映画『日の名残り』の概要:カズオ・イシグロの代表作を、アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン主演で映画化。ある執事の半生が、伝統ある英国貴族の屋敷を舞台に、過去と現在を行き来しながら静かに描かれる。アカデミー賞では8部門にノミネートされた。
映画『日の名残り』の作品情報
上映時間:134分
ジャンル:ヒューマンドラマ
監督:ジェームズ・アイヴォリー
キャスト:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ etc
映画『日の名残り』の登場人物(キャスト)
- ジェームス・スティーブンス(アンソニー・ホプキンス)
- 英国貴族ダーリントンに使える有能な執事。執事であることに信念と誇りを持っており、何よりも職務を優先する。
- サラ・ケントン(エマ・トンプソン)
- ダーリントン邸の新任のメイド長。自分の考えをはっきりという性格で、スティーブンスとよく衝突する。
- ダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)
- スティーブンスが仕える英国貴族で、ナチス・ドイツ宥和派。屋敷内で諸国との親ドイツ外交を行う。
- ルイス・ファラディ(クリストファー・リーヴ)
- アメリカ人の下院議員。ダーリントン邸の現在の持ち主。大戦前は、ダーリントン達のドイツ宥和主義に反対していた。
- カーディナル(ヒュー・グラント)
- ダーリントンの甥。ダーリントンの秘書官で、新聞記者。
- ウィリアム・スティーブンス / スティーブンス・シニア(ピーター・ヴォーン)
- スティーブンスの父。長年、執事の職に就いていた。ダーリントン邸の副執事として復職する。
- デュポン・ディブリー(マイケル・ロンズデール)
- フランス大使。ダーリントン邸でのドイツ宥和派会議に出席する。
- チャーリー(ベン・チャップリン)
- ダーリントン邸の給仕長。
- レジー(レナ・ヘッディ)
- ケントンが新しく雇った若いメイド。
- ベン(ティム・ピゴット・スミス)
- スティーブンスとケントンの知人の執事。ケントンに恋心を抱いている。
- カーライル(リップ・トレンス)
- スティーブンスがクリーブドンへの道中で出会う医師。
映画『日の名残り』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『日の名残り』のあらすじ【起】
1958年、イギリスのオックスフォードシャーにあるダーリントン卿の屋敷が、卿の死後に競売に出される。アメリカ人の下院議員ルイス・ファラディが屋敷を家財もろとも買い取る。ダーリントン邸で、長らく執事として働いてきたスティーブンスは屋敷に残り、今後はルイスに仕えることになる。
新しい主人に仕えるスタッフ不足に悩むスティーブンスの元に、20年前にダーリントン邸で一緒に働いていたケントンから手紙が届く。ケントンの手紙には、ダーリントン邸の新しい持ち主の決定を知ったこと、屋敷で働いた過去が懐かしいこと、結婚後は憂鬱な日々を送っていることが綴られていた。
スティーブンスはルイスに、有能なケントンを採用するよう提案する。働きづめのスティーブンスに、ルイスは休むよう勧める。スティーブンスは休暇を利用し、再び屋敷で勤めるようケントンを説得するため、クリーブドンで暮らす彼女に会いに行く。出発前に、スティーブンスは訪問を知らせる手紙をケントンに出す。
舞台は1935年に移る。ダーリントン主催のキツネ狩りの日に、ケントンは屋敷に面接を受けにくる。スティーブンスはまだ若いケントンが信用できず、不躾な質問をする。同時期に、屋敷の人手不足を補うために、スティーブンスの父が副執事として雇われる。スティーブンスの父は、スティーブンス・シニア(以下シニア)と呼ばれる。スティーブンスとケントンは、ことあるごとに細かい点で衝突する。
重要な外交会議がダーリントン邸で開かれることになり、屋敷中が準備に奔走する。シニアは加齢によるミスを繰り返す。ダーリントンの命を受けて、スティーブンスはシニアの業務を簡単なものに制限する。
映画『日の名残り』のあらすじ【承】
会合の前日、アメリカから下院議員ルイスが1日早く到着する。スティーブンスは、自室にいるダーリントンにルイスの到着を知らせる。ダーリントンは、自分が名付けた甥カーディナルの結婚に際し、自分に代わってカーディナルに初夜の心得を教えるようスティーブンスに頼む。
屋敷内の庭園で、スティーブンスはカーディナルに初夜の説明を試みる。カーディナルからフランス大使ディブリーが先程到着したことを知らされ、スティーブンスは迎えのために話半ばで急いで庭園を去る。
翌日の会合当日、ルイスはデュポンに内密に相談する。ルイスは、会議参加者がナチス・ドイツ擁護派へ迎合することを避けるためにディブリーに協力するよう話すが、ディブリーは関心を持たない。
会合最終日、シニアが倒れる。スティーブンスが晩餐の給仕をしている最中に、シニアは他界する。給仕長チャーリーからシニアの死を知らされたスティーブンスは、父の元へ向かうより職務を優先し、交代の時間まで給仕をこなす。交代後、スティーブンスは既に冷たくなった父の元へ駆けつける。スティーブンスは悲しむ素振りも見せず、あくまで冷静に執事として振る舞う。
ある日、ダーリントンは二人のドイツ人少女をメイドとして雇うが、二人がユダヤ人だとわかると体裁のために解雇する。主人の命は絶対であるスティーブンスと、ユダヤ人少女達を庇うケントンは口論になる。ケントンは、少女達を解雇するなら自分も辞めると切り出す。
スティーブンスとケントンは、新人メイドのリジーを面接する。その時、スティーブンスはケントンに辞職の件を尋ねる。ケントンは辞めることはできないと言う。ケントンは、職を離れ一人になることを恐れる自分の不安と弱さを恥じる。スティーブンスはケントンの実直さに心を動かされる。
映画『日の名残り』のあらすじ【転】
1958年現在。クリーブドンへの道中、スティーブンスは、現代ではダーリントンは英国を戦争に導いた反逆者だと批判されていることを痛感する。車のガソリン切れのためスティーブンスは立ち往生し、立ち寄ったパブで医師カーライルと出会う。カーライルは、スティーブンスを助けると申し出る。
翌日、スティーブンスはガソリンを入手したカーライルとともに、停止した車の元へ向かう。カーライルは、スティーブンスが誰かに仕える職であったことを見抜く。スティーブンスは、かつてはダーリントンの執事であったことを告白する。カーライルはスティーブンスに、当時ダーリントンの考えをスティーブンス自身はどう思ったかと尋ねる。スティーブンスは、主人の考えと執事はあくまでも無関係だと答え、クリーブドンへのこの旅自体が自分が知らぬ間に犯していた罪に対する心の整理だと付け加える。
舞台は再び過去へ戻る。自室で読書中のスティーブンスのもとへ、ケントンがやってくる。ケントンはスティーブンスが何の本を読んでいるか知りたがるが、嫌がるスティーブンスは本を握りしめて題名を見せない。ケントンは、スティーブンスの手指をそっとほどき、本のタイトルを見る。スティーブンスは、ケントンの手に触れた動揺を隠すため、冷めた態度を取る。スティーブンスとの距離を縮めたいと思っているケントンは落胆する。
翌日、ケントンは休暇をとり、街で知人の執事ベンに会う。ベンはスティーブンスとも旧知の仲で、スティーブンスを尊敬している。ベンはケントンに求婚し、ともにクリーブドンで暮らそうと提案する。ケントンは曖昧な返事を残して去る。
屋敷に戻ったケントンは、スティーブンスにベンから求婚されたと話す。スティーブンスは冷静な態度を崩さず、祝いの言葉を述べる。スティーブンスの素っ気ない態度に腹が立ったケントンは、結婚のために辞職したいと勢いで言ってしまう。
この夜、ダーリントンは英国首相、外務大臣、ドイツ大使とともに秘密裏の会合を設けていた。この事を嗅ぎつけたカーディナルは、偶然を装いダーリントン邸を訪れる。カーディナルの目的はスティーブンスと話すことであった。カーディナルは、ダーリントンがナチスに利用されることを案じており、ともにダーリントンを説得しようとスティーブンスに相談を持ちかける。スティーブンスは、執事としての信念を貫き不干渉の立場をとる。
使用人室の前で、ケントンはスティーブンスに先程の自分の言動を謝る。スティーブンスはケントンに無関心なふりをする。ケントンは、自室で一人泣き崩れる。
映画『日の名残り』の結末・ラスト(ネタバレ)
1958年現在。スティーブンスはクリーブドンに到着する。身支度を整えたケントンがスティーブンスとの待ち合わせ場所に向かおうとすると、今は疎遠になっている夫のベンが訪ねてくる。ベンはケントンに、出産した娘に一緒に会いに行こうと誘う。娘の出産の話を聞き、ケントンの心の中にはベンや家族への愛情が再び沸き起こる。
レストランで、スティーブンスとケントンは再会する。スティーブンスは、ケントンに再び屋敷で働いてほしいと熱望する。ケントンは、家族がいるためクリーブドンからは離れないと、スティーブンスの誘いを断る。
夕暮れ時、スティーブンスとケントンは港の桟橋を散歩する。ケントンは、屋敷を離れた本当の理由は、スティーブンスを困らせたかったからだったと告白する。
雨が降り出す。ケントンが乗るバスがやってくる。スティーブンスとケントンは堅い握手をして、心のこもった別れの挨拶を交わす。バスの中から、泣き顔のケントンがスティーブンスに手を振る。スティーブンスは車に乗り込み、屋敷への帰路に着く。
屋敷では、ルイス一家の新居の準備が着々と進んでいる。遊戯室でスティーブンスとルイスが冗談を交わしているところへ、一羽の鳩が暖炉から迷い込む。ルイスは窓から鳩を外に出してやる。スティーブンスは飛び立った鳩を見つめる。上空から見た屋敷が映し出され、次第に遠ざかっていく。
映画『日の名残り』の感想・評価・レビュー
アンソニー・ホプキンスの抑えた演技が素晴らしく心に響いた。冷静沈着で執事としては有能なスティーブンスだったが、男女の機微には笑えてしまう程うとい。彼は行動様式に美学があり自分を律する、できた人間というイメージだったが、終盤身分について嘘をついてしまう。そうさせた背景を考えると、一言では言えない気分になった。
英国貴族の古き良き暮らしぶりを、うかがい知ることができる点もよかった。ファッションや屋敷の内装など、満足度の高いビジュアル面にも注目してほしい。タイトルの『日の名残り』という日本語訳も美しく、ぴったりだと思った。(女性 40代)
この作品も当時と今では受け止め方が違う1本。当時は煮え切らない主人公の態度にもどかしさを覚えたと思うのが、今観ると「ああ、こういうのもあるのだろうな」とそのままを受け止められる。こちらが歳を取ったのも大きいか。
日系の作家が描く英国の伝統というのが面白い。英国の伝統がいかなるものかは想像の範囲を超えないが、ここに描かれているものはどこか日本人の根底にあるものにも通じている気がしてくるのだ。だから共感というわけではないが、物語をまるごと受け入れられるようになってきたかもしれない。見事な味わい深さだ。(男性 40代)
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