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映画『善き人のためのソナタ』あらすじとネタバレ感想

映画『善き人のためのソナタ』の概要:「善き人のためのソナタ」(原題:Das Leben der Anderen)は、2006年のドイツ映画。監督は数本の短編映画を自主制作後、初の長編となる本作で第79回アカデミー賞最優秀外国語映画賞や、世界各国の映画賞で多くの賞を受賞した、フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク。主演は「カフカの「城」」、「ホロコースト -アドルフ・ヒトラーの洗礼-」などのウルリッヒ・ミューエ。共演に「マーサの幸せレシピ」のマルティナ・ゲデック。「暗い日曜日」、「飛ぶ教室」のセバスチャン・コッホなど。

映画『善き人のためのソナタ』 作品情報

善き人のためのソナタ

  • 製作年:2006年
  • 上映時間:138分
  • ジャンル:ヒューマンドラマ
  • 監督:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク
  • キャスト:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリッヒ・トゥクール etc

映画『善き人のためのソナタ』 評価

  • 点数:95点/100点
  • オススメ度:★★★★★
  • ストーリー:★★★★★
  • キャスト起用:★★★★☆
  • 映像技術:★★★★★
  • 演出:★★★★★
  • 設定:★★★★★

[miho21]

映画『善き人のためのソナタ』 あらすじ(ストーリー解説)

映画『善き人のためのソナタ』のあらすじを紹介します。

1984年11月。壁崩壊前の東ベルリンでは、共産党が国民の統制と監視システムを強化する動きを見せていた。劇作家ドライマン(セバスチャン・コッホ)の舞台初日、上演後のパーティーで国家保安省(シュタージ)のヘムプフ大臣(トーマス・ティーメ)は、主演女優でドライマンの恋人でもあるクリスタ(マルティナ・ゲデック)に心を奪われる。尋問のプロフェッショナルで、当局からも絶大な信頼を得ていたヴィースラー大尉(ウルリッヒ・ミューエ)は、ドライマンとクリスタの監視と、反体制人物としての証拠を掴むよう命じられる。ヴィースラーは彼らのアパートの屋根裏に侵入し、監視部屋を作り盗聴を始め、日々の詳細を記した日誌を書き続けた。クリスタと関係を持っていたヘムプフ大臣は「君のためだ」と脅し、愛人関係を続けるよう迫っていた。一方ヴィースラーは毎日の監視を終え、自らの生活に戻る度に混乱に陥っていた。盗聴して行くに連れ、次第にドライマンへの擁護をする記述の報告をするようになる。そしてドライマンはシュタージが世に公表しない東ドイツの高い自殺率を、西ドイツのメディアに報道させようと雑誌の記者に連絡を取った。監視されていないと確信したドライマンは雑誌の記者を家に呼ぶ。匿名の記事が雑誌に載ると緊張が走った。シュタージはドライマンのアパートを捜査するが、何も見つけることはできなかった。クリスタに約束を破られた大臣は、薬物の不正所持を理由に彼女を逮捕する。そこでは皮肉にもヴィースラーが担当官として尋問に当たることになった。複雑な再会に戸惑いながら、彼は記事がドライマンの執筆だと認めなければ、二度と舞台に立つことはできないだろうとクリスタを脅す。クリスタは尋問に屈し、証拠となるタイプライターの隠し場所を教えてしまうが、それもヴィースラーが先に隠してしまっており結局証拠となるものは何も見つからなかった。そしてヴィースラーの一連の行動は上司に発覚し、退役するまで地下での手紙開封作業を強いられる。そして4年7ヶ月後にベルリンの壁は崩壊する。さらに2年後、ドライマンは自分の家が盗聴されていたことを初めて知り、記念資料館で盗聴記録の閲覧申請をすると山積みになったファイルが出てくる。ドライマンは報告書に目を通し、監視役が「HGW」というコードネームのヴィースラー大尉だったことと、報告書に嘘の内容が書かれていたために自分が助かったことを知る。それから2年後、ドライマンは「善き人のためのソナタ」という本を出版する。そこには「感謝をこめて HGWに捧げる」というメッセージが記されていた。

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映画『善き人のためのソナタ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)

映画『善き人のためのソナタ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む

社会主義における”洗脳”の落とし穴

崩壊前の東ドイツを扱った映画は多くの物語性を孕んでいる。西側に近い文化的な生活はあるものの、理不尽な統制が敷かれながら、ソ連のような重い粛清もなく中途半端な体制が露わになっているのは、第二次大戦においての敗戦国であるからなのだろうか。最終的に壁崩壊へ向かわざるを得ない背景が、無情に映ってしまう。レーニンがベートーヴェンの「熱情ソナタ」に対し、”これを聴くと革命が達成できない。この曲を本気で聴いた者は悪人になれない”と言ったというエピソードが紹介される。芸術家を監視する、国家に従属する男の心の変化の伏線となっている。主人公のヴィースラーは冷徹な社会主義者であり、感情の変化に揺り動かされて国家に背くタイプではないが、普段から聞き慣れない思想や音楽に触れる内に心変わりを起こしてしまったというのは、屋根裏部屋で独り他人の私生活を覗くという行為が引き起こしたものに他ならない。洗脳というものは強制的に事実をねじ曲げて刷り込みをする行為ではあるが、社会主義的な洗脳の落とし穴がここで露呈されてしまう。絶対的な真実を暴くために他人の懐へ侵入し、それを見聞きすることで知らなくてもいい事を知ってしまうというバカでも解るような図式である。社会主義政権における人の思想が変わらないという信念が、一体どこから湧いて出てくるのか理解が出来ない。「知らない」という事が幸せでもある場合もあるが、「知る」という権利を剥奪するリスクは余りにも大きいのである。

人の心の不確かさが哀しく映る

「善き人のためのソナタ」という邦題は言葉の響きは良いのだが、「他人の生活」という原題の方が、主人公の心境の変化を理解するのには適している。屋根裏で他人の生活を覗き見する中で、黙々と観察など続けられるものではないだろう。植物を毎日観察していても人は感情移入して行くものであり、それが他人の生活となれば、赤裸々な事実を目の当たりにして、任務遂行のためだけに観察を続けるという機械的な行動は出来る筈がないのだ。そしてその他人の生活が余りにも自分とはかけ離れていたために、主人公は純粋な心境で嫉妬とか憧れを抱いたのではないだろうか。人々を監視をする国家がその行為の本質により裏切られてしまう、ミイラ取りがミイラになったような内容であり、絶対的な信念がまかり通るという妄想が、いとも簡単に覆される社会主義体制の哀れな部分が暴露され、クライマックスの感動よりも先に人の心の不確かさが哀しく映る物語である。

映画『善き人のためのソナタ』 まとめ

芸術家の家を盗聴するシュタージの1人に焦点を当て、サスペンス的な展開の中で静かな緊張感が全編を覆い尽くしている。ミステリアスなシチュエーションの中で、観る者への感情移入という題材にこれほど適した素材はなく、いつのまにか主人公になり天井裏から他人の生活を覗き込む自分がいる。そして保身のためなら恋人すら裏切り、国家が取り上げてしまう表現者の自由。暴く側が暴かれる側になるどんでん返しの中で東西が統一され、何もかも水泡に帰した無常観の中で知る真実が、徐々にクライマックスへと向かうドラマチックな感動へ誘ってくれる。自由という概念が軽んじてしまわれた現在であるが、その本質が垣間見える映画として若い人たちにも是非観ていただきたい作品である。

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