映画『フェイク』の概要:FBIの特別捜査官ジョー・ピストーネの実話に基づいて製作されたマフィア映画。ジョニー・デップは特別捜査官の葛藤や心情変化を繊細に演じ、アル・パチーノは人間臭い三枚目のマフィアを豪快に泥臭く演じている。派手さはないが、じわじわくる秀作。
映画『フェイク』の作品情報
上映時間:126分
ジャンル:フィルムノワール、ヒューマンドラマ
監督:マイク・ニューウェル
キャスト:アル・パチーノ、ジョニー・デップ、マイケル・マドセン、ブルーノ・カービイ etc
映画『フェイク』の登場人物(キャスト)
- ジョー・ピストーネ / ドニー・ブラスコ(ジョニー・デップ)
- FBIの特別捜査官。ニューヨークで活動するマフィアの内情を探るため、宝石鑑定士のドニー・ブラスコという偽名を使い組織に近づく。妻のマギーと3人の娘がいる。しかしほとんど家に帰れない。仕事の内容は家族にも極秘で、心の休まる時がない。
- レフティ(アル・パチーノ)
- うだつの上がらない中年マフィア。ドニーを気に入り、自分の弟分にして面倒を見る。家族は妻のアネットと、薬中のドラ息子トミー。マフィアとしては人が良すぎるため、稼ぎも悪い。金さえあれば足を洗い、自分の船でアネットと逃避行したいと思っている。
- ソニー・ブラック(マイケル・マドセン)
- レフティのボス。大ボスが暗殺されてからブルックリンを任され、リトル・イタリーを仕切るソニー・レッドと対立していく。直属の部下にはレフティの他に、ニッキーとポーリーがいる。
映画『フェイク』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『フェイク』のあらすじ【起】
1978年11月。FBI特別捜査官のジョーは、ニューヨークのマフィア組織を捜査するため、宝石鑑定士のドニー・ブラスコ(以下ドニーで統一)と名乗って、マフィアと接触する機会をうかがっていた。妻のマギーにも潜入捜査のことは秘密にしており、自宅へも帰れない日々が続いていた。その苦労が実り、ドニーはマフィアのレフティに声をかけられる。
レフティはダイヤの指輪をさばいて欲しいドニーに依頼する。ドニーはすぐにこれを偽物と見抜き、レフティを騙した男を痛めつけ、男のポルシェを奪ってしまう。その仕事ぶりに感心したレフティは、ドニーを自分の弟分にしようと考える。レフティはマフィアとしては小物だったが、情報源にするには最適の人物だった。
ドニーはレフティに気に入られるよう慎重に動く。すっかりドニーを信用したレフティは、ドニーを自宅に招待し、兄弟分の盃を交わす。ドニーはレフティの正式な弟分として、マフィア仲間に紹介してもらう。
仕事は順調だったが、ドニーのプライベートは崩壊しつつあった。マギーは夫を待ち続ける生活に疲れ切っており、3人の娘も父親によそよそしい。ドニーももっと自宅へ帰りたかったが、頻繁に出入りすることは家族にとっても危険だった。
映画『フェイク』のあらすじ【承】
ニューヨークでマフィアの大ボスが殺されるという大きな動きがある。レフティは身内のソニー・ブラックから呼び出しを受け、自分は消されるのだとドニーに告げる。しかしそれはレフティの勘違いで、ソニーはブルックリンを仕切るボスに昇格し、子分となったレフティへライオンをくれる。レフティは内心頭にきていたが、それを隠してソニーの昇格を祝う。
ドニーはレフティの後ろ盾によってソニーにも信用され、組織の一員として悪事の数々を手伝うようになる。ブーツの中には盗聴器を隠しており、詳細な報告書も提出していた。FBIはドニーの働きによって組織の内情を知り、検挙に必要な証拠集めを順調に進めていた。しかしドニーは強烈なストレスを感じており、正気を保つのも大変だった。
そんなドニーの苦労も知らず、FBIはさらにマイアミの潜入捜査にも協力して欲しいと言い出す。マイアミの組織にはリッチーという捜査官が潜入していたが、あまり成果を上げられないでいた。マイアミでソニー一味とリッチーを会わせて欲しいと簡単に言う上層部に、ドニーは強い怒りを感じる。
一方、ソニーは資金不足に苛立っていた。リトル・イタリーを仕切るソニー・レッド(以下レッド)は大きく稼いでおり、ソニーの焦りは募る。ドニーはさりげなく“フロリダにいい話がある”とソニーに言ってみる。レフティはドニーの勝手な行動に不快感を示すが、ドニーはそこもうまく切り抜け、ソニーたちをマイアミへ連れ出す。
映画『フェイク』のあらすじ【転】
ソニーは側近の子分とともに、フロリダでバカンスを楽しむ。ドニーはレフティに、マフィアにたかられているナイトクラブの経営者としてリッチーを紹介し、リッチーが譲りたがっている店を見せる。レフティは出世の見込めないブルックリンを離れ、ここを経営してその上がりをソニーに送金すると喜ぶ。ずっと苦労してきたレフティにとって、これは一国一城の主人になれる大きなチャンスだった。
レフティはソニーに内緒で地元のボスと会うことにする。フロリダのボスは船が好きだと聞き、ドニーはFBIに船の手配を指示する。しかしそこまでの経費は下りず、FBIが所有する船を代用することになる。
ソニーはドニーたちの動きを目ざとく見ており、レフティと何を企んでいるのかとドニーに詰め寄る。しかしドニーは恩のあるレフティは裏切れないと絶対に口を割らない。
フロリダのボスと会う日。船着場には、どこかでこの話を聞きつけたソニーたちも姿を見せる。ソニーはドニーを自分の弟分にして、レフティの儲け話を横取りする。店とドニーを奪われ、レフティは落胆するが、ソニーには逆らえなかった。
ドニーは、自分を責めるばかりのマギーや勝手な上司より、レフティを信頼するようになる。レフティもドニーのことは本当の息子のように感じており、家族のように愛していた。ドニーはレフティとの絆を最優先するようになり、FBIへの報告もやめる。
映画『フェイク』の結末・ラスト(ネタバレ)
フロリダのナイトクラブは開店早々から大繁盛し、ソニーを喜ばせる。しかしソニーがクラブを訪れた日に地元警察が店に入り、ソニーたちは逮捕される。あまりに早い展開に、ソニーたちは組織内に裏切り者がいると睨む。ソニーと敵対するレッドは、フロリダのボスとも繋がっており、この機会にソニー一味を皆殺しにしてやろうと企んでいた。
レッドから呼び出しを受けたソニーは、先手を打って、レッドと幹部2名を殺害する。さらに裏切り者として仲間のニッキーも始末する。この抗争でソニーは勢力を拡大していく。
FBIは連絡が取れなくなったドニーの身を案じていた。マフィア同士の抗争は不測の事態であり、マギーにもドニーの任務について説明をしておく。
レフティとドニーは、ソニーからレッドの息子ブルーノの始末を任される。ドニーはFBIが動く前に、何とかレフティだけは逃がしたいと考えていた。レフティは以前から、船があれば妻のアネットと消えると語っており、ドニーは隠し持っていたクラブの儲けで、レフティに船を買ってもらうことにする。
ドニーはレフティに金を渡し、足を洗うよう説得する。レフティはフロリダの船がFBIのものであることに気づいており、ドニーに疑惑を抱いていた。ドニーは自分が捜査官であることは隠し通すが、信じて欲しいとレフティに頼む。レフティはドニーを信じ、この話を深く追求することを止める。
しかしFBIは密かにドニーたちの会話を盗聴しており、ブルーノを殺そうとしていたレフティとドニーの身柄を拘束する。
レフティはFBIからドニーが捜査官だったと聞かされても、まだドニーを信じていた。しかし組織はこのミスを許さず、レフティを呼び出す。それはレフティの死を意味していた。レフティは“お前だから許せる”というドニーへの伝言を妻に託し、自宅を出る。
FBIへ戻ったドニーは、潜入捜査のご褒美としてメダルとわずかなボーナスをもらう。家族との時間も取り戻したが、ドニーはやりきれなかった。そんな夫にマギーは“終わったのよ”と声をかける。
映画『フェイク』の感想・評価・レビュー
潜入捜査ものは大体ハラハラドキドキして面白いが、ラストの余韻の切なさはこの作品が一番だと思う。映画としてこんなに面白いのにまさかの実話なのが驚きだ。
優秀すぎてマフィアからも一目置かれるFBIの潜入捜査官をジョニー・デップが好演、アル・パチーノ演じるうだつの上がらない中年マフィアとのコンビが絶妙だった。個人的にはマイケル・マドセンのマフィアっぷりも良かった。
偽物だった筈なのにやりきれない男と、偽物だとわかっても許した男。彼は何を思いあの伝言を残したのか、考える度に切なくなる。(女性 30代)
本作のアル・パチーノの役、レフティーは威厳も無く驚くほどパッとしないマフィアだけども、それが何故か異様に目が離せない存在であり、ジョニー・デップ演じるドニーにも引けを取らず惹かれてしまう。
レフティーが抱えるどこかセンチな哀愁が、二人の中に次第に築かれる友情というか兄弟愛と言えるものにより深みを与えているところが大きなハイライトである。
今までで一番残酷で華々しい「囮捜査」を観た。ドラマチックにしすぎないラストも実話ベースにしていることが大事にされていて素敵だ。(女性 20代)
みんなの感想・レビュー
実話を元にした実録のマフィアとFBIの確執を描いた作品。「ゴッド・ファーザー」のように巨大ファミリーの幹部ではなく、三下のチンピラから見た話である。若い三下ではなく老いたチンピラを演ずるアル・パチーノが良い味を出しており、枯れた哀愁の漂う主人公を見事に演じている。そしてそういった心の余裕に基づいているのか、組織内の人間関係をよく観察しており、時折は幹部のような発言も見られたりしてユニークである。人物像のリアリティーを詳細に描き、徹頭徹尾キャラクターを強調するという手法は、役者によっては誇張されすぎてリアルさを超えてしまう場合がある。しかしその役作りの匙加減が絶妙であり、アル・パチーノの演技も悦に入っている感が見受けられる。私生活でテレビの動物番組を観たりしているギャングなんていうのも、ありふれた風景ながら異質な演出としてそこはかとなく画面の中で生きているのである。
まだ若々しさが残るジョニー・デップと、いい枯れ具合のアル・パチーノのコンビが絶妙のコンビネーションを見せる。職人世界の師弟関係というような絆が芽生え、立場の違いで最終的に二人を引き裂く関係が、もどかしくもリアルな演出として輝いている。日本のヤクザ映画にあるような感じの幕切れだが、後を引くようなドロドロしたものが感じられないのは、やはりアル・パチーノのキャラクターのせいだろうかとも感じた。ジョニー・デップの若さも活かされて、全く違う世界で生きなければならない緊張感に脅える表情はさすがだと感じた。
ドニーがジョーを疑うことをせず最後まで信頼というもので結ばれていたという、ちょっとした美談がアクセントになっている。作戦とはいえ、そこまで死因要されてしまえば辛さも一入であろう。FBI捜査官だとバレても最後までレフティはジョーを信じ、最後に「お前だから許す」というメッセージを残すところなどは、アル・パチーノでなければ様にならないほどくさいセリフのようにも思えるが、そこはやはり”重み”というものなのだろうなと感心する次第である。こういった映画は役者が殆どの価値を決めてしまうものなのだろう。