映画『マイ・レフトフット』の概要:1932年、アイルランド・ダブリンの街に生まれたクリスティ・ブラウンは生まれながらに重度の脳性小児麻痺を患っていた。左足しか動かせない障害を抱えながらも絵の才能を発揮したクリスティという人物の、家族や友人との関わりを実話を基に映画化した。『マイ・レフト・フット』とは、クリスティが自らの体験を記した自伝のタイトルでもある。
映画『マイ・レフトフット』の作品情報
上映時間:98分
ジャンル:ヒューマンドラマ、伝記
監督:ジム・シェリダン
キャスト:ダニエル・デイ=ルイス、ブレンダ・フリッカー、フィオナ・ショウ、レイ・マカナリー etc
映画『マイ・レフトフット』の登場人物(キャスト)
- クリスティ・ブラウン(大人:ダニエル・デイ=ルイス / 少年時代:ヒュー・オコナー)
- 生まれながらに脳性小児麻痺を患うが、施設ではなく自宅で育つ。家族や友人、医師のサポートのもと徐々に絵の才能を発揮し、自らの半生を自伝にまとめる。
- パディ・ブラウン(レイ・マカナリー)
- クリスティの父。レンガ職人。昔ながらの頑固気質の父親で、初めはクリスティの障害を受け入れられないが、ある出来事をきっかけに息子を誇りに思うようになる。
- ブリジット・ブラウン(ブレンダ・フリッカー)
- クリスティの母。成長しただけでも13人の子供を産む。裕福ではない生活の中子供たちを育てクリスティを支え、クリスティの人生の中でも特別な存在。
- アイリーン・コール(フィオナ・ショウ)
- 脳性小児麻痺を専門とする医師。クリスティのサポートを申し出、自らの施設に彼を誘う。
- キャッスルウェランド卿(シリル・キューザック)
- 慈善団体の主催者。アイリーンを通じてクリスティを自らのチャリティーパーティーに招待する。
- メアリー・カー(ルース・マッケイブ)
- 看護師。チャリティーパーティーでのクリスティの補佐役として彼のサポートをする。クリスティの自伝を読むうち、彼の印象が変わっていく。
映画『マイ・レフトフット』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『マイ・レフトフット』のあらすじ【起】
1932年、アイルランド・ダブリン。病院で産声を上げた男の子は生まれながらにして重度の脳性小児麻痺を抱えていた。それを知った父親は、病院からの帰りに行きつけのバーで一人酒を飲んでいた。そんな彼を、居合わせた一人がからかう。彼の家族は子沢山で、それを揶揄してきた男を殴って父親はバーを後にする。
その子供はクリスティという名前だった。彼は左足しか思うように動かせず、5歳くらいになっても言葉も話せなかった。ある日、再び妊娠した母は大きなお腹を抱えてクリスティを背負い、彼を寝室に連れて行った。その後、階段を踏み外して落下した母親の悲鳴を聞き、クリスティは必死の形相でほぼ這うような格好で階段を下りる。母親の危機を外に知らせようと左足でドアを叩き、聞きつけた近所の人の通報により母親は病院へ搬送されていった。しかし、近所の人々はクリスティを抱えて階段を上ろうとして落ちたのだと勘違いし、クリスティに冷たい視線を向ける。
母親は無事で、妹が生まれていた。そして、その頃にはクリスティは兄たちと共に近所の子と遊ぶようになっていた。周囲の大人たちと違い、子供たちはクリスティに対して馬鹿にすることもなく、かと言って変に気を遣うわけでもなく、ごく自然に自分たちの輪に加えていた。時にはサッカーでキーパーをやらせたり、彼が唯一使える左足でペナルティキックを蹴らせたり、恋愛話にクリスティを加えて盛り上がったりもした。
映画『マイ・レフトフット』のあらすじ【承】
彼が10歳にもならない頃、兄弟たちが勉強する傍らでクリスティはチョークを使い必死に文字を書こうとしていた。結局読みにくいものしか書けず、父親は「こいつが言葉を理解しているもんか」とつれない態度を取るが、母親は息子の力を信じていた。クリスティの描く絵はとてもその年頃の子が描くようなものには見えず、彼自身左足で筆を掴み絵を描くことを楽しんでいた。
ある日、父親の解雇により両親が口論になった時、クリスティは床を這いながら必死に二人の間に入っていった。そして、家族が見守る中、床に「MOTHER」の文字を書いたのだ。それはかなりゆっくりなものだったが、母の目には涙が溢れた。やはりこの子は知能が低いわけではない、実は色々なことがわかっているのだと気づく。その様子を見て、普段は厳しい父親も感激し、馴染みの酒場にクリスティを担いでいき、「俺の息子は天才だ!」と喜ぶ。
成長する中で、彼は仲間うちの一人のレイチェルに恋をし、彼女に絵を贈る。レイチェルはクリスティではなく彼の兄のトムを好きだったため、受け取れないと彼に返してしまう。彼はその絵を破るが、後に大切に保管していたことがわかる。
そんな中、彼の一番上の姉にも変化が起きる。以前より遅い帰宅を父母に咎められていたが、年頃になった彼女は恋人の子供を妊娠したのだ。結婚を決め、母と共に父親にそのことを告げる姉だったが、激怒した父親に殴られてしまう。その様子を見てクリスティは怒りに震えるが、姉は「姉さんは出て行く、母さんをよろしくね」と言い残して家を去る。
父親が職を失い姉は家を出て行き、様々なことが一家に起こったのだが、やはり家族の絆は強く、貧しいながらも力を合わせて暮らしていた。
映画『マイ・レフトフット』のあらすじ【転】
ある日、脳性小児麻痺の専門医師であるアイリーンがクリスティを訪ねる。無償で彼女の施設に来ないかと誘う彼女に、クリスティは施設に通うことを決める。そこは通いで治療を受けられる施設だったが、子供が多いことにクリスティはプライドを傷つけられ、以後自宅にアイリーンが通ってくる形で治療を受けていった。彼女はクリスティに言葉を教え、体の動きを根気よく教え、クリスティの中に徐々にアイリーンに対する親愛の情が芽生えてくる。そして、言葉もだんだんスムーズに出てくるようになってきた。
クリスティの絵の才能を認めているアイリーンは、彼女の婚約者が経営する画廊でクリスティの個展を開くよう尽力する。婚約者であるピーターもクリスティの才能を認め、セレモニーの中で「彼は優れた障害者画家ではなく、単に優れた画家なのです」と紹介する。嬉しそうにするクリスティだったが、母親だけが少し心配そうな顔で息子を見ていた。クリスティがアイリーンにのぼせているのではないか、それにより傷つくことになるのではと危惧していたのだ。
彼女の心配は当たってしまう。クリスティはアイリーンとピーターの仲を知らなかったのだ。セレモニー後の食事会で、クリスティはピーターの友人たちを交え芸術談義に花を咲かせるのだが、その中でアイリーンたちの婚約を知ったピーターは荒れてしまう。周囲の客にも迷惑をかけ、暴言を吐くクリスティに呆れたピーターは席を立ってしまう。これまで色々な面でクリスティを支えてきたアイリーンとの関係は、この時途絶えてしまった。
失恋に傷つき部屋に引きこもるクリスティに対し、母親は容赦なく叱咤激励する。それを受け、彼も少しずつ回復し始める。しかし、そんな折りに父親が倒れ、そのまま亡くなってしまった。急な父の死に衝撃を受ける子供たちだったが、久しぶりに姉も帰ってきた葬儀の後に、父を偲ぶため行きつけのバーで飲んでいた。その時居合わせた客の一人が亡き父とクリスティたち子供を侮辱するようなことを言い、一家と友人たちは一致団結して無礼な客と喧嘩を始めた。時に横暴なところがあっても、やはり父は父だった。
映画『マイ・レフトフット』の結末・ラスト(ネタバレ)
クリスティは、自伝を書くことを決意する。そのことを兄弟に打ち明け、協力してもらいながら左足の親指だけでタイピングをし、自らの体験を本にまとめたのだ。そして、その時に入ったお金を母親にサプライズでプレゼントした。かつて母は、クリスティが生まれた時から彼の将来に備えてこっそり貯金をしており、その金で彼に車椅子を買ってくれていたのだ。今度のことで、それに対する恩返しをした格好だった。
そして、現在のクリスティ。彼は久しぶりにアイリーンと再会していた。そして、時の経過によって自然に和解した二人は、また笑顔で会話ができるようになっていた。アイリーンはクリスティに、キャッスルウェランド卿が主催するチャリティーパーティーにゲスト出演してくれるよう依頼する。最初は渋っていたクリスティだが、アイリーンのため出演を決意する。
会場では彼のサポート役として看護師のメアリーが付き、酒がほしい、マッチがほしいという彼のわがままに苦笑しながら付き合っていた。そして、彼の自伝『マイ・レフト・フット』を読み、挿絵にもなっているクリスティの絵に感嘆した。クリスティの出番までに二人は控え室で色々な会話を交わし、クリスティはメアリーに恋心を覚える。今夜デートしよう、と誘う彼に、メアリーは他の男性と先約があると言って断る。しかし、クリスティは諦めない。彼のことを本当に好きなのかと詰め寄り、それに動揺したメアリーはその場を去ってしまう。
いよいよクリスティの出番となり、アイリーンが付き添いながら観衆の前に出た。彼は事前にメッセージを準備しており、キャッスルウェランド卿がそれを代読した。家族への感謝、とりわけ母への思い。そして、アイリーンやこれまで出会った人々への気持ちが素直に込められており、拍手の中彼は役割を終えた。そして、その時メアリーが戻ってきたのが目に入る。彼は自分へ贈られた花束の中から赤いバラを一本取ってもらい、それを左足の指に挟んでメアリーへと掲げた。その後、二人は結婚する。彼らの笑顔を写して映画は幕を閉じる。
映画『マイ・レフトフット』の感想・評価・レビュー
まず何よりも、主演のダニエル・デイ=ルイスの名演に目を奪われた。前情報がなければ本当に脳性小児麻痺を患う人物が役を演じているのではないかと思うほどだった。また、この作品の中ではクリスティを「障害者」として描くのではなく、どこにでもいる青年として描いているのが強く印象に残った。時にわがままでプライドが高く、まわりと衝突して落ち込むこともある。しかし、家族をはじめ周りの人々は、そんな彼のあるがままを受け入れて接している。障害を特別なものとしてそこにフォーカスを当てるのではないその描き方は、フェアでもあり物語をフラットな目で見る手助けにもなっている。(MIHOシネマ編集部)
以前テレビで「障害者の性」についての特集を観たことがあった。この作品においてもクリスティが終始葛藤していたのは、身体の自由が利かないことよりも自分のハンディキャップのせいで恋愛が自由にできないことであった。欲求は誰もが持っているものだし、それを理解されないのは悲しいし辛いだろう。
作家としての成功よりも一人の男として幸せなラストを飾ったことが本当に良かった。そんなクリスティを演じたダニエル・デイ=ルイスの演技には惚れ惚れしてしまう限りである。(女性 20代)
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