映画『欲望』の概要:「欲望」(原題:Blowup)は、1967年のイギリス・イタリア合作映画。監督は「情事」、「太陽はひとりぼっち」のミケランジェロ・アントニオーニ。主演は「聖女ジャンヌ・ダーク」、「いつわれる微笑」などのデヴィッド・ヘミングス。共演はデビュー間もない「モーガン」、「わが命つきるとも」のヴァネッサ・レッドグレイヴ。シンガーであり女優のジェーン・バーキン。「素晴らしきヒコーキ野郎」などのサラ・マイルズ。スーパーギタリストのジェフ・ベックとジミー・ペイジが同時参加していた当時の、ブリティッシュロックの伝説的グループ「ヤードバーズ」がゲスト出演している。音楽はジャズ・ピアニスト、アレンジャーのハービー・ハンコックが担当。
映画『欲望』 作品情報
- 製作年:1966年
- 上映時間:111分
- ジャンル:サスペンス
- 監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
- キャスト:デヴィッド・ヘミングス、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、サラ・マイルズ、ジェーン・バーキン etc
映画『欲望』 評価
- 点数:95点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★☆
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『欲望』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『欲望』のあらすじを紹介します。
ロンドンでコマーシャルカメラマンとして活躍するトマス(デヴィッド・ヘミングス)は、二十歳の若さで早くも名声を得ていた。ある土曜日、彼は気晴らしのため人通りのない街を、ローバーの新車で飛ばしていた。車をおいて緑いっぱいの美しい公園を散歩している時、魅惑的な女と好色そうな中年の男が戯れているのに出会う。トマスは二人が木陰でキスを交わしているのを見ると、純粋な職業的興味から反射的にそれを撮影していた。男はいち早く姿を消したが、その美しい少女は彼の家まで訪ねて来て、一心にフィルムを返してくれと頼んだ。彼女はジェーン(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)と言った。トマスがフィルムをやるから、その代償として彼女のヌードを撮らせろというと彼女は仕方なくその場で裸になった。彼は違う写真を返すと、彼女は安心して帰って行った。トマスは早速公園で撮った写真を現像し、引き伸して見た。ところがその写真にうつっている薮の中に、銃を持っている見知らぬ男を発見して驚いた。更にまたその薮の中に死体のようなものまで写っていた。彼は公園へ車を飛ばした。そこには男の死体があり、しかもその男はジェーンと逢びきをしていた男だった。驚いた彼は急いで家に帰ったが、彼が引き伸した写真もフィルムも全て盗まれている事に気づく。翌朝トマスは、再び事実を確かめるため公園へ向かうも、昨日横たわっていた死体は消えていた。するとそこへモッズ族が乗り込み、パントマイムでテニスボールを打ち始める幻想の世界であった。間もなくトマスは何時、どこで現実の世界から幻想の世界へ足を踏み入れたかという絶望的な疑問を抱きながら、目に見えないテニスボールを追っていた。
映画『欲望』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『欲望』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
不条理というものを表現した断片的なイメージ映像
カメラマンが偶然撮った写真を引き伸ばしたら、予想外の殺人シーンが写っていたことから、話はサスペンスな展開となるのだが、途中当時のサイケデリックなロンドンの街や文化を織り交ぜ、単なるサスペンスではないシュールな心理劇が展開されてゆく。エリック・クラプトンも在籍していた伝説のグループであるヤードバーズで、ジェフ・ベックとジミーペイジの共演シーンも見所であり、アンプの不調に腹を立てたジェフ・ベックがギターを叩き壊し、その残骸を観客が奪い合うという演出も印象的である。そして壊れたギターのネックを奪って必死で逃げたものの、興味も無さそうに街角へ捨ててしまう主人公の空虚な行動。60年代イギリスのカルチャーを象徴するようなイメージ映像が延々と続く中で、物語の展開は隅に追いやられ、何が現実なのか主人公の記憶と周囲に起こる出来事から曖昧になっていく不条理さの快感が伴う。主人公はその夢想的な世界を浮遊するように彷徨うだけであり、目的意識などは失われてしまっている。ヌーヴェルバーグの流れをアントニオー二独自の感覚で表現し、実験的映像の先駆けとなった作品である。
映画の表現から外れた世界観
映画というものは物語を伝えるための表現であり、動きというものに司られて表情を描いて行く連続性のある描写方法である。しかし本作では敢えてその手法から逸脱し、写真集のように断片的なイメージを描く事により、観る者にイマジネーションのみを伝える実験的な試みを行っている。何気なく撮った写真に殺人の場面が移り込んでいるというのは、映画における必然性を埋めるための最小限のプロットであり、それもカメラマンという表現者の眼を通したプロセスの一環に過ぎず、ストーリーを持たせる意味など介在していない。時代の中心にいた主人公が見た白日夢のような世界を、イギリスの新しい文化に準えて表現したアルバムという以外に、説明の方法が見つからない世界観であるが、タイトルの「欲望(Blowup)」に似つかわしくなくやけに空虚なイメージだ。
映画『欲望』 まとめ
1960年代半ばのロンドンは「スウィンギング・ロンドン」と呼ばれ、世界のポップカルチャーの中心だった。それはファッション、デザイン、映画、文学、アート、写真、そして音楽などに携わる人々や、それらを支持する人々が醸し出した一つの文化革命であり、ロンドンが最も輝いていた時代として今でも伝説のように語られている。パリがモードやカルチャーの権威だったが、この時期はロンドンに眩しいくらいのスポットライトが当たる。本作はその文化を浮き彫りにするように、写真と映像の表現を追究したドキュメント的な作品であると言えるだろう。そしてアントニオー二監督のカメラからの視線が、時代を誇張し集約して捉えた抽象的なイマジネーション作品である。
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