映画『ディオールと私』の概要:フランスの老舗メゾン、ディオールのアーティスティックディレクターに抜擢されたラフ・シモンズは、2012年秋冬コレクションのショーまで8週間という短い期間を与えられる。不可能とも言える困難なミッション、その裏側に初めてカメラが入り、ディオールの伝統とそれを支える裏方たちの仕事を映し出す。
映画『ディオールと私』の作品情報
上映時間:90分
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:フレデリック・チェン
キャスト:ラフ・シモンズ etc
映画『ディオールと私』の登場人物(キャスト)
- ラフ・シモンズ
- ベルギー出身、ディオールのアーティスティックディレクターに抜擢されたデザイナー。ジル・サンダーなどで活躍した経歴を持つが、オートクチュール部門に携わるのは初めて。
- ピーター・ミュリエー
- 長年のラフの右腕で、彼と共にディオールで働くこととなる。デザイナーとしてだけではなく、ラフとスタッフたちとの関係調整など裏方の仕事にも優れている。
- フロレンス・シュエ
- ディオールのドレス部門職長。長い経験と優れた技術を持ち、柔らかく落ち着いた人柄。
- モニク・バイイ
- ディオールのテーラー部門職長。フロレンス同様ベテランのお針子。少々神経質な性格で、仕事の締め切りが迫るとお菓子に頼る。
映画『ディオールと私』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ディオールと私』のあらすじ【起】
2012年、前任のジョン・ガリアーノがディオールアーティスティックディレクターの職を解任されたことにより、ラフ・シモンズというデザイナーがそのポジションに就いた。彼は自身の名前を冠したブランドを持ち、ジル・サンダーでのデザイナー経験もあったが、オートクチュールで働くことは初めてだった。そんな彼が伝統あるメゾン、ディオールのトップデザイナーに就任するということはまさに大抜擢だった。
就任初日、ラフはディオールのCEOによってメゾンの職人たちに紹介される。彼らは秋冬コレクションのショーを控えているのだが、なんと残り8週間という短い期間しか残されていなかった。誰もが困難と感じるミッションではあったが、ラフは挑戦することを決意する。
職場には女性が多く、勤続40年以上のベテランもいた。彼ら彼女らはディオールという名門メゾンで働くということに強い誇りを感じており、数多のデザイナーが移り変わる中であっても日々プライドを持って仕事をしていた。ドレス部門職長のフロレンス、テーラー部門職長のモニクは大ベテランであり、ラフにとっては頼もしい部下であり同僚となった。
フロレンスは、自分は創業者であるクリスチャン・ディオールのために働いているのだと語る。彼の魂を工房のあちこちで感じるのよ、きっと幽霊になって私たちの仕事を見守っているのねといたずらっぽく笑う。ディオールで働くお針子たちは、誰もがそういった感情を持っているようだった。誰がデザイナーに就任しようと変わらない、伝統に裏付けされた誇りと責任感を常に抱いているのだ。
映画『ディオールと私』のあらすじ【承】
ラフは、毎日パリ市内の色々な美術館を訪れていた。ショーのコンセプトを決めるにあたり、様々なものからインスピレーションを得ようとしていたのだ。彼の目に留まったのは抽象画家であるスターリング・ルビーの作品だった。ピンク、グリーン、イエロー、ブラック… 色彩が重なり合うような不思議な模様が特徴なのだが、ラフはそれを新作のドレスに落とし込みたいと思いついた。
ただ、それを聞いたメゾンの職人たちは複雑な表情だった。スターリングの絵を生地にすることはかなりハードルが高い作業であり、時間もかかる。生地製作の担当者は、一旦はラフにNOと言ったものの、「何もやらないうちから諦めたくない。自分はショーの前日まで諦めない」と話すラフの真剣さに押され、承諾する。
一方のラフは、新作コレクションのアイディアを考え、次々に指示を出していた。彼は自らスケッチを描くことはせず、イメージや詳細をスタッフに伝えて彼らがそれをスケッチに起こすというスタイルだった。そのスケッチを元に工房では急ピッチで縫製作業が進められ、フロレンスやモニクは仕事に忙殺される。仮縫いができたものから順次モデルに着せ、その仕上がりをチェックして修正するという地道な作業をラフは繰り返していた。
また、それと並行してショーに出演するモデルのオーディションも行っていく。ラフ自らが選考し、それぞれのモデルに細かい指示を与えていった。中にはファッションショーに出ることが初めてというモデルもいた。彼女たちにとっては、ディオールという超有名ブランドのショーに出るということはこの上ない名誉なのだ。
さらに大事なのが、ショーを行う会場選定だ。ラフたちは迷った末に、クリスチャン・ディオールの生家である館を会場に選んだ。今では美術館になっているこの家は、ピンク色の外壁が印象的な素敵な家で、ラフはここを花でいっぱいにするというアイディアを考えつく。部屋ごとにバラ、ユリなど種類の違う花を壁いっぱいに敷き詰めるのだ。スタッフたちは寝る間もなく花集めや会場セッティングに走り回っていた。
映画『ディオールと私』のあらすじ【転】
日にちが経つごとに職人たちの忙しさも増し、モニクは少し神経質になっていた。難しい仕事ばかり振られる立場なので、プレッシャーも大きい。仕事の合間に彼女はHARIBOのグミにしょっちゅう手を出していた。対照的に、フロレンスは多忙な中でも穏やかさを崩さない。しかし彼女たちが抱える仕事が大変なものであるということは疑いようもなく、ラフの右腕であるピーターは彼女たちに細やかな気配りを見せる。「ラフより」と書かれた綺麗な花束を工房に飾られたのだが、お針子たちはそれがピーターによるものだと即座に見抜き、笑みを浮かべるのだった。
そして、ショーの準備の中で一番大切な全作品チェックの日がやってきた。この日、製作された全ての服が一堂に会し、ラフを始めとしたスタッフたちにより細かな確認が行われるのだ。職人たちにとっても胃が痛い日なのだが、ラフも苛立ちを隠せなかった。フロレンスが率いるドレス部門の服が、一着も会場に届いていないのだ。
普段温厚なラフも声を荒げ、どうなっているんだとスタッフを問い詰める。フロレンスは、彼女の大口顧客が住むアメリカに飛んでしまっていた。年間数千万という服を購入してくれる客であり、彼らから何か注文や修正の依頼があった時には職長が赴かなくてはならないのだ。しかし、ラフにはそれが理解できず、今日はどんな仕事よりも優先させることがあるのにと落胆する。その頃、ドレス部門の職人たちは大急ぎで作業を仕上げ、服を担いでエレベーターに乗っていた。しかし、そんな時ほどトラブルが起こるもので、彼らは一時停止したエレベーターに閉じ込められていたのだ。やっと回復し、ドレスを会場に届けた彼らは扉の外から中の様子を伺っていた。
映画『ディオールと私』の結末・ラスト(ネタバレ)
いよいよショーの当日。その日の朝まで細かい修正作業に追われていたお針子たちだったが、ようやく全ての服を会場へ送り出した。会場ではラフが最終チェックを行っていたが、その表情は落ち着かないものだった。ずっとこの日のために走り抜けてきたラフだったが、こんな大きなショーを開催するのは初めてでもあり、プレッシャーに押しつぶされそうになっていた。ショーの最後にはデザイナーが挨拶をするのが一般的だが、人前に出ることを嫌うラフはそのことにもストレスを募らせ、「挨拶はしないよ」と突っぱねていた。
次々に会場に客が姿を現す。そこには有名女優やデザイナー、モナコの王妃夫婦の姿もあり、錚々たる面々だった。アメリカ版VOGUE編集長のアナ・ウィンターは部屋中に咲き誇る花々に感嘆し、旧知のラフを激励した。屋上に出たラフは、プレッシャーにより涙を浮かべる場面もあったが、ピーターからの言葉もあり少し落ち着きを取り戻していた。
そしてついにショー開始の瞬間が訪れる。モデルたちが彼の作品を身にまとい、客の間を堂々と歩いていく。当初は白の予定だったが直前にスプレーを吹きかけて黒に変更したジャケット、まるでウェディングドレスのような真っ白なドレス、そしてあのスターリングにインスパイアされた色とりどりのドレスも登場した。客たちはため息をつきながらそれらを見送り、ショーはまさに大成功だった。
終盤、モデルたちを送り出すラフはすでに涙ぐんでいた。これまで苦楽を共にしたピーターも涙をこらえきれず、ラフと固い抱擁を交わした。始まる前はあれだけ嫌がっていた締めの挨拶も、モデルたちの最後尾を歩いて会場を一周した後で立派に務めた。会場に来ていた両親と共に取材を受け、嬉しそうな表情を浮かべるラフ。その時、会場の後方にはお針子たちの姿もあった。徹夜で作業を終えた後、私服に着替えて作品の晴れ舞台を見守っていたのだ。決して表に出ることはないお針子たちは、ずっと晴れやかな表情を浮かべていた。
映画『ディオールと私』の感想・評価・レビュー
これまで漠然と想像することしかできなかったデザイナーという職業の、苛酷な側面を見たように思った。ショー直前に追い詰められた表情で涙を浮かべるラフの姿は衝撃的でもあり、彼らは毎回こんなプレッシャーにさらされるのかと驚く。華やかな世界の裏側をお針子たちの奮闘も含めて見ることができ、今後ファッションショーを見る時の視点が変わるかもしれない。(MIHOシネマ編集部)
平凡で普通な人生を歩んできた私にとって、今作に登場するデザイナー、お針子たちの仕事に対する熱意や向き合い方はあまりにも刺激的で、こんなにも緊張感を持って神経をすり減らしながら、言葉通り「命をかけて」ものづくりをしているのだと驚かされました。
人を感動させたり、喜びを与えたりするものには強い想いが込められています。彼らが作りあげた作品にも並々ならぬ想いが込められていて、それを長い間常に生み出し続けています。だからこそ世界中の人に愛されるブランドになれたのでしょう。(女性 30代)
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