映画『血を吸う粘土』の概要:片田舎で美術教室を開く藍那ゆりは、ある日、教室の裏手でビニール袋に入れられた粉状の粘土を発見する。東京の美大に研修に行っていた日高香織がその粘土を使おうと水を加えると、粘土はまるで命を持つかのように動き出した。
映画『血を吸う粘土』の作品情報
上映時間:81分
ジャンル:ホラー
監督:梅沢壮一
キャスト:武田杏香、杉本桃花、藤田恵名、牧原ゆゆ etc
映画『血を吸う粘土』の登場人物(キャスト)
- 日高香織(武田杏香)
- 美術教室の生徒。東京の美大に研修に行った。そのおかげで他の生徒よりも上達している。
- 望月愛子(杉本桃花)
- 日高の親友。同じ美術教室に通っているが、東京から戻った日高のレベルの上がりように動揺する。
- 三田塚実(奥瀬繁)
- 売れない美術家。不法投棄による影響で余命いくばくも無い時に、最後の思いを込めてカカメという彫刻の人形を製作する。カカメには三田塚の血が練りこまれている。
- 伏見恭三(津田寛治)
- 三田塚の美大時代の同級生。一度は実業家として成功したが失敗。三田塚の彫刻に興味を示す。しかし、金のことで揉め、事故だが三田塚を死亡させてしまう。三田塚の遺体と共にカカメを燃やし、恨みのこもった粘土を生み出してしまう。
- 藍那ゆり(黒沢あすか)
- 美術教室の講師。以前は東京の美術学校で教えていたが、恋人に裏切られたことで田舎にきた。偶然に庭に埋めてあった呪われた粘土を掘り起こしてしまう。
映画『血を吸う粘土』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『血を吸う粘土』のあらすじ【起】
東京の美術学校で講師を務めていた藍那ゆりは、都会を離れてとある片田舎で個人の美術教室を開いていた。東京時代、藍那には同じく美術講師をしている恋人がいたが、彼は別に女を作り藍那を裏切った。怒り狂った藍那は腹いせに学校を去り、田舎へとやってきたのだ。
藍那が教室として見つけた建物は古かったが、以前の住人は美術家だったらしく、油絵の具などの道具も残されていた。藍那はそこを借り“AINA ACADEMY”として運営を始めていく。やがて何人かの生徒が通うようになった。
教室は山が近い場所にあり、不法投棄もよく行われていた。最近は地震もよく起こる。そんな時、藍那は土の中に埋められていた缶を見つける。中にはビニール袋に入れられた粉末状の粘土が入っていた。
東京の美大に研修に行った日高香織が戻ってきた。生徒たちは東京の実力に興味津々だったが、藍那はそれを制すると授業に集中するように言った。戻ってきて早々に授業に参加しようとした日高だったが、粘土がない。家を探し回った日高は藍那が土の中から見つけた粘土を発見する。粉状だった粘土に水をかけて塊を作っていくが、日高はその粘土が他の物と少し違うと感じていた。
日高によって粉から粘土に戻されたことで、その粘土はまるで命を持ったようだった。粘土は夜な夜な勝手に動きだしたが、朝にはまた元の形に戻っていた。
映画『血を吸う粘土』のあらすじ【承】
美大の合格率はとてつもない倍率で簡単には合格できなかった。生徒たちは粘土で自分の顔を造形する首像の課題を与えられたが、その出来栄えは酷いものだった。藍那は苛立ち、このままでは合格できないときつく彼らに言い放った。
次の日の朝、彼らは教室で飼っていたハムスターがいなくなっていることに気がつく。餌を与える時に入り口を閉め忘れたのが原因ではないかと彼らは話したが、実際はあの粘土が原因だった。粘土は夜に動き出し、ハムスターを食べてしまったのだ。その証拠に、日高の首像は口元が大きくえぐれていた。しかし、真実を知る者など当然おらず、日高は自分をライバル視する谷レイ子の仕業ではないかと疑いだす。
生徒たちはなかなか上達せず、藍那からは厳しい言葉が飛ぶ。生徒の青木由香から、どうすれば上手くなれるかと尋ねられた藍那は、良い作品をたくさん見て吸収することだと返した。だが、それを聞いた生徒たちは落胆の色を見せた。東京のレベルの高さ、生徒数の多さから良い作品は東京に集まるという現状から、田舎では美大に合格できないのではないかと口にする。それを聞いた藍那は思わず昔のことを思い出し、声を荒げてしまった。
夜、教室に一人で残った谷は、日高の首像を眺めていた。その時、出ていた釘で指を刺してしまい出血する。すると、首像はその血に反応し、谷の手に噛みついてきた。驚いた谷はそれを振り払おうと必死になる。なんとか首像から逃れた谷は連絡しようと試みるが、噛みつかれた手はまるで粘土のようにグニャグニャになっていた。やがてその手は粘土そのものと化し、谷を頭から飲み込んでしまった。
翌朝、教室にやってきた日高たちに谷は助けを求めた。だが、それに応える者は誰もいなかった。粘土に飲み込まれてしまった谷は日高の首像の中に閉じ込められてしまっていたのだ。皆は谷がいなくなったことを心配し、日高は谷に首像をめちゃくちゃにされたと落胆した。彼らの声が届いていた谷は必死で弁解したが日高には聞こえない。日高は首像が谷だと気がつかないまま、像を壊して粘土に戻し、バケツへとしまった。
映画『血を吸う粘土』のあらすじ【転】
粘土は谷を取り込み、谷の外見を手に入れる。教室の後輩である青木由香の前に現れた谷。心配する青木の手をカッターナイフで切ると、その血をペロペロと舐め始めた。驚いた青木が絶叫しながら谷の顔を押さえつけると、その顔は粘土のように剥がれ落ちた。やがて、谷は青木に覆いかぶさり、青木も粘土に取り込まれてしまう。
藍那は谷を探しに出て行き、日高と親友の望月愛子は食事を買いに行った。生徒の山下寛治は青木を口説き落とそうと狙っていたが、粘土に乗っ取られた青木は刃物を振り回して山下に傷を負わせる。出血した山下はそのまま粘土に襲われ、彼もまた取り込まれてしまった。
買い物から戻った日高と望月。望月は刃物を手にしながら近づいてくる山下を見かけてゾッとする。望月はなんとか山下の追跡から逃れるが、今度は日高の身に危険が迫る。そこに藍那が駆けつけ、山下を突き飛ばした。粘土のような体となった山下の首は、突き飛ばされた衝撃で転げ落ちていった。すると、山下の首元から不気味な様相をした粘土の頭がニョキニョキと生えてきた。
驚愕して動けない三人の前に一人の中年の男が現れる。彼は手にした強力なバーナーで粘土の頭を焼くと、粉々に破壊した。男は伏見恭三と言い、粘土の秘密を知る人物だった。この教室の以前の持ち主は三田塚という男で伏見とは同級生だった。三田塚は美術家で自費での個展なども開いていたが、人付き合いが苦手な性格のために芽が出なかった。ある日、三田塚と偶然に再会した伏見は、彼が作る彫刻に目を奪われる。それは少年のような、髑髏のような、不気味な彫刻だったが、伏見は売れるという確信があった。
伏見は実業家として一度は成功したが、失敗して借金まみれになっていた。三田塚の彫刻は売れ、大金が舞い込んでいたのだが、伏見はそれを三田塚に内緒にし、自身の借金返済に充てていた。三田塚は不法投棄から溢れだした化学薬品の影響で肌がただれ、余命いくばくもない体になってしまっていた。先が無いと悟った三田塚は、自分の血を粘土に混ぜこみながら、思いを込めて彫刻を作り出す。その彫刻にはカカメという名前が付けられた。三田塚はカカメに言い聞かせた。お前は俺の代わりに東京へ行く、お前は俺の分身として永遠に生き続けるのだ、と。
映画『血を吸う粘土』の結末・ラスト(ネタバレ)
命を持つ粘土の話など、にわかには信じられないものだった。だが、伏見はこれから警察に行くと言う。伏見の言葉に説得力を感じた藍那は、粘土を掘り返してしまったことを責め、自分も警察に行って説明することにした。
欠片となった粘土は、まだピクピクと動いていた。伏見たちはそれを丹念に砕いて粉にすると、ビニール袋に入れ、段ボール箱にしまった。だが、教室を去る準備をしていた時、日高が残っていた粘土にやられて乗っ取られてしまう。彼女を助けたいがどうすることもできない伏見たちは、覚悟を決めて日高をバーナーで焼き殺した。粉となった日高は他の粘土の粉と一緒に袋の中に入れられた。
友達を失ったことで悲しみに暮れる望月は、あなたが三田塚を殺さなければこんなことにはならなかったと伏見を責めた。その時、大きな地震が起きる。揺れのせいでカンバスが倒れ、それは風を生み出した。その風は粘土を舞い上がらせ、伏見は粘土の粉を思い切り吸い込んでしまう。
苦しみだす伏見。次第に伏見の胸が盛り上がり、胸部を貫いてカカメの頭が飛び出してきた。実態を得たカカメは刃物を手に藍那と望月に迫った。望月に迫るカカメに藍那は角材を突き刺した。望月は油絵の具をカカメに突き刺し、絵の具を飲み込ませる。その絵の具はバーナーの火に反応し、カカメは内側から燃えて粉になっていった。
粉となった粘土を手に東京へとやってきた藍那と望月は、以前、藍那が講師をしていた美術学校の前へと辿り着いた。恨みに取りつかれていた藍那は、彼らにも同じ苦しみを与えようと粘土をその場に置いていこうとする。だが、悲劇を繰り返したくない望月は粘土を持ち帰ろうと藍那を説得した。
二人は山奥へと車を走らせ、人気のない場所に穴を掘ると段ボールごと粘土を土に埋めた。時が流れ、段ボールがボロボロに朽ち果てようという頃、同じ場所にショベルカーで穴が掘られ、危険物が不法投棄される。そのせいで段ボールには穴が開き、粘土はむき出しになってしまった。
木の根を伝って水分が粘土に染み込み、近くを這っていたミミズを取り込んでカカメは蘇った。少年のような不気味な顔にミミズのような下半身。カカメは三田塚に言われた通り、東京へと向かって行った。東京の町は破壊され、あちこちで爆発が起こった。カカメはこのまま東京をそっくり飲み込んでしまいそうな勢いだった。
映画『血を吸う粘土』の感想・評価・レビュー
シンプルな話だが、粘土という題材を選んだのは面白い。粘土ゆえにCGに頼らない(むしろ、使わなくていい)表現が多く、ほとんどのシーンで現物や着ぐるみが使われている。舞台も美術教室だけで登場人物も少ない。それでも最後まで見せきる力はあった。津田寛治と黒沢あすかの演技のおかげもあるが、カカメの造形の不気味さが何より素晴らしいところだろう。作中では売れていると言っていたが、正直、あの人形が部屋などに置いてあったら怖すぎて落ち着かない。(MIHOシネマ編集部)
美術的な作品に全く関心の無い私ですが、この映画に登場するカカメはなんだか不思議な魅力があり、虜になってしまうのがわかる気がしました。想像していたよりも何倍も怖く、憎しみや羨む気持ちなど人間らしさがひしひしと感じられる作品で、何気ない行動の連鎖が命取りになってしまう展開にはハラハラさせられました。
人を飲み込む粘土の設定は最初こそ不可解でしたが、見ていくうちに恐怖を感じるようになるので、いつの間にか作品の世界に引き込まれてしまっていたのだと気づきました。(女性 30代)
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