映画『失われた週末』の概要:売れない作家のドンは、アルコール依存症に苛まれている。兄や恋人があらゆる手を尽くすが、彼らに隠れては酒を飲んでいた。金が底を突いても、ドンは酒を求めて街をさまよう。気を失い、ついに依存症患者の病棟へ入れられるが…。
映画『失われた週末』の作品情報
上映時間:101分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:ビリー・ワイルダー
キャスト:レイ・ミランド、ジェーン・ワイマン、フィリップ・テリー、ドリス・ダウリング etc
映画『失われた週末』の登場人物(キャスト)
- ドン・バーナム(レイ・ミランド)
- 売れない作家。兄の家に居候している。大学時代はヘミングウェイの再来と持て囃されていたが、その後の作品は振るわず酒に走るようになる。
- ヘレン(ジェーン・ワイマン)
- ドンの恋人。オペラを観に行った劇場でドンと出会う。付き合い始めてからドンがアルコール依存症であることを知り、以来支え続けている。
- ウィック・バーナム(フィリップ・テリー)
- ドンの兄。ドンを自身の家に住まわせ、経済的にも面倒を見ている。ドンのアルコール依存症を治すべく様々な手を尽くしてきた。
映画『失われた週末』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『失われた週末』のあらすじ【起】
ニューヨークに暮らす売れない作家のドン・バーナムは、6年もアルコール依存症を患っている。兄のウィックと恋人のヘレンが献身的に手を尽くしていたが、治る様子はなかった。今週末、ウィックはドンを酒から遠ざけるため、田舎への旅行に連れ出す予定だった。出発前、ウィックとヘレンが演奏会へ出かけると、ドンは酒を求めて家中を探し始める。しかし、隠していた酒はすべてウィックが処分していた。
ドンは苛立ちを募らせるが、ウィックが隠していたメイドへの給料を発見し、盗み取った。早速家を出て酒を買いに行く。酒を手に入れたドンは上機嫌になり、道行く人に挨拶をしながら行きつけであるナットのバーへ向かった。席に着いたドンはショットを注文する。
ドンはすっかり酔いつぶれて、田舎へ向かう汽車の時間に間に合わなくなってしまった。演奏会から帰宅したウィックとヘレンは、ドンが抜け出したことに気がついた。ウィックは愛想を尽かし、1人で田舎へと旅立っていった。アパートの前で心配そうにドンの帰りを待つヘレンの目を盗み、ドンは部屋へと戻る。買ってきた酒を取り出してコップに注ぎ、満足げな表情を浮かべた。
映画『失われた週末』のあらすじ【承】
翌日、ドンは朝からナットのバーを訪れた。ナットは、昨日ヘレンが探しに来ていたとドンに伝える。しかし、自分のこんな姿をヘレンには見せられないとドンは思っていた。ドンは自身とヘレンの馴れ初めについてナットに話し始めた。
3年前の雨の日、ドンはオペラを観に出かけた。しかし開演早々、酒を飲みたい衝動を抑えきれなくなり、退席した。預けていたコートを引き取ろうと番号札を係に渡すと、手違いがあったようで渡されたのは毛皮のコートだった。結局ドンは終演まで待たなければならなかった。観客が皆帰ったあと、毛皮のコートを持ったドンと、ドンのコートを持った女性だけが取り残されていた。その女性こそがヘレンだった。ヘレンと恋に落ちたドンは、それから6週間も断酒することができた。
アルコール依存症を克服できたと思ったドンは、ヘレンとの結婚を考えていた。しかし、ヘレンの両親と食事をする日、ドンは自分が無職同然であることなどから気後れし一度家に引き返した。1杯だけ飲もうと思って酒に口をつけると、止まらなくなってしまった。そのまま食事には行けなかった。
心配して家まで来たヘレンに、ドンはアルコール依存症であることを打ち明ける。しかしヘレンは幻滅したりはせず、治せるはずだとドンを励ました。以来、ずっとヘレンはドンを支えてくれている。そこまで聞いたナットは、行き着く先は自殺だろうと言った。ドンは憤慨し、今度こそ良い小説を書くと宣言して店を飛び出した。
映画『失われた週末』のあらすじ【転】
家に着き、ドンはタイプライターの前に座った。小説の題名まで書くが、その先が浮かんでこない。ドンは苛々しながら立ち上がり、家中をひっくり返して酒を探した。しかし、どこにも見つからない。ナットのバーに戻るわけにも行かず、ドンは別のバーへ向かった。
バーで勘定をしようとしたドンは、持ち金が足りないことに気がつく。隣席に座る女性の鞄から金を盗もうとするが、すぐに見つかり店を追い出された。よれよれの状態で家に辿り着き、昨日買った酒を照明の上に隠していたことを思い出す。栓を開け、コップにも注がずに飲んだ。いつの間にか眠っていたようで、電話のベルが鳴り響く音で目を覚ました。おそらくヘレンからだった。ドンはやめてくれ、と電話に向かって吐き捨てた。
金も酒も底を突いていた。それでも酒を渇望するドンは、タイプライターを手に質屋へ向かう。しかし、ユダヤ教の祭日のため、どの質屋も閉まっていた。ドンは憔悴しきった様子で知り合いの女性の家に辿り着き、金を借りた。その帰り道、階段から転がり落ちて気を失う。
目を覚ますと、ドンは依存症患者の病棟にいた。夜になり、同室の患者が幻覚を見て暴れ始めた。看護師や医師が駆けつけ、患者を別室へ連れていく。その騒ぎに乗じて、ドンは医師のコートを盗み病院を抜け出した。
映画『失われた週末』の結末・ラスト(ネタバレ)
開店したばかりの酒屋に入り、ドンは店主を脅して酒を手に入れた。家に帰り、酒を飲んで眠りにつく。目を覚ましたとき、壁をかじるネズミと、それを襲うコウモリの恐ろしい幻覚を見た。ドンの叫び声を聞いた家主がヘレンを呼ぶ。駆けつけたヘレンは家主に借りた合鍵でドンの部屋へ入った。
幻覚症状が表れ始めたショックで、ドンは死ぬことを考えるようになっていた。ヘレンが眠っている隙に彼女のコートを持ち出し、質屋へ向かった。ドンが出て行くのに気がついたヘレンも入れ違いに質屋へ行き、コートを買い戻したいと店主に伝える。すると店主は、ドンはコートを売ったのではなくピストルと交換していったのだと述べた。
ドンが部屋で引き金を引こうとした瞬間、ヘレンが戻ってきた。ヘレンは自殺を止めるようにドンを説得し、もう一度小説を書くよう励ます。ドンは酒を手に取ったが、少し考えてから吸っていた煙草をその中に落とした。そして、この週末の出来事を小説に書こうと決意するのだった。
映画『失われた週末』の感想・評価・レビュー
本作でアカデミー主演男優賞を受賞した、ドン役のレイ・ミランドの演技に圧倒された。とくに、酒を飲めず苛立っているときと、酒を手に入れ異様なまでに上機嫌なときのドンの表情の差が凄まじかった。酒をやめられないドンは、周囲の人々からただ意志が弱いのだと思われているだろう。しかしヘレンは、ドンは病気でありやめたくてもやめられないのだと理解していた。彼女の献身的な支えに報いるためにも、ドンには無事小説家として立ち直ってほしいと思う。(MIHOシネマ編集部)
私はお酒がほとんど飲めません。注射をする際のアルコール消毒で肌が真っ赤になってしまうくらいアルコールに弱いです。なのでお酒を沢山飲める人は楽しそうで羨ましいなと思うこともあります。今作で描かれるのは「沢山飲める楽しい人」ではなく「アルコール中毒患者」でした。
見ているのが嫌になるほどお酒に執着し、大事なものを手放してでもお酒を手に入れようと必死になる男の姿は、アルコールの怖さを強く物語っていて苦しくなりました。(女性 30代)
アルコール依存症を患う男の、うだつが上がらない様子が一時間半程続きます。アルコール依存をテーマにした映画は、1945年当時では珍しいものだったのでしょう。酔っ払いを眺めるのは、ストレスが溜まります。しかし視点を少し変えると、より良い生き方を示唆している作品のように思えるのです。今の自分を受け入れず高い理想を掲げ、無い物ねだりばかりしていては治るものも治りません。脚本、監督はビリー・ワイルダーですから、どんな話も巧みに魅せます。(女性 30代)
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