映画『影裏』の概要:次第に距離を縮めていった不思議な雰囲気の同僚と心地の良い時間を過ごしていたが、その同僚は突然姿を消してしまった。同僚を探す過程で、自分が知ることのなかった一面を知ってしまう。主演は綾野剛、共演に松田龍平を迎えた一作。
映画『影裏』の作品情報
上映時間:134分
ジャンル:ヒューマンドラマ、サスペンス
監督:大友啓史
キャスト:綾野剛、松田龍平、筒井真理子、中村倫也 etc
映画『影裏』の登場人物(キャスト)
- 今野秋一(綾野剛)
- 仕事の出向で盛岡の営業所に配属になったが、友人もおらず孤独な日々を送っていた。違う部署の日浅と知り会い日常に楽しみを見つけたが、突如日浅が行方不明になり本当の姿を追うようになる。
- 日浅典博(松田龍平)
- 今野と同じ会社の同僚。パートの主婦たちから「課長」と皮肉交じりな愛称で親しまれている。不思議な雰囲気の持ち主で、今野を次第に魅了していく。
- 西山(筒井真理子)
- 日浅が行方不明になったことを今野に知らせた人物。二人とは同じ職場でパートとして働いていた主婦の一人。日浅の頼みを聞いてしまった人物の一人でもある。
映画『影裏』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『影裏』のあらすじ【起】
医薬品の営業をしている今野。ある夜、帰り道に今野を引き留めたパートの西山は「日浅さん死んじゃったかもしれない」と、笑えない話題を切り出した。
今野と日浅の出会いは2009年夏である。今野は出向で盛岡へと越してきた。全く環境に馴染めずにいる今野は、禁煙の職場で煙草を吸う物流課の日浅を見かけ、声を掛けた。
日浅は珍しい銘柄のタバコを吸っていた。今野と日浅は同い年で、自然と話すようになる。ある日、今野は営業先に呼ばれ家を出た。帰りには大雨にあたり、大事にしている鉢植えのジャスミンが心配で今野は急いで帰宅する。
同じアパートの住人に、回覧板の回し方で怒鳴られた今野。うたた寝から目覚めると、再びしつこく玄関のチャイムが鳴る。恐る恐る出た今野の前には、日本酒の一升瓶を持った日浅が現れた。
夜明け前まで飲み明かした二人。居眠りしてしまった日浅はむくりと起き上がると、運転代行を呼んで帰ると言い出し今野に携帯を借りた。「自前の携帯は持たない」という日浅は、今野を釣りに誘い「会社で連絡をする」と言い帰路に就いた。
映画『影裏』のあらすじ【承】
約束通り川釣りに行った二人。慣れた手つきの日浅は、今野に手ほどきをする。偶然にもニジマスを釣った今野。ニジマスは逃がしてしまったが、理由を気にかける今野に対して日浅は「知らないままでいるのも悪くない」と諭すのだった。
パートの主婦たちから 「段ボール課長」という愛称で呼ばれている日浅。今野は日浅と交流を持つことで次第に職場や町に馴染み始めた。そして辞めていた煙草も自然と吸うようになっていた。
釣りに行くたびに、今野のアパートの前まで日浅は車で迎えに来てくれた。しかし、ある冬の朝。今野は日浅が会社を辞めたことを知らされる。
一人で釣りに行っても、今野の心にできた隙間は埋まらなかった。しかし盛岡に来て2回目の夏、今野の自宅に突然日浅が訪ねてきた。短髪になった日浅は、訪問型の営業職に就いたと活き活きしていた。
数日後、日浅は一升瓶を持って再び今野を訪ねてきた。お互いの現状を話していると、今野の心の隙間は満たされていく。気付くと今野は床で寝てしまっていた。声をかけてきた日浅の顔を見て、今野は思わず日浅にキスをして押し倒してしまった。拒絶した日浅は、「寝るぞ」とだけ告げてソファで眠るのだった。
翌朝、日浅は今野が開拓したという川に連れていけと言い出す。今野は嬉しくなり、自慢気に釣り場を案内したが、小さなウグイしか釣ることはできなかった。
映画『影裏』のあらすじ【転】
後日、今野のアパートの前に日浅が座り込んでいた。「互助会の契約をあと一件取れないとクビになる」と焦った表情の日浅を見て、今野は仕方なく家に上げる。契約書に判を押した今野。日浅は、契約書を持って急いで帰っていった。
仕事中、今野の携帯に同僚の副島からメールが来た。同時に、日浅から着信があった。その日の夜 「“ガラ掛け”をやるから、身一つで来い」と日浅は今野を誘うのだった。
ワクワクとしていた今野は、必要そうなものを買い込んで指定された場所へ車を走らせる。しかし、到着してみると日浅はどこか不機嫌そうだった。
焚火を挟んで、日浅はご機嫌そうに原酒を差し出した。しかし今野は「明日仕事になったから」と断る。以前のようにはかみ合わない二人は、いつしか無言になっていた。日浅はぼそっと、「人を見る時はその裏側、影のいちばん濃いとこを見んだよ」と告げる。
気まずい時間が流れていた時、日浅が贔屓にしてもらっている地主が現れた。愛想良く接する日浅を前に、今野は居心地が悪くなり一人で先に帰宅した。
一人になり、副島からのメールを確認した今野。出張で盛岡に来ているという副島に、思わず連絡した今野は、副島が泊まっているホテルへと向かう。
副島はかつて今野と交際していたパートナーである。性別適合手術を受けた副島と久々に再会した今野は、ようやく柔らかい表情で笑うことができた。しばらく話をして、ホテルの部屋の前まで副島を送り届けた今野。
副島は今野が部屋に入ることはないと悟り、ハグを求めた。副島は再び今野が煙草を吸い始めたことに気付き、パートナーの有無を聞くと「今いい人はいない」と今野は答える。そうして、二人は別れるのだった。
映画『影裏』の結末・ラスト(ネタバレ)
西山は日浅に頼まれ、家族三人分の互助会の契約をしたと今野に明かす。その上30万円を貸しているという。震災以降、日浅と連絡が取れなくなり焦って探し始めたのだ。
今野は日浅の行方を追うことにした。唯一共通の時間を過ごした地主も、ボケてしまっていて正しい記憶は引き出せなかった。
次に今野は日浅の実家を訪ねる。日浅が行方不明になり数か月経っているというのに、捜索願も出していない父親に疑問を抱いていた今野。しかし、父親や日浅が大学の学位記を偽造していたことを知り、絶縁していると告げた。
父親から連絡先を聞き、日浅の兄に会いに行く今野。父親よりも穏やかな様子ではあったが、兄も日浅を捜索するつもりはないようである。別れ際、日浅の兄は「あいつは生きていると思う。」とだけ今野に告げた。
意気消沈し帰宅した今野は、溜まった郵便物から日浅が勤めていた会社の封書を見つける。互助会の掛け金増額を促す書類であったが、その中に日浅直筆の署名を見つけ、どこか懐かしい感情に満たされるのだった。
盛岡に来て、3度目の夏を迎えた今野。日浅と出向いた祭りを一人眺め、釣り場へと向かう。向こう岸に日浅の幻想を見た今野。ハッと現実に戻ると、背後から声をかけてきた人がいる。それは今野のパートナー・清人であった。清人と今後の予定を立て、今野は穏やかな休日を送っていた。
映画『影裏』の感想・評価・レビュー
芥川賞受賞作の原作とは少し違う空気を感じてしまった。ただ綾野剛の刹那的な表情や、浮遊感漂う松田龍平の熱演には両手離しで称賛を贈りたい。非現実的なヒューマンドラマを多く手掛けている印象が強かった大友啓史だが、今作は「ミステリー要素の強いファンタジー」を完成させたように見受けられる。印象深いセリフを決め込みすぎているように感じる演出は少しだけクサく見えてしまうのが、少し残念であった。(MIHOシネマ編集部)
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