映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の概要:猟銃使いの少女・浜路は、祖父の死をきっかけに江戸へ下った。山とは打って変わって賑やかな町に圧倒される彼女は、犬と人間のあいのこである“伏”の噂を耳にする。原作は桜庭一樹著『伏 贋作・里見八犬伝』。
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の作品情報
上映時間:110分
ジャンル:アニメ、ファンタジー
監督:宮地昌幸
キャスト:寿美菜子、宮野真守、宮本佳那子、小西克幸 etc
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の登場人物(キャスト)
- 大山浜路(寿美菜子)
- 陸奥の国の山奥に暮らす猟師の少女。祖父が熊に喰われて亡くなったことで、兄のいる江戸へ向かう。兄と共に伏狩りを始めるも伏の一人である信乃へ恋心を抱き、彼を撃つことへの葛藤を抱く。精神的にも肉体的にも、「女」になることへの恐怖心がある。
- 信乃(宮野真守)
- 犬と人間の間に生まれた“伏”と呼ばれる一族の一人。普段は人間の姿で生活をしているが、人間の魂=心臓=生珠を食べて飢えを凌いでいる。若衆歌舞伎深川一座に在籍し、黒白という芸名で演目『里見八犬伝』の主役を演じている。秘かに信乃へ想いを寄せている。
- 大山道節(小西克幸)
- 浜路の年の離れた兄。侍を目指しているものの、怠惰で自堕落な生活をしている。江戸に出て来た浜路と共に、伏狩りで一攫千金を狙おうとする。飯を売りに来る船虫とは肉体関係を持っている。
- 馬加(神谷浩史)
- 伏狩りに興じる侍。8匹揃って江戸へ出て来たという伏の7匹目を仕留めた。黒白(信乃)が伏と見抜き、彼を討とうとする。
- 凍鶴(水樹奈々)
- 伏の一人。4000人ほどの遊女が住む吉原に身を隠し、花魁として君臨している。新兵衛という名の息子がおり、約束の日になっても自分に会いに来ない彼を心配している。父親は不明。子持ちの遊女では客が付かないため、普段は新兵衛を信乃に預けている。
- 船虫(坂本真綾)
- 船上で飯を売っている女性。道節と関係を持っており、彼の子を妊娠する。女になるのが怖いと感じている浜路を励ます。
- 冥土(宮本佳那子)
- 滝沢馬琴を祖父に持つ瓦版売り。浜路とは、二人共祖父の影響で今の技術を手に入れたことから意気投合する。しかし、目の悪くなった馬琴が母を使用人のようにこき使うために嫌悪感を抱いている。祖父よりも面白い読み本を世に出すため奮闘している。
- 滝沢馬琴(桂歌丸)
- 冥土の祖父。『里見八犬伝』の著者。作品を通して、実在する伏を活躍させて彼らに居場所を作ろうとした。
- 徳川家定(野島裕史)
- 伏の横行に危機を感じ、江戸に伏狩り令を出した将軍。非常に小心者で、日々祖先へ首を垂れて祈りを捧げる。滝沢馬琴著『里見八犬伝』に登場する伏姫の父・里美義実のモデルとなった人物と深い関わりがあるようで…
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』のあらすじ【起】
陸奥の国の山奥に暮らす猟師の少女・大山浜路は、山のことや猟の全てを祖父の大山朴平から教わって育った。しかし、頼りの祖父は春の熊に喰われ亡くなってしまい、浜路が泣きながら犬鍋を食べているところへ、住職が彼女の兄からの手紙を持って訪ねてきた。文字が読めない浜路に代わって住職が読む手紙には、江戸に出て来いと書かれていた。
兄・道節の元へ行くと決めた浜路は、辿り着いた江戸が山とは全く異なり、凄まじく賑やかに発展している様を見て困惑した。町民達の話題は“伏姫”で持ち切りだった。喧騒の中を進む浜路は、犬の晒し首を見つけて驚愕した。狩人の馬加からそれらが“伏”であると聞かされた浜路は、彼らの無残な姿を直視できずその場から駆け出した。
伏狩りの賞金を手に歩いていた馬加は、生き残りの伏に襲われて逃げた。伏は馬加の仲間を喰らって馬加を追ったが、獣の気配を察知し駆けていた浜路とぶつかってしまった。伏は浜路の猟銃を奪い狩人達に応戦、馬加を河へ投げ落とすと、浜路を連れて街場から逃げた。
街外れに逃れた伏は文字が読めない浜路に代わって、手紙の住所まで彼女を連れて行った。浜路は先を歩く伏の毛並みを「綺麗だ」と言い、伏は自分を気味悪がらない浜路を「おかしなやつ」と言った。伏のお陰で、浜路は無事に道節と再会した。
道節が暮らす狭い長屋に迎え入れられた浜路は、そこへやって来た船虫の船で近所の住民らと共に食事を摂った。酒に酔った道節は、浜路と共に伏狩りで生計を立てると豪語した。
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』のあらすじ【承】
翌朝、道節は浜路に侍の装いを施し男のふりをさせて伏狩りに向かった。道節は、人間に化けて生活している伏を見分けるには体のどこかにある牡丹のような痣を探せと浜路へ説明した。そして、日に7000人の往来がある女人禁制の吉原へと足を踏み入れた。
道節が客引きの老婆に連れ込まれている間、人混みの中で独りになった浜路は遊女達に絡まれ身動きが取れなくなった。そこへ伏が現れ、彼は吉原の外れへ浜路を連れ出した。
伏は信乃と名乗り、銃を貸してくれたお礼にと、遊女御用達の商店で着物と下駄、かんざしを浜路へ贈った。着付けを終え見違えるほど美しく変貌した浜路を見た信乃は、頬を赤らめ言葉を失った。信乃はまたしても浜路を道節の元へ連れて行ったが、空腹に飢える信乃は彼女の生珠に目が眩んだ。
夜を迎えた吉原は一層の賑わいを見せた。道節と合流した浜路だったが、彼が花魁道中を見たいと言うので付き合った。初めて拝む花魁・凍鶴に興奮した道節は浜路の腕を力いっぱい引っ張り、浜路は凍鶴の車と衝突してしまった。強烈な獣の臭いに気付いた浜路が凍鶴を見上げると、彼女の足には牡丹のような痣があった。
浜路と道節は、正体を見破られ逃げる凍鶴を追った。先に凍鶴に追いついた浜路は彼女を撃ち抜き、手負いの凍鶴は浜路へ“新兵衛への手紙”を手渡した。追いついた道節は無我夢中で凍鶴の首を切り落とし、放心状態の浜路は鼻血を流して狼狽えた。
江戸城では、伏が残り一匹となったことを受け、徳川家定が「開国の前に城をあげて民のための祭りを開こう」と提案していた。城で懸賞金を受け取った兄妹だったが、道節は伏狩りで僅かに傷心している浜路を気遣い、別行動を提案した。
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』のあらすじ【転】
長屋へ戻った道節は、船虫から「大事な話がある」と言われた矢先、若衆歌舞伎深川一座からの使者に芝居へ誘われた。
一人町を歩く浜路は、“鉄砲小僧の捕物帳”の瓦版を見つけ、それを売っていた冥土を咎めた。ところが、初めて見る版画の技術に感動した浜路は共に瓦版を売るようになり、年も近く境遇も似ている二人は意気投合した。
浜路は、道節に誘われるがまま冥土や船虫、近所の人達と一緒に深川一座の芝居小屋へ向かった。演目は『里見八犬伝』で、町の評判となっている主役の伏姫を演じるのは黒白と名乗る信乃であった。信乃は舞台上から、浜路へ劇が終わったら会おうと誘った。観覧を終え、道節らに先に帰るよう言った浜路の様子から、道節と冥土は彼女に恋人がいると確信した。
浜路は、凍鶴から受け取った“新兵衛への手紙”を信乃に渡すため彼を待った。そこへ馬加の手下達が現れ浜路を凌辱しようとし、駆け付けた信乃は二人の生珠を喰らった。それでも飢えが治まらない信乃は、感情のままに新兵衛が凍鶴の息子であること、凍鶴に代わって自分が新兵衛を育てていたこと、既に新兵衛が殺されたことを浜路へ伝えた。信乃に怒鳴られた浜路は涙を流して町を彷徨い、冥土の住む屋敷へ辿り着いた。
道節の帰りを待っていた船虫は、自身の妊娠を告げた。道節は彼女へ夫婦になってくれと言ったが、船虫は「仕事もしたいし、時間をちょうだい」と言って彼の元を去った。
冥土の部屋で目を覚ました浜路は、彼女に凍鶴の手紙を音読してもらった。そして、冥土の母から江戸城の祭りに深川一座も出ると聞くと、やはり信乃に手紙を渡すべきだと決心し屋敷を飛び出した。屋敷の外には、浜路を探して歩いていた道節がいた。浜路は船虫との間に子供ができたと言う道節を祝福し、感激する兄へ「最期の伏を狩ってくる」と言い駆け出した。
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の結末・ラスト(ネタバレ)
馬加は、家定へ黒白が伏であると報告していた。
飢えに苦しみながら一座の仲間と共に江戸城内へ迎えられた信乃は、馬加をはじめ藩士らに取り囲まれた。信乃の体は最早人の形を留められなくなっており、自分に襲い掛かってくる人間を次々に殺めていった。
浜路は、信乃に買ってもらった着物を取りに長屋へ戻った。居合わせた船虫は彼女に着付けをしながら「わたし、母親になってみる」と自らの決意を伝えた。船虫に背中を押された浜路は、信乃への恋心を受け入れた。
信乃は、城に火を放ちながら家定の元を目指していた。窮地に追い込まれた家定は家宝の掛け軸に手を滑り込ませ、中から大剣を引きずり出した。「伏の森」と呼ばれる天守へ侵入した信乃は不思議な力に捉われ、遂に犬の姿に変貌を遂げた。家定もまた伏姫の父の姿へ変貌を遂げ、「あの時わしの娘が犬の子を孕んだことが間違いだったのだ」と叫び信乃へ切りかかった。死闘の末、信乃は家定に勝利した。
燃え盛る江戸城を見つめる滝沢馬琴は、『里見八犬伝』を通して伏に居場所を作ってやりたかったが、読み物など所詮まがい物にすぎなかったと涙を流した。
ようやく信乃に追いついた浜路は、犬になった彼へ凍鶴の手紙を渡した。浜路は「生き残ったこと、後ろめたく思わないで」と信乃を励ますと、「好きよ」と素直な気持ちを告白した。信乃は浜路を強く抱き締め、江戸の炎は突然の豪雨によって鎮火された。
1年後。冥土は、浜路と信乃の物語を元に『贋作・里見八犬伝』を執筆していた。道節は船虫と子供の三人で幸せな家庭を築き、徳川の世も再び平和を取り戻していた。浜路は冥土に教わり読み書きができるようになり、江戸を離れた信乃と文通を行っていた。
映画『伏 鉄砲娘の捕物帳』の感想・評価・レビュー
エヴァとジブリを足したような雰囲気だなあと思ったら、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のスタッフと『千と千尋の神隠し』の助監督による作品だった。
大学時代に『南総里見八犬伝』を履修していたおかげで前情報無しでも大まかな設定はすんなり受け入れられたが、八犬伝を知らない人が観たら付いていけるのか?という疑問は残った。中でも、信乃が家定を討ちたい理由、家定が大剣を取り出した掛け軸のような物の正体と異空間と化した天守の実態、家定が里見義実に姿を変えて信乃と対峙した理由が明らかになれば、もっと楽しめたかと思う。
原作の『伏 贋作・里見八犬伝』は未読だが、この映画をきっかけに読んでみたいと思う。(MIHOシネマ編集部)
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