この記事では、映画『復讐するは我にあり』のあらすじをネタバレありの起承転結で解説しています。また、累計10,000本以上の映画を見てきた映画愛好家が、映画『復讐するは我にあり』を見た人におすすめの映画5選も紹介しています。
映画『復讐するは我にあり』 作品情報
- 製作年:1979年
- 上映時間:140分
- ジャンル:フィルムノワール、ヒューマンドラマ
- 監督:今村昌平
- キャスト:緒形拳、三國連太郎、ミヤコ蝶々、倍賞美津子 etc
映画『復讐するは我にあり』 評価
- 点数:95点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★☆
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★☆
[miho21]
映画『復讐するは我にあり』 あらすじネタバレ(起承転結)
映画『復讐するは我にあり』のあらすじを紹介します。※ネタバレ含む
映画『復讐するは我にあり』 あらすじ【起・承】
昭和39年1月4日 5人の殺害容疑および詐欺その他で全国に指名手配されていた榎津巌(緒形拳)は、警察の護送車の中にいた。
そして、78日間逃亡を続けた榎津に対する本格的な取り調べが始まった。
昭和38年10月18日 榎津は福岡で以前から顔見知りだった専売公社職員2名を殺害する。
集金した金目当ての犯行だった。
血痕のついた金で携帯ラジオを買ったことから、捜査線上に榎津の存在が浮かび上がり、榎津は指名手配犯となる。
警察は榎津の女関係、そして実家への聞き込みを開始する。
榎津の実家は別府で温泉宿を営んでおり、父の鎮雄(三國連太郎)、病身の母かよ(ミヤコ蝶々)妻の加津子(倍賞美津子)と2人の娘がいた。
鎮雄は敬虔なクリスチャンで、加津子はそんな義父を敬愛していた。
榎津は偽善的な鎮雄に反発し、犯罪行為を繰り返すようになる。
刑務所から帰った榎津は、鎮雄と加津子の仲を疑っており、家を嫌い女のところを渡り歩いた末、今回の殺人事件を起こした。
榎津は各地で詐欺を働きながら逃亡を続け、浜松の売春宿「あさの」に行き着く。
女将はここの経営者の愛人ハル(小川真由美)で、同居する母のひさ乃(清川虹子)は殺人で服役した過去があった。
榎津は大学教授を名乗ってここに滞在し、ハルと深い仲になっていく。
しかし、警察が自分の指名手配用ポスターを持ってきたことに危険を感じ、ここも出る。

映画『復讐するは我にあり』 結末・ラスト(ネタバレ)
榎津は再び詐欺を働きながら逃亡を続け、千葉で弁護士を名乗って保釈金横領の詐欺を働く。
その際知り合った東京の弁護士河島を騙して自宅に入り込み、河島を殺害。
遺体を洋服ダンスに隠し、しばらくそこに居座るが精神的に追い詰められていく。
榎津はハルを東京へ呼び出す。
ハルは榎津を大学教授だと疑わず、優しく接してくれる榎津に夢中になっていたが、その日2人で入った映画館のニュースでついに榎津の正体を知る。
それでもハルは、榎津の正体を知ったひさ乃の反対も押し切って、榎津を自宅に匿う。
ハルは榎津と逃亡する覚悟まで決めていた。
ハルは旦那から屈辱的な扱いを受けてきたが、前科のある母と生きるために我慢してきた。
絶望の中で生きてきたハルは、榎津に惚れ込み子どもを欲しがるようになる。
榎津もハルと離れがたくなっていた。
しかし、東京で河島の遺体も発見され、榎津はますます追い詰められていく。
そしてついにハルとひさ乃を絞殺し、家財道具を質屋に売り払う手筈をする。
翌日、以前「あさの」で榎津の相手をした売春婦が、質屋と待ち合わせをする榎津を目撃し警察に通報する。
そして榎津は逮捕された。
死刑が確定した榎津は小倉拘置所に移され、鎮雄の面会を受ける。
榎津と鎮雄は互いに対する憎しみを吐き合い、榎津は自分がどうしても殺したかったのは父の鎮雄だった言う。
死刑執行後、榎津の遺骨を抱えた鎮雄と加津子は、山頂から榎津の骨を悪魔のような形相をして
投げ捨てる。
映画『復讐するは我にあり』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『復讐するは我にあり』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
現実を超えるフィクション
本作の主人公榎津巌のモデルは実際の死刑囚西口彰であり、原作となった佐木隆三氏の同名ノンフィクション・ノベルはベストセラーとなった。
熾烈な競争を経て映画化権を取得した今村監督は、綿密な取材で知られる佐木氏を驚かせるほどの調査と取材を重ね、原作の中のフィクション部分まで見つけ出していたという。
画面には出ない裏側まで徹底的に調べあげた上でイメージを広げ、残忍な凶悪犯でありながら観客をひきつける魅力を持つ榎津巌という主人公の肉付けしていったのだろう。
つまり映画として成立するドラマを創り上げていったのだ。
主人公の榎津だけではなく、本作の登場人物は全員生々しい魅力を放っている。
事件はこのようにして起こり、そこにはこんなドラマがあったのだと私たちは錯覚する。
それは本作が、今村監督の鋭い人間描写に支えられた説得力のあるフィクションだからだ。
榎津巌はなぜハルを殺したのか
榎津巌の犯行は全て金のためであり、騙すことにも殺すことにも戸惑いは見せない。
しかし、ハルを殺した理由に関しては取り調べでも“よくわからない”と述べている。
榎津はハルの首を絞めた時、一度のその手を緩めている。
ハルを殺す榎津の表情は苦しげで、明らかに他の犯行時とは違う動揺が見られた。
榎津はいつも女を求めてきたが、女からは求められていない。
そんな榎津にとってハルは、初めて死ぬほど自分を求めてくる女だった。
だから榎津は、自分が死刑になった後もハルだけが生きていることが寂しく、また残されるハルを不憫だとも感じていたのではないだろうか。
つまり、心中を図るような気持ちでハルを殺し、またハルも殺された。
勝手な推測ではあるが、あのどこか切ない殺害シーンを観ると、ついそんな想像をしたくなる。
実在の連続殺人犯をモデルにしているという事実にまず衝撃を受けました。緒形拳が演じる主人公・榎津が、人を殺すことに一切の罪悪感を抱かず、むしろ淡々と犯行を繰り返していく様子は背筋が凍るほどでした。家族と普通に接しながら裏で凶悪犯罪を行うという二重性が、人間の本質に迫っているようで不気味です。監督・今村昌平の手腕が光る、社会の底辺と狂気を描いた日本映画史に残る名作。(50代 男性)
緒形拳の怪演が圧倒的。主人公の狂気があまりにも日常に溶け込んでいて、逆にリアルで怖かった。殺人犯でありながら、家族の前では平凡な父親の顔を見せるギャップにゾッとします。特に印象的だったのは、最後の死刑執行前の描写。淡々と描かれるその姿に、「人間とは何か」という問いを投げかけられているようでした。重苦しいが、忘れられない一本。(30代 女性)
犯罪映画というより、人間の根源的な虚無を見せられた気分になりました。殺人がテーマでありながら、犯行の動機は曖昧で、それが逆に不気味。榎津の行動は論理的には説明できないのに、何か現代にも通じる無気力や欲望が滲み出ていて、不思議と共感すら覚える部分もありました。映像の乾いた質感や、抑えた演出も秀逸。名作とされる理由がよくわかりました。(20代 男性)
冒頭から不穏な空気に包まれていて、観る側の精神も削られるような感覚でした。主人公が殺人を繰り返す一方で、信仰を持つ父との対比が印象的。宗教・倫理・社会という大きなテーマを内包しつつも、淡々と物語が進んでいく構成に、じわじわと精神が侵食されていきました。結末が特に衝撃的というより、そこに至るまでの全てが怖い、そんな映画です。(40代 男性)
映像が古いと思って侮っていたが、とんでもない。現代の映画にはない不気味さが全編に漂っていて、観終わった後もしばらく呆然としてしまった。緒形拳の演技がリアルすぎて、演技というより本物の犯罪者に見えたのが怖かった。動機も救いもなく、ただ淡々と殺していく主人公に、人間の恐ろしさを感じざるを得なかった。何度も観たくなる映画ではないが、一度は観るべき作品だと思う。(30代 男性)
ラストの「復讐するは我にあり」という言葉の重みが、観終わった後にずしんと響いた。神の名のもとに正義が裁かれるのではなく、人間の業が裁くべきなのか──そんな問いが突き刺さります。家族の描写が多い分、殺人とのギャップがえげつなく、心理的にかなりしんどい作品でしたが、社会の歪みや戦後の価値観の崩壊を見事に描いた一本です。(60代 女性)
古い映画なのに、むしろ今観ると新しい。犯罪の動機が語られないことで、観る側に強い想像力を要求する作品。主人公がどこか魅力的にすら見える瞬間もあり、人間の中にある善悪の曖昧さがリアルに描かれていた。父との確執や宗教観もさりげなく効いていて、ストレートに「サイコパス映画」とは片付けられない複雑さがある。日本映画の傑作だと思う。(20代 女性)
社会に馴染むふりをしながら、裏で残虐な犯行を繰り返す主人公の姿に、深い絶望を感じました。今村昌平監督は、人間の本質的な「闇」に正面から向き合っている印象で、何も説明しない分、観る者の心をえぐる力が強い。息子の行動を知ってもなお信仰を手放さない父の姿も、また違った意味で狂気を感じさせました。日本映画の中でも異質な存在。(40代 女性)
“理由なき殺人”を描いた映画というだけでは片付けられない深みがある。緒形拳の演技はあまりにもリアルで、観ていて何度も息が詰まりました。むしろ淡々としているからこそ、そこに込められた人間の不条理さや虚しさが浮き彫りになっていて、ただの犯罪映画ではない芸術性すら感じました。重いテーマだけど、観る価値のある名作だと思います。(30代 女性)
ラストの埋葬されない遺体の描写が強烈に印象に残っています。死んでもなお「裁かれない」存在としての榎津が象徴的で、社会の中でこうした存在が生まれる背景に目を向けざるを得ません。狂っているのは彼一人ではなく、社会そのものなのかもしれない。今村監督の鋭い視線が、静かな演出の中にじわじわと効いてくる。重厚で苦しいが、忘れられない一作。(50代 男性)
映画『復讐するは我にあり』を見た人におすすめの映画5選
鬼畜
この映画を一言で表すと?
家庭に潜む狂気と愛憎が爆発する、衝撃の人間ドラマ。
どんな話?
妻子持ちの印刷業者が愛人との間にできた子ども3人を押し付けられ、追い詰められていくうちに恐ろしい選択をしてしまう。人間の内面に潜む「鬼」の部分が炙り出される、実際にあった事件をベースにした社会派作品。
ここがおすすめ!
緒形拳が主演であり、『復讐するは我にあり』と並ぶ代表作。ごく普通の男が徐々に追い詰められていく様子が生々しく描かれ、観る者に強烈な印象を残します。今村昌平監督らしいリアリズムが光る一作です。
冷たい熱帯魚
この映画を一言で表すと?
日常が崩壊し、狂気に染まっていく地獄のような実録スリラー。
どんな話?
冴えない熱帯魚店主が、カリスマ的な人物に誘われ犯罪の世界へと巻き込まれていく。笑顔の裏に隠された暴力と支配が恐ろしく、やがて主人公自身も正気を失っていく姿が描かれる。モデルは実在の連続殺人事件。
ここがおすすめ!
園子温監督の異常なまでの暴力描写と、人間心理の深層への冷徹な視線が炸裂。『復讐するは我にあり』のように、善悪を超えた人間の本質に迫る作品で、観終わった後に重く深い余韻が残る衝撃作です。
殺人の追憶
この映画を一言で表すと?
迷宮入りした事件に翻弄される刑事たちの無力と絶望を描いた韓国映画の傑作。
どんな話?
1980年代の韓国で実際に起こった連続殺人事件を追う刑事たち。科学捜査も未発達な時代に、手がかりがないまま犯人を追い続ける彼らの姿が、緊張感と無力感に満ちて描かれる。観客自身が事件に引き込まれるような構成が秀逸。
ここがおすすめ!
ポン・ジュノ監督の初期代表作であり、エンタメと社会派ドラマの融合が見事。『復讐するは我にあり』のように犯人の不在や不可解さを描く中で、むしろ人間の本質が浮かび上がる。圧倒的な完成度を誇る一本。
怒り
この映画を一言で表すと?
“信じること”の恐ろしさと脆さを描いた、極上の群像ミステリー。
どんな話?
ある殺人事件をきっかけに、3つの異なる土地で暮らす男女がそれぞれ謎めいた人物と出会う。彼らは殺人犯なのか、それともただの善良な他人なのか。信じる者が誰かを見極める、サスペンス要素を含んだ人間ドラマ。
ここがおすすめ!
社会の裏側と個人の内面が交錯する重厚なストーリー展開は、『復讐するは我にあり』に通じるテーマ性を持ちます。演技、映像、音楽すべてが高水準で、日本映画の中でも完成度の高い心理サスペンスです。
カポーティ
この映画を一言で表すと?
殺人者に心を寄せた作家の葛藤を描いた、静かなる衝撃作。
どんな話?
小説『冷血』執筆のために、実際の殺人犯と面会を重ねた作家トルーマン・カポーティ。取材の中で芽生える奇妙な共感、そして真実の追求との間で揺れる彼の心理を丹念に描き出した伝記ドラマ。
ここがおすすめ!
人間の「理解不能な悪」に向き合うカポーティの姿は、『復讐するは我にあり』で描かれる主人公の闇と重なる。静かながら緊張感に満ちた演出と、フィリップ・シーモア・ホフマンの圧巻の演技に引き込まれます。
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