映画『にっぽん昆虫記』の概要:激しく変動する戦中・戦後の日本において、昆虫のように本能だけで社会の底辺を生きる女の半生を描いた物語。東北の農村に生まれたとめは父と娘を田舎に残して上京、売春宿で客を取って生活した後、自らコールガールの組織を立ち上げる。
映画『にっぽん昆虫記』の作品情報
上映時間:123分
ジャンル:ヒューマンドラマ、コメディ
監督:今村昌平
キャスト:左幸子、岸輝子、佐々木すみ江、北村和夫 etc
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映画『にっぽん昆虫記』の登場人物(キャスト)
- 松木とめ(左幸子)
- 東北の農村に生まれた娘。えんの提案で強引に地主の本田家へ嫁ぎ、既婚者である三男にレイプされた結果、娘の信子を出産する。本田家へ金を払うことで実家へ戻った。出稼ぎ先の係長と関係を持ったが捨てられ、上京して売春宿の経営に携わるようになる。やがて唐沢というパトロンを得、コールガールの組織を立ち上げる。
- 松木忠次(北村和夫)
- とめの父。少し頭が弱く、えんと結婚した2ヶ月後にとめが生まれたことへ何の疑問も抱かなかった。言葉もたどたどしいが力持ち。とめとの間には、親子ではなく恋人のような感情が芽生えている。
- 松木えん(佐々木すみ江)
- とめの母。淫蕩な女。間男の小野川との間にできた子供を、忠次の子として出産した。とめを本田家へ嫁がせ土地や工場の権利を得ようとしたが失敗した。
- 唐沢(河津清三郎)
- 上京して売春宿で働いていたとめを妾として囲った男。パトロン。とめが仕切るコールガールの売り上げをせしめた挙句、信子と関係を持つようになる。
- 松木信子(吉村実子)
- とめの娘。忠次と共に暮らし、成長した彼女は地元の上林という青年と恋仲になる。上林は胡桃平を開拓して村の生活を豊かにしようと計画しており、それに協力したい信子はとめに金の無心をするようになる。やがて唐沢と関係を持ち、体を重ねる代償として彼から大金を受け取る。
映画『にっぽん昆虫記』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『にっぽん昆虫記』のあらすじ【起】
大正7年、冬。松木とめは、東北の農村で生を受けた。娘が生まれたことを喜ぶ忠次だったが、村の男達はえんが忠次と結婚した2ヶ月後に出産したことを噂し、忠次を笑いものにした。
大正13年、5月。とめは母が小野川という男と体を重ねている場面を目撃した。
昭和17年、春。製糸工場で働くとめの元へ「父危篤」の電報が届き、彼女は急ぎ帰省した。しかし、それは母えんの策略だった。えんは地主の本田の元へとめを嫁がせ、彼らの土地や工場などの資産を乗っ取ろうと目論んでいたのだ。えんをはじめとし、自宅に集まった女性達から「働いてないで嫁へいけ」と説得されるとめは、強引に本田の家へ連れて行かれそうになった。そこへ帰宅した忠次は、とめが嫁にいくと聞かされ大暴れした。
忠次に足の膿を吸い出してもらいながら、とめは、本田家へ行っても誰とも寝ないと約束して父を安心させた。
とめは、仕事を手伝うだけという条件で居候を始めた。しかし、本田家の三男は彼女をレイプして妊娠させた。三男には妻子があった。
臨月を迎えたとめは実家へ戻り、陣痛に耐えていた。えんは唸るとめを横目に、なんとかとめを本田家に戻してもらえないだろうかと産婆へ相談する。その傍らで、とめの祖母はもくもくと機を織った。昭和18年、正月。とめは女の子を出産し、信子と名付けた。
映画『にっぽん昆虫記』のあらすじ【承】
忠次の協力を受けて子育てするとめだったが、本田家への借金を返すため、信子を忠次に預けて再び工場へ稼ぎに出た。昭和20年、8月。空襲警報を受け工女らが避難した後、工場に残ったとめは係長に抱かれた。
一方の忠次は、本田への借金である10円を稼ぐため必死に働いていた。終戦後実家へ戻ったとめは、弟夫婦が占拠し居場所がなくなった家に居心地の悪さを感じ、忠次が止めるのも聞かず三度工場へ稼ぎに出た。
とめは係長と一緒になって組織活動に注力した。その結果、彼女は工女達から虐げられ悪評が立った。係長は散々とめと体を重ねた後、彼女へ解雇を言い渡した。昭和24年の夏の出来事であった。
とめは、退職金の半分を忠次へ渡した。円の価値が変動していることに気付いていない忠次は「10円を稼いだから戻って来い」と彼女を引き留めた。とめは、忠次と信子の三人で暮らす資金を稼ぐため上京した。
昭和25年、9月。とめは、アメリカ人の主人ジョージと日本人の妻みどり、その娘キャシーが暮らす家のメイドとして働きだした。彼女は夫婦の閨を覗き見るばかりか、夫婦のベッドでオナニーをして過ごした。ある時、夕飯の支度していたとめが目を離した隙に、キャシーは沸騰する鍋に手を掛け熱湯をかぶって死んでしまった。
行き場をなくしたとめは新興宗教に走った。入信した彼女は売春宿の女将と知り合い、昭和26年の12月、売春宿の使用人として働きはじめた。やがて自らも客を取らされるようになり、はじめこそ女将に反抗する彼女だったが、あまりの収入の良さにはまっていった。
映画『にっぽん昆虫記』のあらすじ【転】
昭和30年9月、相変わらず新興宗教にすがりつくとめは、女将から売春宿の切り盛りを手伝うよう言われた。
とめは、キャシーを失ったみどりと交流を続けていた。彼女はジョージと離婚し、韓国人の“ケンチャン”と再婚して子供を設けていた。とめは、生活に苦しむみどりへ売春を斡旋した。その後、売春宿に通う客の一人・唐沢から妾になれと持ち掛けられたとめは、女将の口添えもあって承諾した。
唐沢というパトロンを手に入れ売春宿の経営にも慣れたとめは、女将を警察に売って利益の全てを自分のものにしようとした。その際、警察署を訪れたとめは女将とすれ違い様に目が合った。とめは「逃げるんだったら今の内だよ」と娼婦達を脅かし、コールガールとして自分の元で働くよう誘った。
昭和34年、4月。コールガールの組織を立ち上げたとめは、みどりも仲間に引き入れ仕事をした。更なる利益を得ようとした彼女は、唐沢の妾家で働く使用人を整形させて客を取らせた。整形手術を終えた使用人は美人になって帰ってきたが、とめに黙って勝手に客を取るようになった。
東京にいるとめの元へ、高校生になった信子が訪ねて来た。信子は、恋人の上林と一緒に胡桃平を開拓するための費用として20万貸してくれと言う。さらに、信子は高校を辞めて山形の研修農場へ行っていたと打ち明けた。とめは援助を断った。
とめは、信子と唐沢の三人で夕食を摂った。そこへ「父危篤」の電報が届き、母娘は急ぎ帰省した。
映画『にっぽん昆虫記』の結末・ラスト(ネタバレ)
床に臥せる忠次は、今わの際に「乳」と呟いた。とめは忠次の口元に乳房を差し出し、乳頭を咥えさせた。
忠次の葬式を終え東京へ戻ったとめは、使用人がいなくなっていることに気付いた。とめは使用人の下宿先やその近隣の家へ電話をかけたが、彼女は数日前からいないという。次にとめは唐沢へ電話をしようとし、そこへ警察がやって来た。とめは使用人に売られ警察署へ連行された。署内で、かつての自分と女将のように使用人とすれ違ったとめは、彼女に殴りかかった。
昭和36年、春。出所した無一文のとめは唐沢に泣き付いた。彼は金を渡すと、とめにアパートを宛がった。その夜、信子がとめを訪ねてやって来た。彼女は20万を用意するため先月上京したが、とめが捕まって不在だったため唐沢の家で世話になっていたのだと言う。さらに、信子は唐沢から金を貰うために言われるがまま体を開いていると打ち明け、とめは彼女を平手打ちして泣いた。
唐沢と暮らすようになった信子は、彼から地元に戻るか東京でアクセサリー店を経営するかを迫られた。「死んでもお前を離したくない。これが本当の幸せなんだ」と言う唐沢へ、信子は「開拓やめてアクセサリー屋やる」と言った。
唐沢は、故郷へ10万を置きに戻った信子が2ヶ月戻らないと言ってとめを責めた。そして、もしも上林が俺と信子のことを知ったら間を取り持つよう言い付けた。
胡桃平の開発は順調に進んでいた。上林は、日々大きくなる信子の腹の子が本当に自分の子であるか疑問を抱いていたが、二人で協力して生活する道を選んだ。
とめは、重たい荷物を持って故郷へと戻った。
映画『にっぽん昆虫記』の感想・評価・レビュー
最初から最後まで生々しく、生気と性欲にまみれた映画だった。
一番ショッキングだった場面は、とめが忠次に張った乳房を吸わせて母乳を出していた場面である。確かに赤ん坊に母乳を吸ってもらえずおっぱいが張るのは非常に苦しいのだが、それを、敬愛する父だろうが夫だろうが、赤ん坊以外に吸わせるというのが生理的に受け付けなかった。あまりの気色悪さに鳥肌が立った。
信子に唐沢を寝取られたとめの惨めさには同情した。彼女は何のために体を売っていたのだろうか。自分の存在意義すら見失うほどの仕打ちである。それでも、とめは自らの足で帰郷する力強さを失わなかった。実家へ向かうために彼女が進んだ悪路こそ、これまで歩んできた人生そのものなのだろう。(MIHOシネマ編集部)
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