12000作品を紹介!あなたの映画図書館『MIHOシネマ』

映画『過去のない男』のネタバレあらすじ結末と感想

映画『過去のない男』の概要:フィンランド・ヘルシンキの小さな町で、自らの過去の記憶を失った男が周囲の人々に助けられながら徐々に生活を取り戻していく。以前とは違う自分に変えられてしまった中でどう生きていくべきか、一人の人間の再出発を時に淡々と丁寧に描く。

映画『過去のない男』の作品情報

過去のない男

製作年:2002年
上映時間:97分
ジャンル:ヒューマンドラマ、ラブストーリー
監督:アキ・カウリスマキ
キャスト:マルック・ペルトラ、カティ・オウティネン、アンニッキ・タハティ、ユハニ・ニユミラ etc

映画『過去のない男』の登場人物(キャスト)

過去のない男(マルック・ペルトラ)
夜行列車でヘルシンキにやってくるが、暴漢に襲われ頭を殴られたことで記憶喪失となる。見知らぬ町で手探りで生活するうち、少しずつ周囲の人々との関係を築いていく。
イルマ(カティ・オウティネン)
慈善団体である救世軍に所属している。地味な生活を送る独身女性で、人々に食事を分け与える活動をしている時に過去のない男と出会う。
ニーミネン(ユハニ・二ユミラ)
ヘルシンキの貧民街に家族と共に暮らし、週2回の夜間警備員を仕事にしている。過去のない男が倒れているところを介抱する。
カイザ(カイヤ・パリカネン)
ニーミネンの妻。夫と2人の子供と共に暮らす。しっかり者の主婦で、夫が連れ帰ってきた過去のない男の面倒を見る優しい性格を持つ。

映画『過去のない男』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)

映画『過去のない男』のストーリー(あらすじ)を結末・ラストまでわかりやすく簡単に解説しています。この先、ネタバレを含んでいるためご注意ください。

映画『過去のない男』のあらすじ【起】

ある夜、一人の男がフィンランド・ヘルシンキへ向かう夜行列車に乗っていた。男はどこか虚ろな表情を浮かべていた。列車を降り、行くあてのない男は公園のベンチで一夜を明かそうとするが、そこに現れた暴漢3人組により暴行を受けて大怪我を負う。暴漢により金や身分証を奪われていた男は、病院に運ばれたものの心肺停止に陥ってしまう。

彼の死亡を確認した医師が席を外した時、突然男は起き上がる。死の淵から蘇った男は、顔に包帯がぐるぐる巻きになった状態で服を着て病院を抜け出す。ある町の河原で倒れていた男を2人の少年が見つけ、急いで父親に知らせに行った。ニーミネンという名の男は息子たちからの知らせに驚くも、倒れていた男を自宅に連れ帰り妻と共に介抱する。

やっと話ができるまでに回復した男だったが、列車に乗ってヘルシンキに着き暴漢に襲われたことしか覚えておらず、自らの名前や出身も何もわからなくなっていた。戸惑う家族だったが、必要以上に彼を気遣うでもなく放っておくでもなく、程良い距離感で男と接していた。ニーミネンは週2回夜間警備員として働いているが、生活は楽ではない。周りの住民も同じような経済状態であり、失業率の高さも深刻な問題だった。

そんな中、毎週金曜日は救世軍の活動により町中で市民にスープなどの食べ物が配布される日であり、ニーミネンの給料が出る日でもあった。ある金曜日、ニーミネンは男を誘い食料配布に赴く。そこでは長い行列ができており、男もそこに並んだ。男の番が来た時、スープを配っていた救世軍の女性職員・イルマに一目惚れする。イルマの方も、見慣れない男に目を引かれたようだった。

映画『過去のない男』を無料視聴できる動画配信サービスと方法
映画『過去のない男』を無料視聴できる動画配信サービスと方法を分かりやすく紹介しています。

映画『過去のない男』のあらすじ【承】

ある日、男がニーミネンと一緒にいるところに、警備員がやってくる。彼は威圧的な様子で男の素性を探ろうとするが、その過去のない男が住み処を探していると知り、自分の所有物件を貸し出しても良いと言う。とは言え、その物件はニーミネン家族が住んでいるコンテナハウスと同じような粗末な物だった。警備員はかなり強欲な男で、高額な家賃を毎週納めに来るようにと命じる。だが、困っている男にすぐに物件を用意したりと悪い面ばかりではないようだった。

男はさっそく室内の掃除をし、居心地の良い空間を作ろうとする。ニーミネンの知り合いの電気業者もサービスで工事をしてくれ、古いジュークボックスの修理までしてくれる。
周囲の人々の助けにより、過去のない男は徐々に人並みの暮らしを手に入れていくのだった。相変わらず自分の名前すら思い出せない状況だったが、職を得ようとして救世軍の施設に赴く。

そこには先日出会ったイルマがおり、ヘルシンキ到着以来ずっと同じ服を着ている男に寄付品である服を与える。服を着替えて、だいぶましな様子になった男は、自らの職を手配してくれるよう彼女に頼んだ。イルマは救世軍のマネージャーである女性に相談し、寄付品の仕分けや整理をする仕事を男に与えるのだった。そして、最初に家賃を納める日、まだ働き始めたばかりで用意ができなかった男に対し、警備員は代わりに自分の犬を預かれ、と命じる。獰猛な犬だと言うわりにはその犬はおとなしく、警備員が出張に出る間の犬との共同生活が始まった。

救世軍での仕事が始まって以来、男とイルマは徐々に距離を縮め、イルマは久しぶりに化粧をし、自分も男に惹かれていることに気づく。ある日男はイルマを自宅へ招き、手料理を振る舞い一緒に音楽を聴いて過ごした。ずっと無表情で暮らしていた男だったが、まわりの人々のさり気ない好意やイルマとの時間の中でだんだんと明るさを身につけていった。

映画『過去のない男』のあらすじ【転】

ある日、救世軍の音楽隊が曲を練習しているところに赴いた男は、「いつも同じものではなくたまには違うものも演奏しよう」と呼びかける。彼らを自宅に招き、ジュークボックスでロックやブルースを聴くうち、音楽隊もその誘いを受け入れていく。マネージャーの許可も取り付け、食料配布などの慈善活動中にいつになく斬新な音楽を奏でるバンドの面々。集まった人々も一組二組とダンスを踊り始め、男にも周囲の人々にも変化の兆しが見え始める。この頃にはイルマの表情にも頻繁に笑顔が見られ、地味で堅そうな雰囲気だった印象は変わりつつあった。

そんな折り、救世軍の仕事中に溶接工の仕事を目にした男は、理由がわからないままその作業に惹きつけられ自分にもやらせてくれと申し出る。素人とは思えない男の手つきに、ぜひここで働いでくれと職人が持ちかけ、男も了承する。だが、自らの名前もわからない男はそれを会社の採用担当女性に伝えるが、名前は適当に考えるからまずは銀行口座を作って、と彼に話す。

銀行を訪れた男が窓口の女性とやり取りしている時、銃を持った男が入ってくる。彼は自分の口座が凍結されていることを知りながら、そこから高額な金を引き出すよう女性に命じる。他に客もおらず、女性と強盗と3人で金庫に向かった男は、そこで金を受け取った強盗が逃走時間を稼ぐために2人を金庫内に閉じ込めてしまう。男は女性と話をするうち、この銀行が今日で閉店することを知る。どこか投げやりな様子の女性だったが、スプリンクラーを壊すことで警報が鳴り、2人は警察に保護される。

女性はすぐ解放されたのだが、男は記憶喪失と話しており、警察も簡単には釈放できずにいた。何も話さない男に業を煮やした警察官だったが、イルマたち救世軍の助力により派遣された弁護士が彼を守り、無事警察を出ることができた。その後立ち寄ったバーで、彼を尾けていた銀行強盗の男が姿を見せる。彼は機械工場の経営者だったが、フィンランドの深刻な不況により銀行から工場を差し押さえられ、給料未払いのまま従業員を解雇した過去があった。彼はそれを悔い、未払い分の金を自らの口座から引き出したのだ。そして、この金をかつての従業員たちに渡してきてほしいと頼む。

映画『過去のない男』の結末・ラスト(ネタバレ)

願いを聞き入れた男は、従業員たちの現在の居所を突き止め、順番に金を渡して回っていく。そんな中、男を警察署に勾留していた警察官が現れる。先日の強盗騒ぎにより男の顔が新聞に載り、それを見た男の妻が連絡をしてきたと言うのだ。しかし、捜索願いは出されていなかったと言う。男は自分に妻がいたということに驚くが、まずは自宅へ戻ることを決める。そのことを告げた時、イルマは驚き悲しむのだが、別れを決め男を地元へ送り出すのだった。

男がかつての自宅へ戻った時、妻が待っていた。彼女によると、彼ら夫婦は夫のギャンブル癖により喧嘩が絶えず、離婚を決めたところだった。そして夫が家を出、ヘルシンキで職を探そうとしてから連絡がつかなくなったと言う。夫が行方不明になっている間に離婚手続きも完了し、彼ら二人はすでに夫婦ではなかった。さらに、元妻には新しい恋人もいた。その恋人は男にまだ元妻への愛情があると思い込み敵対心を表すが、男には争うつもりはなかった。妻を幸せにしてくれ、と言い残し、男は再びヘルシンキへ戻った。

その頃ヘルシンキでは、救世軍のバンドメンバーは盛況の中演奏活動をしていた。それを一人で聴くイルマの元に、男が現れる。驚くイルマだったが、男は彼女との暮らしを選び彼女にそれを伝える。イルマは「私の初恋よ」と伝え、二人で生きていく決心をする。

映画『過去のない男』の感想・評価・レビュー

フィンランド映画の巨匠、アキ・カウリスマキの映画を観たのは初めてだが、他のどの監督作品とも違う独特の空気が漂っていた。物語は時に整合性のない展開を見せるのだが、不自然になるギリギリのような演技を見せる役者たちとも相まって不思議な世界に迷い込むような気分になる。一見ぶっきらぼうに見える周囲の人物たちの隠れた優しさが沁みてくる、人の善意に溢れた作品だった。(MIHOシネマ編集部)


本作は、暴漢に襲われ大けがを負い記憶を失くしてしまった男が、見知らぬ土地で多くの優しい人々に助けられながら再生していく姿を描いたフィンランドのヒューマンドラマ作品。
大きな展開はなく、独特な世界観が淡々と進行する。
自分も貧困なのに当たり前のようにサッと手を差し伸べてくれる人たちの善意や、「人生は前にしか進まない」という言葉にハッとさせられた。
過去を振り返るのも、あまり深く考えすぎるのも良くないとこを気付かせてくれる作品。(女性 20代)


過去の記憶を失ってしまった男の物語。記憶を失うとまず、周りの人間がしようとするのは「記憶を取り戻す」事だと思います。それは無くしてしまったものを「取り戻して」欲しいという気持ち以外に、忘れてしまった自分たちのことを「思い出して」欲しいという希望があるのでしょう。しかし、今作では記憶を無くした男の「過去」を知る人間が周りにいないので「思い出させよう」とする人もいません。それがとても良かったです。
過去を無理に思い出すのではなく、新しい自分が築き上げた「新しい生活」を大切に送っていく様子に物凄く感動しました。(女性 30代)

みんなの感想・レビュー