映画『靴ひも』の概要:妻の死を機に30年ぶりに再会した自動車修理工の父親と発達障害を抱える息子。生活にこだわりがある息子に戸惑いながらも徐々に打ち解けていくが、父親は末期の腎不全を宣告されてしまう。本国イスラエル・アカデミー賞他、各国の映画祭で注目を浴びた一作。
映画『靴ひも』の作品情報
上映時間:103分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
監督:ヤコブ・ゴールドヴァッサー
キャスト:ネヴォ・キムヒ、ドヴ・グリックマン、エヴェリン・ハゴエル、エリ・エルトーニョ etc
映画『靴ひも』の登場人物(キャスト)
- ガディ(ネボ・キムヒ)
- 愛する母を失い、唯一の身寄りである父親と30年ぶりに暮らすことになった男性。発達障害を抱えているものの、とても明るく誰にでもフランクな性格の持ち主。自称。歌手であり生活習慣にこだわりが多い。
- ルーベン(ドブ・グリックマン)
- 自動車修理工場を営む男性。30年前に妻と発達障害を抱える息子・ガディを捨てている。妻の死を機にガディと暮らすことになるが、同時に末期の腎不全であると医師に宣告を受け、頭を抱える。
- イラナ(ベリン・ハゴエル)
- ガディのソーシャルワーカー。発達障害を抱える人たちが集う施設への転居準備が整うまでガディの面倒を見てほしいとルーベンに依頼する。臓器移植委員会のメンバーでもあり、二人を見守る存在。
映画『靴ひも』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『靴ひも』のあらすじ【起】
自動車修理工のルーベン。仕事中に急ぎの連絡として妻の訃報を受ける。ルーベンには妻と発達障害の息子を捨てた過去があった。気まずそうに葬儀に参加するルーベン。50歳になった息子・ガディは母親の死と向き合えずに泣き崩れていた。行き場を失ったガディをしばらく引き取ってほしいとソーシャルワーカーのイラナから相談を持ち掛けられたルーベンは一度断るが、日中身の回りの世話はガディ自らすると約束し受けることになった。
朝早くから夜遅くまで仕事三昧のルーベンの自宅は散らかっていた。ガディは意気揚々と片づけを始め、寝る前に足のマッサージをして欲しいとルーベンに頼んだ。嫌々マッサージをするルーベンだが、母親と同じようにマッサージしてくれないことに癇癪を起こしたガディに怒りをぶつけてしまい二人の距離は縮まることなかった。
翌日からルーベンの職場で手伝いをすることになったガディ。掃除係として洗車や工場の清掃を請け負うことになる。歌手を目指すガディは上機嫌に歌いながら洗車に励むのだった。ガディの面倒を同僚のデデに任せたルーベン。決まった時間に食事をとり、同じ仕事の繰り返しをするという生活のリズムを崩されるのが苦手なガディ。一緒に暮らしたことのなかったルーベンは困惑を隠せずにいる。さらにルーベンは腎機能が低下していると医師から診断を受けるのだった。
映画『靴ひも』のあらすじ【承】
人工透析を始めることになったルーベン。ガディの世話に限界を感じ施設に預ける決心して、評判のいい施設の下見に向かう。しかしそこは収容所のような環境で、ルーベンは躊躇してしまった。様子を見に来たイラナから、発達障害者が集う村にガディが移れるよう申請したと報告を受けた。村への転居には時間がかかるため、給付金を受けるために急遽面談で自立の度合いを見られることになる。日常生活でできることとできないことの質問を受け続けたガディは「靴ひもは結べる?」という質問で限界を迎える。ルーベンの職場を手伝っていることを明かしてしまい、面接官は険しい表情で去って行ってしまった。
好意を寄せるアデラに誘われ始めてお酒を飲んだガディ。介抱するルーベンに対して、ガディは「父さんは僕を恥じている」と嘆き、バターナイフで自殺しようとする。その矢先、イラナから例の村に空きが出たと連絡を受けた。数日間試しに住んでみることになるが、ガディがルーベンに見放されたと思い機嫌を損ねるのだった。
イラナの迎えで村に送り届けられたガディは、しばらく車から降りることを拒否した。しかし夜になりミュージカルの練習をするミハルの歌声に惹かれ、自ら施設に足を踏み入れるのだった。
映画『靴ひも』のあらすじ【転】
イラナからガディの様子を聞いたルーベンは、お礼も兼ねて食事に誘いだした。ガディとの生活に慣れてきたこと打ち明けたルーベン。その寂しさに気付いているかのように、その夜ガディはルーベンに電話をする。ルーベンやデデ、アデラとの生活が好きだと伝えるためであった。すぐに村へ車を走らせたルーベンはガディを連れ出し、再び共同生活を始めるのだった。
ある日、昼食に出たガディを迎えに行ったルーベンはリタの店で突如倒れてしまった。医師に言われた通り生活改善をすることも、人工透析も受けていなかったルーベンには、臓器移植の道しか残されていなかったのである。臓器提供を頼もうと弟のイェフダに訪ねたルーベンだが、ドナーバンクを進められ癇癪を起こしてしまう。怒りをぶつけイェフダの家を出たルーベンは頭を抱えることしかできなかった。
リタの店でルーベンの噂話を聞いてしまったガディは臓器提供を申し出るようになった。医師からも早急に臓器移植を受けるように勧められるが「ガディから奪うものはあるのか?」と拒絶し続けるのだった。
映画『靴ひも』の結末・ラスト(ネタバレ)
同じく透析を受けていたシモンが亡くなり、「死」を目の当たりにしたガディは部屋に籠るようになってしまった。薬を飲まず、就寝前のマッサージもできていなかったことで、ある日ガディは発作を起こしてしまう。
臓器提供の適合検査を通り、ガディは嬉しそうにイエナに報告した。しかし臓器提供委員会による面談には給付金の面接官も同席した。靴ひもも結べないガディが全てを理解して同意しているのかと詰め寄られ、臓器提供は却下されてしまう。その矢先ルーベンの容態は急変するのだった。
イラナの後押しもあり、ガディの強い思いは臓器提供委員を動かした。急遽手術が決まり、無事に目覚めたガディ。しかし、ルーベンは感染症を起こしてしまいもう一度ガディと会うことはできなかった。肉親を失ったガディはミハルのいる施設に入ることになる。自らの手で靴ひもも結び、ミハルと手を取り残された時間を歩み始めるのだった。
映画『靴ひも』の感想・評価・レビュー
監督自身も発達障害の息子を持ち、私生活と近すぎるテーマに一度は手掛けることを断念しようとしたという。障害をもつ子供が父親のドナーとして承認されなかったというニュースに感化され、スペシャルニーズ(障害を持つ)の人たちのイメージを変えようと立ち上がったというインタビューを読み鑑賞した。「恋人がいる?」とラフに問うガディの素敵さも光るが、徐々に素直になっていくルーベンの表情の変化がとても印象的であった。「靴ひもを結ぶ」行為が絆も結んでいく美しい展開と現実も見せる演出のバランスが秀逸な一作であった。(MIHOシネマ編集部)
家族だからこそ戸惑うし、家族だからこそ隠したいこと、素直になれないことがあるのにそういう壁を一気にとっぱらって自由にありのままに接してくれるガディがすごく愛らしかったです。
最初はお手上げ状態だったルーベンが、少しずつガディのことを理解し、お互いに心を開いていく姿は本当に感動しました。しかし、そのままハッピーエンドとは行かず、ルーベンの病気からまた問題が起こってしまいます。
ガディを守りたい気持ちは分かりますが、そのせいで彼の意見が消されてしまうのは絶対に許されないし、彼の気持ちを素直に聞き入れられる心を持ちたいなと感じました。(女性 30代)
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