映画『ファウスト(1994)』の概要:チェコの芸術大学で人形劇を学んだヤン・シュヴァンクマイエル監督が、戯曲『ファウスト』を独自のアレンジで表現したファンタジー映画。人形に命を吹き込むアニメーションと実写が巧みに混ざり合い、独特の雰囲気を作り上げている。
映画『ファウスト』の作品情報
上映時間:97分
ジャンル:ファンタジー
監督:ヤン・シュヴァンクマイエル
キャスト:ピーター・セペック、アンドリュー・サックス etc
映画『ファウスト』の登場人物(キャスト)
- ファウスト(ペトル・チェペック)
- 中年の男性。不思議な地図に導かれ、地下の人形劇場に迷い込む。戯曲『ファウスト』の主人公・ファウストを演じ、悪魔とも関わりを持つようになる。
映画『ファウスト』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『ファウスト』のあらすじ【起】
地下鉄の出口付近で、ある地図が大量に配られていた。その地図はどこか目的地を指し示していたが、人々の多くは地図に興味を持っていなかった。1人の男性・ファウストもその1人で、地図を貰うも、すぐに捨ててしまった。
アパートに戻ったファウストは、自宅のドアを開けると、突然玄関からニワトリが飛び出し、驚かされる。ファウストは、ニワトリを追い出し、部屋の掃除を終わらせると、パンを食べながらポストに届いたチラシをチェックした。その中には、先程配られていた地図も挟まれていた。
ファウストは、大きなパンを手に取り、食べようとするも、パンの中身に違和感を覚え、パンの中を覗くと、まるまる1つ卵が入っていることに気がつく。卵を取り出し、殻を割ると、窓が勝手に開き、部屋は漆黒に包まれ、外では雷が鳴り響いた。
窓から外を覗くと、2人の男性が先程のニワトリを抱いて、ニヤニヤと笑いながらファウストのことを見ていた。例の地図が気になったファウストは、その地図と街の地図を照らし合わせ、目的地を割り出すことに成功する。
映画『ファウスト』のあらすじ【承】
その後、ファウストは地図が示す場所を目指し、街を歩き回った結果、ついに目的地に到着する。そこは廃墟同然の不気味な建物で、扉を開けると、地下へ続く階段が現れた。地下まで下りたファウストは、ランタンや舞台衣装で飾られた不思議な部屋に迷い込む。
ファウストは、何かに取り憑かれたかのように舞台衣装を纏うと、鏡台の前でメイクを始め、ヒゲとカツラを身につける。戯曲『ファウスト』の台本を手に取った彼は、物語の中のファウストに成り切り、心からファウストを演じる。
ファウストが「悪魔と契約を交わす」という台詞を発すると、突然ベルが鳴り出す。驚いたファウストは部屋を出ると、建物内をさ迷い歩き、ここが劇団の楽屋であることに気がつく。ファウストはメイクも衣装も捨て、劇団員達から逃げるように、さらに奥の部屋へ進むと、実験室のような部屋に辿りつき、その中へ入る。
実験室にある大きなフラスコには、粘土で作られた赤ん坊が入っており、ファウストはフラスコの中から赤ん坊を取り出す。赤ん坊は眠ったままだったが、ファウストが錬成陣を書いた紙を赤ん坊の口に入れると、赤ん坊はたちまち目を覚まし、自身の顔を骸骨に変化させた。
その赤ん坊を不気味に感じたファウストは、粘土の山に赤ん坊を押し込み、跡形もなく潰してしまう。すると、天使の姿をした人形と悪魔の姿をした人形が交互に天井から現れる。人程の大きさを有するそれらの人形達は、天井から吊され、誰かに操られていた。
悪魔はファウストに全知全能の力を授けると甘く囁いたが、天使はそれを否定し、悪魔の提案を受けないように忠告する。
映画『ファウスト』のあらすじ【転】
人形劇は続き、終わる様子が見られないため、ファウストはその場から離れ、偶然見つけたトイレに移動する。トイレのさらに奥へ進むと、レストランに繋がっており、地下とは思えない清潔さと明るさを保っていた。ファウストはレストランから離れ、元の道へ引き返し、階段を上って地上へ出ようとするが、地下室はまるで迷路のようで、脱出する術がなかった。
地下室の廊下に辿り着いたファウストは、突然現れた白い布を体に纏うと、ぶ厚い古書を手に持ち、錬成陣の上で呪文を唱え始める。呪文を唱えながら様々な次元を行き来したファウストは、元の廊下に戻ると、悪魔・メフィストフェレスと遭遇する。
ファウストがずっと唱えていた呪文は、メフィストフェレスを召喚するものだったのだ。ファウストが「あらゆる悦びを体験させろ」と命令すると、メフィストフェレスは「私は大魔王ルシファー(格上の悪魔)の言うことしか聞かない」と答える。しかし、ファウストはめげることなく、ルシファーに自分の願いを伝えるように、メフィストフェレスに頼み込む。
メフィストフェレスがそれを承諾すると、ファウストは何事もなかったかのように街へ戻ることができた。ファウストは街を散策し、屋外カフェへ行くと、店員から無料で食事とワインを提供される。不思議に思ったファウストだったが、その幸運を心地よく味わった。
人形劇が行われていた劇場(地下)に戻ると、ファウストは劇団員達に捕まり、物語のファウスト役としてステージに立たされる。そこにメフィストフェレスが現れ、ルシファーがファウストとの契約を承諾した、と彼に伝える。しかし、ルシファー側からも要求があり、ファウストの願いを全て叶える代わりに、24年後に魂を貰うことを求めてきた。
ファウストは、契約書にサインすることを求められ、自身の血を使って名前を書こうとするが、天使達が彼を守ろうと奮闘するため、中々サインが書けずにいた。天使達の制止も虚しく、ファウストはルシファーと契約し、メフィストフェレスもファウストに従うようになる。
映画『ファウスト』の結末・ラスト(ネタバレ)
天界へ移動したファウストは、そこで天界の王様と出会い、彼の前で芸をするが、失敗してしまい、王様からペテン師だと罵られてしまう。それに怒りを覚えたファウストは、メフィストフェレスに命令し、その王国を海に沈め、滅ぼしてしまう。
天界が想像よりも良い場所ではないと知ったファウストの元に、再び天使が現れ、彼に罪を悔い改めることを勧める。しかし、悪魔達は、ファウストが天使の言いなりになることを防ぐために、偽物の美女・ヘレナに化けて、ファウストの気を逸らすことを企てる。悪魔達の狙い通り、ファウストはヘレナに夢中になるが、ヘレナの正体が悪魔だと気がつき、怒りを強く感じる。
ルシファーと契約を結び、悦楽だけを感じて24年間を生きるつもりだったファウストだったが、悪魔サイドから数えた24年は、人間の時間で24時間だということを知り、絶望する。
ファウストは悪魔達から命を奪われないように、災いの原因となった戯曲『ファウスト』の台本を燃やし、逃亡するが、外で車に轢かれて死亡してしまう。しかし、車内には誰も乗っておらず、ファウストの死は謎で包まれていた。
映画『ファウスト』の感想・評価・レビュー
人形劇科を専攻していたヤン・シュヴァンクマイエル監督が、いかに人形劇に精通しているかが理解できる作品である。映画内で登場する人形達は、基本的に上から糸で操られて動いているが、時には人間のように糸なしで動き出したりと、現実と幻想の区別があやふやになる描写が多く、非現実的な幻想世界を美しくも恐ろしく表現している。人形を動かしている人物の姿は最後まで明かされず、真の黒幕が誰なのかは語られていないため、視聴者の想像力を掻き立てる映画だと感じた。(MIHOシネマ編集部)
みんなの感想・レビュー