映画『鑑定士と顔のない依頼人』の概要:孤独で女性不振な天才鑑定人ヴァージルの元に、孤独な女性から鑑定依頼が入る。クレアは両親を失ってから天涯孤独だった。病気のせいで外に出れない彼女に惹かれて行くヴァージルは奇妙な事件に巻き込まれる。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の作品情報
上映時間:131分
ジャンル:ミステリー
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
キャスト:ジェフリー・ラッシュ、シルヴィア・フークス、ジム・スタージェス、ドナルド・サザーランド etc
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の登場人物(キャスト)
- ヴァージル(ジェフリー・ラッシュ)
- 女性に不信感があり、未だに独身の美術鑑定人。依頼人のクレアに翻弄されるが、次第に彼女に惹かれて行く。
- クレア(シルヴィア・フークス)
- 両親を亡くし、家に閉じこもる若い娘。15歳から誰とも会っていない。ことあるごとにパニックを起こしてしまう天涯孤独な女性。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』のネタバレあらすじ(ストーリー解説)
映画『鑑定士と顔のない依頼人』のあらすじ【起】
白髪を染めて、新しいスーツを選ぶ。高級レストランでひとりぼっちでシャンパンを飲む。今日は自分の誕生日だ。レストランからケーキをもらったが、手を付けなかった。ろうそくが消える。
孤独な女性から鑑定の依頼が入る。彼女は父の遺言で、鑑定はヴァージルに頼めと言われていた。
ヴァージルがオークションを開く。そこで彼は金で雇った男に本日の目玉商品を落札させていた。あとでその商品を受け取る。クローゼットの隠し扉を開いてソファーに座る。そこにはびっしりと女性の絵画が飾られていた。
孤独な女性の家に行くが、雨の中40分も待たされた。電話にむかってどなりつけるヴァージル。彼女は自殺未遂を起こしてまでヴァージルを呼んだ。顔をしかめるヴァージル。
廃墟のような屋敷に、足を引きずった管理人が現われた。カーテンを開け照明をつけると物置のように美術品が置かれていた。この家の不思議な感じは何だろう。
屋敷の美術品を鑑定するのに多くの人員が必要だった。ここには誰かが住んでいる。前と感じが変わっているのだ。姿を現さない女性が不気味でならない。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』のあらすじ【承】
管理人いわく、孤独な女性クレアは奇病を患っているらしい。両親を立て続けに亡くし、ひとりぼっち。ヴァージルは近くのカフェから屋敷を偵察した。クレアは現われない。彼女から電話があり、家のヴィラで姿を現すという。
彼女と音声だけで会話する。15歳から誰とも会っていないという。決して外には出たくないとクレアは言った。どうやら壁の中に隠れているらしい。
信頼できる機械工にクレアの家から拾っている部品を渡した。この部品は歴史に残る機械人形の可能性がある。完成したらその価値はすさまじいものになるだろう。機械工は興奮していた。
契約書を確認すると、個人情報が抜けていた。壁のすきまからパスポートが差し出される。かなり前に失効していたが、これでどうにかしてくれと言う。壁の隙間から光が漏れた。彼女は壁の中からヴァージルの様子を伺っているようだ。
彼女が電話に出ない。心配になって管理人に電話すると、何日も連絡はしていないという。食料を買って家に入ると、クレアはパニックになった。そんな彼女を安心させようとする。ヴァージルは彼女の事が気になってしょうがない。機械工に頼んで、携帯電話の使い方を教わった。いつしか彼女の声が楽しみになっていた。
一度姿を見たい。鑑定の相談に行ったヴァージルは部屋を出たふりをした。そこにクレアが姿を現す。髪の長い華奢な女性。バレるのを恐れたヴァージルは逃げるように屋敷から消えた。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』のあらすじ【転】
ある日、屋敷に行くと鍵が開かなかった。電話しても出ない。カフェで様子を伺い、管理人と同時に中に入る。彼女はヴァージルを試している。
部品が集まり、機械人形が完成に近づいていた。機械工にクレアとのことを相談する。ヴァージルがずっと独身なのは女性に気持ちがわからないから。クレアにどうすればいいのかわからない。
今日はクレアの誕生日。ピンクの花束を持って、屋敷に行った。クレアは鑑定の結果が安すぎるとヴァージルを罵った。その態度に怒るヴァージルは、お前など消えてしまえと言ってしまった。
ひとりで彼女の誕生日に生まれたワインを飲む。そこに電話がかかってきた。クレアに呼び出され、壁の前で話をする。また部屋を出たふりをして、彼女の姿を盗み見た。汗をびっしょりかいている。携帯を落としてしまって盗み見していたのがばれた。
ヴァージルの目の前にクレアが姿を現した。頬に触れるヴァージル。
クレアに綺麗なドレスを買って与えた。高いヒールの靴も一緒に。背中のファスナーを上げるのを手伝ってくれと言うクレア。戸惑っているが、うれしそうだった。
次は化粧品を買い与える。うまくいかないクレアは自分の顔をぐしゃぐしゃにしてしまった。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の結末・ラスト(ネタバレ)
ヴァージルの手によって美しく変わっていくクレア。彼女ははじめてヴァージルを部屋に入れ、口づけをした。彼女の部屋に機械人形の最後のパーツがあった。
足りないパーツを見つけたヴァージルは機械工に会いに行った。クレアの信頼か、機械人形の完成か。どっちか選べと機械工は言った。
クレアが姿を消した。様子のおかしい彼女が門から出て行ったのを見た人間がいる。オークションがあるのを忘れていた。会場で競りをするが失敗ばかりしてしまう。
失踪したクレアを見つけ、風呂に入れる。クレアは最愛の人を亡くし、心を壊したと言った。傷ついた彼女を裸で抱きしめる。ヴァージルとクレアは一緒に暮らし始めた。
愛を知ったヴァージルは鑑定人を引退することを決めた。彼の最後の競りで会場にいた全員から拍手が起こる。
家に帰るとクレアはいなかった。探すとどこにもいない。コレクションルームに入ると部屋の絵がすべて消えていた。そこには機械人形が置かれている。ヴァージルは崩れ落ちた。
ショックで入院したヴァージルはボロボロだった。諦められず、カフェでクレアが戻らないか監視する。そこにいつもいる障害者の女性は、自分はクレアだと名乗った。機械工の青年にカフェの前の豪邸を貸していたと話した。クレアと機械工はグルで、ヴァージルを騙していたのだった。
クレアがいつか話していたカフェの近くに引っ越した。機械仕掛けの建物の中でお茶をする。ヴァージルは美しい思い出を抱え、彼女を待ち続けた。
映画『鑑定士と顔のない依頼人』の感想・評価・レビュー
一流を知るプロ鑑定士ヴァージルは、潔癖症で他者との距離を取り深く関わろうとしない。しかし依頼人クレアとの出会いで徐々に変化していく。女性不振のヴァージルが次第に心を開き、積極的にクレアと関わろうとする心理模様の変化が繊細で素晴らしかった。
それだけでも充分に映画として成り立つのに、それが全て詐欺師の計算だったというどんでん返しは予想外だったし、関わっていたメンバーにも驚いた。ヴァージルの装いや住まい、登場する絵画など視覚的満足度も高く、エンリオ・モリコーネの音楽も美しい作品。(女性 40代)
一人の偏屈な老人が奇妙な習性の美女と出会い変わっていく物語をミステリー仕立てにした作品。そして辛口なラストが印象深い。仕掛け、演技、映像、舞台と全てにおいて高品質でミステリアス。格調を感じるが、あえて言えば登場人物に共感しがたい点が残念だった。もちろんストーリーの必要性があっての事ではあるが、ちょっと残酷なラストにがっかりした。なんというか楽しくしてたのに、急に説教されて鼻白むような感覚といえば伝わるだろうか。(男性 30代)
なんとも惹かれる邦題です。顔のない=姿を現さない、という広場恐怖症の女性が依頼人です。
偏屈な鑑定士と依頼人がお互いに心を開いていく描写は純愛映画を観ている様でした。しかし、その前段階のドタキャンだったり言うことがコロコロ変わる依頼人の態度は観ていて苛立ちも覚えました。
この作品最大のポイントは、想定外過ぎる、そして悲しいオチでした。上げて下げるとはこの事でしょうか。新しいタイプのドンデン返しを味わえました。(女性 20代)
ヴァージルとクレアの心の距離が近づいていく様子はドキドキした。孤独だった二人が一緒にいることを選び、幸せになるのかと思いきや、予想外の展開に驚きを隠せなかった。これはさすがに悲し過ぎる。ヴァージルはクレアをずっと愛することができてある意味幸せなのかもしれないが、一生報われることなく一人で待ち続けるのはあまりにも寂しすぎる。しかも、クレアと機械工がグルだったので、余計にガッカリした気持ちになってしまった。(女性 30代)
老紳士の鑑定士と姿を現さない謎の依頼人との、互いに惹かれあっていく心の交流を描いているのかと思いきや、ラストで頭から冷水をかけられたような気分になった。
肖像画を全て持っていかれたのはさすがに痛烈だった。
彼女の正体が判明する時、物語の構図が一転するところが、どんでん返し的展開で面白かった。また、細やかな演出に、人間の複雑さや深遠さのようなものを感じることができた。
きっと、老人は彼女を信じてずっと待ち続けるのだろう。(女性 20代)
ドンデン返しのある話なので、できれば前知識なしに観て欲しい1本。
「ミステリー」や「恋愛」といったジャンル付がされていることが多いが、主人公にしてみればこれは不条理ホラーだ。
そういえば監督はトルナトーレ。「ニュー・シネマ・パラダイス」の印象が強いのでのどかでハートフルな映画を撮りそうな人に思ってしまうが、実は彼の作品は怖いのだ。その怖さは人の機微に関わるものという意味でなのだが、この作品も同じ意味で怖かった。
もっと主人公が極悪人なら違った感想になるのだが、そうでないところに意味があるのだろう。(男性 40代)
『パイレーツ・オブ・カリビアン』でバルボッサを演じたジェフリー・ラッシュが今作で演じたのは、潔癖症で人と関わりを持たず「孤独」に生きる鑑定士です。
鑑定士の元に依頼をしてきたのは謎の女性。序盤は一切顔を見せず、まるで屋敷の中でかくれんぼをするような素振りさえ見せます。お茶目で人懐っこい雰囲気なのに顔を見せない女に対して、鑑定士が抱く不思議な気持ち。この気持ちが少しずつ変化していく様子が物凄く繊細に描かれていました。
素敵なラストで終わったと思いきや、大どんでん返しが待っています。まさかの結末に唖然とし、鑑定士の男と同じ気持ちになってしまうでしょう。(女性 30代)
どんでん返し映画だと知らなくても、中盤で何となくラストが予想できてしまうミステリー映画。予想はできてしまうが、それでも問題なく楽しめる凝った作品だ。
ラストシーンの時系列が少し難解で、バッドエンドだと解釈するレビューが多い。しかし個人的にはハッピーエンドだと解釈している。その根拠としては、「どんな贋作の中にも真実が宿る」というこの作品のテーマでもあるセリフから、クレアには真実の愛があったのだと推測できる。
他にも伏線が張り巡らされていて、考察のしがいがある作品だ。(女性 20代)
みんなの感想・レビュー
鑑賞後にトラウマになった作品。最後の急展開で圧倒された。伏線の貼り方が巧妙で、見終わった後、それらのシーンをもう一度最初から見直したくなる。ストーリーや展開も面白かったし、オークションのシーンもスリルがあって良いのだが、なんだか複雑な気持ちになってしまった。人によって好き嫌いがかなり分かれる作品だと思う。ここまで予想を裏切られる映画は久しぶりだったので、まだ見ていない人はネタバレやできればレビューなども見ずに鑑賞した方が良いと思う。
ジョン・マイアットという画家がいる。彼は著名な贋作家の一人であり、かつては詐欺行為で逮捕されているが現在は「人気贋作家」として作品は高値で取引されているという。
今作の主人公ヴァージルは一流の鑑定士であり、全ての美術品の真偽を見極めることができる人物だ。彼の回りは一流のものばかりであり、友人や恋人がいなかったのも恐らく本物のみを手元に置きたいという願望によるものなのだろう。しかしその性格ゆえに彼は贋作の価値を見落としがちだ。それが最初に現れるのがオークションのシークエンスだ。ヴァージルは本物を贋作と偽ってオークションにかけ、パートナーに安く落札させるという悪事を働いているが、ある日落札に失敗してしまう。落札したのは贋作マニアの老婆である。彼女にとっては贋作こそ価値があるものなのだ。ヴァージルは贋作の価値を見誤って手痛い目にあってしまう。
物語の最後に彼は大切にしていた本物の絵画たちを全て失ってしまう。しかし彼が本当に嘆いたのは、偽物の愛が失われたことだった。彼は偽物と分かっていながら、彼女の愛を探してプラハの街まで辿り着く。中途半端な贋作なら諦めがつく。しかし極限にまで本物に近づいた贋作には、本物と同じだけの価値があることにヴァージルは初めて気がついたのだ。
非常に良く作り込まれた美術と、エンリオ・モリコーネによる重厚な音楽が映画の格式を高めている。それに応えるようなジェフリー・ラッシュの演技も見事だ。しかしそれ故に観賞後には悪い意味での後味の悪さが残ってしまう。所謂ドンデン返しものに含まれる作品だとは思うが、それにしては騙し騙されの軽快さが欠けているのだ。主人公は確かに悪事も働いてはいるが、ここまでされる映画的必然性があるのかと言われれば首を傾げてしまう。
またミステリーとして見ると、あまりにも犯人の計画が場当たりすぎるのは気になる。「広場恐怖症」という設定も、結局は序盤のミステリー感を煽る機能しか持ちあわせていない。またこれは邦題のせいだが、「顔のない依頼人」と言いながら中盤で素顔を晒してしまうのは興ざめだ。