映画『ディアーディアー』の概要:小さな町で育った3兄妹は、同じ苦い経験をしている。噂はすぐに広まり、町を出た義夫と顕子。父親の工場を継いだ長男・富士夫の呼びかけで、久々に再会を果たし過ごした時間を紡ぐ。
映画『ディアーディアー』の作品情報
上映時間:107分
ジャンル:コメディ、ヒューマンドラマ
監督:菊地健雄
キャスト:中村ゆり、斉藤陽一郎、桐生コウジ、染谷将太 etc
映画『ディアーディアー』の登場人物(キャスト)
- 顕子(中村ゆり)
- 小さな町が嫌いで、駆け落ち同然で家を飛び出した3兄弟の長女。無職の夫に呆れ、離婚を決めている。再会した高校の同級生と不倫紛いな遊びに手を出す。
- 義夫(斉藤陽一郎)
- 精神病を患う次男。富士夫と顕子とは離れて暮らしているが、立ち直ろうと必死にあがいている。
- 冨士夫(桐生コウジ)
- 父親の工場を継いで、唯一町に残っている長男。小さなコミュニティの呪縛と、経済難に囚われている。逃げ出した顕子と義夫を羨みつつ、大事にしている。
- タカシ(染谷将太)
- 町の住職の一人息子。寺を継ぐのを嫌がり、金儲けに汚い父親を避けている。父親が賄賂を受け取っているのを知り、富士夫に悪い提案をする。
映画『ディアーディアー』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ディアーディアー』のあらすじ【起】
倒産寸前の小さな町工場を一人で切り盛りする富士夫。その頃妹の顕子は富士夫の元へ向かおうと、バスに乗っていた。偶然乗り合わせた兄の義夫。具合が悪くなった義夫に付き添い、下車した顕子はバス停で富士夫の迎えを待つのだった。
父親に譲ってもらった車で迎えに来た富士夫は、義夫の体調を気遣う。義夫は精神病を患っているのだ。最近は薬も飲んでいないと胸を張る義夫は運転させてほしいとわがままを言いだす。優しい富士夫は運転席を譲るが、早々にどこかの犬を轢いてしまい、義夫は気を落とすのだった。そんな中顕子は、たばこを吸いながら二人を俯瞰している。
義夫と顕子が地元に戻ったのは、危篤状態の父親の顔を見るためだった。小さな町では義夫の病は噂になりやすいため「経営コンサルティング会社の社長」だと嘘をついていた富士夫。3人で久々に囲んだ食卓では、父親との苦い記憶が共通の話題だった。「子供を殴るのはメンタルの弱い証拠だ」と酔いに任せて暴言を吐いた顕子に対して、精神病は嫌いな父親譲りだと言われたと勘違いし、義夫は怒り出してしまう。父親を思って工場も土地も残そうと熱心なのは富士夫だけであった。
映画『ディアーディアー』のあらすじ【承】
村を嫌い駆け落ち同然で家を出た顕子は離婚したと言う。迎えに来た夫・清一を置いて、高校の同級生・西野と飲みに来ていた。西野はショッピングセンター建設計画に携わり、地上げをしている。富士夫にも交渉を続けているのだった。仕事のことは抜きにしても顕子に夢中な西野はラブホテルに行きたがるが、顕子は実家に戻るのだった。
翌日から富士夫は、無職の清一にやりがいを与えようと、工場の仕事を手伝わせ面倒を見ていた。母親の墓参りに行こうと提案するも、顕子は二日酔い、義夫は轢いてしまった犬を埋めにどこかへ向かってしまう。犬を埋めた義夫は、帰り道に必死で犬を探す同級生の畠中と鉢合わせてしまうのだった。
ショッピングセンター設立に関する説明会に参加した富士夫。反対派の住民たちからのプレッシャーは凄く、対応に困っていた。そんな中同級生の住職の姿を見かけ必死に追いかける富士夫。実は住職が提案してくれた投資話に手を付けていた富士夫は、半分でいいから元本を戻して欲しいと相談を重ねていたのだ。父親の治療費や工場の維持費を工面するのに必死な富士夫。工場を売ればいいと住職や顕子に言われてしまうが、それだけはできないのだった。
顕子は夜の学校に西野と潜り込んだ。その頃、義夫は畠中に家に招かれ夕食をご馳走になっていた。飲みすぎた義夫は、学生時代の苦い思い出を愚痴り、犬が轢かれたことを打ち明ける。しかし、轢いたのは自分ではなく西野であると嘘をついてしまった。
映画『ディアーディアー』のあらすじ【転】
清一が振る舞ったちらし寿司を二人で食べようとする富士夫の前に、住職の息子・タカシが訪ねて来た。自宅まで送り届ける富士夫に、タカシは住職がショッピングセンター建設業者から賄賂を受け取っていることを告白する。「誰にも言えない金」ならば二人で使ってしまおうと冗談交じりに提案するのだった。
西野のせいにしてしまった義夫は、罪悪感から帰り道に薬を全部飲み干してしまう。町に残した一番の苦い記憶である「リョウモウシカ」についても消し去ろうと、古びた看板を壊そうとする。義夫の不審な行動を見かけたお巡りさんに補導され朝を迎えてしまった。帰宅した義夫は、父親が亡くなったことを知るのだった。
遺品整理をした3人は、幼い頃に見た「リョウモウシカ」の記憶を辿り、山に向かった。絶滅危惧種の写真に残したことがある3人は小学生の時一躍町のヒーローになった。しかし、その後「リョウモウシカ」の姿は誰も目撃できず、嘘つき呼ばわりをされた苦い経験をしているのだ。一度だけ幻の存在を見た記憶は3人共通していた。少しだけ心を通わせた3人は、言い合いながらも父親の葬儀の準備を始めるのだった。
葬儀には多くの町の住人が訪ねて来る。西野に犬を殺されたと勘違いしている畠中も、顕子の関係に気付いた西野の妻も顔を見せた。悲しむ畠中の姿を見兼ねた義夫は、仕事もいじめのことも嘘をついたと打ち明けた。ここまでは笑って許してくれた畠中だったが、犬を轢き殺してしまったことだけは許してくれない。全てを人のせいにするのは病気だと言い、立ち去ってしまった。
映画『ディアーディアー』の結末・ラスト(ネタバレ)
取り乱した義夫は、人目を気にせずに富士夫を責め立てた。我慢ならない富士夫は長男というだけで父親に責任を押し付けられた苦い記憶を明かすが、情けない男兄弟の姿に顕子は呆れかえってしまう。町の住民たちはここぞとばかりに富士夫の心に取り入ろうとするが、全てが嫌になった富士夫は葬儀を滅茶苦茶に壊し会場を抜け出すのだった。
帰宅した顕子は、父親の車で走り出す義夫を見かけた。しかし、西野から呼び出され学校へ向かう。その頃、富士夫はタカシを呼び出し、住職の金を盗もうとしていたが予想よりも金額が少なくタカシに横取りされてしまうのだった。
車で走り出した義夫は山へ向かっていた。再び「リョウモウシカ」がいることを証明したかったのだ。その頃、学校に向かった顕子は、西野の妻と鉢合わせもみ合いになっていた。散々過去の不満もぶつけ合った二人だが、停電があり一度我に返る。帰宅した顕子を待っていてくれた清一は、朝食を振る舞い一人東京に帰るのだった。
バラバラになった3人だが、葬儀を再開した。納骨まで終えた3人は、山のふもとにシカを見た。それは幻の「リョウモウシカ」なのかは誰もわからない。
顕子は清一の元に戻り、義夫は精神科病棟への入院を決めた。富士夫は工場を手放した。残った車を走らせ「リョウモウシカ」を売りにした町の看板が撤去される様子を横目に眺めるのだった。
映画『ディアーディアー』の感想・評価・レビュー
キーになっている「苦い記憶」それは今作だと「幻のシカ」を目撃したことである。この時点ではコミカルに聞こえるのだが、菊池健雄監督は予想通りには描かない。黒沢清、瀬々敬久、石井裕也といった名匠ののもと、助監督としてキャリアを積んできた菊池監督。デビュー作ながら、地方都市ならではの閉塞感を活かしつつ愛せる歪みを丁寧に見せてくれる。華やかな物語ではないが、クスクスと笑いながらゆったりとした時間を過ごしたい方には勧めたい一作。(MIHOシネマ編集部)
嘘を吐いて自分を守ったり、現状に不満を抱いて好き勝手に行動したり、今あるものに固執したり、自分の身にも当てはまる部分はあると思う。顕子達のどこか大人になりきれない身勝手な部分が理解できるたび、苦々しさを感じた。
淡々とした物語だったので、実在の人物の姿を見ているかのようなリアリティさがあった。派手さはないが、登場人物達の心情をしっかり感じられて、おもしろい作品だったと思う。独りで静かに見るのがおすすめの作品。(女性 30代)
幻の鹿を見たことで人生が変わってしまった兄弟。こんなことってある?と疑問に感じながらも、閉鎖的なコミュニティの中では有り得ることなのかなと妙なリアリティを感じながら鑑賞しました。
地方の過疎化した地域ってその土地にしかない風習があったり、祟りや呪いなんていう噂話があったりと少し不思議な雰囲気がありますよね。そんな有り得ないけど有り得そうな状況を上手く描き出しているのでいつの間にか引き込まれてしまい、最後まで一気に見てしまいました。(女性 30代)
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