映画『桐島、部活やめるってよ』の概要:日本アカデミー賞をはじめとして2012年の映画賞を次々と受賞した傑作映画。観客の口コミで人気を広げ、半年以上にも及ぶ異例のロングランヒットとなった。本作が映画初出演となる俳優が多かったのも特徴である。
映画『桐島、部活やめるってよ』 作品情報
- 製作年:2012年
- 上映時間:103分
- ジャンル:ヒューマンドラマ、青春
- 監督:吉田大八
- キャスト:神木隆之介、橋本愛、東出昌大、大後寿々花 etc
映画『桐島、部活やめるってよ』 評価
- 点数:100点/100点
- オススメ度:★★★★★
- ストーリー:★★★★★
- キャスト起用:★★★★★
- 映像技術:★★★★★
- 演出:★★★★★
- 設定:★★★★★
[miho21]
映画『桐島、部活やめるってよ』 あらすじ(ストーリー解説)
映画『桐島、部活やめるってよ』のあらすじを紹介します。
バスケットボール部のキャプテンであった桐島が突然誰に相談することもなく部活を辞めた。友人だけでなく彼女でさえも桐島がなぜ部活を辞めたのか、何を考えているのか見当がつかない。桐島の友人である菊池(東出昌大)も同様、桐島の不在に狼狽するが、これをきっかけに彼は自分の根底に流れるある悩みに向き合うこととなる。
一方、映画部の前田(神木隆之介)や吹奏楽部の沢島(大後寿々花)は桐島騒動に巻き込まれることもなく日々の学校生活を送っていた。しかし、徐々にその日常生活にも密かな変化が訪れようとしていた。
ある日、渦中の桐島が学校の屋上にいるという噂がながれ、桐島の行方を追うバレーボール部の生徒や友人などが屋上に集結するが、そこに桐島の姿はすでになく、居たのは自主映画を撮影していた映画部の生徒たちだけであった。これまで交流のなかった二者が邂逅し、運動部の行くあてのない不安感や焦燥感と文化部のフラストレーションが爆発する。
これを見ていた菊池は、映画部の前田との何気ない会話を通して、自分の人生の根幹を揺るがすようなある答えを図らずも見つけることとなる。
映画『桐島、部活やめるってよ』 感想・評価・レビュー(ネタバレ)
映画『桐島、部活やめるってよ』について、感想・レビュー・解説・考察です。※ネタバレ含む
「桐島」の不在は何を意味するのか
本作において特徴的なのは、騒動の中心である桐島という人物が終始一貫はっきりと姿を見せないということである。これまでにもさまざまな作品において取られてきた演出手法であるが、これには一体どのような効果があるのだろうか。中心を描かないということは、必然的にその周りで振り回される人間にフォーカスが当たるという効果がある。しかし、本作が秀逸なのはそもそもそのグループには端から属していない人物を描いているという点である。これにより本作の対立構造は「他者に振り回される人間」と「自分の価値観をもった人間」へと収斂していくのだ。
菊池の葛藤とその答えとは
東出昌大演じる菊池という男は常に意味を見出そうとしている。なぜ帰宅部なのにそそくさと帰らずいつまでもバスケをしているのか、甲子園に出られるわけでもないのになぜ高校野球をする意味があるのか。実際、彼はその意味を見出せず部活も幽霊部員状態である。すべてにおいて意味を見出そうとしていた菊池はその意味を全く見出せず、劇中では常にどこか寄る辺ない表情をしている。
屋上で映画部の前田に彼はこう問いかける。「将来は映画監督?」「女優と結婚?」と。彼は「君が映画を撮る意味は何?」と暗に問うているのだ。しかし、前田は「映画監督にはなれない」と断言する。そう、前田は単に映画を撮るという行為に魅了されていたに過ぎなかったのだ。すなわち、前田にとって意味などというものは考えたこともなかった訳である。菊池が泣きながら校舎を出る時、ふと目に入ったのは野球部の練習風景であった。意味など考えず、ただ野球が好きだというたったそれだけの理由をしっかり持っていれば、菊池は今でもあのグラウンドの上に立っていたのかもしれない。
これだけとってみれば一見切ない話であるが、本作は決してそんな悲観的なメッセージを伝えたいのではない。自分の気持ちに素直になる、そのことに気付いた時から新たな人生は始まるのだ。ラスト、エンドタイトルが画面に映し出される時、画面が真っ白になり、そこに黒字でタイトルが浮かび上がってくる。私にはあの白い画面は希望の光に見えてならない。
人物の内面的な造形が非常によく出来ているので、「こういうやついたよね」とか、「自分はこういうタイプだったな」とか、感情移入出来る(もしくは出来ない)キャラクターがひとりは登場する。
映画は、霧島という偉大な人物が突然部活を辞めたというイベントに、それぞれの人物がどう反応するのかを見守るという内容。そして、それが主題であるので桐島君は登場しない。
現実社会でもいわゆるインフルエンサーがいるが、もしその人が突然いなくなってしまったら、と想像しながら見るのも楽しい。(男性 30代)
同名小説の実写化作品。タイトルになっている桐島は、劇中には登場しないという斬新な見せ方で、桐島の周りの人間たちの葛藤を描いています。
誰かかが部活を辞めるという一点で、ここまでストーリーが展開できるのはすごいと思いました。原作のもつおもしろさなのか、吉田大八監督の手腕なのか、どちらにせよ、観客が飽きることも、桐島が登場しないことへのモヤモヤ感もなく、多くの人の記憶に残る作品になっているのではないでしょうか。
若手俳優たちが、おそらくリアル高校生の年齢で高校生の役を演じているからか、全体的に説得力のある映像になっていて良かったです。(女性 20代)
学生時代の思い出は人それぞれだと思いますが、楽しかった人も辛かった人もどちらも良い意味で「あれで良かったんだ」と思える作品になっていると思います。
楽しい方が良いと思うのが当たり前ですが、辛い思いをした人にはその経験からの優しさや強さがあります。言ってしまえば、楽しいばかりでなんの辛さも経験しなかった人は、そこから得られる優しさを知らないのです。
菊池が全てのことに意味を求めていましたが、人生は意味の無いことばかりです。しかし、その意味の無いことを知識や技術に繋げられるかは、自分次第だと思います。
そう考えると、意味の無い学生時代はやはり楽しかったし、全てが良い思い出だと感じました。(女性 30代)
美人、運動神経抜群、人気者。所謂、陽キャラな人達の脆さや虚無感が垣間見えました。桐島が登場しないので、見た目が良い人達の心許なさが際立っていたように思います。恐らく彼らは人からどう見られるかを気にしすぎて、自分と向き合っていないのではないかと考えました。映画部のメンバーと野球部の先輩が眩しく、憧れのような感情を抱きました。ぞっこんになれるもの、愛してやまないものを見つけた人はひたむきで強いのかもしれません。(女性 30代)
映画『桐島、部活やめるってよ』 まとめ
本作を見て「意味がわからない」と感じる人もいるようだ。本作は意図的にセリフでの説明を徹底して省いている。観客が頭を働かせて映画のメッセージを汲み取らなくてはならないのだ。眺めるように映画を鑑賞するのもひとつの楽しみだが、すこし考えてみると新たなものの見方に気付く事ができるかもしれない。それは決して映画に限ったことではない。人生についても同様である。悩むことも多いのが人生だが、唯一確固たるものがあるとすればそれは自分自身である。他者に決して惑わされることがないような強靭な自己を確立したその時から、世界の見え方は変わってくるのではないだろうか。最後に前田は劇中で撮影しているゾンビ映画の脚本にこんなセリフを加えている。「戦おう、ここが俺たちの世界だ。俺たちはこの世界で生きていかなければならないのだから」
青春映画の枠組みを超えた、人生を生きるすべての人に薦められる傑作である。
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