映画『ダラス・バイヤーズクラブ』の概要:実在の人物ロン・ウッドルーフの実話を基にしたヒューマンドラマ。HIVウイルスに感染してしまったロンは、独自のやり方で、エイズと戦う。主演のマシュー・マコノヒーと助演のジャレッド・レトが迫真の演技を見せており、共にオスカーを受賞した。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』の作品情報
上映時間:117分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
キャスト:マシュー・マコノヒー、ジャレッド・レトー、ジェニファー・ガーナー、デニス・オヘア etc
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』の登場人物(キャスト)
- ロン・ウッドルーフ(マシュー・マコノヒー)
- ロデオ好きな生粋のカウボーイ。腕のいい電気技師だが、暮らしぶりは退廃的で、薬物の使用や乱交を続けている。その過程でHIVウイルスに感染し、余命30日と宣告される。メキシコの元医者から的確な治療法を伝授してもらい、それを実行する。
- イブ・サックス(ジェニファー・ガーナー)
- ロンが最初に担ぎ込まれた病院の女医。ロンは彼女の人柄を信用し、様々な相談を持ちかける。ロンの話を聞き、新薬AZTの危険性を知る。レイヨンとも友人。
- レイヨン(ジャレッド・レト)
- 性同一性障害の元男性。性転換手術を受けている。ロンと同じくエイズ患者であり、AZTの臨床実験を受けている。病院でロンと知り合い、仕事の相棒として行動を共にする。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のあらすじ【起】
生粋のカウボーイであるロン・ウッドルーフは、ロデオや不特定多数の女性たちと乱交を楽しみ、酒やドラッグもやりたい放題の退廃的な暮らしを続けている。警察官をしている弟のタッカーは、最近体調の悪そうなロンを心配する。ロンはずっと咳が止まらず、体重もどんどん減っていた。
電気技師をしているロンは、機械に足を挟まれた労働者を救うため、電気を止める作業に取り掛かる。作業を開始した途端、電気の配線がショートし、意識を失ったロンは、病院へ運ばれる。
ロンの血液検査をしたセバート医師は、“HIVウイルスに感染しており、余命は30日程度だ”とロンに告げる。ロンは“自分はホモじゃない”と怒り出し、病院を出てしまう。
1日目。ロンはいつものように友人と酒を飲んでコカインを吸引する。しかし一抹の不安は拭いきれず、図書館でエイズについて調べる。ロンは、薬物注射の針や避妊具なしの性行為でもエイズに感染することを知り、自分がエイズであることを確信する。
7日目。ロンはAZTという新薬の存在を知り、病院へ向かう。病院ではこの新薬の臨床実験を始めており、ロンは“金を払うから薬をくれ”と女医のイブに頼む。イブは、“新薬はまだ被験者以外に処方することはできない”と説明し、ロンに帰ってもらう。
ロンがエイズ感染者だという話は仲間内でも広がり、ロンは冷たい仕打ちを受ける。この頃はまだ、感染者に触るだけでとウイルスに感染するという間違った情報が信じられており、感染者に対する差別も激しかった。
ロンはまだ自分の死と向き合うことができず、“心の準備をさせてくれ”と神に祈る。祈りが通じたのか、たまたま入ったストリップクラブで病院の清掃員の男を見つけ、ロンは男に取引を持ちかける。
8日目。ロンは金を払って、清掃員にAZTを盗み出してもらい、それを酒で流し込む。その後も酒やコカインをやりながら薬を飲みまくり、余命宣告から28日目を迎える。
ところが、薬の管理が厳重になり、清掃員は薬を入手できなくなる。代わりにメキシコの医者の電話番号を教えてくれた。しかしロンは怒り出し、そのまま酷い頭痛に襲われて、倒れてしまう。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のあらすじ【承】
ロンは危篤状態を脱し、意識を取り戻す。ロンの血液からはAZTの成分が検出され、違法に薬を入手していたことがセバートやイブに知られてしまう。
同室のレイヨンは性転換手術を受けた元男性で、今は身も心も女性になっている。レイヨンはロンと同じエイズ患者で、AZTの臨床実験を受けていた。ロンはレイヨンに薬を売って欲しいと頼むが、それは無理な相談だった。ロンは勝手に退院し、自宅へ帰る。
ロンは自宅に隠していた有り金をかき集め、銃と母親が描いた絵だけをトランクに詰めて、家を捨てる。ロンへの差別はますます酷くなり、ここで暮らすことは不可能だった。ロンは車内で、涙を流す。
30日目。ロンは藁にもすがる思いで、清掃員に教えられたメキシコのバス医師を訪ねる。バスは医師免許を剥奪され、正式な医者ではなくなっていたが、その腕は確かだった。バスは咳を誘発している肺炎の原因は、コカインやAZTのやりすぎだと説明し、的確な治療法を教えてくれる。ロンはその治療法にかけてみる。
3ヶ月後。メキシコで治療を続けていたロンの数値は、劇的に良くなっていた。ロンは、HIVウイルスを消すことはできないが、副作用のない安全な薬を服用し、生活を改善すれば延命できるということを、身をもって体験する。
ロンはバスが処方してくれた薬をトランクに積み、アメリカへ帰る。国境の検閲を通過するため、ロンは牧師のふりをするが、あまりに大量の薬を積んでいたため、FDA(アメリカ食品医薬品局)のバークレーに尋問される。海外から持ち込みが許される合法薬物は、本人のみが90日間使用する分だけという決まりがある。もしそれを販売して利益を得たら、長期刑に処される。ロンはガン患者を装い、全て自分のためだと訴えて、解放してもらう。
しかしそれは真っ赤な嘘で、ロンは同性愛者をターゲットに薬を売り始める。勝手に病院を出ていたレイヨンは、25パーセントの分け前をもらうことでロンの相棒となり、仲間に薬を売りさばく。レイヨンはAZTの副作用で体調が悪化していたが、ロンの治療法で元気を取り戻す。しかしエイズによる犠牲者は、どんどん増えていた。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のあらすじ【転】
ロンはとあるモーテルの一室を借り、会社を設立する。「ダラス・バイヤーズ・クラブ」と名付けられたロンの会社は、400ドルの会員権を買えば、薬を無料で配布するというシステムになっていた。
2ヶ月後、ロンの治療法は口コミで評判となり、会員は順調に増えていた。噂を聞きつけたイブは会社を訪れ、会員の中に自分の患者がいることを知る。イブはレイヨンのことも心配していた。
ロンの会社は大評判となり、薬を欲しがる患者が長蛇の列を作るようになる。ロンは薬を調達するため、日本へ向かう。同行するはずだったレイヨンは、ドラッグの使用を続けていたため、ロンに置いていかれる。
ロンが取引する予定だった日本人医師は、インターフェロンがアメリカへ輸出できないと知り、取引を断ってくる。しかしロンは諦めず、もっと強力なインターフェロンを、別の医師から入手する。帰国したロンは、空港で体調を崩し、入手した薬をトイレで注射する。しかしその薬はあまりにも強力で、ロンは意識を失って、病院に運ばれる。
ロンはセバートが用意した点滴に AZTが入っていると知り、針を引き抜いて勝手に退院してしまう。苦労して入手したインターフェロンは、FDAに没収されてしまう。
ロンは、薬を待っている会員のため、世界中を飛び回って薬を入手する。ロンは、危険な副作用のあるAZTを認証したFDAや、それを使う病院に怒りを募らせる。病院で症状緩和の治療を受けられなかったエイズ患者のほとんどが、半年以内に死亡していた。
病院よりもロンの会社を信用する患者が増え、ついにIRS(内国歳入庁)が動き出す。IRSの査察が入り、会社の薬は没収されてしまう。
その夜、ロンはイブと高級レストランでデートを楽しむ。ロンは大事にしていた母親の絵をプレゼントし、人生を楽しんで欲しいと話す。治療薬の入手が困難となり、ロンの症状は悪化していた。会社には押収令状を持った警察までやってきて、ロンは政府と FDAを相手に、訴訟を起こす決意をする。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』の結末・ラスト(ネタバレ)
1987年3月11日。FDAは規則の変更を発表する。これにより、医師の処方箋がなければ、どんな薬も国内に持ち込めないことが決まり、ロンの商売は違法になってしまう。
しかし会員は増えており、薬のストックはどんどん減っていた。会社は何かと物入りになり、財政状況も悪化する。ロンの考えに賛同する支援者もいたが、まとまった金がないと、会社の存続は困難になっていた。
レイヨンは男性用のスーツを着て、実家の父親を訪ねる。大金持ちの父親は、性転換した息子を恥じていた。レイヨンは自分がエイズになったことや、ロンが恩人であることを説明し、ロンを助けて欲しいと訴える。
レイヨンはきれに化粧をして、“生命保険を解約した”と嘘をついて大金を渡す。ロンは心から感謝し、レイヨンと握手をする。レイヨンは愛するロンに抱きしめてもらい、嬉し涙を流す。
金が用意できたロンは、イブに処方箋を書いて欲しいと頼みにいく。しかしイブは告訴される危険性を指摘し、その話を断る。ロンは仕方なく、イブの目を盗んで、処方箋の用紙を盗む。
ロンはメキシコへ行き、バスから新しい薬を入手する。その頃、アメリカのレイヨンは大量に吐血し、病院に担ぎ込まれていた。
処方箋に適当なサインをし、ロンは薬を持って帰国する。そしてレイヨンの急を知り、病院へ駆けつける。しかしレイヨンはすでに、天国へ召されていた。
ロンはセバートを“お前は立派な殺人鬼だ!”と罵り、怒りをぶつける。イブはロンを心配し、会社を訪れる。ロンは改めてAZTの危険性を解き、バスにもらった医学雑誌をイブに渡す。他国では、AZTの危険性が科学的に証明されていると知り、イブもやり場のない怒りを感じる。
禁止命令の解除を訴える訴訟に負けたロンは、公の場で製薬会社や病院、そしてFDAを声高に非難する。ロンに協力したイブは、病院を解雇される。
薬が切れてしまったロンは、激しい頭痛に襲われ、道路の真ん中でタッカーに救出される。アルツハイマー気味の父親に渡していた薬を注射してもらい、ロンの症状は改善する。
それから6ヶ月後。ロンはまだ生きており、サンフランシスコ連邦地方裁判所で、裁判の結果を待っていた。裁判官は、FDAにも落ち度があるとしながらも、ロンの訴えを却下する。落ち込んで会社へ戻ったロンは、仲間たちに拍手で迎えられる。
裁判後、FDAはロンの主張を認め、ペプチドTの個人使用を許可してくれた。これによりロンの症状は緩和され、ロデオに参加するまで元気を取り戻す。
ロンはHIV感染の発覚から7年後となる1992年9月12日に死去したが、ロンのおかげで多くの患者の命が救われた。
映画『ダラス・バイヤーズクラブ』の感想・評価・レビュー
引きで観れば女遊びして薬に溺れて、体がボロボロになった自業自得なカーボーイ。余命宣告を受けた後、違法に治療薬を手に入れたことも悪い事ではある。だが、彼は結果的にエイズ治療に貢献したこととなった。要因は知識である。序盤は毒性の強い治療薬にすがる哀れなモルモットであった。その後、勉強するに連れ自身の置かれた立場が弱いことに気づく。薬物を断ち食事にまで気を使うようになった。死に直面して抗うと決め、知性を帯び始める変化が非常に良く表現されている。(男性 20代)
一番ショックを受けたのは、主人公のロンを演じるマシュー・マコノヒーの別人のようなビジュアルだ。文字通り骨のように痩せこけた身体になるまでの役作りをした彼の俳優魂には喝采を送りたい。
また本作はLGBTQ作品の中でも少ないと言えるトランスジェンダーについて扱っているが、実話をベースにしたストーリーやエイズについての事実は性的マイノリティの人々の苦しみについて私が知らなかったことを直球に投げかけてくれた。差別的な眼差しが未だに少なからず見受けられる日本でも多くの人に観て欲しい作品だ。(女性 20代)
余命30日ともし宣告されたら、自分だったら諦めて家に引きこもってしまうかもしれない。生きることを諦めず、常に行動し続けたロン・ウッドルーフの言動に圧倒される。彼がいなければ、苦しみ悲しみに暮れる人がもっといたかもしれない。
正しい知識を身につけるというのは、本当に大切なことだなと改めて感じた。そうすれば、不必要な差別はなくなるのだろうと思う。今まで暮らしていた場所で、安全に暮らせなくなることほど寂しいことはない。(女性 30代)
余命30日と宣告されながら、くたばるか!とカウボーイらしい生き様で7年も生きた男の実話を元にした物語。HIVを発症してしまったロンは、自業自得としか言えない生き方をしていたので擁護の言葉もありませんが、それはきっと彼も自覚していたのでしょう。
だからこそ、自分のために精一杯生きて、それが誰かの命を救う結果になったのでは無いでしょうか。
だらしない男だと思っていたロンが、多くの人の命を救う功績を残したことは紛れもない事実です。少し過激ではありますが、多くの人に見てほしい作品です。(女性 30代)
みんなの感想・レビュー
誰が出ているか知らずに見て欲しい。
そして主人公は誰が演じているのか考えながら見てみる。
何も知らずに見た自分は、最後のテロップでそれがマシュー・マコノヒーだと知り驚愕した。
役作りのために20キロ減量したという彼は、いつもの格好良い姿とは想像もできないくらいやせ細り、いかにも病人である。
また演技力も素晴らしく、本当にその人物がリアルに生きているのでは?と思ってしまうほどの怪演を見せてくれる。
こんなに演技に迫力があり、死の淵にある男を切羽詰まった感じで演じることが出来る俳優だとは思っていなかったのでびっくりだ。
下手すると面白くない感じになりそうな作品。
ダラダラと1日ごとに綴ったら飽きて、それだけでもう見たくなくなりそうな作品だ。
しかし本作品は何日かごとにすっとばして描いてくれているので、非常に彼の体の状態を理解しやすい。
余命30日と告げられて、残された日が描かれることにより見ている側の緊張度も増す。
それを上手く使っているものの、何日かごとに描いてくれていることでスピード感もだれず最後まで興味深く見ることが出来た。
本作品は素直に面白いという感想が言える作品だ。
何といっても話の内容も社会問題でありながら、現代の悩みを取り上げているかのようなリアリティーでスピード感もあり最後まで引き付けられる。
特に俳優の演技の上手さは申し分ない。
主演のマシューの役作りによる変化は素晴らしく、熱意も凄い。
意気込みが違うのだ。
話の内容に興味が無い人でも見てもらいたい映画である。
最近の作品の中でバランスのとれた優良作品の1つといっても過言ではないだろう。
この作品で女医のイヴ、実際にはあまり重要な役では無いのだが彼女の存在が本作品を普通の映画にしてくれている。
男だらけのむさ苦しい作品というイメージだっただろう映画を、イヴのおかげで安らぐようなシーンを作っている。
主人公とのやり取りも段々と心が温まるようなものになっていて、話に深みを与えてくれる。
彼女の存在が非常に大きいものであることは言うまでもない。