客から預かっている犬を使い、太一のことを探した。すると、ヘレンの鳴き声が聞こえてきた。声の聞こえてきた方に行くと、太一は服に包んだ花束を持ってヘレンの傍にいた。太一はヘレンの周りに花を撒いて夏を感じさせてあげていたが、突然ヘレンが倒れて動かなくなってしまう。太一がヘレンの遺体を抱き締めて悲しんでいるのを、律子達は見守った。幸次は太一がゆっくり時間をかけてヘレンの親になったように、自分自身も律子と共に時間をかけて子供達の親になる覚悟を決める。
幸次はヘレンが幸せそうにしていたのを思い出し、安楽死させようとしたのは間違いだったと太一に伝えた。太一はそれを嬉しそうに聞いていた。一方、美鈴は律子と共にヘレンが写った写真を乾かしながら、ゆっくり時間をかけて関係を育みたいと言う気持ちを伝えた。律子はその思いを受け入れ、微笑んだ。
映画『子ぎつねヘレン』の感想・評価・レビュー
大河原太一が1人ぼっちになってしまった子ぎつねに自分を重ね合わせている部分はとても切なかった。太一の母親の律子が破天荒な人物で、子供を恋人に任せて仕事で海外に行ったのは衝撃的でありえないと思ってしまった。
律子の恋人の矢島幸次は口が乱暴で素っ気ないところもあるが、動物達にとても愛情を持っている人物で、何だかんだと言いつつ太一のことも気に掛けているところが好感が持てた。太一が矢島に叱られて不貞腐れながらも、必死に子ぎつねの世話をしようとしているところが可愛かった。(女性 20代)
太一の孤独とヘレンの孤独が重なり、ヘレンの世話を懸命に行っていた太一を、最初は厄介者と感じていた幸次だったが、徐々に太一とヘレンの為に何か出来ないか、助けになることはあるのかと、考えが変わり始めるシーンや、ヘレンが太一を親狐のように信頼しているシーンなど、心にぐっと刺さり感動した。ヘレンと太一が出会ったことで、幸次、律子、美鈴のそれぞれの気持ちが変わりだし、良い方向へ向かっていく所が特に見所である。目が見えなく、耳も聞こえないヘレンの気持ちを理解するため、自分自身も耳栓をし、目隠しをして体験する所も、考えさせられた。(女性 20代)
周りに馴染めず、一人ぼっちだった少年と、目や耳が不自由なヘレンとの日常を描いた物語。とにかくがむしゃらにヘレンと接する太一と、それを倫理的観点から制止しようとする大人達。いつの間にか太一の事を親のように慕うヘレンを見て、確かな絆を実感させられる。しかし、ヘレンが日に日に弱っていき、亡くなるのも時間の問題だと言われている中、最後の力を振り絞って鳴き声をあげるシーンは、それまでのヘレンと太一が育んだ関係を思わず思い出してしまう程、非常に感動的であった。(男性 30代)
最初は太一の想像の、魔女の姿の老婆が出てきたりと、よく解らない作品だと思いましたが、中盤以降は動物との付き合い方を考えさせられる作品でした。本作では子ぎつね、ヘレンは野生動物ですが、犬や猫のペットと付き合っていくにも、「自分より先に逝ってしまう」「最後まで責任を持って」飼い主として、また親として接することが大切ですね。私は犬も猫も飼っているので、太一を見習って「最期の時」まで一緒にいたいと思いました。(女性 40代)
自分の境遇を耳の聞こえない子ぎつねに重ね合わせ、母親のようにヘレンの面倒を見ている太一の姿はとても勇敢で優しさに溢れていました。その姿を見守る幸次も最初は鬱陶しいと思っていたのかもしれませんが、次第に太一とヘレンのことを真正面から真剣に考えるようになり、自分の非を認めるシーンは感慨深かったです。
唯一理解できなかったのは、破天荒すぎる母親です。かなり傲慢な考え方なのに、それを許してしまう周りの環境も良くないなと感じました。(女性 30代)
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