映画『アルバート氏の人生』の概要:女優グレン・クローズの、製作・主演・脚色・主題歌作詞作品。アカデミー賞を始め、多数の映画賞にノミネート。ホテルのベテランウェイター・アルバート氏には、誰にも言えない秘密があった。ユーモラスな雰囲気の中にも女の生き方を考えさせられる、社会派ヒューマンドラマ。
映画『アルバート氏の人生』の作品情報
上映時間:113分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ロドリゴ・ガルシア
キャスト:グレン・クローズ、ミア・ワシコウスカ、アーロン・ジョンソン、ジャネット・マクティア etc
映画『アルバート氏の人生』の登場人物(キャスト)
- アルバート・ノッブス(グレン・クローズ)
- ホテルに勤めるベテランウェイター。小柄で初老の男だが、実は性別を偽り生きている女性。物静かで、気配りができ、正確な仕事ぶりが人々から評価されている。
- ヘレン・ドーズ(ミア・ワシコウスカ)
- アルバートと同じホテルに勤める若いメイド。色白で金髪の巻き毛が愛らしい。軽薄で、惚れやすい。賢くはないが、根は優しく、悪人にはなりきれない。
- ヒューバート・ペイジ(ジャネット・マクティア)
- ペンキ職人。大柄でガサツだが、どこか優雅で女にモテる。愛妻家で、妻は針子のキャサリン。辛い過去と、ある秘密を抱えている。
- ジョー・マキンス(アーロン・ジョンソン)
- ボイラー技士として、アルバートの勤めるホテルに雇われた男。実際はボイラーの知識はなく、ホテルのボーイだった。ずる賢く、粗野。暴力的な父を嫌い、自分は変わろうと努力する一面も。
映画『アルバート氏の人生』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『アルバート氏の人生』のあらすじ【起】
19世紀のアイルランド・ダブリン。街には、多数の失業者が溢れていた。しかし、ホテルの住み込みウェイターとして働くアルバート・ノッブスは、真面目で細やかな気配りのできる仕事ぶりから、失業とは程遠い顧客からの評価を貰っていた。
アルバートは仕事の出来る人物だが、口数は少なく、私生活では人と関わる事を避けていた。終業後、部屋で一人チップを帳簿につけ、マットの下に小銭を貯め込むのが日課だ。その小銭も、長い職業人生を経て、まもなく600ポンドに届こうとしている。このご時世、600ポンドはちょっとした財産だった。
ある日、アルバートは、ペンキの塗り替えに来た職人ヒューバート・ペイジとの相部屋を命じられる。眠りが浅いとか言い訳を並べ、断ろうとするアルバートだが、女主人のベイカー夫人には逆らえない。やむなく、先に休んでいたヒューバートの横たわるベッドに入るアルバート。服も着替えず、起こさないよう慎重に体を並べるが、ヒューバートから飛んできたノミに体をかきむしり、飛び起きて服をまくる。その様子を、ヒューバートに見られてしまった。アルバートの体は、女性だった。
この秘密を守ってくれと、ヒューバートに頼み込むアルバート。翌日からも、彼が秘密を漏らすのではないかと気が気ではない。あまりに不安げに付きまとうアルバートに、ヒューバートも秘密を明かす。彼もまた、女性だった。ヒューバートの場合は、結婚した男に暴力を振るわれ、仕事道具を奪って家を出た。そして夫の作業着で男として生計を立て、同じ孤独な身の上の同居人を見つけ、周囲の目を考えて籍を入れた。新しい結婚相手の名は、キャサリン。夫ではなく、妻だ。
映画『アルバート氏の人生』のあらすじ【承】
ヒューバートの話は、アルバートにとって青天の霹靂だった。自分のような者でも、結婚が出来るのか。アルバートには、貯めた金でタバコ屋を始め、妻をめとるという夢が出来た。常連客の医師にその夢を語り、良い物件を見つけ、内装を想像する。しかし、妻に自分の秘密をどうやって打ち明けるのだろうか。
アルバートは、ヒューバートが部屋に忘れたボタンを口実に、彼の家を訪ねた。妻のキャサリンは、よく笑う、明るい女性だった。アルバートにも優しく接し、彼らの家は、温かく家庭的な雰囲気に溢れていた。ヒューバートに促され、過去を語るアルバート。
アルバートは、金持ちの女が産んだ私生児だった。会った事のない実母の援助で、養母と共に修道会で暮らしていた幼少期。しかし、実母が死ぬと、二人は貧困街での暮らしへと身を落とす。養母が急死し、天涯孤独となった時、アルバートは14歳だった。彼女は男達に襲われ、「彼」として生きる決意をした。折しもウェイターの大量募集があり、こうして、ウェイターのアルバートが誕生したのだ。
ヒューバートの家を訪ね、アルバートの夢はより具体的になっていた。カウンターに立ち、喫茶室でくつろぐ妻の姿に思い浮かべるのは、同じホテルのメイド・ヘレンだ。愛らしい顔立ちのヘレンの事は、ヒューバートも褒めていた。しかし、ヘレンには既に付き合っている男がいる。ヒューバートと同じ日にホテルに雇われた、下働きのジョーだ。彼は前の勤め先で失態を犯しクビになり、職業を偽ってこのホテルに潜り込んでいた。
映画『アルバート氏の人生』のあらすじ【転】
アルバートは、ヘレンをデートに誘う。ヘレンは年上で無口のアルバートを恋の相手として見たことはなく、ジョーを口実にその誘いを断った。しかし、そのジョーからデートへ行くよう勧められるヘレン。年寄りに、金目の物を買ってもらえという算段だ。ヘレンもその気になり、アルバートは、言われるがままに高級チョコレートや帽子、高級酒を買い与えた。
ジョーは、アメリカに行って成功したいと願っていた。その為に、こっそり読み書きの練習もする。渡航費は、ヘレンを使ってアルバートから巻き上げようと考えていた。アルバートは毎回のデート費用に頭を悩ませるが、店の買取りも急ぎたいし、今だけの辛抱だと思ってヘレンの言いなりになっている。ヘレンは、風変りだが善良なアルバートを騙す事に嫌気がさし始めていた。アルバートに購入予定の物件まで見せられ、うんざりだ。
突然、ダブリンの町をチフスの猛威が襲う。ホテルでも従業員が二人死に、アルバートも病に倒れた。奇跡的に回復するが、ホテルは営業停止処分。町には多くの死者が出た。アルバートがペイジ家を訪ねると、キャサリンも亡くなっていた。ヒューバートに、共に暮らさないかと持ち掛けるアルバート。しかし、ヒューバートにとって、キャサリンは何にも代えられない存在だった。彼はキャサリンが縫ったドレスを出し、自分とアルバートに着せる。まるで女装といった出で立ちで、海岸を散歩する二人。本来の姿を取り戻し、少女のように瞳を輝かせ駆け出すアルバートに、自分らしく生きろと助言するヒューバート。
映画『アルバート氏の人生』の結末・ラスト(ネタバレ)
アルバートのヘレンへの恋心は、次第にホテル中の知るところとなっていた。誰もが、だらしないジョーに惚れ込むヘレンはアルバートにふさわしくないと考え、アルバートを止めた。しかし、アルバートはヘレンにプロポーズをする。店舗購入の手付金100ポンドも払い込んだ。それでも、ヘレンはジョーを選んだ。ヘレンは、ジョーの子を身ごもっていた。アメリカ行きを願うジョーに捨てられるという恐れが付きまとうが、アルバートの誠実すぎる態度はヘレンに愛を感じさせなかったのだ。
皆が恐れたとおり、ジョーは父親になる覚悟が出来なかった。ジョー自身、酒浸りの父親に殴られ、怯えながら育った男なのだ。彼は、忌み嫌ってきた自分が父と同じ道を歩む事を恐れていた。ヘレンの部屋で言い争う二人。使用人達が、心配そうに様子をうかがっている。そこへ、アルバートが乗り込んだ。再度ヘレンに結婚を申し込み、ジョーに食ってかかるアルバート。しかし、小柄で非力なアルバートは、簡単に壁に打ち付けられてしまった。
喧騒を遠くに聞きながら、耳から血を流し、アルバートはふらふらと自室に戻る。鍵をかける手もおぼつかないが、ベッドに横たわると不思議と気分が落ち着いてきた。脳裏に浮かぶのは、あの家庭的なペイジ家の居間だ。満足そうなほほ笑みを浮かべ、眠りにつくアルバート。
翌朝、変わり果てたアルバートを発見したのはヘレンだった。すぐに医者が人払いをし、遺体を調べて、その体に驚いた。長年性別を偽り勤めてきたこのウェイターの訃報は、町のちょっとしたニュースになった。ベイカー夫人はマットの下の財産を見つけ、手に入れた。ジョーはヘレンと生まれた子を捨て、アメリカへ行った。ヘレンは寝食を確保するため、ただ働きの身になった。
ベイカー夫人は、ヒューバートを再び雇う。「ちょっとした金」が手に入ったから、内装のペンキを全て塗り替えるのだ。費用はかさむが、問題ない。あてがわれた亡きアルバートの部屋で、友人の報われない人生を嘆くヒューバート。すると、窓から赤子の声が聞こえる。ヘレンの子で、名はアルバート=ジョーだという。ヘレンは、いずれこの子も取り上げられ、自分も追い出されるだろうと怯えていた。アルバートの遺した金をペンキの塗り替え代金として取り返す予定のヒューバートは、ヘレンに、一緒に何とかできないか考えよう、と持ち掛けた。
映画『アルバート氏の人生』の感想・評価・レビュー
とてもしっとりとした静かな映画です。
ホテルのウェイターを務めるアルバートは、自分の夢を叶えるために、女性ながら男装しています。自分を殺して、夢のために努力できる姿勢はとても尊敬できると感じます。
最終的には、夢も叶わず、想いを寄せた女性とも一緒に生きて行けずに亡くなってしまいますが、その顔は満足そうで穏やかでした。
夢半ばで死んでしまっても、最期の瞬間が落ち着いたものであればいいのかなと考えさせられる映画でした。(女性 20代)
グレン・クローズの演技がとにかく素晴らしかった。本来の性別を偽り生活しなければならない生活は、とても苦しいものだったろうと思う。しかも、アルバートだけでなく、ヒューバートも同じだったのだから驚きだ。アルバートが愛する女性との恋に破れてしまったことは切なかった。ヘレンの気持ちを思うと何とも言えない気持ちになるが、ペイジ家の居間を思いながら息を引き取ったアルバートは、やはり愛する人との穏やかな生活を切望していたのだろうと思う。(女性 30代)
19世紀のアイルランド、様々な事情から性別を偽って階級社会を生きる女性の物語。
当時、女性がたった一人で生きることは非常に困難であっただろうか。
何十年もの間、性別を偽って必死に生き抜いた主人公の強さや、結局夢も恋も叶わなかった切なさが胸を打つ。
女というだけで、その弱さに付け込まれる女性たちを思うと許すまじと感情が沸き上がるが、ヒューバートが彼女の夢を守ってくれることを信じたい。
誠実で物静かな印象だった。(女性 20代)
「女性」が「男性」よりも低く見られていた時代。ものすごく女性が生きづらい時代だったんだと感じます。女性であるが故に、収入が少なく、貧しい暮らしをしなくてはならない。今でこそ、女性も男性も分け隔てなく生きているように感じますが、公にはならないだけで、差別や不平等を感じたことのある女性は少なくないでしょう。
貧困から逃れるために「男性」として生きることを選んだ人生。私には到底考えられませんが、この時代にはそういう生き方も必要だったのだと感じ、悲しくなりました。(女性 30代)
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