映画『海獣の子供』の概要:五十嵐大介原作の海の神秘を描いたアニメーション。一人の少女が、海からやってきた少年たちと出会い、命を巡る壮大なひと夏を過ごす。映像化不可能と言われた原画の繊細な描写が、スクリーンで美しく生まれ変わる。
映画『海獣の子供』の作品情報
上映時間:111分
ジャンル:アニメ、ファンタジー、SF
監督:渡辺歩
キャスト:芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン etc
映画『海獣の子供』の登場人物(キャスト)
- 琉花(芦田愛菜)
- 海辺の町で暮らす中学生の女の子。両親は別居しており、母と二人暮らし。父は水族館に勤めている。素直で好奇心旺盛だが、少し短気。二人の不思議な少年と出会い、命を巡る壮大なひと夏を過ごす。
- 海(石橋陽彩)
- 海の中でジュゴンに育てられた男の子。明るく活発な性格。琉花を気に入り、人懐っこくつきまとう。流星群の訪れを予知したり、空の居場所を突き止めたりと、掴み所のない中に鋭い感覚を持つ。
- 空(浦上晟周)
- 海の兄弟。海とは対照的に、落ち着いた雰囲気を持つ。琉花に対し、少し冷たい態度を取るが、最終的に海を守る役目を琉花に託す。
- ジム・キューザック(田中泯)
- 海洋学者。琉花の父と面識がある。「ソング」の解明を目標に、海と空の研究も担うが、国の心無いやり方に疑問を抱いている。
- アングラード(森崎ウィン)
- ジムの助手。自由な気質。台風のあと、空を保護する。海と空と出会ったことで、命の起源について考察し直す。
- デデ(富司純子)
- 海の何でも屋を自称する、船乗りの老婆。ジムやアングラードと通じており、思慮深いアドバイスで彼らの背中を押す。ムックリという楽器を使い、風と対話する。
映画『海獣の子供』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『海獣の子供』のあらすじ【起】
夏休み初日の部活動でトラブルを起こしてしまった琉花は、不機嫌な母親のいる家を避けて、別居中の父親が働く水族館へと足を向ける。幼少期に訪れて以来の水族館の内部を探索していたところ、水槽の中から一人の少年が現れる。彼はジュゴンに育てられたという特殊な生い立ちで、国の研究対象として保護されていた。海と名乗り、大水槽の中を自由に泳ぎ回る彼を見て、琉花は「(空を)飛んでいる」と感じる。
海は「ヒトダマ」の飛来を予知して、琉花を海岸へと連れ出す。そこで琉花は、美しく光る大量の隕石が空を流れ落ちてゆく、神秘の光景を目にする。希有な出会いによって、琉花の長い夏が幕を開ける。
海には、空という兄弟がいる。空は研究者のジムのもと入院していたが、地上での生活にやっと馴染み、ある夕方に琉花との出会いを果たす。空は意地悪な言葉で琉花をからかい、どこか突き放すような態度を取る。明るく人懐っこい海と、大人びていて少し刺々しい空、対照的な二人と関わるうち、琉花は「生誕祭」という命の儀式の存在を知る。また「ソング」とよばれる鯨の鳴き声を聞いて、かつて水族館で見た「海の幽霊」の存在を思い出す。
映画『海獣の子供』のあらすじ【承】
海のすべての生き物たちが、日本へ向かって移動を始めていた。不思議な現象を前に、海と空の兄弟を巡って、水面下では国際規模の計画が進められていた。海洋の謎を解き明かすため、二人を実験台として利用しようとしているのだ。
大型の台風が上陸し、浜辺を埋め尽くすほどの魚の死骸が打ちあげられる。異常な光景の先に、琉花は倒れている海の姿を見つける。海は無事だったものの、一緒にいたはずの空が忽然と行方をくらましてしまう。
空の気配を察知した海に連れられ、琉花は美しい浜辺にやってくる。空は、ジムの助手であるアングラードに保護されていた。再会した彼らは、海から調達した食材を料理し、食べることで命を感じる。自分たちがどこから来たのか、命の起源に思いを馳せる空と海。
その晩、海が熱に浮かされたように苦しみだす。姿の見えない空を、琉花は波打ち際に見つけるが、彼の体は発光していた。空は口移しで琉花に小さな隕石を託すと、光となって海に消えてしまう。
映画『海獣の子供』のあらすじ【転】
空を失い、海は言葉を喋らなくなってしまう。落ち込む琉花と海が再会した時、「ソング」が聞こえ、ついに「生誕祭」が始まる。研究者たちがこぞって海へと船を出す中、琉花は海の何でも屋であるデデに協力を頼み、先へ行ってしまった海の元へと向かう。気づけば琉花は、デデの船から海の中へと飛び込んでいた。
「ソング」が響くたび、琉花の体内の隕石が、それに応えてけたたましく共鳴する。その隕石こそが、すべての命を司る「生誕祭」の心臓なのだ。巨大な鯨に飲み込まれた琉花は、その中で空の幻影と再会する。海の最後を見届ける覚悟を決め、琉花は祭りの中心で奮闘する。海を越えて、遥か空の上、宇宙にまで及ぶ命の儀式が繰り広げられる。
琉花の健闘のおかげで、海は空のような悲しい運命を辿らずに、命を生みだす渦の中心になることが叶う。命を生みながら消えてゆく海を、琉花は寂しさのあまり、泣きながら引き止めようとする。海は最後の瞬間を迎えるまで、じっと琉花を見つめている。
映画『海獣の子供』の結末・ラスト(ネタバレ)
海の中で溺れかけていた琉花は、船で迎えに来た両親に助けられる。両親は、琉花が水族館へ通ううちに、互いの愛情を取り戻していた。海は嵐の後の静けさで、とても穏やかな顔を見せている。
ジムは研究の浅はかさに気づき、すでに身を引いていた。アングラードは、すべての命が同じ場所から誕生し、帰っていくことを知った。「生誕祭」は幕を閉じ、夏は終わりを迎えようとしている。
デデは偶然再会した琉花に、かつて海から来た少年に自分も出会ったことがあると告げる。残酷ながらも偉大な命のサイクルを感じ、琉花は背中を押されたような気持ちで学校へと向かう。夏が始まるとき、素直に謝罪できなかった友人に会いに行くためだ。
月日が経ち、琉花の母が出産した。へその緒を切る役目を任された琉花は、「命を絶つ音がした」ように感じる。母が口ずさむ海の歌が、そのまた母から語り継がれたものだと知り、納得したような表情を見せる琉花。帰り道、夏の海と空を眺めながら、壮大な冒険をした日々へと思いを馳せる。
映画『海獣の子供』の感想・評価・レビュー
感覚的になることを許してくれた、無二の映画だ。観念的かつ難解なテーマだと言われているが、思考を手放して、ただ映像に身を任せることを許してくれた。従来のアニメーションとは違う多重な線を用いた繊細な描写は、キャラクターの表情や海の生き物たちの恐ろしい面を助長させ、海が絶対的に偉大であることを感じさせた。命の起源にまで迫る壮大なメッセージを含んでいながら、ある一人の少女の成長譚として昇華されており、我々に夢を与えてくれる。美しく大切な、忘れられない作品だ。(MIHOシネマ編集部)
原作は漫画家、五十嵐大介の同名作品。独特な線使いと表現方法をアニメ制作会社STUDIO4℃が描いた。久石譲が音楽を担い映像化不可能と言われた本作へと彩りを添えている。
ジュゴンに育てられた兄弟と両親の別居で孤独を感じる少女が出会い、海での生命の神秘を体験する。非常に壮大なテーマを描いた作品であり、描き方によっては全く異なる印象を与えただろうと思う。海の匂いや生物の脈動をリアルに感じられる映像は、確かに映像化不可能と言われるのも納得する。STUDIO4℃の進化を見た。物語自体も非常に神秘的で引き込まれる。よくぞ描いたと感服させられ、何度観ても心を動かされる素晴らしい作品。(女性 40代)
とても不思議で幻想的な世界観を持つ独特な作品でした。海の世界が好きな私は今作の映像の美しさにとても感動し、今まで以上に「海」が好きになりました。
海の世界と地上を繋ぐのは「水族館」と言う物凄く特別で雰囲気のある場所。そこで出会ったのはジュゴンに育てられた兄弟でした。
その兄弟が表すもの、伝えたいことは何なのか考えながら鑑賞しましたが、とても深く壮大なストーリーで「命」を感じる素敵な作品でした。(女性 30代)
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