映画『大理石の男』の概要:「大理石の男」(原題:Człowiek z marmuru)は、1977年のポーランド映画。監督は監督は「世代」、「地下水道」、「灰とダイヤモンド」の”アンジェイ・ワイダ。スターリン時代に労働者の英雄に祭り上げられた男の大理石像が、製作中の記録映画の取材で訪れた博物館の片隅に放置されているのを発見した映画大学の女子学生が、その像の男の真実を探り、ポーランド現代史の裏面に深く立ち入っていく姿を、重厚なリアリズム描写で映画化したワイダの大作。主演はイエジー・ラジヴィオヴィッチ。共演はミハウ・タルコフスキ、クリスティナ・ヤンダ、タデウシュ・ウォムニツキなど。
映画『大理石の男』 作品情報
- 製作年:1977年
- 上映時間:161分
- ジャンル:ヒューマンドラマ
- 監督:アンジェイ・ワイダ
- キャスト:イエジー・ラジヴィオヴィッチ、ミハウ・タルコフスキ、クリスティナ・ヤンダ、タデウシュ・ウォムニツキ etc
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映画『大理石の男』 評価
- 点数:90点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★☆
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『大理石の男』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『大理石の男』のあらすじを紹介します。
1976年のポーランド。映画大学の女子学生アグニェシカ(クリスティナ・ヤンダ)は、彼女の第1回ドキュメンタリー作品としてテレビ局で仕事をすることになった。彼女は50年代の英雄労働者の姿を描くことで、その時代の人々や周囲の状況を伝えようと思い描き、主人公の調査のため博物館に行った。そして倉庫の隅で、かつて有名だった煉瓦積み職人エマテウシュ・ビルクート(イェジー・ラジヴィオヴィッチ)の彫像が放置されているのを発見する。ビルクートは戦後のポーランドで最初に建設された、大きなプロジェクトの工場建設に携わった労働者だったが、現在の消息は不明だった。そして生き証人のインタビューを通じて、彼女は一人の労働者を浮き彫りにしてゆく。映画監督のブルスキ(タデウシュ・ウォムニツキ)は、当時統一労働者党員が組織したデモンストレーションで、ビルクートは煉瓦積みの新記録を打ち立てたと語る。マスコミは彼に着目し、彼を描いた映画で、ブルスキも監督として新しい道を歩むことになる。次に会ったミハラック(ピョートル・チェシラク)は、もと保安隊の将校でストリップ劇団の座長をしているが、彼はビルクートの経歴を詳しく知っていた。ビルクートは煉瓦積みチームの班長だったが、そのデモンストレーションに参加した時、熱く焼けた煉瓦を手渡された。それはサボタージュの意図だったのだが、同僚のビテックが犯人として疑われ、党の事務所に呼び出された時に姿を消してしまう。ビルクートは彼の行方を追いワルシャワの党本部へ掛け合うが、事実は隠蔽されビルクートは住居を剥奪され職も名誉も失い、テロリストと見なされ刑務所へ投獄される。やがて出獄したビルクートは、入獄中に別れた妻を探していたが、再開できたか否かは不明だった。ビルクートの前妻がザコパネにいるという情報から、街を訪ねたアグニェシカは彼女に会った。そして彼女の悲惨な生活と、夫との再会の話に胸を打たれる。しかし主人公が見つからなくては映画が完成できないという状況で、テレビ局が彼女の企画を没にしてしまう。途方に暮れるアグニェシカは父(ズジスワフ・コジェン)に相談する。父は平凡な真実こそが何よりも大切であり、映画が完成する事より彼女が追求した行為こそが真実だと説く。彼女はビルクートの息子が、グダニスクの造船所で働く事を知り彼を訪ねた。ビルクートは既に他界しており、それ以上のことは息子の口から聞き出せなかったが、諦めない彼女はビルクートの息子と共にワルシャワに向かった。
映画『大理石の男』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『大理石の男』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
不当な弾圧を暴こうとする執念の記録
かつてポーランドは中央ヨーロッパの巨大王国でありながら、1700年代後半には国家が消滅するという憂き目に会い、1900年初頭に再びロシア帝国から独立するも、ナチスドイツとソビエト連邦による侵攻によって崩壊してしまい、実質はソ連の属国とも言える共産主義国家のポーランド人民共和国が1989年まで続く。民主主義とはかけ離れた政府による監視下の中で、本作のような映画を撮り続けるというのが如何に困難だったかは理解できる術もないが、アンジェイ・ワイダの共産主義の犠牲になった人たちへの想いが強く窺える。時代へ向けて発言する熱気と揺るがない決意こそが本作の感動の核である。興味深いのは共産主義のプロパガンダ映画というものが、どの国でもほぼ同じように洗脳的であり、一部ではあるがその実写フィルムが異様な虚像のように映し出される。今となっては中々お目にかかれない貴重な映像である。物語の主人公である煉瓦積み職人のビルクートは、共産党の広報活動に利用されていた虚像であるが、その中で不当な扱いと戦いながら投獄され、全てを失い忘れ去られた象徴だった。その事実を映像に残そうとするもう一人の主人公である映像作家を、自分の創作活動に準えてドキュメントタッチで描いた興味深い作品である。
解りやすく的を得た視点
社会主義政権の時代に、プロパガンダの裏側を描いた映画を作る作家の卵という背景が何とも複雑に描かれている。自らが作り上げたシナリオの中で生まれた虚像を排除しようとする国家権力の姿は、社会主義という本質の脆さを皮肉った内容であり、悲惨さは少なめながらその滑稽さが強調されて、冗長さを感じさせない濃密な作りに長い上映時間を忘れてしまう。作られた英雄の顛末を追い、徐々にベールを剥がしてゆくシナリオは、第二次大戦後のポーランドの歴史に予備知識が少ない者が見ても解りやすく、多くの人間に共産主義の実情を知らしめるには的を得た視点ではないだろうか。
人生を翻弄された「大理石の男」を様々な角度から描いた物語。こういう作品を見ると、日本人のぬるさと言うか政治や国に対する興味のなさを強く感じます。自分の生活、自分が生きる国に対しての希望や不満があるからこそただの男が英雄のように称えられ、大理石の像まで作られたのでしょう。しかし、結末はなんとも皮肉でした。
反発しろとは言いませんが、もっと色々なことに興味を持ち自分の意見を表に出さなければいけないなと感じました。(女性 30代)
映画『大理石の男』 まとめ
1962年に政府のプロバガンダに利用され、虚像の英雄に仕立てられたビルクート。その奇妙なストーリーに興味を持ち、共産党の実情を白日の下にさらそうとする作家の卵は、正しくアンジェイ・ワイダ監督そのものである。公開時、ポーランド国内において3ヶ月間で270万人を動員したという記録があり、当時では相当センセーショナルな内容だったのは言うまでもない。2年間の海外上映禁止処分を受けるも、1978年の第31回カンヌ国際映画祭でポーランド当局に無断でスニークプレビューされ、国際映画批評家連盟賞を受賞したという経歴もおまけとしてついている。知る権利を謳うジャーナリズムの正しい在り方が窺え、陰謀を暴くという興味をそそられる作品である。
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