映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の概要:英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとして、バレエ界を一世風靡したセルゲイ・ポルーニンの知られざる素顔に迫ったドキュメンタリー映画。圧倒的な美しさと類い稀なる才能の裏側にある心の闇や、絶頂から転落への人生が赤裸々に語られる。作品中に観られるセルゲイ本人のダンスは圧巻である。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の作品情報
上映時間:85分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:スティーヴン・カンター
キャスト:セルゲイ・ポルーニン etc
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の登場人物(キャスト)
- セルゲイ・ポルーニン
- 「ヌレエフの再来」と謳われ、19歳で英ロイヤル・バレエ団の史上最年少プリンシパルとなる天才バレエダンサー。バレエを踊るために生まれてきたかのような美しさと技術の高さは、周りを圧倒し大きな注目を集める。しかし、人生の全てをバレエに捧げてきたが故に、家族関係や精神的な葛藤に陥る。後にタトゥー、ドラッグ、うつ病を公表し、バレエ界の異端児として名を馳せる。
- ガリーナ・ポルーニン
- セルゲイの母。セルゲイが幼い頃からバレエの素質を見出し、全ての時間とお金をセルゲイに捧げた。セルゲイの成功を強く望むために、厳しい教育も厭わなかった。それがセルゲイからの反発を生むが、セルゲイがバレエ界で成功を手にしたのは母の努力も大きい。
- ウラジーミル・ポルーミン
- セルゲイの父。バレエ学校の学費を稼ぐために、ポルトガルへ出稼ぎに行く。家族と離れて働く環境から心の距離が生まれ、セルゲイが15歳の時に離婚してしまう。
- ジェイド・ヘイル・クリストフィ
- セルゲイのロイヤル・バレエ学校時代の同級生。学生時代には厳しいレッスン以外に、悪い遊びも共にした親友である。現在は振付師として活躍しており、セルゲイが引退を決意し、製作したビデオ作品では振り付けを担当している。
- イーゴリ・ゼレンスキー
- セルゲイがロイヤル・バレエ団を退団し、ロシアで出会ったモスクワ音楽劇場のバレエ監督。セルゲイのロシアでの活動をサポートし、セルゲイはイーゴリを本物の父のように慕っている。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のあらすじ【起】
セルゲイはウクライナ南部のべルソンという貧しい街で生まれる。この町では男の子の多くが体操教室に通っていた。セルゲイは生まれた時から看護師が驚くほどに身体が柔らかかった。セルゲイの母親はその素質にいち早く気付き、他の子供とは違う道に進んで欲しいという思いからバレエを習わせることにする。
バレエ教室でのセルゲイは心から躍ることを楽しみ、技術も驚くスピードで成長していった。8歳になる頃には周囲から一目置かれる存在となり、母親も直感でバレエの道へ進ませたことが正しかったと確信する。
その頃から、家族はセルゲイに何かしらの形で成功して欲しいと期待を膨らませるようになる。へルソンに留まっていてはいけないと感じ、ウクライナ最高峰のキエフバレエ学校に通わせるために家族一丸となり学費を稼ぐ。父親はポルトガルへ、祖母はギリシャへと出稼ぎに行き、母親は衣装作りや送迎など全ての時間をセルゲイに捧げていた。家族の期待を痛いほど感じていたセルゲイは、キエフバレエ学校に入学したその年に全国2位にのぼり詰めるほど、着実に実力を伸ばしていた。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のあらすじ【承】
セルゲイの才能を信じた母親は、セルゲイを海外に行かせたいと考え、ロンドンのロイヤル・バレエ学校のオーディションを受けさせる。オーディションに見事合格し入学が決まったセルゲイは、初めて母親と離れて暮らすことになる。それまで片時も離れず見守ってきた母親の喪失感は大きかった。しかしそんな心配をよそに、セルゲイは1年目にソロ、2年目にはプリンシパルのパートを獲得し、3年飛び級するほどに才能を買われ、講師からも大きな期待を寄せられていた。
セルゲイは周囲からの期待や、失敗したら国に帰らなければいけないというプレッシャーを感じる。しかし、何よりも自分の成功が離れ離れの家族を繋ぐことができると信じていたセルゲイは、全てをバレエに捧げて努力を尽くしていた。
しかし15歳を迎えたある日、突然両親の離婚が告げられる。バレエで家族を1つにできると信じていたセルゲイは心に大きな傷を負い、バレエを続ける目的を見失い始める。この頃から、自由であることを強く望み、私生活では派手な遊びを覚え、体中にタトゥーを入れる。しかし、良くも悪くも自由に振る舞うだけで、セルゲイの踊りは、個性や表現力に磨きがかかり、魅力は増すばかりであった。
そして、19歳の時にロイヤル・バレエ団では史上最年少でプリンシパルに昇進することになる。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』のあらすじ【転】
表立った輝かしい功績の裏で、セルゲイの心の隙間は埋まらないままであった。22歳の頃、これまでの人生を振り返り、普通の子供であれば当たり前にある家族との時間や友達との思い出が全くないことに絶望する。それも全ては母親が敷いたレールを走ってきたからだと、厳しい教育を強要した母親に腹立たしさを感じ始める。
心に抱えたままのうっ憤がついに爆発し、セルゲイは人気絶頂のタイミングでロイヤル・バレエ団を退団することを決意する。この出来事は国内のみならず、世界中のメディアで報道されるほど、大きな衝撃とともに人々を失望させた。
セルゲイは新天地を求めてロシアに渡る。そこでモスクワ音楽劇場バレエ監督のイーゴリ・ゼレンスキーと出会い転機が訪れる。イーゴリとセルゲイは師弟関係を築き、セルゲイはイーゴリを父のように尊敬し慕うようになっていた。初めてバレエという枠に囚われることなく、自由に表現することを楽しめるようになった。
しかし、その時期も長くは続かなかった。ロシアに移って2年が経つ頃には、思うように活躍ができず、肉体の疲労や怒りの感情と闘う日々になっていた。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の結末・ラスト(ネタバレ)
再び躍ることの目的を失ったセルゲイは、ビデオを製作しそれを機に完全に引退することを決意する。作品の振り付けを、ロイヤル・バレエ団の同級生であり親友のジェイド・ヘイル・クリストフィに依頼する。セルゲイの苦悩を近くで見てきたジェイドは、セルゲイの内面を映し出したような感情的な振り付けを試みる。「Take Me To church / Hozier」の曲に乗せて舞うセルゲイのダンスは、怒り、葛藤、決意、希望や絶望が入り混じり、力強くも美しい、まさに人生の集大成であった。このビデオは公開からすぐに再生回数が1500万回を超えるほど話題を呼び、世界中のダンサーが刺激を受けた。
引退から2ヵ月後、セルゲイがいたのはモスクワ音楽劇場であった。引退を前提に製作を進める中で、簡単に捨てられると思っていたバレエが結局は自分の全てであることに気付くのである。ビデオの成功に励まされる形で心を取り戻したセルゲイは、ダンサーとしての活動を再開する。舞台に初めて両親を招待し、今の自分があるのは両親のおかげだと考えるようになる。人間的にも成熟したセルゲイのダンスは更に深みが増し、今日も何処かで人々を魅了している。
映画『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』の感想・評価・レビュー
この作品の魅力は、何と言っても全編の様々なシーンで見られるセルゲイのダンスである。どこを切り取っても完璧に美しく、ダンスに興味のない人でも魅了されるに違いない。皮肉なことに、心の暗い部分や破天荒な行為こそが、セルゲイの踊りを唯一無二で魅力的なものにしたように感じる。常に環境、家族、精神や肉体と闘い続ける人生はセルゲイにとって辛いだろうが、セルゲイがバレエを続ける限り闘いは続くであろう。そして、私はこれからもそれを見続けたいと強く思う。(MIHOシネマ編集部)
本作は、バレエ界を激震させた天才バレエダンサーのセルゲイ・ポルーニンに迫ったドキュメンタリー作品。
何と言っても彼の力強く美しい、しなやかなダンスはバレエに親しみのない者さえも魅了するパワーがある。
彼の素晴らしいバレエの演技はもちろん、生い立ちやその才能と華やかな舞台裏での葛藤やバレエの過酷さが描かれていて、彼の野獣の面と繊細な面に心打たれた。
特に、ラストのダンスシーンは圧巻の美しさで、これまでの苦悩を打破したかのような解放感に溢れる演技だった。(女性 20代)
美しく、しなやかな肉体と整った顔立ちにキリッとした表情が本当に魅力的なセルゲイ。彼が活躍していた時代を知らない私ですが、この作品を見ただけで彼の虜になりました。それほどまでに観客を惹きつける彼の魅力は外見だけでなく、繊細な内面にもあったのではないでしょうか。
天才と呼ばれる人たちの苦悩は過去にも多くの作品で語られてきましたが、彼らが求めるのは「普通」なんですよね。才能があるから一般人には見られない世界を体験できるのに、求めるのはごく普通の生活だなんて本当に皮肉なものです。
繊細な心を映し出したような彼の踊りは圧巻の一言でした。(女性 30代)
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